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会社も社員も不幸にする「正社員採用」というギャンブル 甚大な労力をかけても無駄?
http://biz-journal.jp/2015/09/post_11501.html
2015.09.11 文=鈴木領一/ビジネス・コーチ、ビジネスプロデューサー Business Journal
株式会社リツアンSTC代表取締役・リツアン働き方研究所所長 野中久彰氏
「社員にアップルウォッチをプレゼントする」と宣言して話題になった派遣会社リツアンSTC代表取締役でリツアン働き方研究所所長の野中久彰氏に、若者の離職率が高いという日本社会の現状について意見を聞いた。
「日本企業は『恋愛』をしたほうがいい」と、野中氏は従来の社員採用の手法をお見合いに、派遣による採用手法を恋愛にたとえてわかりやすく解説してくれた。
「お見合いを否定するわけではありませんが便宜的に使わせていただくと、従来の面接や適性検査だけで採否を決める『お見合い』式の採用方法では、どうしても雇用のミスマッチを生んでしまいます。それが若者の不幸を生んでいる原因だと思います。
企業は、面接だけでは応募者の人柄や能力を正確に見極めることができません。また、応募者も外から企業の内情を知ることはできないのです。就職は結婚と並び人生の大きな分岐点です。また、企業にとっても新卒採用は1人当り生涯年収3億円といわれる大型投資になります。そのような重要な契約が、非常に少ない情報をベースにしか下せないのが『お見合い』式の採用手法の欠点です。
相互理解が深まっていない中での雇用ですから、当然入社後にトラブルに発展することがあります。入社前に思い描いていた理想像と、入社後の現実にギャップが広がれば離職率は高くなってしまいます。派遣期間に企業と応募者の双方が相手を確認するという『恋愛』式の採用方法が、これからの時代には合っていると思います」(野中氏)
マスコミ報道の影響もあり、社会的には派遣に対するイメージに偏りがある。野中氏が語るように、派遣会社が企業との仲人の役割を担うことになれば、日本人の働き方にも大きな変化が現れてくるだろう。
■派遣社員から正社員へのステップアップを検討すべき
とはいえ、現実の職場では正社員と派遣社員の意識の違いはないのだろうか。野中氏にそれを問うと、「会社内では正社員と派遣の区別もほとんどなく溶け込んでいます」という答えが返ってきた。
野中氏の話を裏付けるデータがある。厚生労働省が平成22年に発表した「就業形態の多様化に関する総合実態調査の概況」の「現在の職場での満足度」の項目を見てみると、正社員と正社員以外の社員の意識に差がないことがわかる。
厚生労働省「就業形態の多様化に関する総合実態調査の概況」より
「仕事の内容・やりがい」を見るとほとんど差がなく、「正社員との人間関係、コミュニケーション」もほとんど差がない。さらに、「現在(正社員以外)の就業形態を選んだ理由」を見てみよう。
厚生労働省「就業形態の多様化に関する総合実態調査の概況」より
「自分の都合のよい時間に働けるから」という自分都合の理由が一番多く、「正社員として働ける会社がなかったから」という外的要因は5番目である。
前回の衆議院総選挙で某党が、「夢は正社員になること」というフレーズをテレビCMでも多く露出し、まるで派遣が悪かのように強調して戦ったが、今から見れば極めて偏った考えであったことがわかる。
野中氏が言うように、就職しなければその仕事が自分に向いているかどうかわからないという従来のビジネス慣習では、ストレスに押し潰され、自分の可能性を閉ざしてしまう若者を輩出し続ける可能性がある。
派遣のような新しい働き方で、仕事の向き不向きを確認しながら、自分の可能性を試していくかたちが今後の新しいワークスタイルとなるだろう。
野中氏は、この点についてこう加えた。
「安定した職に就くことは大切です。ただ、正社員にこだわりすぎている世の中の風潮には、少し危機感を覚えています。雇用形態よりも職場環境と自分との相性を重視すべきだからです。
例えば、田中君はA社では評価が低かったけれど、B社に移ったら一転して高い評価を受けたりします。田中君本人もまるで別人かのように毎日を明るく前向きにすごせるようになります。結局、仕事は職場の雰囲気や人間関係に自分が向いているかどうかが大きく左右するのです。
現在、派遣法の改正案が国会で議論されています。非正規雇用の不安定性ばかりが取りざたされておりますが、派遣社員から正社員へステップアップできる道筋についてもっと議論されるべきだと思います」
■ミスマッチをなくす「恋愛」式採用
「採用には、ギャンブル的な要素が多く含まれています。人の真価など、実際に働いてみなければわかりません。特に日本は欧米に比べ解雇条件が厳しいため解雇の自由度はなく、企業のリスクは高くなります。また、採用には、求人広告費、入社手続きなどの社員受入工数、新人教育費用などさまざまな経費がかかります。
