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海外に暗雲 試練の景気 日本経済研究センター・短期経済予測
経済構造変化も重荷 竹内淳 日本経済研究センター主任研究員
4〜6月期の実質国内総生産(GDP)は、3四半期ぶりに減少に転じた。日本経済回復のけん引役が期待される輸出は急減、個人消費と設備投資も低迷し、その役を果たせていない。景気は足踏み状態となっている。さらに足元では中国の減速懸念を背景に行き過ぎともいえる株式・為替市場の混乱で先行きに暗雲が漂う。
とはいえ、景気の腰折れは回避できよう。実質賃金上昇が個人消費を底上げし、良好な企業収益が設備投資を加速、輸出も海外経済の拡大を背景に伸びるとの従来の見方は維持する。原油安に伴い、海外への所得流出(交易損失)の減少は昨年10〜12月期以降、累計で8兆円以上に及ぶ。日本経済へのプラスは大きい。
問題は、そうした効果の特に家計への浸透が遅れていることだ。景気は力強さに欠け、下ぶれリスクも高まっている。日本経済研究センターでは2015年度1.1%、16年度1.6%の実質成長率を予想している(表参照)。15年度は前年度末の高めの成長率の影響(ゲタ)を除くと潜在成長率(当センター推計0.6%)を下回る低い伸びだ。
回復の鈍さの背景には循環的要因のみならず、日本経済を巡る構造変化が作用している。まず輸出は、リーマン・ショック後、世界全体の輸入が回復する中でも、横ばいのままだ(図)。世界輸入自体、伸び率が成長率を下回る状況であり、15年初めからは減少に転じている。とはいえ、日本の輸出が相対的に低調な裏では、第一にサプライチェーン(供給網)の高度化に伴って、海外の生産拠点が現地での調達を増やしている。だから中間財輸出が伸びない。
第二に固定資産投資が先進国で低迷を続ける一方、中国も世界金融危機後の「4兆元刺激策」の反動で鈍化している。過去の過剰投資は債務の膨張を伴い、その解消には時間を要する。だから資本財輸出が伸びない。第三に生産の国内回帰や輸出価格引き下げが限定的だ。過去の円安局面でそれらを積極化した結果、その後の円高で痛い目をみた経験が作用している。
海外をみると、米国は4〜6月期に拡大軌道へ復帰、ユーロ圏も9四半期連続のプラス成長だ。中国にしても住宅市場底入れなど安定化の兆しがあり、政策対応余地も大きい。日本の輸出は回復に向かうだろう。ただ前述の貿易構造の変化が重荷となり伸び率は抑えられるだろう。
次に個人消費だが、低迷の理由を探るため雇用・所得環境を点検する。過去の景気回復局面と比較し雇用者数は増加が際立つ。しかし新規雇用はサービス業中心で、主に女性がパートで応じる姿だ。だから所定内給与(本給)が伸びない。本給が増えないと将来へ不安感が残り、消費につながりにくい。
これまでの物価上昇も家計心理を冷え込ませている。特に食料品価格の上昇は、購入頻度の高い高齢者層を直撃している。公的年金の給付切り下げの中ではなおさらだ。
しかし夏の賞与は好調が伝えられる。公的年金給付も6月受け取りから増えている。後述のように消費者物価の伸びもほどなくマイナスとなる。実質所得は増える。消費回復には、さらに「雇用の質」の改善も必要だろう。税・給付制度の改革でパートからフルタイムへの転換を促すべきだ。
家計関連でも住宅投資は持ち直している。6月の住宅着工件数は、年率換算で1年6カ月ぶりの100万戸台乗せだ。こうした状況は住宅ローン減税拡大など政策措置総動員による「需要の先食い」の色彩も強く、17年度からの消費税再増税後の反動が心配だ。
設備投資の足元の減速は前期急伸の反動とみられ、一時的だろう。日銀の企業短期経済観測調査(短観)などでは近年まれにみる旺盛な設備投資計画が示されている。企業部門は収益が好調で、キャッシュフローも潤沢だ。企業統治強化は現預金の有効活用を促す。設備投資には、景気回復の下支えが期待できる。
足元の成長減速を受けても「補正予算は不要」という政府の姿勢は正しい判断だ。人手不足が続く中で公需→雇用拡大→民需拡大という乗数効果は期待し難い。他方で財政再建への道のりは遠く、少しでも早く前進する必要がある。
消費者物価指数(生鮮食品を除く)の上昇率は、エネルギー関連品目の下落を受けて7〜9月にマイナスへ転じるだろう。その後は需給ギャップの改善に映じて緩やかな上昇に戻る。その結果、15年度0.2%、16年度0.9%の上昇率を予測する。
日銀が目指す16年度上期中の2%達成は難しい。だが交易条件の改善に起因する物価下落は経済活動にプラスで、長い目では物価上昇につながる。許容してよい。インフレ期待も、物価連動国債から導出される市場指標は低下しているが、原油安に連動しており、過剰反応は不要だ。
外生的リスクは、中国減速以外では、9月にも予想される米国の利上げが新興国の通貨危機を引き起こす可能性が懸念される。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の漂流も避けたい。イスラム過激派や北朝鮮を巡る緊張も要注意だ。いずれのリスクも以前より高まっている。
4〜6月期のマイナス成長は、潜在成長率向上の必要性を改めて認識させた。生産性引き上げを目指す政府の成長戦略は方向として正しい。
重要なのはその方法だ。競争的な市場環境こそが資源の効率的な配分を促し、生産性向上につながる。そのために必要なのは規制緩和であり、政府による誘導・介入は避けるべきだ。補助金を付与する余裕があるのなら、法人税率引き下げを急ぐべきだ。
ポイント
○パート雇用増加で賃金伸び悩み消費低迷
○設備投資が内需下支え景気腰折れは回避
○生産性引き上げに介入でなく規制緩和を
[日経新聞8月28日朝刊P.27]
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