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●スピン経済の歩き方:
日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
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「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。
そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。
先日、「ホテルオークラ東京」(以下、オークラ東京)の本館が建て替えのために閉館した。現在の11階の建物を解体して、42階(高さ195メートル)と17階(同85メートル)の高層タワーを建造、オフィスも入る複合施設に生まれ変わるのだ。開業は、東京五輪を直前に控えた2019年春らしい。
敷地面積(約2万6000平方メートル)の6割は庭園や緑地にして開放して「都会のオアシス」にするということだし、いろいろ賑(にぎ)やかになるのはいいんんじゃないのと思うかもしれないが、実は昨年5月に計画が発表されてから欧米を中心に「反対」の声があがっている。
『ワシントン・ポスト』など米紙が相次いで取り壊しを惜しむ記事を掲載し、英誌『モノクル』は「セーブ・ジ・オークラ」なんて特設サイトまで立ち上げ、「日本的モダニズム建築を守ろう」と署名集めを始めたのだ。
欧米では歴史のある建造物は「文化財」という位置付けで保存されるのが一般的だ。ホテル側も大幅改修を行いつつも往時の佇(たたず)まいの維持に務め、それを「売り」にブランド価値を高めることが多い。ちょっと古くなったからぶっ壊して、高層オフィスタワーにしましょうや、というダイナミックな方針をとるほうが、欧米では「奇異」に映るのだ。
ニューヨークのザ・ピエール(1930年開業)、パリのホテル・ジョルジュサンク(1928年開業)、シンガポールのラッフルズホテル(1887年開業)、香港のペニンシュラ香港(1928年開業)など、世界中から観光客が訪れるクラシックホテルも全面改修を行うことはあっても、「顔」である建物自体をゼロから作り直すということはしない。それらと比べたら、1962年開業という比較的新しい「オークラ東京」をぶっ壊すってのはちょっとどうなのさと、欧米の「オークラファン」から茶々が入るのは当然だ。確かに、ハワイ好きの日本人も、モアナ・サーフライダー(1901年開業)やロイヤルハワイアン(1927年開業)を壊して、高層タワーを建てますと聞いたら反対するのではないか。
いや、日本は地震大国だから耐震性がうんたらかんたらという話にもっていく人も多いが、1927年にできた横浜のホテルニューグランドもリノベーションを繰り返し、昨年6月には東京五輪開催で外国人観光客が大挙することを想定し、耐震性の向上などを目的とした大規模改修を行っている。壊さなくても耐震性を上げ、なおかつ快適さを向上していく方法はいくらでもある。
●「国策」が大きく関係
「オークラ東京」は今回の建て替えについて「トップレベルのホテルを標榜するわりには施設が追いつていない」みたいな説明をするがしっくりこない人も多いだろう。世界の名門ホテルのトレンドに逆らい、さらに顧客でもある海外のファンたちを落胆させる。そんなリスクに加えて、新国立競技場計画の白紙を後押しした建築コストの世界的高騰という「逆風」もある。総事業費1000億円の巨額プロジェクトを成功に収める勝算はあるのか――。
結論から言ってしまうと、今回の建て替えは勝算があるとかないとかの話ではない。「国策」が大きく関係しているのだ。
遡(さかのぼ)ること3カ月前、不動産デベロッパー大手の森トラストは、国家戦略特別区域の特定事業として計画を進めている「虎ノ門四丁目プロジェクト」の計画名称を「虎ノ門トラストシティ ワールドゲート」に決定したと発表。これは地下4階・地上36階建ての大規模複合施設で、「国際的経済拠点としての発展が期待される、東京における重点エリア」(プレスリリースより)のランドマークになる予定だ。
この「世界に向けた門」のすぐ横にあるのが、「オークラ東京」である。報道によると、オークラ建て替えの検討は、2007年の世界金融危機から行われてきたという。2009年度に赤字転落しているので、グループのけん引役である「オークラ東京」の収益力を強化すべきとなるのは企業としては当然だ。11階のホテル経営より、定期的な賃料収入がある高層オフィスビルにしたほうが収益が安定するのは言うまでもない。そんなオフィスビル志向がわきあがってきたころに、お隣ではオークラの株主である森トラストが国家戦略特区で大規模な都市開発に乗り出す。両者の動きを「無関係」ととらえるほうが無理がある。
