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厚生労働省「平成23年 国民健康・栄養調査結果の概要」
自民党、たばこ&酒の18歳解禁検討 宇宙ロケット1基分の税収増?若者の「離れ」加速
http://biz-journal.jp/2015/09/post_11541.html
2015.09.14 文=寺尾淳/ジャーナリスト Business Journal
■飲酒、喫煙の18歳解禁に自民党内で反対意見続々
6月17日、公職選挙法改正案が可決され18歳から選挙権が得られるようになったのに続き、9月1日、自民党が民法上の「成人」年齢を18歳に引き下げたり、喫煙、飲酒、公営ギャンブルの年齢制限を20歳以上から18歳以上に引き下げる検討に入ったというニュースが流れた。
2日には自民党内で「成年年齢に関する特命委員会」が開かれた。提言案は「16歳から飲酒、喫煙できる国もある」「一律に大人扱いすべきだ」と引き下げを認める内容だったが、出席者から青少年の健康への悪影響を懸念する反対意見が多く出て、政府への提言はまとまらず先送りになった。特命委員会は10日にも開かれ、民法上の成人年齢を20歳から18歳に引き下げる政府への提言案は了承したが、飲酒、喫煙、公営ギャンブルの禁止年齢引き下げは結論を見送り、賛否両論を併記した。
たばこの健康への悪影響、酒のイッキ飲みによる急性アルコール中毒、飲酒運転や非行の増加などを懸念する反対世論は根強いが、国や地方自治体の財政にとっては「酒、たばこは20歳になってから」が「18歳になってから」に変われば、酒税、たばこ税からの収入の増加が見込まれる。では、果たしてそれはどの程度なのか。
■飲酒習慣者28.4万人、喫煙人口29.4万人が新たに加わる計算
文部科学省は大学進学率を計算するために、中学を卒業する15歳の人口をもとに18歳人口を算出している。それによると今年の18歳の人口は120万人、前年の18歳、つまり現在の19歳人口は118万人で、合わせて238万人。18歳人口は直近ピークの1992年は205万人だったから、少子化で約4割も減っている。
18歳からお酒もたばこも許されたら、そのうち何万人がお酒を飲み、何万人がたばこを吸うのだろうか。
その比率を推測できるのが、年齢層が接している20歳代の飲酒率や喫煙率だろう。厚生労働省の「平成23年(2011年)国民健康・栄養調査結果の概要」によると、清酒換算で1日1合(ビール中瓶1本)以上を1週間に3日以上飲む「飲酒習慣者」の割合は、成人全体では20.2%で、その人口は2121万人。20〜29歳は男性15.7%、女性8.3%だった。18〜19歳の238万人が男女半々だとすると、飲酒習慣者の人口は男性18.6万人、女性9.8万人で、合計28.4万人になると推測される。
喫煙率はJT(日本たばこ産業)が毎年調査している。14年の「全国たばこ喫煙者率調査」によると、成人全体の喫煙率は男女合計19.7%で、喫煙人口は2059万人。そのうち20歳代は男性15.5%、女性9.4%で、男女合計で12.4%。18〜19歳の238万人が男女半々だとすると、喫煙人口は男性18.4万人、女性11.2万人で、合計29.6万人になると推測される。
解禁後の18〜19歳の飲酒習慣者予測値は28.4万人で、飲酒習慣者全体の1.3%。18〜19歳の喫煙人口予測値は29.4万人で、喫煙人口全体の1.4%になる。
■酒類メーカーやJTの業績には、ほとんど寄与しない
日本国内には、国税庁から免許を受けた「酒類等製造免許場」が3089カ所ある(13年)。お酒が18歳から飲めるようになり飲酒習慣者が1.3%増えたとしても、飲むお酒の種類もブランドも分散されてしまうので、メーカーの業績への寄与度はきわめて薄くなる。
一方、たばこは専売制の時代が長く続いたのでJTは国内の販売シェアの約60%を握っている。それなら、たばこが18歳から吸えるようになれば、喫煙人口が1.4%増える効果をたっぷり享受できるのだろうか。
JTの15年12月期の国内自社たばこ製品売上収益の見通しは6380億円で、対前年増減率は1.8%減である。1.4%上積みされたとしても89億円増の6469億円で、対前年比のマイナスはカバーできず、たばこ販売の長期低落傾向に歯止めはかけられない。国内たばこ事業の営業利益見通しは2500億円で、1.4%上積みされても35億円増の2535億円。事業を多角化して海外でも大きな収益をあげているJT全体の15年12月期見通しと比べると、売上収益2兆3500億円にとって89億円は0.38%、営業利益6680億円にとって35億円は0.52%にすぎない。18歳からたばこが吸えるようになっても、JTの業績への影響度はほとんど「誤差の範囲内」。少子化で238万人しかいない「新市場」では、業績への寄与はとても期待できない。
