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マネー異変 きしむ世界経済
(1)中国急減速、当局に不信
中国経済の減速、そして米利上げ観測を背景に、市場を激震が襲っている。世界経済はマネーの変調が映す試練に耐えられるのか。
成長率「5%」説
インターネット上に出回るある中国経済に関する論評が、市場関係者に衝撃を与えている。「今年上半期の真の実質経済成長率は5%」。中国政府の統計では同じ時期の成長率は今年の政府目標と同じ「7%」に踏みとどまったが、論評は「経済は悪い」と断じる。
筆者として記されているのは中国大手、国泰君安証券アナリストの任沢平氏。政府直属の国務院発展研究センターに在籍した経歴をもつ人物だ。仮に5%成長が本当なら、職を失う人が出て社会不安が起きてもおかしくない。中国では「失速」と呼んでいい水準だ。
「道路の損傷が激減したよ」。山西省大同の住民は皮肉交じりに語る。大同は中国有数の産炭地で、かつては積載制限を超える石炭を積む大型トラックがひっきりなしに走り、道路はいつもでこぼこだった。それがいまは「渋滞も起きない」。
中国の石炭最大手、中国神華能源の張玉卓董事長は24日、4割の大幅減益となった1〜6月期の決算発表で「急速な価格下落と需要低迷に直面している」と訴えた。
景気の動きをより正確に映す電力消費量は7月、前年同月比1.3%減と4カ月ぶりのマイナスに陥った。卸売物価は7月まで41カ月連続で下落した。企業がデフレ圧力にさらされ、景気全体を下押しする構図が続く。
中国の成長鈍化は2011年から続いており、いまに始まった話ではない。ここにきて中国景気への懸念が市場で一気に強まったのは「中国当局が経済をうまく制御するという信頼感が揺らいだ」(第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミスト)からだ。
露骨な株価維持策(PKO)、唐突な人民元の切り下げ、そして天津の爆発事故……。中国の共産党政権は情報を細切れにしか出さず、市場を国家が管理することを優先してきた。そのツケが一気に噴き出した。
24日の上海株式市場は総合指数が前日比8.5%の大幅安となった。前日に中国政府は年金基金に株式投資を認める対策を発表したが、上海・深圳合わせて2800社の上場企業のうち、24日に株価が上昇したのはわずか15銘柄にとどまる。
責任重い指導部
中国当局はなりふり構わぬ株価対策で「株バブル崩壊」を封じ込められるとみていたが、甘い想定はもろくも崩れた。
習近平国家主席は中国経済を「新常態(ニューノーマル)」と名付け、一定の成長鈍化を容認する一方で、構造改革を進めるという。だが、国有企業改革など市場化への取り組みは遅く、景気の減速だけが続いている。
中国経済が失速するのではないかとの市場の心配をよそに、首都・北京では9月3日の抗日戦争勝利70年の軍事パレードの準備ばかりが目立つ。
中国発の動揺は世界経済を揺るがすだけでなく、中国自身にも跳ね返る。中国指導部は、中国が世界経済のリスクの震源となっている現実に正面から向き合う覚悟と責任を問われている。
(北京=大越匡洋)
[日経新聞8月25日朝刊P.1]
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(2)米利上げ、軟着陸へ試練
24日朝、ゴルフ三昧の夏休みから公務に復帰したばかりのオバマ米大統領はさっそく現実に引き戻された。株安の連鎖について「震源地は中国。米経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は健全」(アーネスト報道官)と事務方に説明を受けた。米国はひとまず情勢を注視する姿勢だ。
経営者は手応え
ダウ工業株30種平均が一時、1000ドルを超えて値下がりした24日。下げ幅を縮小するきっかけになったのは経済テレビ局CNBCに届いた一通の電子メールだった。
「我々の中国事業は7、8月と着実に伸びている」。送り主はアップルのクック最高経営責任者(CEO)。中国を重要な市場とするアップル株は連想売りにさらされており「異例」(クック氏)の口先介入に出た。
「予想以上に好調」。米ゼネラル・モーターズ(GM)で米国内部門を統括するマクニール氏は国内の新車販売に手応えを感じる。2015年1〜7月の販売台数は前年同期比3.9%増の約178万台。大型車など利益率の高い車ほどよく売れ、大手各社は主要工場をフル稼働させている。15年は14年ぶりに1700万台を超えるとの見方も強まってきた。
