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高齢化による空き家の増加 住宅価格、「崩壊」の可能性
移民など政策対応を
清水千弘 シンガポール国立大学教授
空き家の増殖が止まらない。2013年住宅・土地統計調査によると、全国の空き家は820万戸と総住宅数に占める割合で13.5%にまで達した。空き家の増加は、いうまでもなく住宅のストックと、その需要者となる人口・世帯数とのミスマッチによって発生する。今後、人口減少が進む中で、ミスマッチは一層大きくなっていく。
このような使い手がいなくなってしまった住宅は、社会の資源配分の最適性から考えれば取り壊され、新しい用途へと転換されていくことが望ましい。しかし、都市の成長が鈍化している中では、そのような建物の更新はできなくなっている。一方、所有者にとっては、空き家は放置しておいた方が固定資産税・相続税なども含めてメリットが大きい。そうすると、空き家は構造的に「ゾンビ」のようにどんどん増殖していってしまうのである。
そのような土地利用が固定化されると、都市全体で見たときの土地という資源の最適利用を妨げるだけでなく、空き家は管理が十分でないことが多いため、周辺地域に悪影響を及ぼすという「負の外部性」をもたらす。そうすると、都市・国の成長をおおきく低下させてしまう。
それでは、空き家というゾンビは今後、どのようになっていくのであろうか。家計にとって最大な資産である住宅の価格はどのように推移していくことが予想されるのであろうか。
今後のわが国の人口構成を考えると、人口減少だけでなく、高齢化が一気に進む。高齢化は、わが国だけでなく多くの先進主要国がともに抱える問題であり、中長期的には日本以外のアジア諸国も直面する。そのようななかで、筆者が所属するシンガポール国立大学不動産研究センターでは、高齢化と住宅市場との関係を明らかにするためのプロジェクトが進められている。ここでは、研究代表者である不動産研究センター長のヨンヘン・デン教授らとの研究成果の一部を紹介する。
同プロジェクトのメンバーである西村清彦・東京大学教授らとの共同研究の暫定的な結果によると、住宅価格の長期変動を説明するモデルでは、1人当たり国内総生産(GDP)として測定された生産性の変化、総人口、そして老齢人口依存比率(生産年齢人口に対する65歳以上人口)が統計的にも有意な変数として推計された。
これは日本の市町村を単位にしたローカルモデルでも、日本を含む21カ国・地域のグローバルモデルでも変わらない。つまり長期的には、1人当たりのGDPが上昇すれば住宅価格は上昇してきたし、人口の増加もまた住宅価格を押し上げるように作用してきた。一方、老齢人口依存比率は、その上昇が住宅価格を押し下げてきた。そうすると、将来の市町村または国の総人口と老齢人口依存比率がわかれば、将来の住宅価格に与えるインパクトをシミュレーションすることができる。
まず国・地域別のシミュレーション結果を見よう。2010〜40年の30年間で、現在の社会制度や国際的な人口移動の速度が大きく変化しないことを想定すると、総人口の減少と老齢人口依存比率の上昇による住宅価格の変動率は、日本でマイナス46%となった。アジアに注目すれば、中国・韓国・タイは日本よりも下落率が大きく、中国でマイナス51%、韓国でマイナス54%、タイに至ってはマイナス60%である。香港は日本と同じ程度でマイナス47%、シンガポールもマイナス27%という結果になる。
ここでその原因について人口要因をみると、中国、韓国、香港、シンガポールでは、いずれも40年まで人口は増加していく。しかし、老齢人口依存比率が一気に大きくなっていくことによって価格下落がもたらされることが予想されたのである。
このような事情は欧州でも同様であり、英国・フランスでは人口は増加するものの、老齢人口依存比率が上昇していくため、40年時点でそれぞれマイナス9%、マイナス15%と下落する。欧州経済の中心であるドイツに至っては、わが国同様に、人口減少と老齢人口依存比率の上昇が同時に進むために、マイナス44%の下落が予想される。つまり、高齢化社会の進展は、世界中でアセット・メルトダウン(資産価格の崩壊)をもたらす可能性を示唆している。
ここでわが国の問題に注目しよう。市町村別の人口予測値を用いて、同様のシミュレーションを実施した。総人口は10年の約1.26億人から40年には約1.07億人まで、約15%減少する。年齢別の内訳を見ると、20〜64歳人口は約27%減少する一方、65歳以上人口は約33%の増加が見込まれ、老齢人口依存比率は10年に0.39であったものが40年には0.72まで上昇する。
そうすると、10年時点の価格を1とした場合、全体の約半分の地域で、40年時点で同約0.6以下になる(約40%の価格下落)との結果が示された。
それでは、このような問題を避けるためには、どのような政策が考えられるのであろうか。本研究プロジェクトでは、3つの扉を開く可能性をシミュレーションした。
第一の扉が、移民の受け入れである。移民受け入れは多くの先進主要国でとられてきた政策である。10年の住宅価格を維持するよう生産年齢に限定して移民を受け入れる政策をとった場合には、全国合計で40年までに約4000万人を受け入れる必要がある。これは、1年当たり約130万人の受け入れが必要となることを意味する。
第二、第三の扉が、定年および年金の支給年齢の引き上げと、女性の社会進出の促進である。定年を65歳から70〜75歳まで引き上げることで、実質的な老齢人口依存比率を低下させることができる。また、生産年齢人口の中でも女性の就業率が低い状況を考えれば、それを高めることで実質的な老齢人口依存比率を低下させることができる。
シミュレーション結果を見ると、女性の就業率を男性並みに高めたとしても、その効果は定年を70歳まで引き上げる効果よりも小さい。また、10年の住宅価格を維持するには70歳までの定年延長では不十分であり、75歳まで引き上げる必要がある。
家計において最も大きな資産は、住宅であるといっても過言ではない。その資産が空き家化し、アセット・メルトダウンにさらされてしまうと、日本経済に甚大な影響をもたらす。それを避けるためには、3つの扉を同時に開いていくことが必要である。さらには、住宅の再資産化を図るような制度インフラを整える必要があると考える。
多くの住宅資産の保有が高齢者に集中していることを考えれば、それを若い世代へと円滑に移転させていくことで市場が活性化される。そのような資産移転が進む中では、リノベーション(改修)などを通じて資産は再生される。
さらに、その資産を金銭化する金融システムを構築していくことも検討しなければならない。住宅を担保に老後資金などを融資するリバースモーゲージの積極的な活用や、持ち家の賃貸化を促進させることで所有と利用を分離していくような仕組みも必要とされる。住宅資産を消滅させるのではなく、資産として再生させるような仕組みを整えていくことが急務なのである。
<ポイント>
○総人口と老齢人口比率は住宅価格に影響大
○日本の住宅価格は30年間で46%下落の試算
○中国や韓国も老齢人口比率上昇で価格下落
しみず・ちひろ 67年生まれ。東大博士(環境学)。専門は経済統計学、不動産経済学
[日経新聞9月1日朝刊P.28]
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