■「税金の塊」たばことお酒の税収増は、しめて年間463億円
JTの業績への寄与が期待できない理由は、18〜19歳の「新市場」の小ささだけではない。たばこはそもそも「税金の塊」で、店頭での売上額の約65%を税金として持っていかれるからでもある。缶ビールの酒税率約35%もけっこう重いが、たばこの税金にはとてもかなわない。その税率64.4%の内訳は、国のたばこ税24.7%、地方たばこ税28.5%、たばこ特別税(国税)3.8%、消費税7.4%である(JT「たばこワールド」より)。
お酒のほうは、財務省が酒税収入について15年度予算で1兆3080億円を見込んでいる。もしそれが、飲酒年齢の18歳への引き下げによる飲酒習慣者増に比例して1.3%増になるとすると、税収増の金額は170億円になる。一方、たばこのほうは財務省が、消費税は別として国、地方のたばこ税、たばこ特別税の合計で平成27年度予算で2兆940億円の税収を見込んでいる。もしそれが、喫煙年齢の18歳への引き下げによる喫煙人口増に比例して1.4%増になるとすると、税収増の金額は293億円になる。18歳への引き下げで、たばこはお酒の1.7倍の税収増が期待できる。
試算したお酒とたばこの税収増の金額を合計すると、年間で463億円になる。これは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が11年に「H2A」を開発、製造し、種子島宇宙センターから打ち上げるまでに費やした総額と同じである。18歳から飲酒、喫煙ができるようにするだけで、宇宙ロケット1本つくって打ち上げられる分の予算が転がり込んでくると、皮算用できるわけだ。
■飲酒、喫煙は「ダサイこと」?
だが、もし18歳から飲酒、喫煙が解禁されて合法化されたとしても、その年齢に達した男女の多くがおおっぴらにお酒とたばこを始めて、最近の20歳代のデータから推測したように習慣的飲酒率は11.9%、喫煙率は12.4%にいきなりはね上がるものなのだろうか。
実は、それに対して否定的なデータがある。
日本大学医学部の大井田隆教授(公衆衛生学)を代表とするグループが厚生労働省の研究費補助金を受け、全国の中学生、高校生を対象に「未成年の喫煙・飲酒状況に関する実態調査研究」(10年)を実施した。これによると、飲酒は月1回以上が高校男子で17.9%、高校女子で17.6%、週1回以上が高校男子で5.3%、高校女子で3.5%、喫煙は月1回以上が高校男子で7.1%、高校女子で3.5%、週1回以上が高校男子で3.5%、高校女子で1.4%だった。現状は非合法であることを割り引いても、「週1回以上」のデータは推測した解禁後の習慣的飲酒率、喫煙率にはほど遠い。特に喫煙率は低く出ている。
これらの数値も調査のたびに大きく減ってきており、月1回以上の飲酒率は00年からの10年間で高校男女とも約6割減少し、月1回以上の喫煙率は2000年からの10年間で高校男子は8割近く減り、高校女子は7割以上減少している。
この調査データは、お酒もたばこも一度は経験したことがあるとしても、高校生の日常生活のなかではマイナーな存在で、「たとえ18歳から解禁されたって、自分は毎日お酒を飲んだりたばこを吸ったりするつもりはないよ」という高校生が、かなり多数を占めていることを暗に示している。
約30年前の80年代、歌手の故・尾崎豊さんがティーンエイジャーのカリスマにまつりあげられていた時代には、飲酒や喫煙は非行や校内暴力、「三ない運動」で禁じられたバイクに乗ることと同様に、「自分たちを抑えつける親や教師や校則や社会への反抗のシンボル」のようなものだった。しかし今どきの高校生にとっては「盗んだバイクで走り出す? そんな自己主張、ダサイよ」ということなのだろうか。
今はスポーツや音楽、ファッション、アニメ、ゲーム、SNSなどでも、自己主張の選択肢は30年前に比べて、ずっと豊富になっている。「マイルドヤンキー」という言葉があるように「ツッパリ高校生」もマイルド化し、健康を考えて禁煙したりする。
だとすると、ひそかに税収増を期待している当局は、当てが外れるかもしれない。
(文=寺尾淳/ジャーナリスト)
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