企業は、そろそろ採用というギャンブルに多額のお金を払うのをやめ、いま在籍している派遣社員の中から良い人材を正社員へ引き上げたほうが確実なのではないでしょうか。『がんばれば正社員になれる』という目標は派遣社員のモチベーションを上げ、結果として企業の生産性の向上につながります。
『恋愛』式の採用手法は、採用のリスクとコストをともに減らし派遣社員のモチベーションもアップさせるという、企業にとっては都合のいい手法なのです。
たったひとつの失敗を引きずり可能性を閉ざしている若者や、自分には向いていないと知りながらも職場にしがみついている若者にも、希望やチャンスが巡ってくると思います。雇用の流動性こそが若者を救う唯一の道であり、『恋愛』式の採用手法は閉鎖的な日本の転職市場に新たな風となるはずです」
野中氏が指摘するように、現在の日本における企業の採用にはギャンブル的要素が多く、働く側にもチャレンジするチャンスが少ないのが現状だ。たまたま最初の職場の相性が悪かっただけで、その後の人生の可能性を見失う若者がいることは社会的に大きな損失だといえる。
ブラック企業で若者達がストレスを抱え精神を病んでしまう問題も、日本の閉鎖的な転職市場に原因があるのではないだろうか。雇用の流動性が増せば、仮にブラック企業に勤めていても、その会社を辞めて転職すればいいだけだ。ブラック企業がいつまでも問題になるのは、ブラック企業から人がいなくならないからだ。
日本企業が転職者に対して閉鎖的なためにブラック企業を辞められず、最後は精神を病んでしまう結果となっているのではないだろうか。
■精神を病んでしまった社員への対策
一方、相性の良い職場にいたとしても、ストレスなどの要因で精神的に病んでしまうケースがある。その場合の対策はないのだろうか。引き続き野中氏に聞いてみた。
「精神的に病んでしまった人を救う仕組みをつくることは可能です。精神を病んでしまった人の受け皿を用意するのも会社の責任だと思います。弊社の事例をご紹介します。
弊社にはエンジニアが多く所属していますが、エンジニアのようなクリエイティブな職種は、毎日が創造的な作業の繰り返しです。だから、いくら職場環境と相性がよくても精神的に病んでしまうケースがあります。そこで弊社では、沖縄の派遣会社であるヒューマンサポートと組んで、新しい試みを企画しています。弊社のエンジニアが精神的に疲れたら、半年から1年くらい休んで、沖縄で地元の人と交流しながらバカンス気分で仕事をしてもらう仕組みをつくります。沖縄で生活ができるだけの仕事はヒューマンサポートのメンバーが紹介し、たとえばレストランなどエンジニアとはまったく違った職種を経験するのもリフレッシュになると思います。
休職という扱いであれば雇用契約は継続します。帰ってくる場所が明確に確保されていれば、エンジニアは安心して沖縄へ行けるはずです。沖縄で充電して、また東京で働きたくなったら、東京で仕事をすればいいんです。
逆に沖縄の方も、東京で勝負したくなったら東京で働けるようにサポートできます。正社員として縛られていればできないフレキシブルな働き方です。この『交換派遣制度』は、これからの新しい働き方を立案する試みとして、なんとしてでも成功させたいプロジェクトです」
野中氏が語った派遣会社間で行う交換派遣制度とは、まったく新しい概念で日本でも初めての試みだという。ストレスを抱えた社員の受け皿として、また、地方から都会へのチャレンジ促進のための新たな仕組みとして注目だ。
■交換派遣制度とは?
株式会社ヒューマンサポート代表取締役社長 粟國英雅氏
ヒューマンサポートの粟國英雅社長に、交換派遣制度の意義について聞いたところ、次のような返答を得た。
「沖縄にも優秀な人材がたくさんいます。しかしこれまでは東京でチャレンジする仕組みがなく、東京の会社でも沖縄から人材を見つける仕組みもありませんでした。この『交換派遣制度』が成功すれば、沖縄から多くの人材を輩出することができるようになり、さらに東京から優秀な人材がやってきて沖縄の活性化にもなります。
沖縄で成功すれば全国でも同じことができるのではないでしょうか。東京一極集中ではなく、全国規模で人材が動くようになれば、若者の可能性も増え、日本全体が活性化していくと思います」
また、最近では「クラウドワーキング」というワークスタイルも増えてきている。在宅で専門性の高い仕事を請け負う働き方だが、時間や場所を選ばすに働けるため、若者からベテラン、育児中の女性にも広がり、“会社に顔を出さない働き方”として、新しいトレンドとなっている。
このような新しい働き方に対応した会社のあり方を考えていかなければ、今後も会社と社員のミスマッチにより多くの可能性を失うことになるだろう。国も新しい時代に合わせた法改正に取り組んでもらいたい。それがすなわち若者の未来を救うことになるのだ。
(文=鈴木領一/ビジネス・コーチ、ビジネスプロデューサー)
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