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中国・人民大会堂(「Thinkstock」より)
中国発の経済不安、世界的連鎖止まらず 中国、自国利益優先で「捨て身」対策の懸念
http://biz-journal.jp/2015/08/post_11259.html
2015.08.28 文=真壁昭夫/信州大学経済学部教授 Business Journal
8月11日、中国の中央銀行である人民銀行は人民元の基準値算出方法を変更し、市場実勢を反映しやすくすると決定した。この決定を受けて同日の基準値は前日から1.9%低い、1ドル=6.2298元に設定された。この決定は中国経済が、通貨切り下げが必要な状況に追い込まれているという懸念を高め、“質への逃避”が進んだ。
人民銀行の関係者からは、今回の決定は輸出促進を目指したものではないとの見解が出ている。切り下げの理由は人民元の国際化を進めることにあるという。一方、市場は景気支援を目的にしていると考えているようだ。
政府、中央銀行の考えがどうであれ、市場が中国経済への懸念を高め、アジア市場での通貨安競争を懸念し始めたことは無視できない。そのため、中国経済のリスクがこれまで以上に意識されやすくなっていることには注意が必要だ。
■景気減速に直面する中国
一般的に、人民元切り下げの最大の理由は、景気支援にあると考えられる。その理由は、中国が経済成長を支えられる基盤を確保できていないからだ。
中国の経済成長は輸出に支えられていたが、2008年のリーマンショック以降、世界的な景気後退を受けて輸出主導の成長は困難になった。そこで中国はインフラ投資などを積極的に進め、景気低迷を乗り切った。積極的に推進された投資は、成長率の低下とともに収益率の悪化に直面した。
特に13年5月には米国での早期利上げ懸念が高まったこともあり、一挙に中国の信用問題に対する懸念が高まった。この結果、地方政府の財政は悪化、国有銀行の保有する不良債権は増加し、投資に依存した開発を進めることは難しくなっている。
こうした動きを受けて足元では、中国の景気減速懸念が高まっている。7月の輸出は前年同期比で8.3%減少し、市場予想を下回った。6月以降の株価下落やディスインフレ(物価上昇率の減少)圧力を払しょくするためにも、景気への期待を高めることが重要だ。そのために中国は、人民元の切り下げに踏み切ったのだろう。
今回の措置は、景気を支えるためにできることはなんでも実行するという政府の意思表明とも考えられる。国有企業のリストラや鉄鋼業界などの再編が不可避となっている状況下、雇用や所得環境への懸念は高まりやすい。そのため、中国は今後も利下げや財政支出などの景気刺激策を積極的に発動する可能性がある。
■市場の反応
人民元の切り下げを受けて、8月11日のアジア時間では質への逃避が進んだ。通常、通貨安は輸出企業の採算改善期待を高め、それは景気にプラスに働くと期待される。しかし、今回の人民元切り下げは市場にマイナスの影響を与えた。投資家は、中国経済が中央銀行による人為的な通貨切り下げが必要な状況に追い込まれているという不安を急速に高めたのだろう。
ここで、改めて中国当局の見解を確認しておく。人民銀行の関係者は、通貨切り下げの理由は輸出支援ではないと述べている。むしろ、その理由は人民元の国際化にあるようだ。具体的には、IMFのSDR(特別引き出し権:IMFが設定する国際的な準備資産)の構成通貨に人民元が採用されることを念頭に置いているのだろう。一方、市場はこの考えよりも、景気支援を重要視しているようだ。
人民元の切り下げは、アジアの通貨安競争への懸念をも高めた。市場は中国の目的は輸出サポートにあるととらえ、各国が通貨安を望むのではないかと考えたようだ。それを表すかのように、インドネシアルピアなど国際収支が赤字であり、景況感が軟調な国の通貨が大きな売り圧力に直面した。この動きは、その後の欧州、米国時間における株価や資源国通貨の下落につながった。
中国の決定を受けて、米国の利上げが遅れるのではないかという観測が高まった点も慎重に考えたほうがよい。世界経済を支えてきた米国の金融政策が変わろうとしている時期だけに、市場はリスクに対して敏感になっている。そのため、中国の経済指標の下振れや追加的な政策対応は、アジアだけでなく米国の金利や株価等の動きを不安定にさせやすくなっていると考えられる。
■今後の展望
今後の金融市場を考える上で、ボラティリティ(資産価格の変動率)の動向には注意が必要だ。人民元の基準値が市場実勢をフォローしやすくなったことを受け、人民元は弱含みしやすい。その動きが中国の株価に影響を与え、海外市場にも波及するリスクは高まりやすい。輸出を拡大させ、景気を支えるためには理論上、通貨安は有利だ。そのため、中国政府にとって人民元の減価圧力を高めるインセンティブは働きやすい。
経済面を考えると、中国の行動は世界経済を不安定にする側面があると考えられる。中国は「シルクロード経済圏構想(一帯一路)」を提唱し、アジアから欧州に至るまでの地域に連携を呼びかけている。この構想の本質は、外需の囲い込みと独り占めだ。また中国はアジア新興国のインフラ開発資金を提供するAIIB(アジアインフラ投資銀行)を創設し、海外市場での中国系企業の事業基盤を拡大しようとしている。
リーマンショック後、米国が利下げや量的緩和策を実施したことに対して、新興国からは通貨安に拍車をかけ新興国への懸念をあおっているという批判が高まった。すでに中国は世界第2位の経済大国である。中国の内需拡大には中長期的な時間が必要だ。そのため、当面の成長は外需の取り込みに依存せざるを得ない。中国が自国の利害のみを考え、ドラスティックな行動をとる可能性がある。その分、通貨安競争の懸念も高まりやすい。
引き続き、中国は金融市場を管理し、成長への期待を支え、景気のハードランディングを回避しようとするだろう。それはバブルに支えられた高成長後に不可欠な不良債権処理などの先延ばしにすぎない。それだけに、中国経済の動きはより世界経済にインパクトを与えやすくなっていると考えられる。
(文=真壁昭夫/信州大学経済学部教授)
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