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G20が認めた「危機の中国経済」日本経済を守るためには「消費増税延期」しかない!
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45145
2015年09月07日(月) 高橋 洋一「ニュースの深層」 現代ビジネス
■中国経済危機はどこまで深刻か
5日に閉幕したG20財務相・中央銀行総裁会議は、中国に焦点が当たった。名指しこそしていないが、共同声明のポイントは次の部分にある。
<我々は、負の波及効果を最小化し、不確実性を緩和し、透明性を向上させるために、特に金融政策その他の主要な政策決定を行うにあたり、我々の行動を注意深く測定し、明確にコミュニケーションを行う>
筆者は、「我々の行動を注意深く測定」に着目している。ある意味で、これは中国統計の杜撰さを指摘しているからだ。
8月24日付けの本コラム(衝撃!中国経済はすでに「マイナス成長」に入っている?データが語る「第二のリーマン・ショック」 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44888)で書いたように、中国ショックの本質は、中国の統計の信頼性のなさである。
GDP統計では、支出面アプローチでGDPを消費、投資等に分解する。中国国家統計局のデータにももちろんそれがあるが、OECD等の国際機関では掲載されていない。おそらく統計のプロならば、中国の統計のいい加減さを知っているので、使っていないのだろう。
それを承知の上で、あえて中国国家統計局のデータを使うと、中国経済では、先進国では当たり前の「民間消費主導」になっていないことがわかる。
先進国であれば、GDPの6割程度は民間消費であるが、中国では4割にも達していない。筆者には、この点にも、中国の「構造問題」があるように思える。
筆者の愛読書の一つに、ミルトン・フリードマン『資本主義と自由』(1962年)がある。ちなみに、マンキュー教授もテキスト以外で推薦する一冊といえば、この本であるといっていた。
同書では、政治的自由と経済的な自由は密接な関係があって、競争的な資本主義がそれらを実現させると書かれている。
これを中国に当てはめると、一党独裁の政治体制では、資本主義の経済的な自由は達成できないことになる。この議論が正しければ、いつまでたっても、GDPのなかで民間消費が大きな割合を占めることはないだろう。
中国経済がいびつな構造をしているのは、中国の政治体制が一党独裁のままであれば是正できない「構造問題」というわけだ。
■財務省に操られた「麻生発言」
中国では消費が少ない分、過剰な投資になるわけだが、大きすぎる投資は経済を不安定にする。つまり、バブル崩壊だ。
G20でも中国のバブルが問題になっていることが認められたが、中国経済の正常化は、政治体制にまでメスを入れないと達成できないというフリードマンの50年以上前の卓見はあたると、筆者は思っている。
というわけで、中国問題はかなり用心しなくてはいけない。
そして、日本経済である。筆者は、2014年度の経済成長をマジメに分析してきた。その結果、中国ショックがあろうがなかろうが、予定通りに2017年4月から消費再増税を行えば、2017年度の経済成長はマイナスになると試算している。
ところが、内閣府の試算では、2017年4月から消費再増税しても「経済成長は落ちない」という。しかし、2014年4月からの消費増税で失敗したときも同じセリフを吐いていた。その上に中国ショックが重なれば、日本経済はかなり悲惨なことになるだろう。
そうした状況にもかかわらず、政府からは、別の声が聞こえてくる。G20に出席していた麻生財務相は、外遊先のトルコで「軽減税率は面倒くさい。給付金で対応」と発言。これは明らかに財務省から出てきたものだ。
このように海外から発信するという手法は、それまでの議論をひっくり返すときにはしばしば見られる方法だ。早速、与党協議をしていた自民・公明両党の議員から、寝耳に水という意見が出ている。
軽減税率ではなく給付金になると、価格上の優位性を期待して軽減税率に賛成し、そのために消費増税にも賛成していた新聞業界も、メリットがなくなる。だから、大騒ぎをしているようだ。
これまで筆者は、新聞業界が財務省からの天下りを受け、消費増税の軽減税率を主張してまで、消費増税に賛成してきたことを批判してきた(例えば、2011年1月24日付け本コラム「消費税賛成の裏側に「大新聞の非競争的体質」あり」 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/1961 など)。