実際に森トラストの森章社長の過去の発言を振り返れば、今の建て替えを予見していたかのような言葉がある。『週刊ダイヤモンド』(2011年2月5日)でオークラを買収する考えはないのかという質問に対して、以下のように答えているのだ。
ない。ホテルは儲からない。ホテルは都市開発の添え物として考えるべきだ。割増容積率を活用して、土地代がタダになって初めて事業として成立する。
●あっさりと壊される
虎ノ門というエリアを国が音頭をとって再開発をする以上、「添え物」であるホテルも足並みをそろえて生まれ変わらなくてはいけないというわけだ。実際に森社長のおっしゃることは本質を突いている。歴史を振り返れば、日本におけるホテルは「国の方針」の添え物として考えられてきたことは明らかだ。ホテルの「御三家」といわれたオークラ東京は1962年開業、もうひとつのホテルニューオータニも1964年開業。言わずもがな、東京五輪によって訪れるであろう外国人観光客を意識して生まれたのだ。
このような傾向は、戦前から変わらない。戦争で中止になったが、1940年に東京でオリンピックが開かれることが決定した時も、外国人観光客の受け入れ先として日本政府がホテル建設を後押しし、公的融資を受けた14軒のホテルができたほか、民間の活力でもじゃんじゃんホテルができた。こうして生まれたのが、上高地帝国ホテル、雲仙観光ホテル、川奈ホテル、蒲郡クラシックホテル、甲子園ホテル、琵琶湖ホテルなど。日本でクラシック・ホテルと呼ばれるものが1930年前後に建てられているのが多いのは、「国策」が大きく影響しているのだ。
ただ、しょせんは「国策」で造られたので、一時の役割を終えるとあっさりと壊される。建造物としてどんなに優れていても、どんなに歴史的価値があっても保存をしようという動きはない。分かりやすいのが、花の1930年代組のなかでもドイツのバウハウスの流れをくむ斬新なデザインで異彩を放った「強羅ホテル」だ。
ご存じの方も多いと思うが、ここは終戦間近の1945年6月3日、ソ連を仲介者とする和平工作が行われたとされるホテルだ。交渉は3日間に及んだが不調に終わった。まさに日本の将来を決定づけた貴重な場所ではあるが、1998年にサクッと壊された。今だったら外国人観光客が大挙して訪れたであろう茅葺屋根(かやぶきやね)の「野尻湖ホテル」も2003年に壊された。
こういう流れを考えると、「東京五輪」によって生み出された「オークラ東京」にどんなに建造物としても価値があったとしても壊されるのはしょうがない。国家が旗振り役となって、巨額のカネが動くプロジェクトが進行している。これまでと同様、「日本の伝統美を守って」なんて市井の声が反映される余地などないのだ。
●世界から笑われないように
ただ、不安も残る。
なぜか日本は「オリンピック」という国家的イベントを前にすると、途端に関係者が浮き足立って、「保身」やら「お手盛り」に走ってプロジェクトが破たんすることが多い。
簡単に言うと、「うひょー、待ちに待ってたオリンピックだ! この日のためにいろいろ関係各位に根回ししたんだからガッツリ稼ぐぞ!」という「供給者側」の思いが強すぎて、「利用者側」の感覚と乖離(かいり)したトンチンカンなことをやらかすのだ。
今回の建て替えもちょっとそんな臭いがしている。東京五輪へ向けて最大の「上客」であるはずの知日派の外国人から「日本の伝統とモダニズムが融合する建物だから保存して」という声があがっているにもかかわらず、「大丈夫、大丈夫、外国人はこういうのが好きなんでしょ」と高層タワーに変えてしまう。
オークラ側は、「建て替え後も日本の伝統美を継承する方針」だとして、設計チームには本館を設計した故・谷口吉郎氏の長男である谷口吉生氏を起用した。
息子さんも著名な建築家で、素晴らしいホテルができると思うが、それはあくまで今の時代の建築美であって、多くの外国人客を魅了した「オークラ東京の伝統美」ではない。一度壊してしまったら二度と再現できないのが「伝統」である。多くの外国人観光客が日本に求めるイメージを、自ら放棄したホテルがどう評価されるのか。
エンブレム問題、新国立競技場に続き、生まれ変わった「オークラ東京」までも世界から笑われないように祈りたい。
●窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
最終更新:9月8日(火)15時13分
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