3. 2015年8月29日 02:43:28
: OO6Zlan35k
<Vol338:特別号:現代ファイナンス論の株価理論と株価> 2015年8月28日:有料版・無料版共通 【目次】 1.債券の理論価格をめぐって、原理的なことを言えば 2.予想キャッシュフローを現在価値に割り引いて、理論株価とする モデル(注)配当割引モデル(DDM)ともいう。 3.基本は、割引配当モデルでの理論株価 4.割引配当モデルから、利益と機会投資のモデルへ 【後記:中国政府への提言】 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■1.債券の理論価格をめぐって、原理的なことを言えば 前号では、国債や社債等の、債券価格の理論計算法を示しました。 いつも使っている国債価格と金利の関係です。 ここでは、なぜ、〔額面価格×(1+表面金利×残存年数)÷(1+ 期待金利×残存年数)=国債価格〕という算式になるのかを、原理 から説明します。 ・表面金利とは発行時の約定金利であり、 ・期待金利とは、金融市場で既発国債が売買されることによって作 られる、新たな金利のことです。 国債などの債券場合、将来の金利と返済が、確定しています。 デフォルトしない限り、利払いと返済は確実です。 このため、金利の変化によってのみ、流通価格が変動します。 ここで、その原理を示します。 キャッシュフローとは、満期の受取額です。 市場の金利が上昇すると、発行時に約束された既発国債の表面金利 は同じでも、100万円の国債を新たに買う人が期待する金利(期待 金利)は、変化します。 ・1%の金利のとき買われた10年債は、 ・1年後に市場の金利が2%にがった時は、 既発国債が2%の利回りを生むように流通価格が下がるのです。 金融市場における、金利の1物1価の原理から来ています。過去に発 行された国債の利回りが1%の場合、市場の金利が2%に上がると、 国債の額面は同じですが、売られるときの流通価格は2%の利回り に一致するように下がるのです。 利回り1%の国債をもつ人は、 ・金利で損をする表面金利1%の国債を売って、 ・2%の利回りの新規債に買い買えるからです。 従って、市場の金利が2%になった瞬間、全部の国債の利回りは、 2%になるように、流通価格が調整されます。 (A)金利1%での約定キャッシュフロー =額面×(1+表面金利×残存年数)=満期の受け取り金額 (B)金利2%での期待キャッシュフロー =額面×(1+期待金利×残存年数)=満期の期待金額 具体的な金額では、 (A)金利1%での約定キャッシュフロー=額面100万円×(1+表面 金利1%×残存年数9年)=100×(1+0.09)=108万円 (B)金利2%での期待キャッシュフロー=額面100万円×(1+期待 金利2%×残存年数9年)=100×(1+0.18)=118万円 ●市場の金利が2%に上がったときは、既発国債は、(100万円× (108万円÷118万円)≒91.53万円)に価格が下がって、実質的に 2%の金利になる必要があります。 100万円の国債が91.53万円に下がっても、満期時の償還金は100万 円です。91.53万円で買った表面金利1%の国債は、2%の利回りに 上がったようになります。 (A)満期償還金100万円×(1+表面金利1%×9年)=108万円 (B)91.53万円×(1+期待金利2%×9年) =91.53×1.18≒108万円 AとBの満期時のキャッシュフローは108万円になって、同じです。 額面100万円金利1%の国債が、91.53万円に下落することによって、 実質の利回りは2%に上がるからです。 (注)実際は、複利であり、(1+表面金利)の残存年数乗としま すが、金利が5%以下で低い場合、残存期間が10年程度では、単利 法との差は無視できる程度です。 一般式で言えば、 〔額面金額×(1+発行時の表面金利×残存年数)÷(1+期待金利 ×残存年数)=国債の流通価格〕です。 発行時より金融市場の金利(期待金利)が下がると、分母が大きく なって債券価格は上がります。