6. 2015年8月28日 14:17:31
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「2000万人の貧困」「社会的インパクト投資」が問う公と私の新しい関係
カネはいかに使うべきか 2015年8月28日(金)中川 雅之 日経ビジネスでは2015年3月23日号で特集「2000万人の貧困」を掲載した。日経ビジネスオンラインでは本誌特集に連動する形で連載記事を掲載しました(連載「2000万人の貧困」)。本誌とオンラインの記事に大幅な加筆をし、再構成した書籍『ニッポンの貧困 必要なのは「慈善」より「投資」』が発売されました。 日本社会に広く巣食う貧困の現状は、その対策も含めて日々変化しています。特集や連載では紹介できなかった視点やエピソードを、書籍の発売に合わせて掲載します。 2015年7月16日。兵庫県尼崎市の稲村和美市長は、会見場に居並ぶ記者らを前に、耳慣れない言葉を口にした。 「ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)」。市長はそれを「官民が連携して行う新しい投資モデル」として、若年層の就業支援に活用すると発表した。 SIBとは、様々な社会課題に対して行政と投資家、実行主体としてのNPOや民間団体が連携して取り組み、そこから得られる報酬を資金提供者に還元して、持続可能で効率的な課題解決事業を実現する手法のことだ。 尼崎市は若年層の就労支援にSIBの仕組みを導入した 投資家に金銭的メリットを提供することで、行政の社会保障費などに「投資」の視点を入れ、効果を最大化しようとする点に特徴がある。日本では2015年に、尼崎の例を含めて、試験的事業が3件始まったばかりだ。
同市が就業支援の対象としたのは、生活保護受給者のうち十分な就職活動ができない状況にある15〜39歳の若者。市は域内に約200人いるとした。 同市の生活保護率は、2015年6月時点で人口の4.13%。厚生労働省の被保護者調査(5月概数分)では全国の保護率は1.70%で、尼崎の割合は2.4倍に達する。稲村市長は会見で「とりわけ本市では、社会保障分野での予防的取組みが重要となっている。ここにしっかり投資することに価値があるということを、多くの人に理解してもらう」と述べた。 就業支援によって生活保護の受給者を減らし、納税者に回ってもらう。それによって社会全体が経済的利益を享受する。それがこの事業の眼目だ。 対象を比較的?い層に限っているのは、働ける可能性が高いというだけではなく、「納税側」に回ってもらうことによる?益が大きいからだ。事業に必要なコストは、初期段階は日本でSIBを主導的に進める日本財団(東京・港)が支出する。同財団の社会的投資推進室・工藤七子室長は、「今回はあくまでパイロット的な位置づけのため、財団が資金提供する。事業を通じて投資を集めてリターンを返す仕組みをしっかりと構築し、外部からの資金提供を募る」と言う。 事業の拡大に必要な資金を民間から募り、抑制できた行政コストの一部を資金提供者に還元する。それをインセンティブにして、より多くの資金を募り、社会課題の解決に使える資金を増やしていく。SIBとは、これまで行政が担うことが多かった「公共の利益」に対する支出の原資に、民間資金を取り込む仕組みだ。資金だけではなく、運営ノウハウも民間の知見を活用し、より効率的な「社会的事業」の確立と促進を目指す。 もう1つ、SIBの具体例を紹介する。「日本初のSIBモデル」と銘打った横須賀市の「養子縁組」の取り組みだ。今年4月に始まった。 日本財団と横須賀市、一般社団法人の「ベアホープ」(東京都東久留米市)が連携し、横須賀市在住で子供を養育する意思または環境がない妊娠中の女性と、全国の養親をマッチングする。 初年度は日本財団が資金提供し、ベアホープがマッチング事業を実行する。その後、効果を測定・評価したうえで、ほかの民間団体からの資金を募集。浮いた行政予算などから投資家に対してリターンを提供することを目指すというものだ。 社会に与える「インパクト」を測定 初年度は4組の養子縁組を目指している。日本財団や横須賀市の推計によると、親が生後間もなくから子供を養育しない場合、乳児院から児童養護施設を出るまでにかかる市の負担額は1人当たり約882万円。