5. 2015年9月25日 10:37:04
: OO6Zlan35k
日本:コメの時代の終焉 高齢化に伴い消費量が急減、JAの政治力にも陰り 2015.9.25(金) Financial Times (2015年9月22日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)国民の高齢化に伴い、コメの消費量が大きく減少している (c) Can Stock Photo 「NP-WU10」という製品の釜は、熱が全体に均一に伝わるように鋳物工場で手作りされている。ふたはプラチナを配合した材料でコーティングされており、アミノ酸のレベルが完璧な水準になるようにしてある。また、この製品はデジタルセンサーも装備しており、完璧な炊きあがりになるまで121通りの微調整が可能だ。 つやつやしたジャポニカ米を食べたり宗教的行事の捧げ物にしたりしているうえに、コメの生産が政治的な聖域にもなっている。 そのようにコメを崇拝する国にとって、1500ドルもする象印マホービン製の炊飯器は最も重要な祭壇である。いや、少なくともそうであるはずだ。 だが、大阪に本社を構え、この炊飯器NP-WU10の開発にエンジニアやデザイナー、試食担当者を何年も取り組ませてきた象印は、大きな問題に直面している。日本のコメの消費量が減っているのだ。それも大幅に――。 高齢化し縮む胃袋、食生活の変化で日本酒や魚の消費量も減少 日本のコメ危機は、国民が年齢を重ねて胃が小さくなったことから始まっている。つまり、高齢化に伴って食欲が衰えているのだ。若い世代が小麦を好むことも手伝って、日本で食されるコメの量は20年前より約20%少なくなっている。 コメの需要はほかの分野でも消滅しつつある。今日の日本人が飲む(コメを原料とした)日本酒の量は1970年の3分の1に過ぎず、昔からコメと一緒に食べられてきた魚の消費量も2005年以降で30%減っている。困った農林水産省は、この穀物――日本名は「ごはん」で「食事」を意味する――を売り込む方法を探さざるを得なくなっている。 同省でコメを担当している部署の広報担当者によれば、日本国民1人当たりの摂取熱量(1日当たり)は2006年に2670キロカロリーでピークを迎えてから減少傾向にあり、昨年は2415キロカロリーにとどまっている。 「この差が生じたのは、国民が高齢化していて食が細くなっているからだ」とこの担当者は言う。「2670キロカロリーというピークは、日本人が食べる量の限界だったと私は思う」 日本産のコメは1953年以降で初めて、カリフォルニア産の同等のコメより安くなっているが、日本のコメ産業はこの状況を為す術もなくみつめている。 価格は短期的には回復するかもしれないが、ファンダメンタルズ(基礎的条件)はこれが長期トレンドの始まりであることを示唆している。 また日本のコメ問題の有力な専門家たちによれば、この屈曲点は、日本がコメという主要農産物について考え方を大幅に見直す必要性を表現しているという。 農業の矢 日本とコメとの関係の背後にある政治と保護主義政策――与党・自民党が権力を維持してきた手法、そして第2次世界大戦後にこの国の統治で用いられた手法の決定的な特徴――はすでにぐらついているとの指摘が一部でなされている。 日本の国民は、この国では1960年代以来となる大規模な抗議行動が見られた後に国会を通った新しい安全保障関連法制こそが、安倍晋三首相の改革の中で最も過激な試みだと認識しているかもしれない。しかし、首相が用意している可能性のある農業改革の方がはるかに大きなものになるかもしれないとアナリストらは考えている。 安倍氏が率いる自民党は先日、全国農業協同組合中央会(JA全中)に圧力をかけ、農協を指導・監査する権利を返上させた。JA全中の権限の希薄化を狙った動きだった。このアイデアはアベノミクスの「第3の矢」を構成する改革の1つと考えられており、これによって各農協の自律性が高まる可能性がある。 また、政府は企業による農地所有の制限を一部緩和したり、小さな農地を集約して大きくする仕組みを作ったりしている。安倍氏はこの政策の拡大を目指しているかもしれない。 日本で食されるコメの量は20年前より約20%少なくなっている (c) Can Stock Photo JAは日本の農作物の流通を支配しており、それゆえに農業を完全に支配している。