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米国は利上げを英断するのか。利上げ後、日本の個人投資家にはどのような影響が出るのか(写真 : STOCKKING / PIXTA)
アベノミクス「2018年賞味期限説」は本当か 中国株安で米国利上げはどうなる
http://toyokeizai.net/articles/-/82436
2015年09月02日 玉川 陽介 :コアプラス・アンド・アーキテクチャーズ株式会社代表取締役 東洋経済
9月とも12月とも噂されていた米国の利上げ。そのシナリオは中国株の大幅な下落で再び不透明感を増すこととなりました。米国は利上げを英断するのか。利上げ後、日本の個人投資家にはどのような影響が出るのか。
中国経済の不安定化と米国利上げは日本経済に大きな悪影響を与えると説明するアナリストも増えてきました。しかし、個人投資家として国内外で投資を行っている『勝ち続ける個人投資家のニュースの読み方』(KADOKAWA)の著者・玉川陽介氏は、米国が利上げをしても、アベノミクスによる日本経済の上昇基調が続く理由は数多くあると言います。
■米国の利上げは、日本にとってむしろ前向きなテーマ
米国の利上げがここのところ取りざたされています。しかし結論的には、日本の個人投資家が受ける影響は少ないはずです。
そもそも、米国は政策的にも、市場にサプライズを与えずに平穏に利上げすることを当初から意識していたからです。その方針に従えば、9月の時点で中国経済の混乱に収束が見られなければ、このタイミングでの利上げは行われないはずです。
中国株の下落は世界同時株安を引き起こしましたが、その後の急回復を見るかぎり、人々の投資意欲に衰えは感じられません。年内に中国経済が落ち着きを取り戻し、満を持して12月に利上げというのが順当なシナリオでしょう。
利上げが市場や実体経済に悪影響を与え、再び不景気に逆戻りとなるのでは本末転倒で、利上げどころではなくなります。そのため、米国は「適切な」利上げ時期の見極めに時間を費やしたと言って間違いないでしょう。今回は、「さて、そろそろ」と誰もが思った矢先に中国株が大幅下落しましたので間の悪さは否めません。しかし、多少、時期が遅れるというだけで米国利上げの基本シナリオに変化はないといえるでしょう。
短期的に、利上げが市場の過熱を落ち着かせる効果はあるかもしれません。しかし、利上げは米国経済が無事に不況を脱し、正常な経済環境で再び前に歩み始める第一歩という認識が広まれば、景気回復に裏付けされた「実態を伴う」米株高も視野に入るでしょう。
また、米国の利上げは円安の要因でもあります。米株高と円安は日本の株価にもっとも影響が大きい要素であるため、長い目で見れば米国利上げは、日本株にとって前向きなテーマでもあるはずなのです。
さらに、日本には特有の景気加速要因もあり、今では世界の市場で最も大化けが期待できる市場だといっても過言ではないでしょう。「失われた20年」により溜まった負のエネルギーが解き放たれ、急回復を遂げるシナリオには世界の投資家も注目しているのです。
■アベノミクスの賞味期限2018年説は本当か
しかし、多くの個人投資家は「アベノミクス相場の賞味期限はいつ切れる?東京五輪より少し手前の2018年あたりではないか」と口をそろえて弱気な見通しを述べています。
筆者は、このような弱気見通しについては、投資家にもデフレマインドが定着してしまった結果だと見ています。足元を見れば、日本郵政グループや多くの公的基金による日本株買い、企業業績の好転により海外からも流入を続ける投資マネー、東京五輪と円安の相乗効果による訪日外国人の増加など、いくつもの強い下支えがあるのです。
さらに、株式投資家からは見逃されがちですが、不動産市場の回復にも目を向けたいところです。震災以降、上昇を続ける不動産市況は、デフレマインドの定着した日本人には「過熱感」すら感じられるかもしれません。それでも、実際にはシンガポールや香港、台湾に比べれば、まだまだ安く、値上がり余地があるといわれているのです。
それに加えて、今年に入ってからは、不動産に対する銀行の融資姿勢が緩和されたことにも注目しています。融資姿勢の緩和は不動産購入者を増やし、価格上昇に直結するためです。
2013年4月の量的緩和開始から2年経ち、ようやく銀行も「アベノミクスに乗ってきた」といえるでしょう。電光石火の金融市場とは異なり、銀行、不動産のような旧来型の業種では、人々のマインドはすぐに変わりませんでしたが、今ようやくその重い腰を上げたのです。