この事業を実施した場合、4人分で約3530万円の行政費用が浮く。ここから人件費やカウンセリング費といったマッチング事業の費用である約1800万円を引くと、残りは1700万円。この便益を、投資家や社会に還元することを目指す。 効果は厳密に測定する。厚労省の委託で指導的福祉従事者の育成を目指す日本社会事業大学(東京都清瀬市)と、社会的投資利益率などの定量評価を手掛けるNPO「SROIネットワークジャパン」の2つの外部機関が、社会的な便益計算や取り組み評価を担当する。 こうしたSIBモデルが通常の投資と大きく異なるのは、「投資効果」を金銭的な増減だけで考えないことと、中長期的な視点で捉える点にある。 SROIネットワークジャパンの代表理事で、SIBに詳しい慶応義塾大学大学院政策メディア研究科の伊藤健・特任助教は「費用便益分析という手法自体は以前からあったが、その適用範囲がインフラ建設などに限られてきた。それが、社会福祉の分野に採用され始めた」と指摘する。 近年は道路などの建設でも、金銭的な費用だけでなく、「時間がどれだけ節約できるか」「環境面でこれだけの効果がある」など、様々な側面の評価を入れることが標準になってきた。それがようやく社会福祉の分野にも適用され始めたのだという。 「社会福祉を効率的に」という考え方には、行政や支援団体から反発もある。効率を求めるあまり、必要な支援などが絞られ、これまで支援を受けてきた人が受けられなくなるといった懸念があるためだ。 だが投資を効率化せず、財政負担が重くなりすぎてもやがて必要な人に必要な支援が回らなくなる懸念は生じる。 伊藤助教は、「重要なのは、受益者の便益と費用対効果を両立てで見ることだ。これまでは『ニーズのあるところには必要なだけ流し込めばいい』と受益者の便益だけを考えてきた結果、費用だけがかさんできた。福祉の分野を、費用対効果だけで測ることが望ましくないのは当然。受益者の便益と社会的な投資効果を両立てで考え始めた他部門の知見を、社会福祉にも投入すべき」と話す。 G8で提唱 SIBは、「社会的インパクト投資」と呼ばれる投資に関する新たな考え方の具体的手法の1つだ。 社会的インパクト投資という考え方は、2010年頃から英米を中心に注目を集めるようになった。特に2013年の主要8カ国首脳会議(G8)で、英キャメロン首相が社会的インパクト投資の推進を提唱したことが、各国に専門組織が作られるきっかけとなった。 日本財団などがまとめたインパクト投資のパンフレットにはこうある。少々長いが引用する。 「従来、日本における公共サービスの提供は政府が担い、これを地域社会のさまざまな相互支援が補強してきた。しかし(中略)日本社会は変化しつつある。推定1600兆円の個人金融資産と、強い社会的使命を持った大企業の存在は、日本のインパクト投資市場に巨大なポテンシャルがあることを示している。社会が急速に高齢化し、財政赤字が膨れ上がるという状況の中で、政府主導で社会を支えていくシステムの見直しが必要であるという認識が広がっている昨今、インパクト投資は今後の法的・制度的枠組みの整備によって、日本社会においても大きな発展の機会がある」 投資というと、一般には資金提供者が経済的・金銭的なメリットを期待してするものというイメージがある。社会的インパクト投資でも、投資家が金銭的リターンを得る仕組みは重要になる。だがそれは、あくまで安定的に資金供給をしてもらうための動機作りだ。主眼はいかに限られた資金を有効に使って社会課題を解決するかにある。 日本財団の工藤室長は「民間の市場と、行政などの公共部門のいずれもが、カバーできない領域が、各国で大きくなっている。その間を埋める必要を感じた投資家が、社会的投資に関心を示している」と話す。 「社会的課題の解決」という言葉には慈善や福祉の領域という印象がある。 だが工藤室長によると欧米ではリーマンショック、日本では東日本大震災をきっかけに、「起業家精神のある金融機関出身者やビジネスエリートが『新たなお金の使い方』に関心を寄せるようになった」という。 日本では特に、金融機関で10年以上出し入れのない「休眠預金」の活用に注目が集まっている。超党派の議員連盟が、休眠預金を民間の福祉事業などに活用できるようにする法案を取りまとめている。