この構造を壊すことは、首相の優先事項の1つであり続ける公算が大きい。 日本の食糧自給の唯一の象徴であり続けたにもかかわらず、そして第2次大戦後の飢餓から国を救ったにもかかわらず、コメ産業を守ろうという人は以前よりも減っている。産業の担い手たちが高齢化していること(平均年齢は70歳)がマイナスに作用しているのだ。 キヤノングローバル戦略研究所によれば、日本では農家の約64%がコメを生産しているものの、その産出額は日本全体の農業産出額の21%を占めるにすぎない。 日本の消費者は、国産よりも20〜30%安価になっている輸入品を避けることができるほど裕福なのかもしれない。 だが、農水省の元職員たちですら、農地を遊ばせたり価格を上昇させたりする補助金に何十億円もの税金を投じる仕組みのばかばかしさに気づき始めたと語っている。 政府の内情に詳しい筋によれば、今ではコメよりも牛肉や小麦のロビー団体の方が政府の最上層に強い影響力を行使しているという。今にも倒れてしまいそうなコメ産業がこの国をどの程度支配しているのか、明確に問い掛けることがついにできるようになっている。 「非常にはっきりし始めているように、保護がなければ、日本の国産米政策は実際にはまったく機能しない」。東京大学の本間正義教授はそう指摘する。 一部の人々にとっては――2兆円の規模を誇る日本のコメ産業を50%支配するJAにとっては特に――価格の下落と需要の減少は災難以外の何物でもない。JAはその富の大半を、コメの取引のたびに2〜3%の手数料を課すことで得ているうえに、その政治力の大半を、460万世帯の農家を組合員とすることから手にしているのだ。 ハヤシという姓を名乗る神奈川県在住のJA組合員は、日本のコメ産業が昔から持っている権力と富に対する、逆らえないほど強い攻撃がこの問題の本質だと認めている。 「たとえ食べる量が減っても、おコメは日本の心です。けれど、そういう気持ちだけじゃもう十分じゃないかもしれない。農家はみんな年を取ってるし、値段は下がっているし、戦いはこれからもっと厳しくなっていく。こんな状況で、自分の子供にコメ農家になれなんて言えますか」 矢面に立たされるコメ産業 都内でTPP反対集会、約3000人が参加 農業従事者の多くはTPPに反対しているが・・・〔AFPBB News〕 別の人々、特に安倍氏にしてみれば、コメの値下がりは業界のロビー団体による長期的な価格操作を白日の下にさらすのに役立つ。 また外交官らに言わせれば、コメの値下がりは日本が世界の貿易に、特に現在交渉中の環太平洋経済連携協定(TPP)に以前よりも軽い負担でアプローチするチャンスをもたらす可能性もあるという。 カリフォルニア米の方が国産米よりも値段が高い状況がもし続けば――カリフォルニアの干ばつが続けばそうなりそうだ――、日本のコメ農家はその分だけ輸入について心配せずに済むはずというわけだ。 コメ産業の業況は危うい。日本の国産米の価格は2003年以降着実に下落している。前出の本間教授らが指摘するように、もし日本のコメ市場が需給の変化に反応することを認められていたら、国産米の価格はもっと早い時期に、それももっと大幅に下落していたことだろう。 国産米とカリフォルニア米の現在の価格差(60キロ当たりの平均価格の違い)は、数百円にすぎないかもしれない。 しかし、元農水省職員で現在はキヤノングローバル戦略研究所の研究主幹である山下一仁氏は、この差が重要なのだと話している。 山下氏によればこの価格差は、コメの価格を高い水準に保ち、効率的でない農家を生き延びさせ、組合員数を維持するというJAの長期的な努力にもかかわらず、ファンダメンタルズが弱くなっているためにコメの価格が支援策に反応しなくなりつつあることを示している。 また山下氏は、日本のコメの保護主義政策がひどいことを示す主な手がかりとして、輸入米に課せられる高関税を挙げている。 日本は20年前、コメの輸入枠を年当たり77万トン設定することに渋々同意した。だがこの市場「開放」はほとんど口だけのものだった。確かにコメは米国や中国から届いたが、これが市場に放出されることはほとんどなかった。輸入代金は1995年以降の合計で30億ドルに迫っているが、その多くは飼料にしか使えないレベルにまで劣化した。残りは支援物資として外国に送られた。 