「近所までは来たが、うちの家計には届いていないアベノミクス」
そう考えるのは時期尚早です。実体経済にも明るい兆しは見えてきています。新卒の就職状況、転職支援企業など求人市場は活況です。アベノミクスの最難関ともいえる給与上昇も現実味を帯びてきているといえるでしょう。
アベノミクスのもともとの目論見から考えても、2〜3年で末端の零細企業や一般家計まで含めて、急激に好景気が浸透する設計ではないことも考慮したいところです。企業業績の回復、資産インフレが一般市民のサイフにも反映されるのは最後ですが、今のところそのシナリオは狂っていません。
アベノミクスは、まだ、1本目の矢、金融政策が的中したばかりです。これから東京五輪に向けて2本目の矢、財政出動が本格化するでしょう。
よくも悪くも、日本の政策は米国とは違いゆっくりなのです。そのため、2018年は賞味期限切れどころか、当初予定通りの景気回復の道程に過ぎません。
■強い日本経済をなぜかいまひとつ信じ切れない理由
それでも日本経済の回復を本物だと信じられない人が多いのにもうなずける理由があります。日本経済は構造的な問題を抜きにして、前に進めないことを肌で感じているからです。
日本には、多額の国債残高、少子化によるGDP先細り、天下りや業界団体の声の大きさなど、じっくり取り組まなければならない問題がいくつもあるのはご存じのとおりです。
外国人投資家は、株価が下がる前に売り逃げればそれでいいでしょう。しかし、日本人は、根本的な問題を解決したうえでの景気回復がない限り「いつかはまたやられる」という意識が邪魔をして、賃上げや消費拡大に結びついていないのです。
筆者は、構造改革で驚くような変化が見込めないのであれば、日本が1回目の利上げをした時点で下落トレンドに入ると考えています。将来的な日本の利上げは、政府がデフレとの戦いで勝利を収めて「終戦宣言」をしたのと同じことです。そのあとは、強烈な景気刺激策は出なくなります。政府主導で作った景気回復は、政府が抜けることで終わるでしょう。
しかし、日本の利上げのスケジュールは東京五輪よりも後にずれ込むのではないかと考えています。足元を見れば、中国、新興国、欧州ともに経済に活気がない。日本以外の国に投資妙味がなければ消去法的に日本に投資マネーが流れてくるはず、と考えられなくもないですが、現実的には海外市場の弱体化は日本市場にも逆風となるでしょう。
日本の利上げも米国のそれと同じく、海外市場の安定、消費やインフレ率など多くの要素が安定して好転しない限りは難しいでしょう。その絶妙なタイミングは、それほどすぐには訪れないはずです。
■成長戦略で投資環境はどう変わるのか
外国人投資家から見た日本経済の構造は、旧態依然としたもので変化がなく、成長性に欠けると思われがちです。これを変えるだけの強力な変化が3本目の矢「成長戦略」には求められているのです。
アベノミクスの成長戦略では、未来の日本経済を牽引する新しい産業の育成もテーマとして掲げられています。それに構造改革も含まれると考えていいでしょう。新しい産業には新しいルールが必要だからです。
投資分野でも規制撤廃が進むはずです。TPPでも金融分野のルール変更が噂されています。
なにがどのように変わるのか。ひとことでいえば、投資分野の構造改革は、投資のフル機能を提供する変革となるはずです。実は、今の日本の投資環境は「投資の体験版」とでもいうべき限られたものに過ぎません。
たとえば、日本の証券会社で取り扱いができる海外銘柄は規制により限定されています。銀行ではユーロ建ての住宅ローンを組むことなど当然できません。
不動産においても、物件にコール・オプション(将来的に決まった値段で買う権利を予約すること)を登記することはできないのです。
そもそも、そんなことはできなくて当然だろうと考えるのが日本の投資環境に慣れた人の正常な感覚だと思いますが、実は、これらは海外の金融市場では個人でも当たり前に行う投資法です。
このような、今までには非常識とされた投資法が、投資の構造改革とともに導入される日はそう遠くないでしょう。それは日本の個人投資家にとって幅広い選択肢を提供するという点で大きなプラスです。
もちろん、高度で自由な投資環境を使いこなすには「金融リテラシー」の習得が必要です。投資分野の構造改革で恩恵を受け、より有利な環境を活用するための第一歩となるでしょう。
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