生活困窮者や子供・若者の支援事業などに対する助成金や貸付金として活用できるようにする狙いだ。 預金者の払い戻し請求にはいつでも応じる体制を整えるが、払い戻し請求に応じても、年間800億円も発生するとされる休眠預金のうち、500億円ほどは活用できる見込みだ。実現すれば、民間が手掛ける社会的事業に対する投資が大きく広がる可能性がある。 限られていく社会的資源 「“最強外資”ゴールドマン・サックスが貧困に投資する理由」でも触れたが、問われているのは、単純化すれば「カネの使い方」にほかならない。 社会を“より良く”していくためにはカネが必要だ。 そのカネをどこから調達し、誰にどのように使わせるのか。成熟した先進諸国ではもしかすると、往々にして「無駄遣い」と指摘される既存の国家行政や利潤を徹底的に追求する従来型の民間企業は、単独では担い手にふさわしくないのかもしれない。 人口減社会になり、日本には自由に使えるカネだけでなく労働力も減っている。国の成長局面と異なり、社会的資源は限られており、無駄遣いは到底できない。 公的部門か民間かに関係なく、今ある資産をどう有効活用するのかという課題は、今後の日本社会につきまとう。 働いていない人が働くようにする方法はないのか。十分な教育を受けられない子供の能力を開発する仕組みは必要ないのか。高齢者や障害を持つ人が、少しでも周囲との関わりを増やし、社会に貢献しやすくなるコミュニティーは築けないのか。 こうしたことは、政治の問題であり、企業の問題でもあり、家庭の問題でもある。 貧困を生みだし続ければ、税金で社会を支える所得水準が高い人の負担はどんどん増していく。才能に恵まれた個人がどれほど稼いでも、生活水準を向上することは難しくなる。 どうすれば我々は、もう少しうまくカネを使えるようになるのか。社会的インパクト投資の広がりは、公的部門と私的部門の新しい関係性の可能性を問うている。 連載「2000万人の貧困」などを大幅加筆した書籍『ニッポンの貧困』が発売されました。是非、手に取ってお読みください。
このコラムについて 2000万人の貧困 日本を貧困が蝕んでいる。月に10.2万円未満で生活する人は日本に2000万人超と、後期高齢者よりも多い。これ以上見て見ぬふりを続ければ、国力の衰退を招き、ひいてはあなたの生活も脅かされる。 日経ビジネス3月23日号に掲載した特集には収められなかったエピソードやインタビューを通じて、複雑なこの問題を少しでも多面的に理解していただければ幸いだ。 http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/278874/082100001 http://diamond.jp/articles/-/77470 生活保護のリアル〜私たちの明日は? みわよしこ 【第21回】 2015年8月28日 みわよしこ [フリーランス・ライター] 批判の多い現金給付が 「子どもの貧困」解決に不可欠な理由
年末の2016年度予算編成に向けた動きが、活発化しはじめている。誰もが重要性を認識する、子どもの貧困問題を解決することに対して、必要な予算は確保されるだろうか? 今回は、子どもの貧困対策センター「あすのば」の政策提言と、夏休みに表面化する貧困状態の子どもの困難を中心にレポートする。 貧困世帯への「現金給付」に 込められたメッセージとは? 小河光治(おがわ・こうじ)さん 1965年、愛知県生まれ。交通遺児として、交通遺児育英会の奨学金で高校・明治大学に進学。大学在学中より、奨学金制度を交通遺児だけではなく災害・病気・自殺などの遺児にも適用する運動を開始し、代表を務めた。卒業後は現在の「あしなが育英会」専従となり、26年間勤務。福島大学大学院修士課程で、子どもの貧困対策の現状と課題についての研究も行う(2015年3月修了)。2015年6月より「一般財団法人あすのば」代表理事。「あすのば」オフィスのある赤坂にて。 Photo by Yoshiko Miwa 「ひとり親世帯や子どものいる貧困世帯を対象とした、児童扶養手当や就学援助などの現金給付には、『本来の目的ではない用途に使われる』という批判が多いです。生活保護もそうですけれども」 子どもの貧困対策センター「一般財団法人あすのば」で代表理事を務める小河光治さんは、子どもの貧困に対する経済的支援に関する現状から語り始めた。 