3. 2015年9月18日 19:17:21
: OO6Zlan35k
市場が動揺するほど悪くない中国経済 8月は回復傾向、経済データもようやく世界標準に 2015.9.18(金) 瀬口 清之 中国株急落、1200以上の銘柄が売買停止 中国・浙江省杭州で、株価の電光掲示板を見て頭に手をやる投資家〔AFPBB News〕 1.中国経済の不透明感が世界の金融・為替市場を揺るがした この1カ月間、中国経済の先行きに対する不安感あるいは不透明感が懸念材料となり、世界の金融・為替市場が乱高下した。足許の中国経済は緩やかな減速傾向が続いており、当面失速のリスクは極めて小さい。 しかし、6月以降の上海株の暴落は世界の金融市場参加者に中国経済の失速リスクを想起させ、実態以上に不安感を煽った。これが市場乱高下の主な背景である。 加えて8月11日に実施された、為替レート決定の透明性を高めるための基準値算定方式の変更は2%程度と小幅の人民元安をもたらしたが、そのわずかな変動が市場参加者の不安感をさらに高めた。 その前後に公表された7月の主要経済指標が予想対比ダウンサイドに振れたことが決定打となり、株安、人民元レート切り下げを招き、それが世界の株式市場と為替市場を乱高下させた。 普通の先進国の経済指標が同じような変化を示しても世界の金融市場がこれほど大きく反応することはない。世界で最も注目されている中国経済だからこそこれほど大きなインパクトを持つのである。 それだけに中国政府は自国の政策運営に際しても他国の政府以上に世界経済、国際金融・為替市場に対する影響への配慮が必要である。 今後中国政府が金融自由化を進めていく過程で、今回のように世界の金融・為替市場に大きな変動をもたらす出来事が繰り返される可能性が高い。中国政府もこの点を重視し、市場との対話能力の向上、そのために必要な制度設計、政策運営手法、経済統計などの充実化、透明性の向上に取り組もうとしている。 そうした取り組みの一環として、国家統計局は9月9日、経済統計データの公表方式の変更について発表した。以下では、その内容と意義について考えてみたい。 2.足許の中国経済の安定を示すデータが公表された 本題に入る前に、上記の混乱を招いた中国経済の足許の状況について簡単にコメントしておきたい。 9月13日に8月の主要経済指標が公表された。市場の反応はいまひとつで、十分に不安感が払しょくされていないようだ。しかし、素直にこれを見れば、当面中国経済が減速はしても失速するリスクは極めて小さいことが分かる。 13日に公表された主な経済指標は、固定資産投資、工業生産(工業増加額)および消費(消費財小売総額)である。このうち、固定資産投資の前年比伸び率は1〜7月累計+11.2%から1〜8月同+10.9%へと緩やかな低下傾向が続いている(図表1参照)。 これは中国政府が「新常態=ニューノーマル」の政策方針を堅持し、鉄鋼、造船、石油化学などの主要製造業で過剰設備の廃棄を進めている結果であり、予想通りの展開である。 図表1(資料CEIC) 一方、工業生産と消費は回復傾向を示した。 工業生産の前年比伸び率は1〜7月累計+6.0%から1〜8月累計+6.1%へとわずかながら改善した。1〜3月が同+5.6%、1〜4月が同+5.9%だったことと比較すれば、4月以降、緩やかな回復トレンドをたどっていることが分かる(図表2参照)。 図表2(資料CEIC) 消費も消費財小売総額の前年比伸び率が1〜7月累計+10.5%、1〜8月+10.8%と着実に回復している(図表3参照)。 図表3(資料CEIC) 8月の人民元安の主因とされた輸出の前年比伸び率も1〜8月累計は−5.5%と1〜7月の同−8.3%に比べてマイナス幅が縮小。天津の爆発事故の影響で輸出が停滞したことを考慮すれば、本来であればもう少し明確な回復傾向が見られていたと推測される。 一般のメディア報道では依然として中国経済のマイナス面ばかりが強調されているが、マクロ経済指標を素直に見れば、8月の経済情勢が7月に比べて改善しているのは明らかである。 その回復の背景には地方財政プロジェクトの回復が作用していると考えられる。昨年9月に発表された地方政府の債務管理強化に関する国務院の政策の影響で地方政府の財源が枯渇していた が、8月以降ようやく少しずつ財源回復の好影響が出始めている。 9月以降はこの動きがより明確化するほか、不動産投資の回復も見込まれている。加えて、その先は来年からスタートする第13次5か年計画の主要施策である3大国家プロジェクト(新シルクロード構想、長江経済ベルト、北京・天津・河北省経済圏)関連の公共投資の拡大等による景気押し上げ効果が期待されている。 足許の7〜9月のデータに関しては、7月の経済指標が悪かったことから、引き続き前期比横ばい圏内、あるいは若干の下振れもあり得るが、10〜12月以降、来年前半にかけては、景気は緩やかな回復方向に向かうと予想されている。 3.