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「75歳以上の人たちをもう一度働きの現場に戻し、働くことに生きがいを見出せる社会にすべき」と語る北岡氏
劣化する労働環境! 定年制という差別を廃止すれば年金問題も下流老人もなくなる
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150911-00053293-playboyz-soci
週プレNEWS 9月11日(金)6時0分配信
現役時代にマジメに働いても、将来、貧困に陥ってしまうかもしれない――。
最近、にわかにクローズアップされる“下流老人”という言葉。6月末の新幹線放火事件でも、容疑者男性は年金受給額の少なさと生活苦を訴えていたという。
もはや他人事ではない。生活に足る年金がもらえないなら、どうやって生きていけばいいのか?
そんな中、「老後も働かざるをえない現状を直視し、労働環境を考え直すべき」と訴えるのが『ジェネレーションフリーの社会 日本人は何歳まで働くべきか』の著者・北岡孝義(きたおか・たかよし)氏だ。果たして、そこに希望の光はあるのか?
■私たちは本当に年金をもらえる?
―まず、今の30代が70歳になる頃、年金制度はどうなっているのでしょうか?
北岡 年金制度の30年後は不透明です。現状のままでは機能しないだろうと大方の専門家は指摘しています。政府も明確なことは言えません。その理由はふたつ。
ひとつは年金積立金の運用の問題。安全を第一に運用されていません。年金資金の6〜7割は株式や為替リスクを伴う外国債券で運用されています。今はアベノミクスで運用収益もプラスですが、リーマンショックでは大損しました。最近の中国の株の暴落の影響も気になるところです。今後も儲け続けられる保障はありません。年金資金は本来リスクをとってはいけない資金ですが、国民は全然文句を言いません。
もうひとつは財政の問題。基礎年金の2分の1は税金が投入されています。消費税を上げたのも、それを捻出するため。将来的にも年金支給の増大による税金投入は増えていき、このままでは消費税ももっと上げざるを得ないでしょう。
―年金資金がそんなにリスキーな運用をしているとは驚きです。
北岡 年金には別の顔があります。年金資金は“第2の政府の予算”と言われるように政治家や官僚の都合のいいように使われてきました。税金の使い道は国会で通す必要がありますが、年金の運用は国民にはよく見えません。ハコ物を建てたり、今は株式市場の買い支えに年金資金を使っている状況です。
―そんな状況では、将来全く年金がもらえない可能性も?
北岡 全くもらえないことはないと思います。ただ、平成16年の年金改革の目玉として、政府は現役世代の平均年収の半分は保障すると言っています。果たして可能か。年金積立金が今140〜150兆円あるから「100年安心」だというけれど、年金積立金の運用や財政の現状を考えると、20、30年で年金制度が行き詰まる可能性だってあります。
―年金制度が破綻しないために何か方法はあるのでしょうか?
北岡 現役世代が退職世代を支える賦課方式は、少子高齢化で機能しなくなるのは当然です。あえて公的年金制度を維持するなら、その方法のひとつは「掛け捨て」にすること。極端な話ですが、年収1億円のお年寄りに10何万円の年金を支払ってもあまり意味はない。生活が安定していない人にだけお金が下りる制度にするのです。
もうひとつが、受給開始年齢を75歳まで引き上げること。今、65歳〜75歳を「前期高齢者」と呼んでいますが、これを「後期現役世代」としてはどうでしょう。今は75歳でもピンピンしている人が多い。この層をもう一度働きの現場に戻すことが大切です。
定年が55歳だった時は、平均寿命が60代で年金の受給期間は5〜10年程度でした。今、平均寿命が85歳とすると、65歳で引退しても、あと20年。国に余裕がない時に20年面倒を見るのは長すぎます。
―定年後はのんびり年金生活したかったのに、という嘆きが聞こえてきそうですが…。
北岡 現状の支給水準であっても、基礎年金が6万5千円、平均収入の人の厚生年金が14万5千円。手取り約21万円で、ここから介護保険、医療保険などが引かれると、手元に十分なお金は残らない。手厚い企業年金がある一部の企業エリートに限って老後は安泰ですが、多くの人は働かざるを得ない現実が待っています。
―現状でも、20万円ももらえない人も多いとか。30年後となったら、その状況は間違いなく加速していますね。