「でも、その人たちに届けられる現金は、『あなたたちを見捨てていません』というメッセージなんです。その人たちが『私たち、見捨てられていないんだ』というメッセージを受け取りつづけることは、小さくても希望につながっていくんです、この効果は、非常に大きいと思っています」(小河さん) もちろん、「子どもの貧困」に関する問題の何もかもが、現金だけで解決するわけではない。人と人のつながり、関係と参加を続けられるコミュニティ、必要であれば専門家の関与、もちろん政策を実行する体制と人員。どの一つも、一定の経済的基盤を必要とはするけれども、経済的基盤が整備されただけでは実現しない。 「子どもの貧困を解決するためには、ソフト面とハード面の両方が必要です。でも基本は、そのために用意するお金の金額を、増やしていかなくちゃいけないというところにあります。だから、来年度の予算編成を視野に入れて、この7月、政策提言を行いました。政府が年末をメドに、子どもの貧困対策に関する政策パッケージを発表する方針を示していますし」(小河さん) 「あすのば」が7月29日に発表した「子どもの貧困対策『政策パッケージ』に関する提言」では、冒頭に「ひとり親世帯への対策」が挙げられている。内容は下記の通りだ(赤字も原文どおり)。 児童扶養手当の増額、とくに2人目以上の子どもへの加算の増額を 児童扶養手当や遺族年金などの子どもへの支給を20歳まで延長を 児童扶養手当の対象となる死別父子家庭に遺族基礎年金と同額・同条件の経済支援を 「現金給付の拡大こそが重要」というメッセージが伝わってくる。 その人が生きて、社会に居場所と役割を得ることを支えるためには、どうしても現金が必要だ。何らかの事情により、必要な金額を本人が自力で手にすることが不可能なのであれば、社会保障によって給付しなければ、その人は遠い将来の就労自立のための一歩さえ踏み出すことができない。 容易に忘れられてしまうこの事実を、「あすのば」は正面から主張している。往年のドラマ「家なき子」の「同情するなら金をくれ」というセリフが思い出される。 「子どもにハンデを負わせない!」 児童扶養手当が重要な理由 「あすのば」Webサイト。団体名は「明日の場」「私たち(us)」「子どもたち(nova=新星)」を掛けている。2015年6月に設立されたばかりだが、調査・研究、データとエビデンスに基づく政策提言、支援団体に対する中間支援、子どもたちに対する物心両面での直接支援など、幅広い活動を展開している 拡大画像表示 2015年4月2日、内閣府は「子どもの未来応援国民運動」発起人集会を開催した。この折、安部首相は「経済的に厳しい一人親家庭や多子世帯の自立を応援する必要がある」と表明し、「総合的な支援の方向性を夏にまとめ、年末をめどに財源確保を含めた政策パッケージを策定する方針」を示した。政策の具体化については潮崎厚労省に検討を指示し、「親の雇用や社会保障まで含めた総合的なサポートの必要性を強調」した(以上、時事ドットコム記事による)。 8月26日の読売新聞報道によれば、首相方針を受けて検討を行った厚労省は、26日午前、自民党厚労部会で2016年度予算の概算要求を示した。「安倍内閣が重視する格差是正をてこ入れする狙いから、計366億円を計上し、子どもの貧困やひとり親家庭への対策などを強化するのが特徴」である。内容は、親の就労促進と、就労する親を持つ子どもの居場所づくりが中心となっているようだ。 少なくとも報道からは、「現金給付を拡大する」という政府方針は、全く見えてこない。ひとり親、特にシングルマザーの雇用と収入が、すぐに大幅に改善される見込みがあるのでなければ、どれほど就労支援に注力したところで、ひとり親家庭の子どもの貧困の実体である「ひとり親の貧困」は解決されないであろう。 「ですから、間もなく発表されるであろう予算概算要求の政策パッケージの中に、取り入れていただけるものを、取り入れていただかなくては、と考えています。もちろん、私たち『あすのば』の提言にも、数多くの『本来、かくあるべき』のほとんどは、盛り込めていません。