逆に期待金利が上がると、分母が小 さくなって、債券の流通価格は上がります。これが、債券の理論価 格です。 期待金利とは、そのときの金利をベースに、1年先くらいまで予想 される金利です。 (注)中央銀行は、償還期が短い満期1年以内の短期金利はコント ロールができます。満期1年以上の長期金利は、国債の売買によっ て、金融市場で決まります。中央銀行も、市場の長期金利には追随 せざるを得ない。 債券の理論価格は、デフォルトの可能性を無視できる時期には、常 に、流通価格と一致します。ギリシア国債のようにデフォルトの可 能性が高くなると、利回りという概念はなくなり、買い手が消えて、 無価値になるまで下落します。 【株券は劣後債】 株券は会社の清算のときしか元本(出資金)の償還がないので、会 社の負債の中で返済順位が最後尾の劣後債です。優先債とは、国債 のように元本償還がある債券を言います。社債や国債は、優先債で す。 劣後債は、市場価格で売却することが元本の回収の方法です。その ときは、買った金額の50%でしか売れないかもしれません。あるい は150%に上がっているかも知れません。 【株価の裏付けは、1株当たりの資本額】 株式の価値の裏付けになるのは、会社の自己資本です。最初に出資 した時点では、額面の価値しかない。出資金=資本金、だからです。 会社は、事業活動によって利益(あるいは損失)を出します。 当初の資本が1億円であり、1年後に、税引き後の純益で3000万円を 上げたとします。この利益は、(会計上は)利益準備金という資本 になり、資本は利益準備金で増加します。投資準備金としてもいい のです。 【利益によって増える資本】 3000万円の税引き後純益によって、資本は1億3000万円に増えます。 このため1株の価値も、留保利益分の30%上がります。 この未確定な、初来の税引き後純益が、株券の金利に当たるもので す。 留保された純益は、会社の現金や預金の増加になっていると考える 人がいますが、それは誤りです。 会社の資産(流動資産+固定資産)を右側に、資本を含む負債(短 期負債+長期負債)を左に、対照して示すバランスシートでは、留 保利益の3000万円(増加した資本)は、現金を含む資産の増加にな っています。つまり留保利益は、資産になって投資されています。 【資本の増加は、資産への投資の増加】 純益が増加しても、それが債権、在庫、固定資産など現金以外の資 産の増加になっている場合、現金は増えません。 昨年度と今年度のバランスシートを科目ごとに比較した「資金運用 表(比較貸借対照表とも言います)」を作ると、利益によって、ど んな資産がいくら増えたか、わかります。現金も資産のひとつです。 資本である株券は、どういった要素で、理論価格が上がるのか。 債券価格のように、単純な数式化ができるのか。 ここを追求するのが、以降です。ノーベル賞経済学者で、世界の証 券会社が、現在、使っているオプション理論を作った1人であるロ バート・マートンの『現代ファイナンス論』を参考にしています。 ■2.予想キャッシュフローを現在価値に割り引いて、理論株価とす るモデル(注)配当割引モデル(DDM)ともいう。 予想キャッシュフローとは、企業活動で得られる税引き後利益のこ とです。 ・将来の税引き後利益を予想し、 ・それを期待収益率で割って、 ・現在価値にしたものを理論株価とするのが、配当割引モデルです。 ここで言う配当とは、実際の配当ではなく、税引き後の純利益です。 ▼理論価格の意味 理論株価とは、市場がつける今日の株価ではなく、株券を、不確定 な予想キャッシュフローを生む債券と見たときの、理論上の価値と いう意味のものです。 (注)返済順位がもっとも低い劣後債である株券は、債券であると 同時に、会社の資産の所有権を表象すると決められています。表象 とはシンボル、つまり代わりに表すことです。 【実際の株価と理論株価には差がある】 実際の株価は、理論価格を中心にしながらも、市場での買いの人気 度で決まります。「買い>売り」なら上がり、「買い<売り」なら 理論価格より低い価格になります。