目先だけを考えると、新聞が軽減税率の対象ではなくなると、これまでの財務省からの天下りがムダになることになる。新聞社にとっては大きな痛手だが、自業自得だと思う。さらに新聞社の経営問題にも発展するだろうから、これまでのマスコミの消費増税への賛成スタンスが変わるのではないか、と密かに期待している。
しかし、その一方で、なぜ財務省がこうした案を出してきたかを冷静に分析する必要もある
。
■「消費増税はマスト」が一番問題
外遊先で麻生財務相が話したというだけで詳細はわからないが、次の通りと思っている。
1)2017年4月からの消費増税はマスト。
2)その際、「酒類を除く飲食料品」の消費増税分に相当する給付金を事後的に払う。
3)給付金の事後支払の際には、マイナンバーを利用して個人の課税データを参考にして推計する。
まず、経済セオリーとしては、軽減税率はそもそも豊かな者へも恩恵があり、弱者対策に特化できない。その上、実務上は軽減税率の対象と非対象の区分けが難しいし、税務官僚に裁量の余地が大きすぎるので、弱者への負担軽減策としては、給付金のほうが望ましい。
であれば、2)と3)については、いい考え方であるといえる。問題は、1)である。
そもそも、2017年4月に消費再増税を実施すれば、経済成長は再びマイナスになりうる。さらに、中国ショックもかなりの確度でありえることを見越せば、消費再増税を回避することを考えるべきだろう。
ということは、1)を除けばいい。つまり、消費増税をせずに、2017年4月から給付金制度=2)と3)だけを実施すればいい。経済政策としては、低所得層に対して、3000〜5000億円の減税ということにある。
この程度の財源は、景気の落ち込みを防げば捻出できる程度だ。なにより、2014年度の消費増税の失敗を再び犯すことはあるまい。
とりあえず2)と3)だけやるのが最低ラインであるが、さらに効果的な政策を加えるとすれば、消費税について、現行の帳簿方式からインボイス方式に変更すべきである(編集部注:業者や利用者が、いったいいくら国に消費税を納めればよいかを明確にするシステム)。
消費税を導入している国で、日本だけが帳簿方式であり、他の国ではインボイス方式になっていることを財務省はよく知っているはずだ。しかも、現行の帳簿方式は、中小事業者にとってみなし仕入率を採用できるので、「益税」が発生して、事実上補助金になっている。
これは、その分、消費者の払った諸費税が国ではなく中小事業者の懐に入っているという意味で、増税に苦しむ消費者とその一部をもらえて儲ける事業者の間で不公平である。他の国では、インボイス方式なので、このような不合理はない。
■やっぱり増税は時期尚早
インボイス方式に変更すれば、益税の部分は増収になるはずだ。しかも、インボイス方式は、消費脱税がやりにくいので、この意味でも増収になる。それを給付金の財源にすればいいだけだ。
ここまで来ると、やはり歳入庁にも言及したい。社会保険料は、法的性格は税と同じであるので、社会保険料と税は同じ機関で徴収するのが、行革にもなるし、徴収効率が増すので、世界の常識になっている。これが「歳入庁」だ。
海外では、米国、カナダ、アイルランド、イギリス、オランダ、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ハンガリー、アイスランド、ノルウェーが、歳入庁で税と社会保険料の徴収の一元化を行っている。東ヨーロッパの国々でも傾向は同じで、歳入庁による徴収一元化は世界の潮流と言ってよい。
しかし、この常識は、財務省には通用しない。国税庁の人事が財務省の裁量で自由にできなくなるからだ。
かつて、筆者が大蔵省にいたとき、1998年ごろのイギリスで、従来の社会保険料徴収機関と国税徴収機関がバラバラであったのが、まさに「歳入庁」として統合され、あっという間に作られた。この手法があまりに見事だったので、その経緯を当時の大蔵省にレポートしたら、その事実を口外しないように言われて驚いたものだ。
社会保険料の徴収漏れは巨額で、ある試算では年間10兆円にもなるという。もちろん、政府はこの試算を否定するが、社会保険料と国税の徴収が二本立てでいいはずない。何もやらずに否定だけは懸命なのはおかしい。
増税前にやるべきことは多い。それをやらずに、増税は時期尚早である。
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