1. 2015年9月08日 07:26:38
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仲間を作るはずが四面楚歌にも、中国の一帯一路政策 シルクロード構想に参加は表明しつつも警戒心を解かない周辺国 2015.9.8(火) 矢野 義昭 中国北西部初の高速鉄道「蘭新線第二複線」、全線で開業 新疆ウイグル自治区のウルムチ南駅のプラットホームに止まっている、中国の高速鉄道、蘭新線第二複線の甘粛省蘭州行き列車(2014年12月26日)〔AFPBB News〕 いま中国の習近平政権が世界に対して発展戦略として提唱している「一帯一路」とは、どのような政策であり、その狙いは何であろうか。また、それに対して関係国、特に利害関係の深い周辺国はどのように対応しようとしているのであろうか。1 発展戦略としての一帯一路政策の形成とその狙い 馮并著『"一帯一路": グローバルな発展のための中国の論理』(中国出版集団、2015年)によれば、初めて「一帯一路」の概念が提唱されたのは、2013年9月の習近平主席のカザフスタン訪問時である。 習近平主席は、欧州とアジアを東西に連接し、シルクロードを創ることを提唱した。その協力内容として挙げられたのは、物流、貿易と投資、金融、エネルギー、食糧安全保障などの分野である。 同年10月のインドネシア訪問時には、21世紀の海上のシルクロードの建設を提唱し、中国は「ASEAN(東南アジア諸国連合)と中国が協力し合い、緊密な運命共同体を建設すること」を望んでいるとして、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設を提唱している。 2014年初めの欧州訪問時には、アジアと欧州の間で一大市場を建設することを目標として、人、企業、資金、技術の交流を深め、中国と欧州が世界経済の牽引役となることを提唱し、同年5月には、中国国内で中国対外友好協会に対し、陸と海のシルクロードの建設への協力を呼びかけている。 このように、一帯一路は、表向きには、旅行、貿易、金融、エネルギー、食糧など、主に経済面での協力関係の強化が謳われている。前記の書では、その沿線の50カ国以上が参加に応じており、中国と沿線の諸国と地区がともに、共通の地政学的な経済的富裕の発展と、経済のグローバル化の推進に向けて、いまだかつてない重大な理論が創造されたとしている。 また、経済のグローバル化と地域経済の一体化が新たな段階に入り、中国の発展も経済が典型的な新常態に入っており、一帯一路をめぐり、中国のすべての新たな視点に立つシルクロード発展戦略学が現れ始め、様々の国内外の発展戦略の中心的な戦略となったと、その意義を述べている。 このように一帯一路が、今後の習近平体制下における発展戦略の基本となることが明示されている。 中国国内では、一帯一路の重点地区について、いくつも候補が挙げられているが、最も重視されているのは、西部地区、なかでも新疆である。 中国国内では2013年末に、国家発展改革委員会と外交部が共同で、シルクロード経済帯と21世紀の海上シルクロードについて、座談会を開催し、その戦略構想に含まれる重大な意義について分析検討した。 その際には、西部の9省市と国家の12部門の責任者が出席し、戦略構想の全般計画と枠組みの制定などの推進について研究を進めるよう提議されている。このように、早くから西部の省市が、国家レベルの一帯一路の検討会に正式参加している。 2014年には甘粛省と外交部が共同で、シルクロード共同事業についてのアジア共同フォーラムを開催し、2012年創設時の参加国33カ国のうち、28カ国が参加した。2014年6月には、「シルクロード国際帯検討会」が新疆のウルムチ市で開催された。 その中では、新疆が持つ、欧亜を結ぶ陸橋の核心地帯、四大文明の交流点、豊富な資源、経済社会の発展の黄金期の利用という、4つの優位性を発揮して、新疆をシルクロード経済帯の地域内の、交通、商業物流、金融、文化と科学技術、医療サービスの中心とすることが提案されている。 