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支持率も株価も低調で不機嫌顔〔PHOTO〕gettyimages
「アベノミクス」は死んだか? 〜物価だけが上がり続け、富裕層も財布のひもを締めている チャイナ・ショック! 世界経済の「明日」を読む (5)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45107
2015年09月09日(水) 週刊現代 :現代ビジネス
金持ちまでが消費を手控え、家庭用「金庫」の売り上げが伸びている!? 景気の実態はいまどうなっているのか?
■不安な数字
「個人的に外食の値段が高くなっていると感じます。私は週末の午前中、ファミレスで仕事をすることが多いのですが、例えば2年ほど前までランチセットが500~600円で食べられましたが、最近ではセットメニューを頼むと軽く1000円を超えます。これはかなりの衝撃です」
こう語るのは第一生命経済研究所の主席エコノミスト永濱利廣氏だ。
「とはいえ、それで外食産業の客足が落ちて業績が落ち込んでいるわけではありません。日々の家庭での食事は切り詰めて、外食では思い切って支出するという消費のメリハリが進んでいるのです」(永濱氏)
アベノミクスが始まって2年8ヵ月、株高、円安、消費増税と物価高などさまざまな変化が日本経済に訪れた。
政府や財界は株高や賃金、ボーナスの上昇など、その果実ばかりを強調するが、恩恵が国民全体に幅広く行きわたっているとは言い難い。果たして消費や景気の実態はどうなっているのだろうか。
身近な統計数字で景気の動向を読み解いている三井住友アセットマネジメントの理事・チーフエコノミストの宅森昭吉氏は、「様々な社会現象を見る限り、景気は底堅い」と分析している。
「例えば、大相撲の懸賞本数、中央競馬会の馬券の売り上げ、8月に行われた東北四大祭りの人出など、景気に連動しやすい数値を見る限り、非常に堅調です。また、完全失業率は今年5月の数字で3・31%。これは'97年4月以来の低い数字です」
統計上、アベノミクスが、景気回復に一定の効果をもたらしたのは確かなようだ。しかし、ここにきて不安な数字も出てきた。'15年4~6月の実質GDP成長率が前期比年率マイナス1・6%となったのだ。
前出の永濱氏が分析する。
「GDP成長率がマイナスになった要因の一つは輸出の鈍化ですが、これは明らかに中国経済の失速も影響しています。海外経済の不透明感は増しており、この部分が短期的に改善する保証はありません。さらに気になるのは、家計の所得は増えているが、個人消費が弱いことです」
■実質賃金の低下
安倍政権は賃金は上昇していると強調しているが、それがまやかしの賃上げであることは、名目賃金から消費者物価の影響をさしひいた実質賃金の推移をみれば一目瞭然だ。シグマ・キャピタルのチーフ・エコノミスト田代秀敏氏が語る。
「実質賃金はアベノミクスが始まった'13年初頭からも下落を続け、その勢いはリーマンショックのあった'08年に迫ろうとしています。これでは消費が増えないのも当然です。
なぜこれほど実質賃金が下がっているのか。1つは円安誘導による物価の上昇があるため。もう1つはグローバル化が進んだことで、日本企業は中国や東南アジアなど賃金の安い国とコスト競争をせざるをえず、人件費が抑えられていることが要因です」
厚生労働省によると'10年度の実質賃金指数の平均を100とすると'15年6月の指数は93ポイントまで下がっている。
物価上昇は直近でも続いている。エネルギー関連製品を除いて計算されるコアコア消費者物価指数は、今年6月に0・9%の上昇(前年同月比)。これは、消費税の影響を除いて計算するとこの2年間で最大の上昇幅である。円安による物価高のペースに、給与の上昇は追いついておらず、庶民の暮らし向きは少しも上向きそうにない。
「最大の問題は、アベノミクスの恩恵が、日本経済の最大のボリュームゾーンである『正社員階層』に届いていないことだ」と語るのは、楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元氏である。
「日本には株高による好影響を受ける『株主階層』、業績に連動して大きなボーナスをもらえる経営者や外資系金融マンなどの『ボーナス階層』、一般的な会社員の『正社員階層』、そして派遣労働者などの『非正規階層』があります。
前者2階層はもちろんのこと、人手不足で賃金の上がっている『非正規階層』もアベノミクスの好影響を受けている。しかし業績が好調であっても、企業は株主還元ばかりを考えているため正社員の給料を上げようとせず、幅広い消費拡大が生まれていない」
では、どうすればボリュームゾーンである正社員階層の消費を促すことができるのだろうか? 山崎氏が続ける。
「例えば、子ども手当を復活させれば、正社員階層を含めた幅広い子育て世代がモノを買うようになり、景気の拡大につながります。しかし、こうした給付金制度には役人が積極的でない。利権拡大や天下り先の確保に結びつきにくいからです」
■マネーの逆回転が始まっている
アベノミクス理論によれば、株高や不動産価格の高騰で生まれた富が、広く庶民にトリクルダウン(したたり落ちること)して、景気が拡大するという見立てだった。しかし、ここに来て株式市場も変調をきたしており、富裕層や投資家も財布のひもを締めはじめた。
「株で儲けを出している人にはシニア層も多いのですが、彼らも消費を控えている。社会保障の効率化に関する議論がさかんになってきており、『今後、保険料などの負担が増えるのではないか』と警戒しているのでしょう。
彼らは儲けを現金化し、自宅に保管しはじめている。その証拠に、家庭用の金庫の売り上げが伸びています」(永濱氏)
こうして市場にカネを流す人はますます減っていく。マネーの逆回転はすでに始まっているのだ。
アベノミクスが完全に破綻する日が近いかもしれない。
「週刊現代」2015年9月12日号より
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