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※日経新聞連載
[時事解析]コンビニ10兆円時代
(1)誕生から約40年 中小店 近代化促す
コンビニエンスストアの市場規模が2014年度に10兆円を突破した。この規模は、主要な大手スーパーが加盟する日本チェーンストア協会の集計する売上高のうち、コンビニの品ぞろえと重なる食品、日用雑貨、化粧品の売上高(約9兆7500億円)を上回る。
日本にコンビニが誕生して約40年。日本の消費活動を支え、生活インフラの機能も兼ね備えるコンビニの進化を探る。
スーパーが1960年代に急成長したことで、従来型の零細店をめぐる国の中小小売商業政策は保護から育成へと政策転換を模索していた。
64年の産業構造審議会流通部会は「流通政策の基本的方向」として、中小店について「チェーン化の推進が図られるべき」と記した。この時点ではまだコンビニを意識した提言ではなかったが、中小店の構造転換を促し、近代化を目指す意図があった。70年の商業統計で従業員1〜2人の商店数は約94万店あり、全体の64%を占めていた。
中小企業庁は米国の事例を参考に「コンビニエンス・ストア・マニュアル」を72年に策定した。その中で「(コンビニが)普及した場合にはわが国の小売機構の近代化に大きく貢献することになるだろう」と記す一方、「残念ながらわが国にはまだコンビニエンス・ストア経営に関する十分なノウハウの蓄積がない」と指摘した。
イトーヨーカ堂が米国のコンビニ最大手、サウスランド社(現セブン―イレブン・インク)と提携し、国内1号店を出したのが74年。ただ、当時はミニスーパーと呼ばれていた。
(編集委員 田中陽)
[日経新聞8月24日朝刊P.17]
(2)大店法施行が契機に 規制追い風に成長
セブン―イレブン・ジャパンが1号店を出店した1974年を「コンビニ元年」と呼ぶことがある。スーパーの無秩序な出店を規制する大規模小売店舗法(大店法)が施行されたのもこの年だ。
セブンだけでなくローソンなど大手コンビニがほぼこの時期にスーパーを母体に誕生している。それは「(大店法が)スーパーに対して小型店の展開に乗り出すきっかけを与えた」(日経流通新聞編「流通現代史」)ことを意味する。
コンビニの歴史に流通規制は大きな役割を果たした。大店法の規制がかからないコンビニは「自由な出店が可能」(日本フランチャイズチェーン協会30年史)だった。
80年代に大店法の運用規制が強化され、スーパーの出店が事実上閉ざされると、コンビニは出店を加速。80年代はライフスタイルの多様化で夜型生活者が多くなり、深夜労働なども浸透して、長時間営業のコンビニは次第に市民権を得ていく。
規制強化だけでなく緩和も商機ととらえた。90年代はコメや酒類の販売規制の緩和があり、こうした商品がコンビニの陳列棚に多く並んだ。特に酒類販売の規制緩和は、コンビニの売上高を飛躍的に高めた。酒を扱う店では酒類と一緒におつまみも購入することから、1日当たりの売上高を約10万円も押し上げた。
2000年以降、金融規制の緩和で異業種からの銀行業参入が容易になり、コンビニ銀行が誕生した。ローソン社長の新浪剛史社長(当時)は「流通規制とうまく付き合ってコンビニは成長してきた」と語っていた。
(編集委員 田中陽)
[日経新聞8月25日朝刊P.28]
(3)加盟店と共存共栄 運営、粗利率重視に
大手コンビニエンスストアの経営実態は良好だ。日経MJ「2014年度小売業調査」の営業利益ランキングでは、1位のセブン―イレブン・ジャパンを筆頭にローソン(4位)、ファミリーマート(8位)と続く。それぞれ1万店を超える店を展開し、統制のとれた運営を可能にする仕組みが内在する。
それは、フランチャイズ方式で重要な役割を担う経営指導料の課金の中身をみるとわかる。
同方式で運営する小売りや飲食店の多くでは、商品供給額や加盟店売上高に一定の料率を掛けたものが本部に渡る。これだと加盟店の経営実態にかかわらず本部が潤う傾向になりがちだ。