なお、この検討会には、中国、ロシア、インド、カザフスタン、キルギスタン、アフガニスタン、トルコ、米国など20カ国が参加した。このように、西部の中でも新疆が陸路の経済帯の戦略拠点として重視されており、ロシア、インド、中央アジア諸国との連携が呼びかけられている。 中国国内の一帯一路研究拠点として、中国科学院は「海上シルクロード研究基地」を北京に設立している。その研究者の間では、以下のような見解が出されている。 (1)一帯一路の構築に当たっては、経済協力と人文交流を主とし、相互交流と貿易投資の促進を優先して、利益共同体にすることを目標とする。そのため、平等の協力関係のもと、順を追い漸進的に基礎を築き、沿線国とともに通商し、共に建設し、共に成果を分かち合い、共に勝利するべきである。 (2)アジアは複雑多様であり、各国が積極的に参加する貿易自由化と地区経済の一体化の建設のためには、新しい協力の方法を創造的に推進する必要がある。 (3)今後の一帯一路の建設には、「AIIB」という基盤の上に、アジア太平洋と欧州を相互に結合し、中国とシルクロード沿線国の積極的参加および欧亜の相互交流を推進し、海上の相互交通と汎アジア・エネルギー・ネットワークを構築する必要がある。 そのため、中国の新たな工業化と農業現代化が形成する経済力を最大限に発揮し、対外開放戦略と沿線国家との隣接・拡散効果を拡大し、陸と海のシルクロードを共に建設するべきである。 これらの見解からは、沿線国、周辺国の積極的参加を得るために、特に欧州を終着点とし、多様なアジア諸国を陸路と海路からネットワークで結んで、通商や物流を盛んにし、貿易の自由化、さらには地域の一体化を進めようとする、習近平政権の発展戦略の意図が垣間見られる。AIIBもその資金面での基盤と位置づけられている。 しかし、関係国が中国の意図通りに動く保証はない。陸上国境を接する大陸国は互いに領土の争奪、少数民族問題などの紛争要因を抱えている場合が多く、国境を越えた開放的な通商や物流の拡大は円滑に進むとは思われない。 特に、冷戦時代には厳しい敵対関係にあった旧ソ連圏のロシアや中央アジア諸国、また中国に領域を侵略され軍事的圧力を受けているインドや東南アジア諸国などが、対中警戒心を捨てることはないであろう。 2 一帯一路政策の呼びかけと中国側が主張する各国の反応 中国の一帯一路への参加の呼びかけに対し、関係国はどのように反応しているのであろうか。以下は、前記の書に述べられている、中国側が主張している各国の反応である。 中国は、陸上では各正面の諸国と共同博覧会を開催し、貿易、投資などの促進を図っている。 アラブ諸国とは2013年に「中国・アラブ博覧会」が開催された。31個の案件、664.1億元が成約した。中国も30億元の観光協力を締結した。投資問題解決コンサルタント委員会と投資基金の設立も合意された。これは中国にとり初の大規模な金融協力であった。 同年には、「中国・東北アジア博覧会」が開催され、331件の投資契約が成立し、そのうち10億元以上の契約が75件に上った。「中国・欧州博覧会」も開催され、2013年に成約したのは対外貿易額56億ドル、対外経済技術協力10億ドルに上ったが、2014年は、成約額は2000億ドルを超えた。 中国と東南アジアの間では、2012年に雲南省とASEANとの双方の貿易額は66.8億ドルに達していたが、2014年6月には、中国とASEANとの双方の投資額は1200億ドルを超えている。「中国・ASEAN博覧会」では、南寧、湛江、海口などとの一体化が進められ、ますます活気づいているとしている。 ただし、「中国・南アジア博覧会」については、具体的な成果は紹介されていない。これら5大博覧会の多国間貿易拠点は中国の西部と東北地区に分布し、全国土の80%以上、全人口の62%を占めている。 シルクロード経済帯は、多くの路線が伸び、扇面状に拡大し、国内外の経済協力のための縦横に通ずる、1つの幅広い陸路帯を形成している。 これらの陸路と中国東部の海のシルクロードの沿海都市とは連接され、さらに完全な経済影響圏を形成しており、一帯一路構想全体の中で、それぞれの機能を発揮し、中国の西、北、東、南の全方位において、新しく発展する地政学的な経済的原動力をもたらしているとしている。 