理論価格との差を「市場の歪 み」とも言います。 ヘッジファンドは、市場価格に常に生じている、理論価格との歪み を計算し、市場はいずれ公正な価格(fair price)をつけるはずだ として(効率的市場仮説)、評価が低い株を買い、高い株を売るこ とを行っています。 情報の優位を利用するのが、ヘッジファンドです。 市場の参加には、情報の格差があります。 【投資家での、情報の非対称ということ】 情報の非対称から効率的市場ではない実際の株式市場で、安く歪ん だ株や債券を買い、同時に、高く歪んだものを売る裁定(アービト ラージュ)が、投資での利益を出す原則です。歪みが生じる原因は、 集団的な市場心理です。 経済学でいう効率的な市場は、あらゆる情報を投資家の全員が知っ ていて、その情報で瞬時に価格が調整されるという、理念的な、言 い換えれば、架空の市場です。実際には、事実上のインサイダー情 報や、すれすれのものを含み、情報の量と質に格差があります。 価格が相当に動いたとき、誰が最初に大きく売ったか、あるいは買 ったか、瞬時に公開されるなら、インサイダーやすれすれ情報が明 らかになります。ただし代理人(エージェント)が売買している場 合、たどる必要があります。 世界の銀行資産の50%があるされるタックスヘイブン(租税回避 地)からの売買の場合、その誰かが不明になります。ヘッジファン ドや投資銀行の本拠は、ほとんどが、租税回避地です。 ▼参考:赤い中国発の世界リスク(リーマン危機の再来)の可能性 中国の株式市場は、携帯電話でやりとりされる「噂の市場」です。 共産党の一党独裁のなかで、GDPなどの基本情報を含み、正確な情 報は、提供されていません。人民日報は政府の広報紙です。民主主 義に不可欠なのは、言論の自由をもつジャーナリズムでしょう。 株価は結果ですから、偽装できません。瞬時に伝わります。しかし 株価の原因になる国営企業の次期予想純益は、GDPのように偽装で きます。 不動産価格も同じです。政府機関が集計するとき、高めにすること ができます。 現在、株価の不良化(400兆円の下落)よりはるかに大きな、シャ ドーバンクの理財商品を含む不動産ローンの不良(推計1000兆円) が隠れているでしょう。 国民は、独裁の中国政府は、株価が下がっても政府が株価を上げる 「秘策」をもっているという信頼をしていたふしが見えます。 6月13日からの株価暴落のときは、「政府が下落をとめる」と考え ていた人が多かったからです。このときは、3500ポイントで落ち着 いていました。 しかし、8月の3週の再びの暴落(3000ポイント以下)により、「元 の切り下げや、利下げをしても、政府の株価政策は効果がない」と 考えを変える人が増えているようです。 リーマン危機の後、問題になっている中国の不動産価格でも、政府 対策は効果がないと見る人が増えているかもしれません。 今回の株価下落から、不動産価格の下落も露呈され、全面的な信用 崩壊が起こり、中国発のリーマン危機(レッド・リスク:赤い中国 からの危機)になる可能性も、示しています。 中国のGDP(商品生産の金額)は日本の2倍、米国の1/2にも膨らん でいます。ユーロを揺るがせているギリシアのGDP(30兆円:2013 年)は、ユーロ18か国のGDP(1600兆円)のたった2%です。 一方、世界化した商品市場の中で、中国は大きい。世界のGDPで15 %を占めています。 信用崩壊は、人々の心理によって、「株価と不動産は下がる」とい う予想が増えたとき、起こります(これが心理の臨界点です)。株 価や不動産価格への信用も、その信用の崩壊(価格の下落)も、心 理的なものです。 ■3.基本は、割引配当モデルでの理論株価 将来の税引き後利益を予想し、それを期待収益率で現在価値に割り 引いたものが、理論株価です。数式で言うと、以下です。税引き後 の純益であるキャッシュフローをCFとします。 以下の等比数列の合計が、割引配当モデルでの、理論株価です。 