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高学歴なのに低収入、低学歴なのに高収入という逆転現象がいま、起きている
中卒月収40万vs院卒20万、 低学歴リッチと高学歴プアはなぜ生まれる?
http://diamond.jp/articles/-/78309
2015年9月11日 朽木誠一郎 ダイヤモンド・オンライン
「末は博士か大臣か」
そんな言葉で子どもの将来に期待を込めていた時代も今は昔。日本経済の低成長による雇用構造の変化は、リーマンショックや東日本大震災の影響も手伝って、高学歴プアと呼ばれる「高学歴・低収入」な人々を生み出した。一方で、ITを中心にした新しい産業では学歴よりも適性のあるなしが重視され、またホットスポット的に盛り上がる市場においては「低学歴・高収入」な人々、いわば低学歴リッチも目につくようになった。本稿では高学歴プアと低学歴リッチの実例を紹介しながら、このような逆転現象の背景に迫る。(取材・文/朽木誠一郎、編集協力/プレスラボ)
■高級レストラン通いの低学歴リッチ(22歳) 奨学金返済にあえぐ高学歴プア(28歳)
学歴主義、年功序列は過去のものになりつつあるのか。
世帯年収が下がり続ける一方で、大学進学率は上がり続けている。少子化に伴い各大学は生徒集めに必死で、昔よりも大学に入りやすくなっているのは確かだろう。この状況の中で指摘され始めているのが「高学歴プア」の存在だ。今や有名大学や大学院を卒業しても、確かな雇用にありつけるわけではない。
高学歴プアの存在と対照的なのが、低学歴リッチたち。ITを中心とした新しい産業やベンチャー企業では学歴よりも適性のあるなし、即戦力が重視される。採用のあり方が多様化し、個人が企業との接点を持ちやすくなったことも低学歴リッチを生みだした理由の一つだろう。
高学歴プアと低学歴リッチ両方の存在から、一昔前には少なかった逆転現象の背景に迫ってみたい。
「大卒には負けていない」
テレビCMも流れる有名スマホゲームアプリの制作ディレクターのAさん(22歳男性)は、そう優越感をにじませる。高校中退後は職を転々としたが、知人のツテで入社したアプリの制作会社での仕事が自分の感覚にピッタリとはまった。入社2年目にはチームのリーダーを任されて、デザイナーやエンジニアの進行管理をするようになり、現在は自らもプランナーとしてゲームのキャラクターを考案することもある。月収は手取りで40万円超と、同世代がまだ学生をしていることを踏まえると、厚遇されているといえるだろう。国内ゲーム市場は活況で、2014年の調査では過去最高の1兆1925億円を記録している。
ただし、学歴にはやはりコンプレックスがある。だからこそ同世代には体験できないことをしようと、オフには高級レストランを食べ歩き、部屋にはブランド家具を並べては、「大卒には負けていない」ことを確認しているのだという。
現在のようなスマホゲームアプリのバブルはそのうち弾けるだろうと思っているが、そのときはまた別の仕事をすればいいと割り切っている。学歴というものがスッポリと抜け落ちた心の空洞を埋められないまま、Aさんのソーシャルアカウントは美味しそうな料理やホームパーティーの写真でいつも賑やかだ。
一方で、Bさん(28歳男性)は奨学金の返済を滞納している。Bさんの学歴はというと、国立理系大学を卒業後、大学院に進学、博士号を取得している成績優秀なポスドクだ。しかし、ポスドクの平均的な年収は大体300万前後であり、当然ボーナスも、社会保障もない。研究を続けながら、非常勤講師として週に2〜3日学生の前に立つが、月収はこのアルバイトを加味しても手取りで20万円弱。毎月約3万円の奨学金を返済が正直苦しい。
このまま研究を継続しても、教授への道がないわけではないが、狭き門で何年かかるかわからないとBさんは言う。もし他に職を探そうとすると、学部卒業後も奨学金の給付をもらい続けてまで取得した博士号は、むしろ足かせになる。
覚悟の上で踏み出した研究者の道だった。しかし、それでも「貧困というのは自分とは無関係だと思っていた」とBさんは語る。そろそろ学生時代から住む都内のアパートを引き払い、実家住まいをする決断を下さなければならないが、「これまでの人生で挫折を経験してこなかった」と本人も言うように、差し迫った現状にもかかわらずその思考は停滞気味だ。
日本では現在1万8000人のポスドクが就職浪人をしており、文部科学省は2009年に、国内で就職浪人中のポスドクを採用した企業に1人当たり約400万円の補助金を交付する大掛かりな制度を実施した。しかし、ポスドクの就労環境は依然として改善されていない。
■自己評価の低い高学歴と高い低学歴 なぜ負の相関が生まれるのか
もうひとりずつ、それぞれの実例を紹介したい。Cさん(30代男性)はIT/Web系企業の代表を務める低学歴リッチだ。いわゆる落ちこぼれの集まる高校に在学中「このままではダメになる」と感じてアルバイトを探す過程で、アフィリエイト広告の仕組みに出合い、自分でもサイト制作をするようになった。
