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3分でわかる「郵政上場」 歴史上類をみない親子上場と、そのインパクトについて 何がすごくて、何が問題なのか
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45190
2015年09月10日(木) 田中博文 現代ビジネス
9月10日、いよいよ日本郵政の上場が承認されます。上場日は11月4日になるとの観測記事も出ました。持ち株会社である日本郵政と、傘下の金融2社であるゆうちょ銀行とかんぽ生命保険が3社同時に上場します。
そこで日本郵政の上場について、なぜ行われるのか、どのくらいのインパクトがあるのかを、何回かに分けて書いて。今回は「親子上場」について。
■小泉政権下で決定、民主党政権で一旦凍結
まず、郵政民営化の経緯を振り返っておきます。
郵政民営化法案は小泉政権時代の2005年7月、衆議院本会議でわずか5票差で可決されたものの、同8月、参議院本会議で否決となったため、小泉総理は民営化の賛否を国民に問うとして、衆議院を解散しました(郵政解散)。
そして総選挙で、与党の圧勝となった結果、同10月に郵政民営化法が成立、2006年1月、民営化後の持株会社となる準備企画会社として、日本郵政株式会社が設立されました。そして同9月、事業受け皿会社としての株式会社ゆうちょ、株式会社かんぽが設立されます。
J-CAPITAL PARTNERS作成
その後、2007年10月に当時の福田康夫総理のもと、元三井住友フィナンシャルグループの社長だった西川義文氏を日本郵政の社長に迎え、日本郵政の傘下に4つの事業会社(郵便事業、郵便局、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険)が入る体制が発足しました。
同時に、政府が3分の1超を残して日本郵政株を売却することと、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険は2017年9月までに全株売却することが定められました。
J-CAPITAL PARTNERS作成
しかし、2009年8月に民主党政権が誕生後、同12月に郵政株売却凍結法案が可決成立し、いったん民営化が凍結されることになります。この政権交代時、「政府の考え、姿勢と隔たりがある」として西川社長は退任、元大蔵次官の斎藤次郎氏が後任となりました。
その後、再度郵政民営化を進める動きが出て、2012年4月、郵政民営化法の改正案を可決成立させ、これによって、2012年10月に郵便事業株式会社と郵便局株式会社が合併、「日本郵便株式会社」として統合することになりました。
日本郵政グループは5社体制から現行の4社体制に再編され、またこの時に、株式会社ゆうちょ銀行と株式会社かんぽ生命保険の株式については、両社の経営状況とユニバーサルサービス確保への影響を勘案しながら早期売却を目指すことになりました。
従来の2017年9月までにゆうちょ銀行、かんぽ生命保険という金融2社の完全売却という期限はなくなり、「できる限り早期に」という努力義務となりました。当面の間は50%以上の売却を目指すとの表現にとどまっています。
■「親子上場」のなにが問題なのか
そして、日本郵政社長は13年から元東芝会長の西室泰三氏が務めています。現在はこの運営方針の下、上場準備が進んでいます。
J-CAPITAL PARTNERS作成
(売却スキームについて)
J-CAPITAL PARTNERS作成
全体の企業価値評価(バリュエーション)にもよりますが、今回の上場の資金調達額は約1兆円から2兆円との間と言われており、財務省としては、その資金をいかに多く財務省が確保し、東日本大震災の復興支援に回すかが重要とされています。
その過程の中で、当初、持ち株会社の単独上場を目指していた計画は、西室社長の強い意思により、ゆうちょ銀とかんぽ生命も併せた、過去に例がない巨額の「親子同時上場」となる予定です。
なぜ西室社長は、当初の単独上場を変更し、3社同時上場を目指すのか?