理論株価=(1年目の予想CF額)÷(1+期待収益率(%)) +(2年目の予想CF額)÷(1+期待収益率(%))の2乗 +(3年目の予想CF額)÷(1+期待収益率(%))の3乗 +(4年目の予想CF額)÷(1+期待収益率(%))の4乗 +(5年目)+(6年目)・・・・、です。 将来の税引き後純益(CF)を予想し、それを「期待収益率」で割り ます。期待収益率は、PER(株価/次期予想純益)の逆数である「株 式益回り」です。(注)逆数は、1をPERで割ったものを言います。 市場の集団心理で見込むPERが15倍のとき、期待収益率は、1÷15で 6.7%です。これを丸めて、7%とします。PERでは14.3倍です。 株への投資家が、現在の株価によせる期待収益率6.7%は、〔国債 金利+利益の実現リスク率〕と見ることができるものです。 国債の金利は、政府がデフォルトしない場合、受け取りリスクのな い「リスクフリー」な金利です。日本では、「株の期待収益率=リ スクフリー金利(0.4%)+利益の実現リスク率5.7%=6.7%」で しょう。 株価では、 ・過去の税引き後純益ではなく、 ・企業の将来の未確定な税引き後の純益を期待し、それによって、 価格をつけています。 将来利益を、〔期待収益率=リスクフリー金利+リスク率〕で割り 引いたものが、理論株価です。 1年目の予想キャッシュフロー(税引き後純益)を3000万円とし、 2年目、3年目・・・も一定の3000万円とします。 事業活動で生まれる予想利益には、それが実現しないというリスク があります。利益が年率で20%増えると予想されていても、未来は 天候のように不確定ですから、増えないかも知れない。 このため、利益の将来予想の場合、リスク控除後では現在の利益が 続くとするのも、成長企業以外では現実的になるのです。 予想PERを14.3倍、期待収益率を7%とし、毎年の予想キャッシュフ ローが3000万円のときの理論株価は、以下のようになります。1年 後の予想純益3000万円で(1+期待収益率7%)で、2年目の3000万 円は(1+期待収益率7%)の2乗である1.14で割り引かれています。 3年目は、1.07の3乗の期待収益率で割り引いて、現在価値(NPV) にします。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (3000÷1.07)+(3000÷1.14)+(3000÷1.23) +(3000÷1.31)+(3000÷1.40)+(3000÷1.50)+・・・ =2803+2632+2290+2142+2000+・・・ =3000÷(1.07-1)=3000÷0.07≒4億2857万円 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ これは、数列の無限等比級数の和です。最初の期待純益3000万円を、 上式のように(期待収益の等比率1.07-1=0.07)で割ることによ って計算できます。数学ってすごい。(無限等比級数の和の公式: 高校の数2Bでした。記憶していますか?) 計算された理論株価4億2857万円は、株式益回り7%のときの〔PER =1÷0.07≒14.3倍〕を、次期予想純益の3000万円に掛けたときと 同じです。 (注)PERの逆数の株式益回りは、株価に期待された「期待収益 率」です。 ●次期予想純益3000万円×予想PER14.3倍≒理論株価4億2857万円 株価の判断で使われる予想PERは、「企業の将来利益の割引配当モ デル」という理論的な背景をもっていたのです。 PER(英語圏ではP/Eレシオ)は、割引配当モデルでの理論株価です。 この割引配当モデル理解が、理論株価の基本です。 割引配当モデルでの理論株価は、既存事業の株価、つまり企業価値 と見ることができます。企業価値÷株数=1株の株価です。 単純に言えば、既存事業の理論株価=次期予想純益÷期待収益率、 です。 ●既存事業の理論株価 =期予想純益×予想PER(現在は15倍付近)、としていい。 既存事業とした点に注意してください。予想PERは、既存事業の期 待利益を、リスクフリー金利+リスク率(=PERの逆数である株式 益回り)で割り引いて現在価値化(NPV)するときの指数です。 