月収にして100万円以上を稼ぎ、コツを掴んだことでネット広告を事業化、さらに大きな収益を上げるようになる。現在では事業の方針をメディア運営にシフトし、上場も視野に経営に取り組んでいる。
高学歴プアのDさん(30代女性)は大学を卒業後に法科大学院へと進学、将来を嘱望されたエリートだった。司法試験にチャレンジしたが、3年連続で不合格。「正直、もう厳しいかもしれない」と思っているが、今から他に就ける職があるかわからない。
また、法科大学院出身でハローワークに通うのは恥ずかしいと思っている。現在は実家暮らしだが、親は「嫁に行けばいいじゃない」と言うくらいで、うるさく言わない。気乗りしないままお見合いサイトに登録はしているが、どうしても相手の学歴や年収を見て「親に紹介できるかどうか」が基準になってしまうという。
どうして学歴と収入にこのような負の相関が生まれてしまうのだろうか。日本経済の成長がゆるやかになった現代社会では、従来の産業構造が変化し、これまで不変であると思われた終身雇用などの制度や文化が次々に見直しを迫られている。高学歴という概念もそのうちのひとつであり、ある意味で社会のセーフティーネットであった学歴は、すでに生活を保障する機能を失ったと言っていいだろう。
このような変化の過程で生まれたウェブを中心にした新しい産業では、ゼロベースで社会のシステムが構築されているため、一度すべてリセットされてからのヨーイドンがはじまる。問われるのはそこに適応できるかどうかだけで、早く走りはじめたものが先行者利益を享受できる。
しかし、現実にはもちろん高学歴リッチと低学歴プアという順当な存在がいる。これまでは低学歴リッチと高学歴プアというある種イレギュラーな事例について紹介したが、高学歴リッチと高学歴プア、低学歴リッチと低学歴プアについても比較しながら個別のケース検討していけば、リッチとプアの分かれ目が浮き彫りになるのではないだろうか。このように幅広く学歴と収入、そのどちらについてもたくさんのビジネスパーソンを見ることができるのは採用の現場だろう。ある中小企業の人事担当者は言う。
「これまで面接などで高学歴の求職者とそうでない求職者を見てきて感じることですが、高学歴の求職者の方が、基礎能力やモラルについては総じて高いです。しかし、高学歴でもそれを十分に活用できていない求職者に共通するのは、自己評価の低さ。彼らは自分が何かをなし得ると思っていないので、自分の未来を他人任せにしているように見えます。
このような求職者は、採用されても職場に埋もれてしまうか、仕事のストレスで潰れてしまうかで、あまりいい結果にならない。もちろん、低学歴の求職者にもそのようなタイプはいます。『自分は低学歴だから、どうせ零細企業でしか採用されないし、出世できない』と卑屈になっているタイプ。しかし、低学歴であってもそれを言い訳にせず、自分の未来を諦めない求職者は、採用後も努力の成果を信じ続けるため、積極的にチャンスを掴んでいました」
また、大手IT企業で人事を経験した男性は「中途採用の場合に学歴を見ることはほとんどない。転職が当たり前となった今、学歴より職歴がものを言うのは当たり前。ただし職歴だってあてにならないことも多い」と語る。
「即戦力を求めるベンチャー企業は特に中途採用に力を入れます。中途採用の現場では、『高学歴で輝かしい職歴の持ち主を期待して採用してみたら全く使えなかった』なんてことはざらにある。能力があったとしてもそれを活かせる順応性や、現場でしぶとく自分をアピールするハングリー精神など、ある意味泥臭い部分も重要。
高学歴プア、低学歴リッチという状況がどのぐらいあてはまるかはわからないが、世間知らずでお高くとまった高学歴と自分から仕事を取りに行く低学歴の方だったら後者の方が求められるでしょうね。中途採用では学歴の部分はほとんど見ないし、私も一緒に働いていた同僚が高卒だったことをだいぶ経ってから知った経験もあります」
若い世代ほど、ITを駆使して情報をつかむことが得意になっている。求人サイトも乱立し、多種多様な人材を企業にマッチングさせる。自分の強みをいくつか持ち、それを強くアピールすることができれば、一点突破できる可能性は意外に開かれているのではないか。逆に言えば、学歴があってもそれだけでは雇用のデッドヒートに勝ち残れない。
プアになるか、リッチになるのかを左右するのは学歴ではなく、本来教育で身につけるべき正当な自己評価と、努力の成果を信じ続ける姿勢にあるのではないか。高学歴プア・低学歴リッチという言葉は、実体を伴わない学歴なるものではなく、各自がそれぞれの生き方をもって学習するという、教育の本質への問い掛けをはらんだ現代社会の課題であるともいえるだろう。
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