経済統計データ改革 以上の記述の中でも中国の経済指標の変化を紹介したが、やや分かりにくいと感じた読者が多いことと思う。それは、月次ベースの変化を見る際に、各月の前年比を比較することができず、年初来累計のデータの変化から推察するしかないことに一因がある。これが現在の中国経済指標の主な問題点の一つである。 このデータ方式では大きな流れはつかむことができても、短期的な経済指標の微妙な動きを把握するには不便な点が多い。その経済統計の利便性の低さが中国の経済統計に対する不信感の要因の一つであり、そのことが中国経済に対する不安感、不透明感を招く原因にもなっていた。 国家統計局が9月9日に公表した、経済統計データ公表方式の改革は、こうした統計分析上の不便さを改善することを目指すものであり、中国経済指標およびその分析結果の透明性を高めることが期待される。 従来の中国の経済統計データの基本公表形式は年初来累計ベースである。具体的には、GDP(国内総生産)、固定資産投資、消費など主要指標の多くがこの形式で発表されている。 中国は1980年代まで、国家が決定する生産・分配・消費計画に従って経済活動を行う計画経済制度を採用していた。各組織の計画達成上、最も大切なのは年間目標と途中の各時点までの達成状況との対比である。 これを見るには年初来累計データが便利だったため、現在の統計データの多くにその時代の名残が影響している。 年初来累計のデータしか公表されていない場合、経済分析上極めて不便である。そのため多くのエコノミストは各自の手元で当月の年初来累計データから前月の年初来累計データを差し引いて、便宜的に各月のデータを計算することが多い。 しかし、そこから算出される単月データは明らかに実態に合わない大きな振れを示す。その理由は、年初来累計データには不定期に誤差脱漏部分が含まれているためである。 誤差脱漏の値は公表されていないため、これを差し引くことができず、手元で計算する単月データには不規則に変動する誤差脱漏部分が含まれてしまうのである。 また、非常に単純なことであるが、毎年12月には1〜12月の累計データが公表され、その翌月は、新年度の1月のデータのみが公表される。このため累計データをそのまま使って月次推移を示すグラフを書くと、毎年年の変わり目のところでデータが急落し、グラフがつながらないという問題が生じる。 このように中国の経済指標はエコノミスト泣かせの問題を多く含んでいる。来月以降、月次および四半期データが公表されるようになれば、利便性の一歩改善が期待できる。 4.今後に残された課題 しかし、今回の改革によって統計公表方式に関する問題がすべて解決するわけではない。相変わらず以下のような問題点が残るはずである。 第1に、GDPの算定方式の特殊性である。 中国政府は現在、GDPの推計に際して、生産法を用いている。これは第1次・第2次・第3次産業別の生産額を推計し、中間生産物を控除してGDPを推計する方式である。 これに対して日米欧諸国では支出法を採用しており、産業分野別ではなく、需要コンポーネント(消費・投資・政府消費・政府投資・輸出・輸入・在庫)別に推計して合算している。 このため、四半期ベースでは中国と他の先進国との比較が難しい(中国でも年データでは支出法に基づく推計を行っている)。 第2に、1〜2月のデータの公表方式の特殊性である。 中国は毎年1月下旬から2月中旬頃に春節(旧正月)を祝う連休があるが、この連休の時期が1月中の年と2月中の年があるため、前年比、前月比の季節調整が難しく、データが大きく振れる。 このため、中国政府は、1〜2月のデータについては2か月分を合算して公表し、1月分のデータを発表しない場合が多い。 第3に、地方政府が公表するデータの信頼性の低さである。 各地方政府は省・市単位の経済データを公表しているが、その信頼性が低い。特に各省の大多数のGDP成長率が全国データを上回っており、しばしば信憑性の低さが指摘されている。 第4に、月次で公表される工業生産、消費、不動産価格等の指標のカバレッジが低い。 生産には小規模企業が含まれず、消費にはネット通販の一部が含まれていない。不動産価格は日本の公示地価のように全国各地の特定地点の価格が毎年公表される仕組みになっていないなど、それぞれ問題点がある。 第5に、賃金・雇用指標の中には月次データがないものが多く、しかも統計公表時期が数か月遅れるため、タイムリーな分析ができない。 筆者がざっと思いつく主なものだけでもこれだけの問題が残っており、このほかにも改善すべき点は多い。今回の統計データ公表方式の改革を弾みにして、今後のさらなる改善努力による経済統計の透明性・利便性向上に期待したい。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44799
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