北岡 すでに65歳〜69歳の就業率は約5割で、少しずつ増えています。そして問題は、その労働環境です。働く高齢者の7割が非正規雇用であり、その内容は高齢者にはきついビルの清掃、建築現場の交通整理などの肉体労働がメイン。定年まで積んだキャリアを活かせるものではありません。
また、雇用安定法により企業に65歳までの継続雇用が求められましたが、60歳で定年を迎えたらそれ以降は非正規雇用となり仕事内容も変わる。5年間では大した仕事をまかせられず、企業の“お荷物”になっているという現状もあります。
―長年、一生懸命働いて、行き着くのがそんな状況とは希望がありません。
北岡 確かにそんな労働環境で「75歳まで働こう」と言っても総スカンでしょう。そもそも、日本の労働環境はどんどん劣化しています。長時間労働、残業代未払いなど競争社会の下で働く人を追い込んでいる。そんな状況であと10年働けと言われてもつらいだけ。だから大切なのは、「働くことの意味」を考え直すこと。人生のほとんどの時間は働いているのだから、それが苦しいとすれば人生のほとんどが苦しいことになってしまいます。
実はスウェーデンでも公的年金が行き詰まり、前首相のラインフェルトは年金の75歳繰り上げを提案しました。しかし、その趣旨は財政が苦しいからではなく、「働く意味を考えましょう」というもの。働くことが喜びや生きがいに繋がるなら75歳まで働いても決して苦ではない。そういう「究極の福祉社会」を目指しませんかと。
―福祉が手厚いイメージのスウェーデンでもそんなことが? でも何から始めればいいのでしょうか。
北岡 まず、定年制は廃止すべきです。年齢によって一律に労働市場から退出させるのは、年齢による差別です。アメリカ、ドイツ、イギリスなど世界的にも定年は廃止される潮流にあり、特にドイツでは公的年金の受給を理由とした解雇は禁止。現役時代の知識と経験を活かせば、高齢者ももっと社会に貢献できる。そのために政府・企業は高齢者の働きの場を整備すべきです。
また、高齢者の「学び直し」の場も必要です。自らの経験を元に学び直して、もう一度社会に貢献したいと思う高齢者の再教育のインフラを整えるべき。仕事と学び直しを繰り返し、いつまでも働ける社会を構築することです。政府がこれに奨学金を出すことも不可欠でしょう。
―そういった制度が整っているなら、働くことにも希望が持てそうです。
北岡 また、最近では積極的に起業するシニアが増えていますが、銀行では高齢者というだけで門前払いされます。高齢者が普通に銀行から融資を受けられるように政府が指導していくべきです。
また、起業だけではなく、高齢者のパワーを活用して成功している地方の企業も。徳島県上勝町の葉っぱビジネスの会社「いろどり」では、高齢者がいきいきと働き、年収1千万円以上の社員もいるとか。さらに、この町では高齢者が元気に働いているため老人ホームでは定員割れが続いている。
このように元気な高齢者が働ける社会になれば、年金や医療費は現在より格段に少なくて済むでしょう。日本の財政の最大の問題である社会保障費の大幅な削減にもつながる。実際、高齢者の就業率が高い県ほどひとり当たりの医療費が低いという調査結果が出ています。
―働くことが苦痛ではなく楽しいと思えるなら、年金に頼らずとも、むしろいつまでも労働に対する意欲も湧いて元気に!
北岡 自分が社会に役立っているという実感は、人の心をとても安定させます。だから、働くこと=苦しみではなく、そこに生きがいを見出せる社会を作っていくこと。そして、すべての世代が働くなら、世代構成に影響を受けない=ジェネレーションフリーの社会、国民全員が全員を支える相互扶養の共生社会が実現できます。
そのためには我々も政府も企業も変わらないといけない。それで、決してグローバル競争に負けるわけでもありません。もちろん、すぐに日本社会を変えるのは無理ですが、こういう考え方があると知ってもらい、若い方にもそれぞれの働く現場で前向きに考えてほしいと思います。
●北岡孝義(きたおか・たかよし)
1977年、神戸大学大学院博士後期課程中退。経済学博士。広島大学経済学部教授を経て、明治大学商学部、同大学大学院教授。専攻は金融・ファイナンスの実証分析。著書に『スウェーデンはなぜ強いのか』(PHP新書)ほか
■『ジェネレーションフリーの社会 日本人は何歳まで働くべきか』
(CCCメディアハウス、1728円)
年金には頼れない将来、私たちはどうやって暮らしていけばいいのか? 現行の年金制度が危機に瀕する日本が目指すべき、老いも若きも国民全員が働く「ジェネレーションフリー」の社会とは?
(取材・文/田山奈津子)
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