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中国不動産市場の崩壊を象徴するゴーストタウン・鬼城を歩く
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150911-00000018-pseven-cn
SAPIO2015年10月号
これまで供給過多だった中国不動産市場の崩壊を、最も象徴するのが、街のゴーストタウン化である。中国語で「鬼城(グイチェン)」と呼ぶこの現象は、もはや覆い隠すことのできない病症として、中国のそこかしこで見られる。ノンフィクションライター・安田峰俊氏が現地をレポートする。
* * *
地平線の果てまで人影ひとつない荒野を貫く、1本の高速道路。やがて小さな丘を越えた先に、場違いな高層建築の群れがいきなり現れた。
市内に入る。雲ひとつない晴天の下、マンション群が無人の道路に影を伸ばす。居住者の気配はない。シャッターを閉めた店舗も多い。人工物だらけの空間なのに、周囲の草原と変わらない静寂だけが街を支配していた。
ここは北京の北西300kmに位置する、内モンゴル自治区ウランチャブ市集寧新区。往年は遊牧民の楽園だったこの場所は、近年不名誉な形で注目を集めつつある。すなわち、街の「鬼城」化だ。
車両もまばらな八車線道路を通り、市政府へ向かう。10階建ての庁舎は敷地面積13万平方m、職員1万2000人を収容可能だ。一昨年秋の完成当初、都市規模に見合わないと批判が殺到した建物である。
庁舎の南には広大な公園と、三角形を組み合わせた珍妙な形の市営体育館が位置する。「緑化」のつもりか、周囲一面に緑色のソフトマットが敷き詰められていた。
「許可の無い者は入るな!」
体育館に入ると警備員に怒鳴られた。施設は稼働中のはずだが、市民の利用を想定していないのだろうか? 隣接する真新しい市営博物館も、やはり長期の休業中だ。
街には大量の「爛尾楼(建築中に放棄された幽霊ビル)」も目につく。鉄骨をむき出しにした数十階建てのマンションや高級ホテルが、無残な姿を晒していた。
「2010年に就任した市のトップ・王学豊氏の責任でしょう。彼は3年間で70万人の人口増を見込み、610万平方kmの宅地造成を計画。農地を1畝(667平方m相当)あたり数千〜1万元(約20万円)の廉価で接収して投資を募り、開発を進めました」
案内してくれたモンゴル族の企業家、バルス氏(仮名)は話す。だが、田舎町のウランチャブ市は住民流出が激しく、人口は3年間でむしろ減少した。投資熱は去り、建設現場での給料遅配の頻発から労働者も逃亡。現在の光景が出来上がった。
「王学豊氏はオルドス市の幹部から栄転した人物。同市が2000年代に急成長した手法を真似たのです。前政権の胡錦濤時代は、地域のGDP増加が出世の評価基準でしたからね」(同)
当時、出世目的の公共事業や宅地開発は各地で見られ、「面子工程」と呼ばれた。同市の例のように、地方政府は安価で購入した農地を不動産開発に回す形でその財源を捻出した。
各地の地価が高騰していた当時、マンションは建てるほどカネになる魔法の箱だった。むろん、その部屋は投資物件となるため、実際に人間が住むことはほとんどない。
だが、2012年ごろから中国経済は徐々に停滞し、この歪んだ錬金術も崩壊する。結果、地方都市の不動産は塩漬けとなり、幽霊ビルや箱モノ行政施設だけが残った。
街の鬼城化は内モンゴルで際立って深刻だ。2013年、中国紙が発表した「鬼城12都市」(*注)には、オルドス市、清水河県、バヤンノール市、エレンホト市など4都市が登場。他にもウランチャブ市や区都のフフホト市新城区など、該当する場所は多い。
【*注/*広東省の週刊経済新聞『時代週報』2013年7月18日記事。内モンゴル自治区のほか、「河南省」鄭州市鄭東新区、鶴壁市、信陽市、「遼寧省」営口市、「江蘇省」常州市、鎮江市丹徒区、「湖北省」十堰市、「雲南省」昆明市呈貢区の「鬼城化」が言及されている】
前出のバルス氏は話す。
「内モンゴルは辺境ゆえに中央政府の目が届きにくい。また、石炭や天然ガス・レアアースなど地下資源が豊富で、中国本土とは比較にならないほど広大な『空き地』もある。投機マネーが集中しやすい環境が揃っていたんです」
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