一帯一路に対する国際的な反響も大きいと中国はその成果を自賛し、多くの国も共通の認識に立ち、ますます多くの国と地区が吸い寄せられ、発展の効果が強まっているとしている。 欧州ではドイツとの協力を重視している。2014年にはドイツのアンゲラ・メルケル首相は、ドイツ産業界代表団を伴い7度目の訪中を行い、成都でフォルクスワーゲンの現地工場の生産台数が70万台を達成した状況を視察し、西部の発展に極めて大きな関心を示したとしている。 またイタリアとギリシアの首脳は訪中時、陸上と海上のシルクロードへの積極的な参加と欧州と中国の協力の橋頭堡、中継国となることを重ねて表明している。 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、2014年2月、この中国の提案に積極的に対応するとの意向を示し、「欧州とアジアを結ぶ鉄道と「一帯一路」はさらなる利益をもたらすであろう」との期待感を示した。中国は、ロシアの極東地区と西シベリアの鉄道は、北方草原のシルクロードに造られるとしている。 また、キルギスタンでの中国、ロシア、モンゴル3首脳の会議では、中国のシルクロードとロシアの欧亜大陸橋とモンゴルの草原の道を互いに連接し、以下の3本の経済回廊を造ることが提起された。 すなわち、中国と中央アジアと西欧を結ぶ経済回廊、新欧亜大陸橋の経済回廊および中国、モンゴル、ロシアを結ぶ経済回廊である。 その際に重点とされたのは、道路輸送の利便性向上、路線開放の確保、貿易と投資の一本化、融資保障機構の設立、エネルギー保有国クラブとしての機能の発揮、構成国のエネルギー政策の調和と協力の強化であった。 韓国も、中国とともに経済の大発展期にあり、東北アジアにおける重要な隣国であり友好国であるとして、重視している。 中韓は、共に発展し、地域の平和的友好関係をもたらし、戦略的協力・友好関係が全面的に深まり、さらに成熟した段階に進んでいる。双方は、エネルギー、通信電子、情報関連機器の製造、環境、ハイテク、クリーンな低炭素技術などの新産業分野での協力に取り組もうとしている。 中韓は2015年に自由貿易協定に署名し、また韓国は初めて人民元を、ドルに次いで2番目の、韓国ウォンとの直接兌換可能な通貨とした。朴槿恵大統領は中国での中韓経済貿易フォーラムの席上、一帯一路は韓国の「欧亜提案(欧亜倡議)」に相当すると表明している。 中韓両国はアジアの重要国家、主要な世界の経済体でもあり、両国は自由貿易協定を発効し、地域経済の一体化及び欧亜提案と一帯一路の建設を連携して推進することになるとしている。 東南アジアでは、シンガポール、マレーシア、タイが重視されている。マレーシアは友好国であり、シンガポールは中国の西南のシルクロードの終着点であるが、同時に汎アジア鉄道と東南アジアの陸のシルクロードの新しい起点となり、海上のシルクロードの交流点となる。 タイの議会は中国の雲南に直接通ずる2本の高速鉄道に対する233億ドルの投資を批准した。なお、南シナ海での領土紛争を抱えるベトナム、フィリピンは外されている。 南アジアでは、パキスタンが、パキスタンと中国を結ぶ経済回廊の建設と海上のシルクロードの提案の重要部分を高く評価しているとし、最重視しているが、その具体的な内容は示されていない。 また、スリランカのラジャパクサ前大統領は、21世紀の海上シルクロードの提案に積極的に参加することを希望すると表明したことを紹介している。 習近平主席のインド訪問に対し、インドの国家安全保障顧問が、中印の大国関係は飛躍的発展を遂げたと述べている。中印双方は、国境問題を両国関係に影響させないことを提案した。 インドは特に、チベットが中国の領土の一部であることを重ねて表明し、中国、バングラデッシュ、ミャンマーとインドの経済回廊建設と、中国企業による鉄道建設への投資を求めることを明確に示したとしている。 ペルシア湾岸諸国では、サウジアラビアとクウェートが一帯一路に賛意を表明し、カタール訪問時には、一帯一路は、中国とカタール両国のエネルギー源とインフラの整備のための重要な機会となることが明確にされたとしている。 