そのカギは時間だと思われます。
日本郵政が全株式を保有する場合、金融2社が新規事業へ参入するためには政府の認可が必要です。しかし、日本郵政による保有比率を50%以下まで下げれば、届出制に緩和され、今後の事業展開が加速されます。
グループの企業価値を高めるためには、金融2社の事業基盤の拡大は不可欠であり、努力義務とはいえ、日本郵政の保有比率を早期に50%以下までに引き下げることは極めて重要です。そして、この2社を同時上場させることが、その目的を達成のためには一番有効だと考えたのでしょう。
そして、財務省の目的である復興財源の確保については、財務省が保有する日本郵政株の自社株買いでその目的を達成しようと考えているようです。最近の世界的な株価下落も含めて、本当にその通りマーケットが機能するかわかりませんが、現状はこのようなスキームで上場することになりそうです。
■過去に例のない新規上場
今回の上場を複雑にしている理由として、過去に例のない親会社・子会社含めた3社同時の新規上場であることが挙げられます。
親子上場とは、ある会社の支配権を持つ親会社とその親会社に支配される子会社が同時に上場していることを指しますが、まずは親会社、子会社の定義を確認してみましょう。
上場審査に係る「親会社等」の定義は財務諸表等規則第8条3項に定められており、要約すると「親会社とは、他の会社等の財務及び営業又は事業の方針を決定する機関(株主総会その他これに準ずる機関をいう)を支配している会社等をいい、子会社とは、当該他の会社等をいう」ことになっています。
上場後もゆうちょ銀行、かんぽ生命の株式の50%以上の保有する日本郵政は、間違いなく、この2社の親会社ということです。
親子上場では常に親会社と子会社の少数株主との利益相反や、親会社から見た子会社少数株主への利益流出などが課題とされており、私も実務で過去に何社かその課題解決に携わってきました。
特に子会社の上場については、親会社に依存することなく、独立した事業運営が可能か否かが、審査上重要であり、ヒト、モノ、カネ、情報等すべてにおいて、一定の定量的な数字をクリアしなければならず、結構ハードルが高い項目もあります。
具体的には、親会社から出向していた主要部門長を転籍させたり、親子間で取引を行っていた場合、その商取引の価格含めた取引条件が第三者と取引を行う場合と、遜色のないものに条件変更したり、役員構成の過半数を親会社出身以外の人間にすることが必要になるということですね。
本件では上記の審査の観点から、ゆうちょ銀行とかんぽ生命が、日本郵政からどのくらい独立性を保っているかということになります。
特に、ゆうちょ銀行とかんぽ生命は、貯金や保険販売などの窓口業務を日本郵便に委託しており、日本郵便は2015年3月期にこの2社から9600億円の手数料収入を計上しています。
現状、この委託手数料の算出根拠が非開示になっているのですが、上場時の有価証券届出書には当然、「重要な契約」として、その算定根拠と金額の妥当性が記載されていなければなりません。
そして、個人的には、ゆうちょ銀行とかんぽ生命はその商品の販売チャネルを、ほぼ100%郵便局に依存し、販売チャネルの代替性がないことを勘案すると、この金融2社は、上場審査場、本当に独立した発行体として機能しているのか、甚だ疑問です。
そもそも親子上場は2007年10月に当時の各証券取引所共同声明としての「中核的な子会社の上場に関する証券取引所の考え方について」で、
「親会社グループのビジネスモデルにおいて、非常に重要な役割を果たしている子会社、親会社グループの収益、経営資源の概ね半分を超える子会社などのいわゆる中核的な子会社の上場については各企業グループ、子会社の事業の特性、事業規模、過去の業績の状況、将来の収益見通し等を総合的に勘案しながら、慎重に判断していくことといたします」
と発表されており、ゆうちょ銀はグループの連結純資産の約8割を占め、かんぽ生命を足すと9割を超えることを考えると、十分に中核的な子会社に当たると考えています。
■元東証会長の「理解に苦しむ提案」
また、2009年12月の当時の東京証券取引所グループの斉藤惇社長は、ブルームバーグのインタビューに対して、強制的な措置は考えていないと言ったうえで、
「子会社の犠牲の上に親会社が利益を上げるケースもあれば、その逆も起こる可能性がある。(親会社が取締役の派遣などを通じて子会社の経営を握ることで、利益相反を引き起こす可能性があることから)親会社が上場子会社を吸収合併して連結対象とすることを推奨したい」
と話しています。
それ以降、取引所からの親子上場に関する方針、コメントは発表されていませんが、実際には親子上場企業数は 2006 年度末の417 社をピークに減少が続いており、現在東証では322社の親子上場件数(2014年4月東証資料)となっています。
減少の主な理由は親会社による子会社の完全子会社化です。いわゆる、ガバナンスも利益も全て親会社が吸収するという極めてシンプルな構図に戻りつつある中で、東証会長でもあった西室社長が自ら親子上場を提案するのは、なかなか理解に苦しむところではあります。
もっとも、一昨年、東証が「子会社上場は望ましくない」とのコメントを出しながらも、現状各取引所の新規上場規則で子会社の上場が認められている以上は、上場したいと言っているのを断ることはできません。だからこそ、しっかりとした判断を行ってほしいと思っています。
東証一部への直接上場の規則では、流通株式比率、いわゆる財務省でない外部株主比率が35%以上必要となっており、通常であれば、ゆうちょ銀行、かんぽ生命ともに時価総額の35%以上をマーケットで売り出す必要があるわけですが、今期第一四半期のゆうちょ銀行の簿価純資産が約11兆円、かんぽ生命の簿価純資産が約2兆円ある中で、その35%となると4.5兆円を市場でファイナンスしなければなりません。
しかし、東証一部の日々の売買代金が2兆円から3兆円である中、日本郵政グループのファイナンスだけで、4.5兆円を消化することなど、ほぼ不可能に近く、どうも東証としては、本件に限っては流通株式比率を規則変更して、もっと小規模なファイナンスでも可能とする様な観測記事が書かれています。
そのあたりも含めて異例尽くめの日本郵政上場ですが、次回は上場承認後に、そのファイナンス分析を行ってみたいと思います。
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