莫大な補助金をつぎ込んだ減反政策の限界 こうした行動の真の目的は、山下氏によれば、JAの影響力を拡大することにあった。価格が維持されているのは、何百万人もの小規模なコメ農家――全員がJAに手数料収入をもたらし、選挙の結果を左右し得る票も持っている――が耕作をやめざるを得ない状況にならないようにするためなのだ。 日本政府は1970年代から事実上、農家がコメを作らないように補助金を支給してきた。日本に250万ヘクタールある水田のうち休閑しているものの割合を高めるために多額の補助金を投じる、いわゆる「減反」である。 1971年には約54万1000ヘクタールの水田が使われなかったが、今日ではその規模が100万ヘクタールを超えている。 「コメの需要が減り続けているから、使われない水田がここまで多くなっても、希望する価格を維持するにはまだ少ないとJAは考えている。また減反の面積は、コメ農家が減反したいと考える面積の限界に近づきつつある。農家は心情的な理由からコメを作り続けたいと思っているし、大麦や小麦を作るのに必要な、コメとはまったく異なるスキルを学ぶには年を取りすぎているからだ」。山下氏はそう語る。 では、JAは基本的に、農家にコメの生産を減らしてほしいと思っているのだろうか。 「その通り。ここにはひどい歪みがいくつかある。狂気の沙汰だが、それが彼らの行動の土台だ。実際のコメ作りのことなんか、どうなったって構わないと彼らは思っている」。山下氏はそう付け加えた。 コメの価格を下支えする取り組みはほかにもある。農水省とJAは、人間の食糧ではなく家畜のエサとしてのコメを生産するよう農家に奨励する制度を好んでいる。日本の牛や豚は世界で最も高価な部類に入る飼料を消費することになるが、理論的には、肉が生産されてもコメの価格が下がることはない。 だが、山下氏によれば、皮肉なことに、日本政府は日本のコメを輸出品として売り込むことを熱心に説いている。であれば、コメの価格を下がるに任せ、カリフォルニア米と競争できるレベルまで下落するのを容認した方が、輸出という選択肢は大幅に実行しやすくなるのだ。 JAの本当の組合員数は? また、JAには正統な組合員が何人いるのかという議論もある。JA全中によれば、394万世帯の農家から460万人が正組合員になっているが、山下氏や本間教授などは、その多くはすでに引退していると指摘している。 また、優遇税制を利用したり農地の売却を有利に進めたりするために、資格がないにもかかわらず組合員になっている人も多いかもしれないと述べている。 「実際の農家戸数とJAの組合員数と間に差があるというのは、本当に不思議なことだ」と本間教授は言う。「しかし、JAの組合員はその政治力の源だ。これまでに作られてきた歪みは、まさに有害だ」 衰える政治力 JAの政治力はコメの価格が下がり続けるにつれて衰えていくだろうと教授は語っているが、JAはTPPに大反対している。今年に入り、この団体はTPP交渉でコメ農家の利益を犠牲にすべきでないと訴え、それに賛同する署名を約1000万人分集めた。 しかしアナリストなどは、これをよろめく巨人の威嚇にすぎないと見ている。 上智大学の中野晃一教授(政治学)によれば、かつてはJAの政治的影響力が強く、自民党と経団連と連合を組んでいた。 だが農業従事者が引退し、地方票の力が低下するにつれて、この連合は瓦解し始めている。 安倍首相、アジアに1100億ドル投資を表明 AIIB資本金上回る JAの「脅し」は安倍首相には通用しない?〔AFPBB News〕 「JAと農業ロビー団体は、安倍氏の政治力の強さと(野党の)民主党の凋落の直接的な結果として弱くなっている」。中野教授はこう言う。 「政治力を持つには、別の党に票を入れるぞといういかにも実行されそうな脅しができなければならない。だが、JAは安倍氏にその手を使うことができずにいる」 そのため安倍氏は、農業改革をさらに推し進めるか、あるいは(こちらの方が切迫しているが)選挙での地方票の獲得で手痛い反発を受けることなくTPPに署名するかにおいて、過去のどの前任者よりも強い立場にあるかもしれないと中野氏は分析している。 By Leo Lewis http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44848
[12削除理由]:管理人:無関係の長文多数 |