3 関係国の真意と反応からみた一帯一路の成否 以上は、いずれも相手国の良好な反応だけをとり上げており、相手国の真意は必ずしも反映されていない。 中でもインドは、AIIBでも約1割の出資比率を割り当てられたにもかかわらず、慎重な反応にとどまっている。同様にAIIBの出資比率で優遇されたロシアの反応も、自国の利益となることへの期待感の表明であり、必ずしも積極的に参加あるいは投資する意向は示していない。 冷戦時代から緊密な関係にあるインドとロシアは現在も、貿易、特にエネルギーや武器輸出面で緊密な協力関係が続いている。中国の一帯一路は、中央アジアへの中国の進出を重点に置いており、そのことは印露間を結んできた中央アジア正面にくさびを打ち込むことを意味している。 特に、ロシアにとって、ソ連時代一体であった、中央アジアのカザフ、キルギスなどの諸国は、武器輸出、資源確保、その他貿易面で、今でも自国の影響圏内にあると見ている国である。 これに対し、一帯一路では、中国は、自国の西部と連絡するインフラ整備を進め、これら中央アジア諸国に対する貿易や武器輸出を拡大することを最重視している。 ロシアにとって、一帯一路は自国の経済圏を侵食されることを意味しており、警戒感を強めているに違いない。ロシアと中央アジア諸国の間の経済共同体として、これまでは、2000年10月に調印された、ロシア、ベラルーシ及び中央アジアの4か国からなるユーラシア経済共同体(EAEC、EurAsEC)があった。 これに代わる新たな経済共同体として、ロシアは、自ら主導しカザフ、ベラルーシとともに、2014年5月に関税同盟、2015年1月1日には「ユーラシア経済連合」を発足させている。同連合には、アルメニア、キルギスも続いて加盟している。なお、同連合の発足とともに、EAECは自然解消された。 2015年7月の中露首脳会談では、ユーラシア経済連合とAIIBの連携についても話し合われた。なおロシアは同年3月にAIIB参加を表明している。ウクライナ問題で欧米から経済制裁を受けているロシアとしては、中国によるユーラシア経済連合承認を条件として、AIIBに参加し一帯一路を黙認するのもやむなしと判断したと見られる。 ユーラシア経済連合も、ウクライナのEU接近に対する自国経済圏の結束強化のみではなく、近年中国に急接近しているカザフに対する中国の進出への歯止めの意味合いも持っていると見られる。ウクライナ問題が沈静化すれば、中央アジアの経済支配権をめぐり、中露間で対立が再燃する可能性は高い。 インドも、バングラデッシュなどこれまで自国の影響下にあった周辺国への中国の進出に警戒心を強めている。このような点から見れば、印露両国が積極的に一帯一路に乗る可能性は少なく、両国の反応もそのことを示している。 中国の隣国モンゴルも、大統領が、「歴史的に見ても、モンゴルと中国の参加と協力は、シルクロード・プロジェクトにとり不可欠である」と述べ、鉄道の建設と天然ガスパイプライン敷設での協力を進める必要があるとされたものの、具体的な協力案件については言及されていない。 モンゴルは世界的な資源国であるが、今では中国にモンゴル国内の資源を大量に持ち出され、中国による経済支配が強まっている。これ以上、中国とのインフラ整備を進めて、中国への資源輸出依存の経済体質を強めることに、慎重になるのは当然であろう。 東南アジアでは、戦略的重要性を指摘されたシンガポール側が、一帯一路に積極的に賛同し、具体的案件が成立したとはされていない。スリランカでも、積極的であったマヒンダ・ラジャパクサ大統領(当時)は、親中政策を批判されて大統領選でシリセーナ前保健相に敗北している。 このように、全般的に中国の周辺国は一帯一路の呼びかけに対し、表面的に賛意は示しても、本音では警戒心をむしろ強めていると見られる。 それに対し、直接の利害関係を有しない遠国の、アラブ諸国や欧州諸国は、中国との経済協力関係強化に前向きである。そのことは、前述された成約案件の伸びなどからも明らかである。 一帯一路に積極的な諸国の中でも、韓国の対中接近ぶりは突出している。また欧州では、中国は特にドイツとの関係を重視している。