けれども現金給付に関しては、今すぐに多くの方のコンセンサスを得られそうで予算化される可能性の高いものに絞り込み、児童扶養手当と死別父子家庭への経済支援を訴えています」(小河さん) 2011年の東日本大震災で妻を失った父子世帯に対しては、遺族年金などの経済的支援がない。ふたり親がひとり親となり、就労収入をもたらすことと育児の負担の両方を父親一人で背負うことになれば、父親の職業機会や収入は減少する。母子世帯の母親たちが長年置かれてきている状況は、父親のものとなる可能性もあるのだ。このため、2014年4月より、妻と死別した夫も遺族年金が受給できるよう改正が行われたが、それ以前に死別した父子世帯は対象とされていない。 「とにかく、現金給付を予算化していただかないと、と考えています。小さくても予算化していただき、裾野を広げていかなくては。特に児童扶養手当は、今、一点突破しなくてはならない、極めて重要なポイントだと思っています」(小河さん) なぜ、生活保護ではないのだろうか? 「もちろん生活保護は、利用できる方には利用されるべきです。本来、利用できるはずの方々が、実際にはなかなか利用できない問題は、子どもの貧困問題の根っこにあると思っています」(小河さん) いわゆる「水際作戦」によって申請権を侵害されること、生活保護差別につながる可能性が高いことに加え、地方では「車か、生活保護か」の究極の選択を迫られる問題もある。車を手放すと、子どもの夜間の急病の際、病院にアクセスする手段が、事実上救急車のみになってしまうこともある。もちろん就労活動も困難になる。 「でも現状でいえば、生活保護を利用できるのに利用できていない方は、生活保護を利用している方よりも、ずっと大変な状況にある場合が少なくないわけです。生活保護の『使い勝手』を良くしていくことは、もちろん必要だと思っていますが、現在の社会構造の中では容易ではありません。長期的に取り組む必要があるでしょう。今、『待ったなし』で注力すべきなのは、生活保護を受けられていない方に対する支援ではないでしょうか。だから、その大きな柱の一つが児童扶養手当なんです」(小河さん) 現在、児童扶養手当は、19歳未満の1人目の子どもに対して満額(所得が年間65万円以下の場合)で月額4万2000円。2人目に対する加算は5000円、3人目に対しては3000円。子ども3人に対する満額は50000円となる。しばしば問題にされる「児童扶養手当をもらっているのに給食費を払わないシングルマザー」の問題の根源は、児童扶養手当を得ても世帯収入が低すぎるため、「住まいの家賃」など切実さの高い用途が優先されてしまうことにもある。 「子どもの2人目・3人目の加算は、上げる必要があります。1人目の子どもに対する基本の金額も、上げていく必要があります。現在は『18歳まで』の年齢要件を20歳まで延長すれば、大学や専門学校など、高等教育への進学を支援することにもなります……これだけでは不十分で、私立を含めた大学・専門学校の学費減免制度の充実、特に『学力優秀』な学生に限定しない、学力を問わない経済的支援の拡充も必要なのですが」(小河さん) 社会人としてスタートを切る時点で、余分なハンディキャップを負わせないことは、学力優秀であろうがなかろうが、すべての子どもに必要なことではないだろうか? 安心して預けられる場所がない… 貧困世帯以外でも深刻な“子の居場所” 2015年の夏休み期間、大阪府高槻市で2人の中学1年生が惨殺された事件の衝撃は、いまだ多くの方々の記憶に残っていることだろう。殺害された中1女子は、テントを購入し、しばしば家庭以外の場所で夜明かししていたと報道されている。殺害の直接の責任は、もちろん犯人にあるのだが、子どもに夜間の外出を許していた親を責める世論も強い。 「まず、貧困世帯に限らない普遍的な制度として、特に長期休暇中に安心して子どもを預けることのできる学童保育のようなものを、制度として整備する必要があると思います。親が一人でも二人でも、働いている親が、今、これだけたくさんいるんですから。制度を作ることは状況を大きく変えると思いますし、新たな雇用も創出できます」(小河さん) 2014年の日本では、共働き世帯が1077万世帯であったのに対し、専業主婦のいる世帯は720万世帯であった(労働政策研究・研修機構「専業主婦世帯数と共働き世帯数の推移」より)。しかし、共働きで子どもを育てることは容易になっているだろうか? 