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中国経済危機、日本株と円に大打撃の懸念 無力さ露呈のG20、中国批判相次ぐ
http://biz-journal.jp/2015/09/post_11490.html
2015.09.10 文=町田徹/経済ジャーナリスト Business Journal
週明け(9月7日)の東京市場は、先週からの円高傾向が止まらず、これを嫌気した株式市場は日経平均株価が300円以上も下げる展開で始まった。原因は、懸念が強まっている中国発の世界経済の混乱というリスクに対して、週末に開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議が、これといったインパクトのある対応策を打ち出せなかったことにある。
その失敗のあおりをまともに受けかねないのが、円と日本株だ。市場は「通貨の競争的な切り下げを回避し、あらゆる形態の保護主義に対抗する」というG20のお題目よりも、G20前にデフレ懸念を理由に量的緩和を拡充してユーロ高を阻む覚悟を鮮明にしたドラギECB(欧州中央銀行)総裁の発言のほうにリアリティを感じているからだ。G20が慎重な判断を求めた米国の利上げが遠ざかるようならば、円高・株安傾向に拍車がかかり、市場が日本銀行に「黒田バズーカ第3弾」を催促する展開になりかねない。
円高・株安をきっかけにしたアベノミクス崩壊シナリオに強い危機感を覚えたのだろう。G20の初日にあたる4日、麻生太郎財務大臣は、中国を名指しして厳しい注文を付けたという。「市場の変動は中国が取り組むべき構造的な問題を映す鏡だ」と述べ、同国の過剰生産設備問題やシャドーバンキング(影の銀行)などの不良債権問題にメスを入れるだけでなく、輸出と政府・国有企業主導の投資を主体とする状況から、内需、特に消費を主体とするバランスの取れた体制へ、中国の経済構造を改革するよう迫ったのだ。複数の国から麻生大臣に同調する主張があり、中国も構造改革に取り組むと表明せざるを得なかったようだ。
そうしたムードを反映したのは間違いない。財務省の仮訳を見ても、G20の声明は12項目に及ぶが、そのなかに「通貨の競争的な切り下げを回避し、あらゆる形態の保護主義に対抗する」という文言を盛り込み、先月突然の人民元の切り下げに踏み切った中国がこれ以上の元安誘導を行わないように釘を刺した。
また、ドルの世界的な米国回帰、つまり新興国、途上国からの資本流出を誘発しかねないとされる米連邦準備理事会(FRB)の利上げに関しても、G20声明は「経済見通しの改善に沿って、いくつかの先進国において金融政策の引締めの可能性がより高まっていることに留意する」「我々は、負の波及効果を最小化し、不確実性を緩和し、透明性を向上させるために、特に金融政策その他の主要な政策決定を行うにあたり、我々の行動を注意深く測定し、明確にコミュニケーションを行う」という言葉を盛り込んだ。
■力不足だった声明
だが、冷静に見ると、G20の声明に盛り込まれたのは、中国危機と米利上げのリスクという問題の指摘だけだ。具体的な処方箋となると、「金融政策は引き続き、中央銀行のマンデートと整合的に経済活動を支えるだろう。しかしながら、金融政策のみでは、均衡ある成長に繋がらないだろう」「我々は、債務残高対 GDP 比を持続可能な道筋に乗せつつ、経済成長と雇用創出を支えるため、短期的な経済状況を勘案して機動的に財政政策を実施する。この目的のため、我々はまた、引き続き、生産性、包摂性及び成長を支えるために歳出及び歳入の構成を考慮していく」と記したぐらいだ。各国が個別の事情の許す範囲で、通常の金融、財政政策を発動するよう促したにすぎない。
前回の本連載記事でも書いたが、求められていたのは、特定の国からの資本流出を予防して大事に至らせないための国際的な外貨融通の仕組み強化など、異常事態に対する国際的な連携・対応の宣言だ。この点で、今回のG20の声明は不十分であり、力不足だと言わざるを得ない。
そもそも火種とされたリスクを抱える両国が、真面目に火消しをするかどうかもわからない。テロが相次ぐなかで、軍事パレードの断行によって統治能力を誇示するのに躍起になっている習近平指導部が、国民の不満が増幅しかねない、痛みを伴う構造改革に踏み込むかどうか、甚だ疑問である。
加えて、新聞報道によると、イエレン米FRB議長はG20を欠席したという。会議の終了後に、フランス出身のラガルド国際通貨基金(IMF)専務理事は、「利上げ決定は将来的に覆されない確信が持てたときに初めて実施すべきだ」との趣旨の発言を行い、重ねてFRBの早期利上げをけん制した。しかし、米国経済が回復すれば、リーマンショック以降継続してきた非常時の金融政策を正常な状態に戻す利上げは、FRBが避けて通れない道だ。イエレン議長の異例の欠席は、自らの政策決定がこうした要求によって手かせ足かせをはめられることを嫌ったものとの見方も成り立つ。
■黒田日銀の次の一手
大山鳴動して鼠一匹の感があるG20が終わってみると、市場が一番インパクトを受けたのは、G20開幕前の3日、ECBの定例理事会後に開いた記者会見におけるドラギ総裁の発言だ。同総裁はまず、「新興国の景気が減速している」「(原油価格の低迷の原因のひとつは)中国の需要減」などと述べたうえで、「(EU域内の)消費者物価上昇率は非常に低い水準にとどまりそうだ」「マイナスに落ち込む可能性もある」とデフレ予防策の必要性を指摘。具体策として、「必要ならば」と断りつつ、金融の量的緩和策の拡充や現行の緩和策の終了時期の延長を辞さないときっぱり表明したのだ。G20の声明より具体的で、市場はG20が終了した後も、むしろドラギ発言のほうにインパクトを感じており、週明けの朝の東京市場もそうした状況を映した展開を見せたといってよい。
16、17の両日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、FRBが本当に利上げを見送るかどうかは依然として不透明だ。とはいえ、G20やラガルド専務理事発言で、一時ほど利上げ懸念は強くなく、ドル高の勢いはそがれている。そこに、G20が否定した「通貨安競争」ではなく、「デフレ予防策」という大義名分のあるユーロ高阻止策をドラギ総裁が打ち出したことで、買われやすい通貨として残ったかたちなのが日本円だ。
しかし、円高は中国向け輸出の減少に直面する日本の輸出をさらに落ち込ませて、経済の足を引っ張る原因になりかねない。舵取りの難しい市場との対話をどう進めるか。ドラギ総裁に先を越された格好だけに、黒田日銀の次の一手が注目されている。
(文=町田徹/経済ジャーナリスト)
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