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相次ぐ老人ホームの倒産 〜突然の退去通知、そのとき何が起きるか? 「要介護600万人」時代の大問題【前編】
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45006
2015年09月06日(日) 週刊現代 :現代ビジネス
人生の最期を、心穏やかに過ごす場所。「終の棲家」であるはずの老人ホームはそんな場所だと思っていた。だがいま突然、「倒産しました。退去願います」と無情の通知を受ける人が続出している。
■過去最多の倒産ペース
「そりゃあ、驚きました。親父を施設に預けてたったの1週間で、ケアマネジャー(要介護・要支援の認定を受けた人に対して、ケアプランの提案などを行う専門職)から電話があって、『お父さまが入居された老人ホームが、急に施設を閉鎖すると言ってきまして』という。
愕然として、どういうことかと訊ねたら、ケアマネも泣きそうな声で『倒産だそうです』と言うんです」
埼玉県在住の大崎和弘さん(54歳・仮名)は、こう話す。
厚生労働省が発表した最新の「介護保険事業状況報告」によれば、要介護・要支援と認定された65歳以上の人は、594万9087人と、600万人近くに達している(今年5月末時点)。65歳以上の人口は約3300万人だから、この世代の約5人に1人が、介護や日常生活での手助けが必要な状態だと言える。
一方、核家族化が進み、65歳以上で独り暮らしという人も少なくない。家族だけでは介護の手が足りず、さまざまな高齢者向け施設、いわゆる「老人ホーム」を、終の棲家として選択する人も多い。
ところがいま、そうした高齢者施設を運営する事業者が、過去に例のないペースで続々と破綻しているのだ。
全国の介護事業者の状況を調査している東京商工リサーチ情報本部の関雅史課長は、こう話す。
「今年上半期の老人福祉・介護事業者の倒産件数は、前年同期比46・4%増の41件と急増。これは介護保険法が施行された'00年以降、最多の倒産ペースです。
今年の特徴としては、負債総額5000万円未満の倒産が前年同期比87%増と急増している。小規模な介護事業者が経営に行き詰まり、次々と倒産に至っているのです」
■大手でさえも行き詰まる
もちろん、大手の経営も盤石というわけではない。
外食産業から参入し、有料老人ホームの大手となった「ワタミの介護」。入居者減で収支が悪化し、8月5日には米経済通信社のブルームバーグが、同社が介護事業の売却・撤退を検討していると報じた。同社はこれを否定しているが、経営が厳しい現実には変わりない。
『有料老人ホーム 大倒産時代を回避せよ』などの著書がある高齢者住宅経営コンサルタントの濱田孝一氏は、こう話す。
「'00年に介護保険制度がスタートしてから、『今後、高齢者は増えるので介護は儲かる』という安易な発想で、不動産業者や地主、ひと山当てようというベンチャー企業など、介護とは縁のない様々な業種が大挙参入し、高齢者住宅の建設ラッシュが起きました。
しかし、こうした業者には介護事業の知識やノウハウがない。結果、質の高い職員が集まらず、それを見ている地域のケアマネも入居を勧めないので、入居率が低下する。
そこでさらにスタッフの人件費を圧縮しようとするので、職員が次々と辞めていく。すると、評判が落ちてさらに入居者が減少する。このような悪循環に陥り、倒産に至るケースが多いのです」
事業者側の事情はともかく、入居者にとってみれば、自宅を売却してその資金を入居費用に充てているケースも少なくない。突然、「潰れます」と宣言されても、戻る家もなければ、手持ちのカネも残っていない。いったいどうすればよいのか。
■夫婦が別々のホームに転居
冒頭の大崎さんのケースを追ってみよう。従業員数30人ほどの建設会社で現場監督として働く大崎さん。ようやく子育てが終わったと思った5年前、独り暮らしだった父親(現在81歳)が、自転車で転倒。大腿骨などを骨折して車椅子生活となり、入浴も難しい状況になってしまった。
「子供二人を大学までやって、蓄えはほとんどなかった。自分たちの老後も心配なのに、いま私が会社を辞めて、東北の実家に戻るというのは難しい。それで実家のある市の包括支援センターでケアマネを紹介してもらい、相談の上、市内の介護付き有料老人ホームに親父を入れることにした。入居一時金300万円は実家の土地を担保に地銀から借りました」(大崎さん)
だが、入居からたったの1週間で、その施設の倒産・閉鎖が通告された。
父親はいきなり追い出されることになったのか。大崎さんは言う。
「知らせを受けたケアマネがまず施設に飛んで行って説明を求めたのですが、施設長からは退去は移る先が決まってからでいいと言われたという。
けれどもケアマネによると、その日は施設内に、普段の半分しか職員がいなかったらしい。彼らもいきなり『閉鎖』と言われて憤慨し、帰ってしまったそうです。しかし、一番の被害者は入居者でしょう。そんな施設に親父を長居させられない」