【シラーP/Eレシオ】 ノーベル賞学者のロバート・シラーは、1年の期待収益を将来に延 長した場合変動が大きすぎ、利益情報が不足するとして、過去10年 間の税引き後純益を使った「シラーP/Eレシオ」を公表しています。 (米国S&P500社での株価指数) http://www.multpl.com/shiller-pe/ シラーP/Eレシオで25倍を超えたときは、過去2回しかない。 ・1929年からの世界恐慌に発展したNY市場の暴落前、 ・2000年4月のIT株バブルの崩壊の直前の、高かった株価です。 2000ポイント近くだったナスダックもITバブルの時(5000ポイン ト)に近い4812ポイントに上がっています(15年8月27日)。 現在、シラーP/Eレシオは25.2倍水準です。シラーは、「暴落の恐 れがあるバブル圏」とたびたび警告しています。 FRBが利上げを予定するのも、3度の量的緩和で、株価と不動産がバ ブル圏に達していると考えているからです。バブルが大きくなって 崩壊した場合、リーマン危機が再来するからです。 リーマン危機が再来した場合、米ドルが大きく下落して、FRBの通 貨増発が無効なる恐れが強い。FRBの通貨増発は、6年間で$4兆 (480兆円)行われていて、これ以上のFRB信用の拡大、つまり通貨 発行というFRBの負債の拡大はFRBの信用の臨界点に達するのではな いかという恐れをFRBが抱いているからです。 これが、FRBが利上げを目論む真の理由でしょう。実際の利上げが 先に延びても、上げると言うきことにより、金利の下落と資産バブ ルの進行をとめることもできるからです。その理由は、投資家が、 将来の利上げを折り込んだ売買をするからです。 米国株、日本株、欧州株が、中国の株価によって、同時に、大きく 動揺する理由は、「株価はバブル圏ではないか」と考えている人が 多いからです。 【予想PERの水準:株価の期待収益率】 シラーP/Eレシオのように、予想PERの水準も、固定的なものではな く、多くの参加者からの市場で決まっています。 量的緩和とゼロ金利の現在、予想PER15倍と高い水準が、売買の基 準になっていると見ています。これは、当方の判断です。 日経平均が、2万円台から下がり1万8574円のとき、東証一部企業の 平均予想PERは、14.75倍です(15年8月27日)。 NYダウ(工業株30種)では、株価指数が$1万6654のとき15.12倍で す(同日)。(キャピタル・パートナーズ証券:世界の予想PERの 現在値) http://www.capital.co.jp/world_index.pdf 懸案の中国株では、上海総合指数が3083ポイントのとき予想PERは 12.81倍です(同日)。 株価がピークから40%安でも、上海総合指数のPERが12.81倍なのは、 中国人投資家が、企業が発表している次期予想利益は、まだ30%や 40%は高すぎると見ているからです。 GDPと失業率と同じように企業会計(国営企業が多い)へも、割り 引いて見るべき疑念があります。 ■4.割引配当モデルから、利益と機会投資のモデルへ 企業は、既存の事業を維持しながら、新しい事業への投資をします。 この投資分は、税後純利益から配当を引いた、留保利益で計ること ができます。資本の増加分が留保利益です。 成長モデルでの企業価値(株価時価総額)では、既存の事業価値に、 投資による予想純益の現在価値を加える必要があります。 一例を挙げると、投資家から成長企業と見られているユニクロの株 価は、5万290円と高い(15年8月27日)。 時価総額では、5兆3345億円という大きさで、アップルの約1/10、 ウォルマートの1/4です。予想PERでは47.7倍という高さになってい ます。 (注)余談ですが、ユニクロ株のPER47.7倍は高すぎると判断して います。本当はPER30倍付近でしょう。理由は、日経平均が225社の 株価の単純平均で計算されているからです。 225社の株価の単純平均では、1株5万290円のユニクロの構成比が 10.3%になります。