1. 2015年9月09日 20:52:55
: jXbiWWJBCA
コラム:2期連続マイナス成長は杞憂か=村田雅志氏 村田雅志 村田雅志ブラウン・ブラザーズ・ハリマン 通貨ストラテジスト [東京 9日] - 確たる証拠が出そろっていないだけに市場関係者の多くは明言を控えているが、日本が4―6月期に続き7―9月期もマイナス成長に陥る可能性があるのではないかと筆者は考えている。8日に発表された2015年4─6月期の実質国内総生産(GDP)2次速報値は前期比年率1.2%減と1次速報値時点の同1.6%減から上方修正された。上方修正の主因は、民間在庫の積み上がりだ。民間在庫投資は、前期比年率の寄与度でプラス0.3%ポイントからプラス1.1%ポイントに大きく上方修正され、成長率を0.8%ポイントも押し上げた。 ただ一方で、主だった需要項目は軟調な結果を示した。個人消費は前期比0.7%減と1次速報値(同0.8%減)から小幅上方修正されたものの、マイナスのまま。ほぼ横ばいだった設備投資は同0.9%減となり、設備投資の弱含みが確認された。この結果、民間在庫を除いた国内需要は前期比年率の寄与度でマイナス0.8%ポイントからマイナス1.2%ポイントへと下方修正。内需が落ち込むなか、在庫が積み上がる形がより鮮明となった。 <期待外れの賃金上昇ペース> 企業は一般に、需要が低迷するなかで民間在庫が積み上がると、生産活動を抑制することで在庫調整を試みる。7月の鉱工業生産が前月比0.6%減と市場予想に反しマイナスに転じたのは、企業が在庫調整圧力を強めた兆しと考えられる。 GDP統計の民間在庫は1―3月期、4―6月期と2期連続で前期比プラスとなり、計0.8%もGDP成長率を押し上げた。企業が在庫調整圧力を強めたことも考慮すれば、7―9月期の民間在庫が成長率を押し下げる(マイナス寄与となる)のはほぼ確実と言える。 一方で、内需・外需はともに7―9月期も低迷が続く可能性が高まっている。7月の現金給与総額は前年比0.6%増と伸び悩んだ。前月(6月)分が同2.5%減と大きく落ち込んだことから、市場予想では2%程度の増加が見込まれていただけに、日本の賃金上昇ペースの弱さが目立つ格好となった。 現金給与総額の内訳を見ると、大幅増加が見込まれた特別給与が同0.3%増と弱い伸びにとどまった。夏のボーナスは大企業製造業で大きく増えたものの、中小企業や円安でコスト増となる内需企業の多くでは横ばいか微減だった。8月に夏のボーナスを支給する企業は全体の1割程度とみられることから、今年の夏のボーナス(5―8月支給)が前年比マイナスとなる可能性も出てきた。 賃金が期待に反する形で伸び悩む中、消費者マインドも悪化している。8月の景気ウォッチャー調査では、景気の現状判断DIが49.3と、横ばいを示す50の水準を7カ月ぶりに下回った。コメントを見ると、日本株の下落や値上げの浸透で個人消費の鈍化が目立っているとの指摘が増えている。 9月には大型連休が控え、プレミアム付き商品券への期待もあるが、景気ウォッチャー調査の先行き判断DIは48.2と、こちらも50を割り込み、3カ月連続で低下。消費者マインドの悪化で7―9月期の個人消費の反動増が限定的なものになるとの見方も成り立つ。 設備投資の先行きも大きな期待が持ちにくい。機械受注統計の7―9月期見通しは前期比0.3%増と前期の同2.9%増から大きく鈍化した。4―5日に開催された20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、声明の冒頭で世界の経済成長が期待する水準に達していないと指摘されるなど、足元では世界経済の減速懸念が強まっている。また、中国株の大幅下落に象徴されるように、中国景気の先行き不透明感は強まるばかりだ。日本企業が、このような状況のもとで設備投資をあえて積極化させるとは考えにくい。 輸出も伸び悩みが続きそうだ。8月上中旬の日本の輸出は前年比4.9%増。ドル円レートなどから推定すると、8月の輸出価格は前年比8%程度の伸びが見込まれるため、仮に8月下旬に輸出が加速したとしても、輸出数量はせいぜい前年並みにとどまる可能性が高い。 個人消費の反発が限定的で、設備投資や輸出に期待が持てず、民間在庫が成長率を押し下げることが確実となれば、4―6月期成長率が予想外のマイナスになったからと言って、7―9月期も引き続きマイナス成長となる可能性を完全に否定することは難しいように思われる。 <日銀の早期追加緩和は望み薄> 筆者のこうした見方を、主だったメディアで目にすることが少ないのは、現時点(9月9日現在)で7―9月期のマイナス成長を確信できるほどの材料が出そろっていないからだろう。8月分の貿易統計は9月17日に発表され、景気との連動性が強い鉱工業生産の8月分は9月30日に発表される。 そして民間エコノミストの景気見通しをまとめたESPフォーキャスト10月調査は10月8日に公表される。こうした調査を通じ、筆者の見通し通り国内景気の低迷継続が明らかとなれば、7―9月期マイナス成長の可能性を声高に主張する市場関係者も多くなるだろう。 こうした展開の場合、安倍政権は景気下支えを目的とした今年度補正予算の策定を急ぐとともに、内々に2017年4月に予定される消費税率10%への引き上げの是非が議論されるだろう。消費税増税法からは、景気が悪化した時に増税を停止できる「景気条項」が削除されている。このため消費再増税を争点に、安倍首相が2016年7月に予定されている参議院選挙に合わせる形で、衆参同日選挙を仕掛けるとの見方が浮上する可能性も出てくる。 一方、日銀は、7―9月期のマイナス成長の可能性が高まったとしても、早期に追加緩和に動くとは考えにくい。黒田日銀総裁は、2016年度前半としている2%の物価目標達成時期が、原油価格次第で後ずれする可能性を示しながらも、物価の上昇基調が確認できる限り追加緩和に踏み切らない姿勢を維持している。 黒田総裁が物価の基調を見る上で重要視している労働需給のひっ迫は、雇用が景気の遅行指数であることを考えると、年内に急速に緩むとも考えにくい。2期連続のマイナス成長を経て、労働需給が緩み始める来年1―3月期に入っても、世界景気の減速が続く状況になって、黒田総裁は初めて追加緩和の是非を真剣に検討するのではないだろうか。 *村田雅志氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨ストラテジスト。三和総合研究所、GCIキャピタルを経て2010年より現職。著書に「名門外資系アナリストが実践している為替のルール」(東洋経済新報社) *本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(こちら) http://jp.reuters.com/article/2015/09/09/column-masashimurata-idJPKCN0R90UU20150909?sp=true |