中国が、韓国とドイツを重視していることは、AIIBへの出資比率で両国が約4%を割り当てられていることにも表れている。 ドイツはEU経済の中心的存在であり、中国は、一帯一路の目標となっている欧州との連携を探るうえで、ドイツとの協力関係強化がカギになると見ているのであろう。 ドイツとしても、車両などのEU外での重要な輸出市場として、中国を重視していると見られる。ただし、ドイツは一帯一路に賛意を表した国として列挙はされていない。代わってフランスが列挙されている。 ドイツは経済的には対中関係を重視しているが、政治的外交的には、中国の呼びかけに応じないとの姿勢を維持していると見られる。 韓国の対中接近には、中華帝国の冊封体制に組み込まれていた歴史と、中韓両国の近年の経済発展、日米の相対的な国力低下を踏まえた、対外戦略の転換が背景にあると見られる。 しかし、最近は中国経済も失速し、国内では事故やテロ、政争が相次ぐなど、不安定化している。このような状況を見れば、韓国の選択が誤りであった可能性も高まっている。 中国への警戒感を捨てないロシア、インド、東南アジア、モンゴルなどの諸国は、なおのこと、一帯一路の呼びかけには今後も慎重に対応すると見られる。直接の利害関係の薄い、ドイツやアラブ諸国も、中国の今後の国内情勢の推移、経済成長を見極めたうえで、対応を決めるであろう。 また、中央アジアや南アジアのインド周辺国は、米露印などの大国と中国との力関係の推移を見ながら、対応していくだろう。このように、習近平政権の呼びかける一帯一路の政策も、AIIBも思惑通り進む可能性はあまり期待できない考えるべきだろう。 4 一帯一路の具体的なルートとその戦略的な狙い 2015年3月に習近平主席は、「運命共同体に向かい進み、アジアの新未来を創る」ことを呼びかけた。その中で、シルクロードの経済帯として、その重点を、以下の3つに置くことを表明している。 (1)中国から中央アジア、ロシアを経て欧州に至るルート (2)中国から中央アジアを経て、ペルシア湾から地中海に至るルート (3)中国から東南アジア、南アジア、インド洋を通過するルート また、21世紀の海上のシルクロードの重点方向として、次の2つを挙げている。 (1)中国沿海部の港湾から南シナ海を経てインドに至る航路を欧州に延伸する航路 (2)中国沿海部の港湾から南シナ海を経て南太平洋に至る航路 陸上においては、国際的な幹線道路を利用して、 (1)新しいアジアと欧州を結ぶ大陸橋 (2)中国、モンゴル、ロシアを結ぶ経済回廊 (3)中国と中央アジアと西アジアを結ぶ経済回廊 (4)中国と中央アジアからインド半島を結ぶ経済回廊 を共同で建設することを呼びかけた。さらに、 (5)中国とパキスタンを結ぶ経済回廊 (6)バングラディシュ、中国、インド、ビルマを結ぶ経済回廊 の建設も呼びかけている。また海上では、重点港湾を、安全で高効率な輸送の大回廊の結節点として建設するとしている。 積極的に同じ沿線の諸国が共同し、共に自国の貿易区を建設し、国境を越えてネット事業などの新しい業態を発展させ、旅行者を増やすために協力することも呼びかけている。 さらに、以下の中国国内の重点も、省区と都市にわたり明確に位置が示された。 (1)西北6省区と新疆はシルクロードの経済帯の核心地区に (2)陝西省西安市は内陸型の改革開放の新高地になり (3)蘭州と西寧は開発と開放を進め (4)寧夏では内陸の開放型試験区建設を推進し (5)内モンゴルはロシアとモンゴルに通ずるという立地の優位性を発揮し (6)東北3省は、北への開放の重要な窓口となり、黒竜江省のロシアとの間の鉄道と区域内の鉄道網を完成し、黒竜江省、吉林省、遼寧省とロシアの極東地区との陸海路を連接しなければならないとしている。 (7)西南地区、広西は一帯一路につながった重要な門戸とし、大湄公河次区域を経済協力の新高地にし、南アジア、東南アジアに対する経済的影響力発散の中心となり、チベットは、国家的な国境貿易と旅行文化の協力を進めねばならない。重慶市を西部開発開放の重要拠点とし、成都、武漢、長沙、南昌、合肥などを内陸の開放型経済の高地とし、欧州に並ぶブランド品を作らねばならないとしている。 