このためヘッジファンドが、ユニクロ株を買っ て上げることで、日経平均も大きく上げることがでます。日経平均 では上位5社(トヨタ、三菱UFJ、ホンダ、JT、NTTドコモ)の合計 構成比は5.2%であり、ユニクロ1社の半分です。 TOPIX(東証株価指数)では、時価総額が加重平均されているので、 日経平均のような「構成シェアの欠陥」はありません。 以上からも、ユニクロは、現在の東証1部の想定平均のPER15倍より、 32.7倍分も高い。PERが高いため、株式益回りは〔(1÷PER47.7 倍)≒2.1%〕と極めて低い。市場には、成長株にユニクロのよう なPERの企業が登場します。 (注)米国のアップル(株価$112)の予想PERは13倍です。利益が 大きいため、PERはあまり高くない。 http://www.bloomberg.co.jp/apps/quote?T=jp09/quote.wm&ticker=AAPL:US こうした成長企業の理論株価は、どう考えたらいいか?これが、将 来利益が大きく増加すると予想されるときの株価モデルです。 概念で言うと以下です。PER47.7倍のユニクロのような企業では、 留保利益、つまり資本の増加の投資による、大きな将来価値が加わ っていると見ることができます。これが、利益と将来に向かった機 会投資のモデルの株価です。 成長企業の理論株価 =(既存事業の期待純益×PER 15倍) +(投資による将来の利益の現在価値:PER*倍分) 同じ結果になりますが、 成長企業の理論株価 =(既存事業の期待純益÷期待収益率6.7%) +(投資による将来の利益増加÷期待収益率) ▼利益と機会投資のモデルまでを、一般化する
既存事業の株価は、PERが15倍水準のときは、(既存事業の期待純 益÷期待収益率6.7%)です。 留保利益による投資によって増えると見込まれる利益は、どう計算 するか? (注)留保利益は資本の増加です。資本の増加は、B/S の資産増加であり、資産の増加は投資です。 従って投資による利益の増加は、〔留保利益額×投資の収益率〕と 見ることができます(邦訳P305)。(注)ロバート・マートンのこ ういったところが、さすが、頭がいい。『現代ファイナンス理論』 です。 例えば、税引き後純利益の内部留保率が60%(配当率が40%)であ り、投資の収益率(期待利益÷投資額)が8%だった場合は、投資 の収益率は、60%×8%=4.2%になります。 これが、留保利益で増加した資本の分の、税引き後利益率です。 この投資の収益率を加えた株価は、以下のように高くなります。 理論株価=(次期予想純利益×内部留保率60%) ÷(PER15倍基準の時の期待収益率6.7% -自己資本での増投資の収益率4.2%) 次期予想純益が、500億円だった場合以下のように計算されます。 ●理論株価=(次期予想純利益500億円×内部留保率60%) ÷(PER15倍基準の時の期待収益率6.7%-4.2%) =300億円÷期待収益率2.5%=1兆2000億円 ●次期予想純益が300億円、内部留保率(1-配当率)が60%の成長 企業で、投資の期待収益率が4.2%と想定される場合で、市場の平 均的なPERが15倍(期待収益率では6.7%)と想定されるときは、そ の会社の理論株価は、1兆2000億円になる。 これは次期予想PERでは、〔理論株価1兆2000億円÷年間の次期予想 純益300億円=40倍〕です。 投資が利益を増やしづけている成長企業の場合は、このように、市 場の平均的な、株価指数でのPER(現在は世界的に15倍付近)を大 きく上回る40倍という株価も、理論化できます。 (注)ユニクロの現在のPERは47.7倍ですから、利益の成長部分を 大きく見ても、高すぎます。 繰り返しますが、一般式で言うと、 理論株価=(次期予想純益×内部留保率) ÷(期待収益率-自己資本での増加投資の収益率)です。 (1)次期予想純益は、企業が経営計画書で出しています。 (2)税引き後の純利益の内部留保率も、経営計画書からとれます が、これがないときは、過去の配当率をもってきます。 (3)期待収益率は、市場の平均的なPERです。 (4)自己資本での増加投資の収益率は、その企業の当年度の留保 利益で自己資本がふえた場合、その増加資本がもたらす増加利益率 です。 このうち(4)の増加資本がもたらす増加利益率は、企業の長期経 営計画書にある将来純益の増加(または減少)から、計算できます。 エクセルの計算表作って入れておけば、各企業の、次期予想純益と、 自己資本での増加投資の収益率を変数として、多くの企業の理論株 価を、一瞬で計算することもできます。 実際の株価は、動的不均衡です、 この意味は、この理論株価を中心に、日々の売買よって決まります。 イメージとしては、「蚊やりの理論」です。均衡が理論株価です。 不均衡が実際の株価です。 誘蛾灯がある田園があります。蚊(資金量が少ない個人投資家)や、 蛾(資金量が多いヘッジファンド)は、その誘蛾灯の周囲に集まり、 飛び回っています。誘蛾灯が理論株価です。飛び回る蚊や蛾の動き が、実際の、刻々と動く株価です。(日経平均リアルタイムチャー ト) http://nikkei225jp.com/chart/ 実際の株価=理論株価±動的不均衡部分 理論株価は、ここで示した算式で予測できます。しかし、市場の人 気でランダムウォ-クをする動的不均衡の部分を、予測する方法は、 原理的に言ってありません。 現在の、日経平均のように、政府のPKO(Price Keeping Operation:価格上昇作戦)は、株価に対する期待収益率を低下 (=PERは上昇)させます。期待収益率は理論株価の分母です。こ れが小さくなると理論株価も上がります。 【後記:中国政府への提言】 中国の投資家が、今回の株価の下落問題から、政府の対策は万能で あると思う人が減って、(実態では下げている)不動産の下落の露 呈にも至れば、これは、中国発のリーマン危機になります。 バブルが全面崩壊した場合、株価も地価も、〔半値・8掛け・2割引 =32%〕の水準にまで下がって、底値になることが多いからです。 中国の株価の40%の下落は、理論株価で言うと、GDP(所得や需 要)の増加率が大きく低下して、自己資本での増加投資の収益率が マイナスになった状態を示しています。 中国政府、GDPの成長率の2%や3%への低下を認めて、大規模な、 4兆元(76兆円:GDPの約7%)の緊急補正予算を組んで財政支出を し、GDPを2年で7%引き上げるべきです。 これ以外の対策では、株価の下落は、防げません。ところが、GDP が実質で7%成長と言い続けているため、財政支出の拡大ができな い。そのディレンマ(矛盾に陥っていること)から、脱出できませ ん。 中国には、面子(めんつ)をもっとも重んじる文化がありますから、 政府も「誤りだった」とは言えないのでしょうか。ならば言わなく てもいい。財政出動することです。 http://www.mag2.com/m/P0000018.html 最近、送信したものの、目次です。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ <778号:完結編:低迷している金価格への見方と将来(3)> 2015年7月15日号 【目次】 1.金の生産と産金コスト 2.世界1になっている中国の金需要 3.金ETFの残高の減少とか、SPDR社の下限700トン 4.米国の、膨らみすぎた金融資産が、金融危機を生む 【後記】 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ <779号:2015年、中国経済のルイスの転換点(1)> 2015年7月22日号 【目次】 1.2007年からの中国企業の利益と株価 2.中国の8年間の株価とPER;その理由 3.不動産価格の停滞と、シャドーバンクの理財商品の問題 http://archive.mag2.com/0000048497/index.html
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