1990年代、仕事を続けながら子どもを持つことを考え、0歳児保育を行っている保育園の近くのアパートに入居してからパートナーを探した経験のある私から見ても、状況はそれほど改善されていると思えない。 「保育園から小学校に入る『小1の壁』、学童保育がなくなる『小4の壁』、それから長期休暇中の子どものケアは、働きながら子どもを育てる親にとって、ネックになっています」(小河さん) この認識から、「あすのば」政策提言にも、 「給食の全校実施と無償化をし、長期休暇中も給食などの提供を」 が含まれている。 「夏休み期間だけではなく、子どもが被害者となる事件は多いですから、やはり、親は心配になります。だから保育園並みに、少なくとも小学校の間は、夜の6時や7時まで『どこの小学校でも、子どもを預かってもらえる』という制度を作ることが、非常に大切だと思います」(小河さん) 高槻の事件で犠牲となったのは、中学生だった。大人から見れば、まだまだ危なっかしい面も多い子ども。でも本人は「もう、自分で判断して行動できる大人」と思いがちな年頃だ。 「できれば中学生に対しても、安心できるような場所があればと思います。それがないから、高槻の事件が起こったのではないでしょうか。たとえば中学校の学区それぞれに一つ、大変な状況の子どもたちが駆け込める『子どもステーション』のような場を、ちゃんと整備していく必要があると思います。それも、かつての役所的な『朝9時から夕方5時まで』ではなく、夜間でも受け入れられるような場が」(小河さん) どうすれば実現できるだろうか? 「既存の児童館や地域の図書館など、リソースはあります。地域の子どもたちのニーズに合わせ、地域のリソースに適した方法を工夫して組み合わせれば、新しい『ハコもの』を作る必要はありません。うまくすれば、新しい雇用も生み出せます」(小河さん) 親が働きやすくなるだけでも、経済効果は多大であろう。さらに、既存の図書館などの施設に「子どもの居場所」という役割が加わることで、既存のスタッフや業務の価値が再認識される機会ともなりそうだ。8月26日、鎌倉市図書館がツイッターで、 「もうすぐ二学期。学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい。マンガもライトノベルもあるよ。一日いても誰も何も言わないよ。9月から学校へ行くくらいなら死んじゃおうと思ったら、逃げ場所に図書館も思い出してね」 という感動的なメッセージを発し、話題となったばかりでもある。図書館員はしばしば、他職種・他機関との連携に関するプロフェッショナルでもある。 「今、これだけ『少子化』が問題にされ、対策も行われています。でも対策は、どちらかといえば、出生率を上げること・産みやすくすることが中心になっています。それも、もちろん大事です。でも、今いる子どもたちを、どんな状況であろうが、大人たちが責任を持って育てていき一人前にしていくことに、もっともっと、エネルギーをかけなくてはならないのではないでしょうか? 単なる貧困対策ではなく、子どもを社会が育てていくということを根付かせていかなくてはならないと思っています」(小河さん) 古いことわざの「親はなくとも子は育つ」であろうか? 「昔に戻すことはできません。『昔はよかった』ではなく、これから新しく、今の状況の中で、どうすれば社会全体で子どもを育てていけるかを考える必要があります……といっても、難しいことではありません。ちょっと、地域の中にある関わりに首を突っ込んでみるだけでいいんです。自分の子どもの友達のお父さんたちが集まったら、自動的に同世代の異業種交流会になります。会社の利害関係と関係ない、子どものことを思いながらの付き合いは、きっと新鮮ですよ。そんなところから、親の付属品でも社会の付属品でもない子どもという感覚、『子どもは私たちの未来そのもの』という意識が、少しずつでもできていくのではないでしょうか?」(小河さん) 次回は視点を変え、シングルマザーの子どもたちがどのように夏休みを過ごしたかを、大人たちの関わりとともにレポートする予定である。 http://diamond.jp/articles/-/77470
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