沿海部の5省市は、福建の21世紀の海のシルクロードの中核区建設を支持し、上海、天津、寧波・舟山、広州、深圳、湛江、汕頭、青島、烟台、大連、福州、厦門、泉州、海口、三亜等の沿海都市の港湾建設を強化しなければならない。海外同胞華僑の香港、澳門特別行政区の独特の優位性の発揮と、併せて台湾の一帯一路への参加を生み出すように適切に配慮しなければならないとしている。 以上が、一帯一路の中国国内との連接に明確に言及した発言であるが、その中で注意を要するのは、最後に挙げられた、沿海部の港湾の多くが、海軍の軍港と重なり、内陸の中心都市とされた地区も、少数民族の中心都市が多く、治安維持の要としての軍都、公安の拠点が多いことである。 対外的には、経済面を主にした協力を表に出しているが、国内的には、少数民族の土地を再開発して漢族と外資で支配し、治安を改善するとともに国境警備や辺境防衛の態勢を有利にしようとする意図が垣間見られる。 内陸部の都市についても、蘭州、西寧は新疆ウィグル正面、成都はチベット正面、武漢、長沙、南昌、合肥はいずれも長江流域の省都であるとともに、軍事的な戦略上の要衝でもある。長江流域からは台湾、チベット、雲南いずれの正面にも進出が容易である。東北3省は瀋陽などロシアと朝鮮半島に対する軍事的要衝でもある。 また、海上の一帯一路の出発点とも言える、上海、天津、寧波・舟山、青島、烟台、大連はいずれも東海艦隊や北海艦隊の軍港地帯でもあり、しかも在日米軍などから海空戦力による脅威を受けやすい戦略要域でもある。 東シナ海での一方的な日中中間線付近での海底ガス田の掘削施設の増設も、防空識別圏の設定も、これら港湾、都市群に対する日米の海空脅威に、できるだけ前方で対処するための措置ととることもできる。 広州、深圳、湛江、三亜、海口などにも、南海艦隊の根拠地となる海軍基地群が所在する。海のシルクロード構想では、これらの港湾の重点港湾としての機能強化をうたっており、軍港の機能もそれに伴い強化されるであろう。 またシーレーンの航行船舶を多国籍化することにより、中国沿岸部の脆弱なシーレーンへの攻撃に対する抑止力を間接的に強化しようとする狙いもあると見られる。 現在米中間で緊張が高まっている、中国による南シナ海の岩礁埋め立てと滑走路増設の動きも、海のシルクロードを近海防御戦略に基づき、米海軍や領有権を争っている東南アジア諸国の軍事的脅威から守るために、前方に戦略拠点を推進する動きの一環と見ることができる。 このように、東シナ海南シナ海での中国の力による現状変更の動きの背景には、中国の海のシルクロードの安全保障という、国家発展戦略がある。そのように見れば、今後も中国の力を背景とする両海空域支配拡大の動きはやまないと考えるべきだろう。 まとめ: むしろ紛争の種になりかねない一帯一路政策 前掲書『"一帯一路": グローバルな発展のための中国の論理』によれば、ロシア、モンゴル、アフガニスタン、韓国、シンガポール、タイ、マレーシア、インド、サウジアラビア、フランスなどが、賛意を示したとされ、「中国国内でも国際的にも巨大な反響を呼んだ」と自賛している。 しかし、中国が提示した各経済回廊も、見方を代えれば敵対関係になれば軍事的侵略路にもなりかねない。対中警戒心を崩していないと見られる、ロシア、インド、モンゴル、東南アジアなどの周辺国が、中国との開放的な政策を歓迎し、大規模な輸送網建設へのインフラ投資に簡単に乗り出すとは思われない。 国内でも、少数民族はむしろ新たな漢族による支配拡大の企みとして警戒を強めると見られる。 日本や東南アジア諸国に対する中国の海洋正面での力を背景とする現状変更の動きは、一帯一路という美名の陰に隠された戦略的意図に基づく、計算づくの行動と言えよう。 いずれ、大陸内部でも他の海洋正面でも、同様の動きが表面化し、地域国との摩擦を引き起こす可能性がある。混迷の度を深め不安定化する中国の内政の成り行きとともに、今後注目される点である。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44691 |