一方、コンビニ各社では、店舗での粗利益額(売上高から仕入れ原価を引いたもの)に一定の料率を掛けたものとなる。これだと本部も加盟店も利益の最大化という共通の経営目標を掲げられる。「加盟店の収益に関して共同責任体制が発生する。本部と加盟店の利害対立は制御されやすい」(矢作敏行著「コンビニエンス・ストア・システムの革新性」)。共存共栄の仕組みといえる。
粗利率が高い商品はコンビニが主体となって商品開発ができる弁当、おにぎり、総菜類など。最近ではプライベートブランド(PB=自主企画)商品や淹(い)れたてコーヒーだ。
コンビニは流通業界でいち早くPOS(販売時点情報管理)システムを導入した。「高い水準の商品管理能力を要求」(嶋口充輝など編「営業・流通革新」)することで、加盟店の経営実態を知るために必要だった。
(編集委員 田中陽)
[日経新聞8月26日朝刊P.26]
(4)寡占と再編進む M&Aに難しさも
日本フランチャイズチェーン協会によると、コンビニエンスストアのチェーン数は1990年度の55から、2013年度には26まで減少した。市場規模10兆円超のうち、大手3社(セブン―イレブン・ジャパン、ローソン、ファミリーマート)が約8割を占め、再編と寡占が進んでいる。
セブンイレブンの鈴木敏文会長は、コンビニを「情報システム産業」と呼ぶことがある。狭い店舗で経営効率を上げるには、絶え間ない情報投資が欠かせないからだ。
成長にかかる時間を買い、規模の経済性の追求と情報システム負担を軽減するために、コンビニ業界でもM&A(合併・買収)は活発だ。しかし、フランチャイズ方式を採るコンビニは、こうしたM&Aの常識が通用しにくい。本部同士が一体となっても、加盟店の契約見直しが残るからだ。
この業界で初の本格的M&Aといわれるのは、80年のローソンとサンチェーンの業務提携だ。だがシステム統合や、対等が原則の本部と加盟店の関係の契約調整に時間がかかり、合併にこぎ着けたのは89年。「熟成を待っての合併」(ローソン社史)といえる。
また、98年に資本・業務提携に踏み切った「サークルK」と「サンクス」が合併したのは04年。ただ、今も屋号は統一していない。
コンビニ大手3社が1号店を出店したのは74年前後で横一線。しかし、国内でM&Aに距離を置くセブンと積極的なローソン、ファミリーマートでは、チェーン店売上高に2倍もの差がある事実は、この業界のM&Aの難しさを示している。
(編集委員 田中陽)
[日経新聞8月27日朝刊P.31]
(5) 高まる社会的役割
全国に5万店強あるコンビニエンスストアは、チェーン展開する小売りや飲食の中で最も店舗数が多い。拠点数の多さやシステム化されたコンビニの機能を取り込む動きは活発化している。単なる小売業の域を超えて生活を支える存在だ。
「東日本大震災の発生や日本社会の価値観の変化によりコンビニエンスストアに対する社会インフラとしての期待が高まっている」。経済産業省の研究会が3月にまとめた「コンビニエンスストアの経済・社会的役割に関する調査報告書」はコンビニの役割が広範囲になる可能性を指摘した。
既に一部の税金の徴収だけでなく行政サービスの代替をしている。数年前から一部コンビニで始まった住民票のコピーサービス。コンビニのマルチコピー機を使うと、役場で発行するコストの3割程度に抑えられる。
高齢者など買い物弱者にとって徒歩圏にあるコンビニは頼りになる。徒歩での買い物が難しい世帯の場合もコンビニによる宅配サービスを利用できる。距離的・心理的な近さが他の小売り業態に比べて競争優位となる。
創生期には「若者冷蔵庫・お袋代わり」と形容されたコンビニ。それが今では、来店客で最も多い年齢層は50歳以上だ。セブン―イレブン・ジャパンの井阪隆一社長は「便利さは時代とともに変わる」と語る。コンビニに求められるニーズは変化する。
零細店を近代化し、新たな顧客サービスを生み出し続けるコンビニ。経営学者、ピーター・ドラッカーはコンビニを「社会革命」と評していた。
(編集委員 田中陽)
=この項おわり
[日経新聞8月28日朝刊P.27]
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