「多くの民間業者で熟練工が足りない」。2万6000社が加盟する全米建設業協会の集計(6月)によると、建築現場で働く労働者の週間労働時間は平均で39.9時間。1947年に集計を始めて以来、最も長い。7月の米住宅着工件数(商務省)は年率換算で約120万6000戸となり、住宅バブル時の07年10月以来の高水準。旺盛な建築需要に人手が追いつかなくなってきた。
08年のリーマン・ショック後に10%に達した米国の失業率は7月に5.3%まで改善した。転職が当たり前の米国では事実上の「完全雇用」で、経済が過熱するリスクもある。米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長は9月の利上げも視野にゼロ金利解除のシナリオを練ってきた。
だが、その出口戦略にマネー異変の影が及び始めている。「そんなに急ぐ必要があるのか」。利上げをけん制してきたのが、イエレン氏と並ぶ国際金融界の大物女性、国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事だ。
マネー逆流警戒
米国の雇用や消費は回復基調だが、賃金や物価の伸びは鈍い。IMFが警戒するのは、米国の見切り発車がもたらす新興国からのマネーの逆流だ。その懸念がここにきて現実味を増す。
英バークレイズは従来9月と予想していた利上げ時期を来年3月へと修正した。「FRBは世界経済のさらなる混乱を恐れて利上げを封印する」。24日の外国為替市場では円の対ドル相場が1日で一時6円近く急騰した。利上げ先送りを市場は織り込み始めたようにもみえる。
住宅バブルが劇的に膨張し崩壊した2000年代後半。バブルの震源地となったサンフランシスコ地区の連銀総裁だったイエレン氏は有効な対策を打てなかった。出口に動けば世界が揺れるが、後手に回ればバブルを助長しかねない。異例の金融政策の軟着陸を模索する寝苦しい夏が続く。
(ニューヨーク=佐藤大和)
[日経新聞8月26日朝刊P.1]
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(3)「宴」去り、新興国に三重苦
マレーシアのナジブ首相が20日に漏らした発言が金融市場で話題を呼んでいる。「企業は海外に蓄えた現預金を国内に持ち帰ってほしい」
原油輸出国の同国は資源安が直撃して景気が減速し、米国の利上げ観測を受けて資金流出が続く。中国株式市場の異変が混乱に拍車をかけ、通貨リンギは1990年代後半のアジア通貨危機当時の水準に沈んだ。度重なる為替介入を背景に外貨準備高は1年で3割も減った。市場はナジブ氏の発言を「打つ手が細った」と解釈し、リンギ売りに拍車がかかった。
成長の要因反転
深刻な資金流出は新興国に共通する。インドネシアのルピアは17年ぶりの安値に沈み、ブラジルのレアルは左派政権が誕生した2003年以来の水準に落ち込んだ。
英マークイットによると、新興国に投資する上場投資信託(ETF)から50億ドル(約6000億円)を超す資金が7月以降に引き揚げた。高い成長を求めて舞い込んだマネーが一気に逆流する。
南アフリカのプラチナ大手ロンミンは7月末、複数の鉱山の減産を発表した。プラチナ相場の低迷で、およそ6千人の従業員が職を失う見通しだ。タイ国際航空も1400人を削減して、一部の米国路線の運航停止を決めた。拡大一辺倒だった新興国企業が戦略見直しを迫られる。
新興国は08年の世界危機後の経済をけん引した。日米欧の金融緩和に伴うマネーの流入、中国の需要拡大、資源相場の高騰の3つが重なり、新興国ブームに沸いた。
その構図が一変している。足元では米国の利上げが現実味を帯び、中国は景気の減速に直面する。原油先物相場は1バレル40ドル割れと歴史的な低水準に下落し、資源安に歯止めがかからない。成長を支えてきた条件が、逆に「三重苦」となって新興国の経済を襲う。
ジャカルタ中心部の市場で主婦のタリさん(31)はため息をついた。インドネシア料理に欠かせないニンニクの価格が急騰したためだ。25日の価格は1キロあたり2万1000ルピア(約180円)。10日前に比べて3割も値上がりした。通貨安を受け、輸入に依存する食料品の価格上昇が続く。
戦略の修正急務
タイやトルコなど新興国の多くが政情不安を抱え、物価高が進めば政権への不満が高まるのは必至だ。物価を抑えるには利上げが選択肢だが、いま金融を引き締めれば景気が急減速しかねない。金融当局は動くに動けない状態に陥っている。資金流出を自力で跳ね返す手段を縛られ、新興国は世界のマネー変調にぼうぜんと立ち尽くす。