ケアマネが奔走し、数日後に転居先を確保できたものの、サービス内容や自己負担額は大きく変わる可能性があると告げられた。大崎さんは話す。
「移った先はサービス付き高齢者住宅(サ高住)というもの。有料老人ホームと違って、普通のマンションの部屋にヘルパーが来てくれるような仕組みです。
ケアマネからは、『前の施設では、看護も介護も内勤職員がしてくれたけれども、今度は訪問介護を受ける形になる。要介護度に応じて決まるサービス利用枠を超えた分は満額自己負担になってしまうかもしれない』と説明されました」
介護問題に詳しいNPO法人「二十四の瞳」の山崎宏代表は、こう話す。
「ケアプランを作成した事業者には、引き継ぎ先を確保する責任があります。倒産等により事業閉鎖を余儀なくされる場合でも、利用者の生活を維持すべく、きちんと引き継ぎ先を確保するよう厚労省も指導しています。契約を結んだ顧客を無責任に放り出すことは許されない。もちろん、すべての人が希望通りのケアを受けられる施設に移れるとは限りませんが……」
「老人ホーム」が倒産しても、本来は入居者が路頭に迷うことはない。だが前出の濱田氏は、こんなケースもあると話す。
「'07年、秋田県仙北市の介護付き有料老人ホーム『花あかり角館』が倒産しました。デタラメな事業計画で経営に行き詰まり、職員の給料も不払いが続いて大量退職を招いた。32人の入居者に満足な食事も出せない始末で閉鎖。
市は帰る家のない人を緊急避難的に特別養護老人ホームで引き受けるなどした。結果、もともと特養の入居待ちをしていた人が後回しにされてしまっただけでなく、仲良く夫婦で入居していた人が、バラバラの施設に移らざるを得なかったケースもあると言います」
また今年6月、群馬県前橋市の介護事業者ヴィータが経営破綻。同社は、デイサービス施設や訪問介護ステーションを併設したケアマンションを展開していた。
こうした住宅では、部屋の利用権しかない有料老人ホームと異なり、入居者は居住権も主張でき、比較的強い立場にあるとされる。
ところが、同社の倒産で、入居者はすみやかな退去を余儀なくされた。
なぜ、そんな事態に陥ったのか。前橋市介護高齢課は、こう説明する。
「ヴィータの物件はマンションと言っても、実態は自治体に届け出が必要な老人ホームだったと理解しています。しかし同社からの届け出はありませんでした。自治体としては届け出があって初めて指導などもできるわけで、市としては入居者の方がどうなったか把握していません。出先機関が個別に相談を受けて新しい入居先を探したことはあったかもしれません」
別の不安もある。斡旋される移転先が、どこになるかだ。「提案された母の移転先が、縁もゆかりもない関西の施設で驚いた」(練馬区在住・55歳男性)という証言もある。
あるケアマネはこう明かす。
「それは一長一短です。地縁のない遠方を提案されれば不審に思うでしょうが、実際は地方ほど入居にかかる費用は安く、居室も広くなる。『少しでも安く』というご希望が強ければ、遠くの施設を提案するケアマネは多いと思います」
■こんなはずでは…
幸いにして移転先がスムーズに見つかっても、引っ越しの費用など経費が補償されるかは契約次第。
実際、「移転する際に新しい施設の車で送迎を頼もうと思ったら、介護保険の点数をかなり引かれると言われ、夫が急遽、仕事を休んで自家用車で送ることになった」(世田谷区在住・53歳女性)という例も。やはり、多くの負担が家族や本人にかぶさってくるのだ。
ではもし、入居時に一時金が必要な「老人ホーム」が倒産したら、払ったカネは返ってくるのか。
前出の山崎氏はこう話す。
「'06年4月以降に開設の届け出をした業者に対しては、厚労省が倒産時の保全措置を義務付けています。これは、老人ホームが倒産して入居一時金の未償却部分(入居期間が長くなるほど減っていく)を返還できなくなった場合でも、銀行や損害保険会社、公益社団法人全国有料老人ホーム協会等がその一部を保証する仕組み。
ただ、義務化以前に届け出をした事業者では、保全措置を取っていないところもあります。契約前に『もし倒産したら、どうなりますか』と訊ね、契約書を確認する必要があるでしょう」
ちなみに、協会に加盟せずに銀行などによる保全だけを行っている施設もあるが、民間の保全制度では、入居から年月が経ち、入居一時金が償却されてしまう(多くの場合、5年で完全償却)と戻ってくるカネはゼロになる場合が多い。一方、協会による保全は、入居している限り、500万円を上限に支払われる。
ただ、いずれにしても保全額には上限がある。それ以上の入居一時金を払った場合、差額については涙を飲むしかない。
いまや、いつ起きてもおかしくない老人ホーム倒産。後編では、危ない施設を見分けるポイントを紹介しよう。
「週刊現代」2015年9月5日号より
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