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マイナンバー制はプライバシー侵害、はデタラメ?国民に実害なくメリット大
http://biz-journal.jp/2015/09/post_11396.html
2015.09.04 文=山岸純/弁護士法人AVANCE LEGAL GROUP・パートナー弁護士 Business Journal
来年1月から運用が始まるマイナンバー制度について8月28日、弁護士や市民でつくるグループが違憲であるとして、今年12月をめどに東京や大阪など全国7カ所の裁判所で一斉に訴訟提起する方針を固めた、とのニュースがありました。
主張によると、「マイナンバーはプライバシー権を保障した憲法に違反する」とのことのようです。
このグループの中心メンバーとされる弁護士の水永誠二氏は、「年金情報が漏えいした問題が起きたように、情報が絶対に守られるとは言い切れない。いったん止めて考え直すべきで、問題提起していきたい」と話しているとのことです。
今年10月からマイナンバーの通知が始まるのを控え、現在あちこちでマイナンバーに関するセミナーを開催している筆者は、このニュースにとても違和感を覚えたので、議論のための問題提起として、このトピックを掘り下げていきたいと思います。
●マイナンバー制度の理解とリスク
マイナンバー制度については、これまで当サイト内でも何度か取り上げています(4月13日付『マイナンバーで大混乱必至?不正利用や情報漏洩は厳罰、「手間がかかるシステム」と批判』等)ので、ここでは詳しい説明は割愛しますが、要するに日本に住民票がある日本人や外国籍の長期滞在者などに12桁のナンバーを割り当て、これを税金の申告や年金の手続きを行う際などに提出させ、これにより行政サービスを円滑に進めようというものです。
このマイナンバー制度については、政府広報やメディアなどがさまざまな報道をしています。まとめてみると、これまで税務署や市役所、年金事務所といった国や地方公共団体の機関が独自に管理・運用していた納税記録や家族構成、年金の積立記録といった個人情報について12桁の番号を“アクセスキー”として名寄せができるようにするのです。それにより、行政は仕事を効率化でき、国民個人は必要な行政サービスを楽に受けられるようになります。
例えば、あるA区役所が、最近B区からA区に引っ越してきたXさんに児童手当を支給する手続きのケース。これまでは、児童手当が減額される所得制限に該当するかどうかを判断するため、Xさんにいちいち「所得を証明する書類」を提出させていましたが、これからはB区に「12桁の番号」を使って問い合わせるだけで、この作業が済むことになります(注:実際の手続きは異なる可能性があります)。
A区にとっては手続きが円滑、迅速になりますし、Xさんにとっては書類を集める手間が省けます。
なんだかとても便利な制度に思えますが、水永氏や日本弁護士連合会(日弁連)などは、早くからこのマイナンバーの問題点を指摘し批判してきたようです。
具体的には、日弁連は、
(1)目的が不明確
(2)プライバシーの危機
(3)費用対効果も不明
として批判しており、水永氏も「行政の分野ごとに個人番号を設定して個人データを管理しておき、分野を超えて個人データが必要な時は、各分野の個人番号の対応表に基づいて名寄せをすれば足りる」などの批判をしています(日本弁護士連合会「自由と正義2014年9月号40頁」参照)。
しかしながら、なかなか国会では取り上げてもらえず、問題点も解決しなかったとのことです。
●プライバシー権とは何か
ところで今回、前述の弁護士や市民でつくるグループは「マイナンバーはプライバシー権を保障した憲法に違反する」ことを理由に裁判を始めるようですが、そもそもプライバシー権とはどのようなものか解説します。
憲法は基本的人権として、表現の自由、宗教の自由、職業選択の自由などを保障していますが、高度に発展した現代社会では、憲法制定時には想定していなかった人権も発生・派生してきており、当然、これらの新しい人権も保障されるべきと考えられています。
近年、この新しい人権のひとつとしてプライバシー権が議論されているのですが、これは三島由紀夫の小説『宴のあと』が実在の政治家をモデルとして描いていたことが原因で裁判になった際、東京地方裁判所が「私生活をみだりに明かされない権利」と定義したことに始まります。
その後、別の事件で東京高等裁判所が「他人の保有する個人の情報が真実に反して不当であって、その程度が社会的受忍限度を超え、そのため個人が損害を被るときは、その個人は名誉権ないし人格権に基づき当該他人に対し不真実、不当な情報の訂正ないし抹消を請求しうる場合がある」との見解を示し、今では「国家等が保有する自己の情報について訂正・削除を求めたり、コントロールすることができる権利(自己情報コントロール権)」として理解されています。
●マイナンバーはプライバシー権を侵害するのか
結論からいうと、マイナンバーはプライバシー権を侵害しないと思います。
前述のとおり、マイナンバーは国や地方公共団体の機関がすでに持っている個人の納税記録、家族構成、年金の積立記録といった情報を、行政機関がマイナンバーという“アクセスキー”を使って利用しやすくする、という制度です。
これらの納税記録や家族構成などの情報は、行政機関がその業務を遂行するため、また児童手当や年金の支給といった行政サービスを提供するために適法に取得し、管理・運用しているものですし、万が一、これらの情報が間違っていた場合は、「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」という法律に基づいて訂正を求めることもできます。
それゆえ、マイナンバーによって、「自分の知らないところで、とある行政機関が自分の個人情報を持つことになる」ということはあっても、訂正や削除を求める権利が阻害されるわけではないので、プライバシー権を「国家等が保有する自己の情報について訂正・削除を求めたり、コントロールすることができる権利」と理解する限り、侵害されることにはならないと考えられます。
もちろん、「自分の知らないところで、ある行政機関が自分の個人情報を持つことになる」というのは、「気持ちのいいものではない」と考える方もいるかもしれません。
しかし、行政機関が個人情報を取得するのは、趣味でやっているわけではなく、あくまで行政サービスを円滑に提供することを目的としているわけですから、「A行政機関」から「B行政機関」に個人情報が共有されても実害が生じるとは思えません。
●考察
結局のところ、前述の市民グループは昨今、有名企業や行政機関からの個人情報漏えい事件などが相次いでいる中、マイナンバー制度が個人情報漏えいの可能性を孕むことを慮って「マイナンバーは違憲」と主張しているのだと思われます。
しかし、このようなことは国会において国民の代表が議論すべきことであり、具体的事件もないのに裁判手続きを利用して「マイナンバーは違憲」という自らの主張を投げかけようというのは、方法論として問題がないとはいえないと思います。
山岸純/弁護士法人AVANCE LEGAL GROUP・パートナー弁護士
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