ただ、足元の混乱が1990年代後半に起きたアジア通貨危機のような激震を招くとの見方は今のところ少数派だ。
新興国が危機に備えて蓄積した外貨準備高はなお7兆5000億ドルを超え、世界全体の6割強を占める。金融危機時に外貨を融通し合う「チェンマイ・イニシアチブ」など二重の安全網もある。なによりも巨大な人口が秘める潜在的な成長力は大きい。
第一生命経済研究所の西浜徹・主席エコノミストは「緩和マネーや中国の需要に頼った成長モデルを改める時期が来ている」と話す。「宴」が終わり、地道なインフラ投資や規制緩和など身の丈に合った成長戦略への軌道修正は急務だ。マネーの変調をどう生かすか。新興国が突きつけられた課題だ。
(クアラルンプール=吉田渉)
[日経新聞8月27日朝刊P.1]
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(4)日本、踊り場脱却に影
「中国では稼ぐより損失を出すなという状況です」。住友建機の井手幹雄社長はこんな風に打ち明ける。同社は2015年度の中国工場での生産を1000台程度にとどめ、中期経営計画と比べ4割減とする。
追い風やんだか
今回の市場の動揺は米利上げ観測に中国景気の減速が重なったことが発端だ。対岸の火事にみえるが成長を外需に頼る日本経済に重い意味を持つ。安倍政権発足を機に円安株高が始まってから約3年。マネーの異変は回復の実力とリスクを見つめ直すよい機会だ。
15年4〜6月期の上場企業の連結経常利益は前年同期比24%増え過去最高だった。SMBC日興証券は1年前に比べ20円の円安・ドル高が経常利益を8ポイント押し上げたと試算する。財政出動や法人減税も加えると「過去3年の増益分の4割は自助努力だが6割は追い風だろう」(野村証券の海津政信シニア・リサーチ・フェロー)という。
追い風はやみつつある。市場の動揺で為替相場は一時1ドル=116円台をつけ、115円前後の企業の平均想定為替レートに近づいた。第一生命経済研究所によると中国の実質経済成長率が1ポイント下がると、日本の成長率も0.2ポイント低下する。
日本経済が今向き合っているのは、リーマン・ショック後の各国の財政出動と金融緩和でかさ上げされてきた世界の総需要の減退だ。オランダ経済政策分析局の「世界貿易モニター」によると、世界の貿易量は昨年12月をピークに頭打ちとなった。米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)の調査では、15年に前年比1%減る世界の主要事業会社の設備投資は16年に4%減る。
4〜6月に実質経済成長率が1.6%減だった日本。回復の踊り場からの脱却を探るが、頼みの外需が揺らげば「企業収益の改善が賃上げと消費の底上げにつながる」(甘利明経済財政・再生相)という好循環が揺らぐ。「7〜9月もマイナス成長になり得る」(BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミスト)との声もある。
政策余地は乏しい。黒田東彦日銀総裁は26日の講演で必要があれば「ちゅうちょなく調整を行う」と追加緩和に含みを持たせた。だが、緩和の副作用である必需品の値上がりは消費者心理に水を差し個人消費の重荷だ。
「それなりの財政措置を」(二階俊博総務会長)。自民党内では早期の補正予算で公共事業などの追加を求める声が出ているが、財政悪化を招くうえ人手不足でなかなか工事が進まない。
カギはやはり企業部門の対応だ。資源安で業績が落ち込む三井物産は採掘コストの削減に取り組む。オーストラリアのローブ・リバー鉱山では機械補修の内製化を進め点検の頻度も見直した。15年4〜6月に90億円だったコスト削減額を積み増し価格下落に対応する。逆風の中、17年3月期の目標に掲げる自己資本利益率(ROE)10〜12%達成に知恵を絞る。
成長戦略点検を
政府も停滞気味の成長戦略の再点検を迫られる。鳴り物入りで始まった農地バンクの賃貸実績は目標の2割弱にとどまる。「若い人が農業を始めても土地が借りられない」。農業に詳しいエム・スクエアラボの加藤百合子社長は嘆く。
世界経済の未来を誰もが信じていた06年、日本の物価も上昇に転じたが、金融危機後の景気後退で日本経済はデフレに逆戻りした。米国はいずれ利上げに動く。新興国の需要回復も時間がかかる。市場の乱気流の深度を読み影響を抑える手腕が試されている。
(石川潤、松崎雄典)
=おわり
[日経新聞8月29日朝刊P.1]
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