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アマゾン、人間の概念そのものを変形?買い物の「自由化」、予測出荷…
http://biz-journal.jp/2015/08/post_11244.html
2015.08.26 文=江上隆夫/ブランド戦略ディレクター Business Journal
不思議なことに50年、100年スパンで見ると未来への大きな流れは変わりません。しかし、その流れの過程では、小さく渦巻いたり、突然支流が生じたり、停滞したり、一筋縄ではいきません。広告やブランドという常に半歩先、一歩先を見る仕事を長年続け、コンセプト関連の著作もあるブランド戦略ディレクターの江上隆夫氏が、自身のアンテナに引っかかってくる未来の種を「短期、長期の本質的な視点」を織り交ぜながら解説します。
私は、かなり頻繁にアマゾンを利用します。ほぼ毎日アクセスして、週平均で2回程度は購入しています。といっても、購入する物の8〜9割は仕事で使う資料用の本です。あとはPCやプリンター関係の備品やインクなど。この原稿を書いている8月は、3週あまり過ぎた時点で本11冊、物品2品を購入しています。日本においては一般的なアマゾン利用者といってよいでしょう。
日本のアマゾンでは何が買えるか、つまりどのようなものまで買えるか、ご存じでしょうか。衣料品や家電、飲料などはよく知られていますが、野菜などの生鮮食品も購入でき、寿司やカレー、ピザの出前まで申し込めることをご存じない方も多いのではないでしょうか。
ちなみに、生鮮野菜はスーパーに並ぶほとんどのものが揃っています。野菜のページをのぞくと、「野菜セット」以外に39種類の品が並んでいます。まとめ買い商品が多いのが難点ですが、1品から買えるものも多々あります。
アマゾンは本拠地のアメリカで、2007年から「AmazonFresh」という生鮮食品の販売サービスを行っています。夜10時までにオーダーすれば翌朝6時に、朝10時までにオーダーすれば当日夕方6時には自宅で品物を受け取ることができます。まだ実験事業の意味合いが濃いのか、ロサンゼルスやサンフランシスコなどの西海岸のみで展開しています。
さらに、「Amazon Prime Air」というドローンで商品を配達する計画は話題になりました。早ければ今年中にも開始される予定です。アマゾンは、私たちが日常で必要とするほとんどものをインターネット経由で提供しようとしています。アマゾンが未来のウォルマートとなるかどうかは不明ですが、未来のショッピング体験の一部は、確実にアマゾンの考えているサービスの中にあるといってもいいでしょう。それは、欲しいものがすぐさま目の前に出現するといった、アラジンの魔法のランプのような世界です。
■「いつでも、どこでも、ショッピング」の始まり
私たちのショッピング体験の6〜7割は、食品・生鮮食品と石鹸や洗剤、歯ブラシや電球、スポンジなどの雑多な日用品の購買で占められています。いわば日常を維持していくための習慣的な買い物で埋め尽くされているといってよいでしょう。総務省の調査によると、日本の2014年度のエンゲル係数(家計に占める食費の割合)は24.3%で、これに日用品の3%前後を加えた27%強が、食品・日用品系の購買になるわけです。
これらのショッピング体験に「モノを買う喜び」がないとはいえませんが、おおよそは義務的なショッピングであり、生活していくことにかかわる「しなければならない買い物」です。私は家内の買い物に付き合いますし荷物も持ったりしますが、生来の面倒くさがり屋であるせいか、食品や日用品で重くなったスーパーの袋を持つことは、そんなにうれしいことではありません。
アマゾンの動きを見ていると、こうした買い物のうち生活必需品(たとえばトイレットペーパーや歯ブラシ、ミネラルウォーターなど)は早晩、限りなく定期宅配、オーダー宅配に近いかたちになっていくでしょう。それを証明するようなアマゾンのサービスが3月31日に発表されました。それは、「Amazon Dash Button」です。
これは、モノとしては小型の100円ライターくらいの大きさで、クリックできるボタンがついた物体です。ボタンごとに洗剤(Tide)やひげそり(Gillette)のブランドロゴがついています。ユーザーは、これを、洗剤であれば洗濯機のそばに、ひげそりであれば洗面所の鏡に貼りつけておき、洗剤がなくなりそうな時や、新しいひげそりを購入したいと思った時に、このロゴ入りのボタンを押すのです。すると、その日の夕方には洗剤やひげそりなどの日用品が自宅に届いています。
ユーザーは、「足りない」「欲しい」と思った時にボタンを押すだけでショッピングのすべての行為、つまり「必要性の認識」「注文」「支払い」「搬入」が終了してしまいます。「これを買わなきゃ」とメモをとる必要も、スマートフォンのアプリやPCを立ち上げてショッピングサイトにアクセスする必要さえありません。欲しいと思った時点で購入が完了するのです。この純粋なリピート購入においては、マーケティングの購買行動のプロセス「AIDMA」(Attention/注意、Interest/関心、Desire/欲求、Memory/記憶、Action/行動)や「AISAS」(Attention、Interest、Search/検索、Action、Share/評価を共有)がほとんど無意味化してしまいます。
Amazon Dash Buttonは、先に述べたAmazonFreshのサービス地域でしか、まだ実施されていませんが、今後さらに進化すると洗剤そのものが洗剤をオーダーする、あるいはカミソリ自身が替え刃をオーダーする世界に近づきます。「予測出荷」という手法もアマゾンは特許取得しています。これは、つまり「モノのインターネット化」がショッピングの未来を握っているということにほかなりません。食品・日用品においては、マーケティングも大きく姿を変えざるを得ないでしょう。
■すべてのショッピングは自動化していくのか?
炊事、洗濯、お風呂、掃除……数十年前の昭和の時代まで、日常生活そのものを成立させるのがとても大変でした。多くの主婦が専業主婦であり続けたのは、家事労働が大変な作業だったからでしょう。私たち人間は、こうした作業をなくす方向にすべての物事を進化させてきています。時間を短縮し、手間を圧縮する。家事や煩雑な作業は、個々の進化のスピードと方向は違うものの、「全自動化」という目的地へ向かっています。
その自動化できない家事のひとつの聖地がショッピングでした。しかし、これも個人の購買行動のデータ化とモノのインターネット化によって自動化へと一歩踏み出しています。ショッピングの未来、中でも日用品においては「自動化」がキーワードなのです。
ただ、よく考えてみると昔の日本では「人を使った買い物の自動化」は行われていたことに気づきます。アニメ「サザエさん」(フジテレビ系)に登場する「三河屋さん」がそうです。つまり「御用聞き」です。三河屋さんはサザエさん宅の家族構成や収入、好みや暮らし具合などを把握して、そろそろ醤油が切れている頃じゃないかと思えば訪問して勝手口で注文を取ります。そう考えると、モノがインターネット化した社会での御用聞きの一種がAmazon Dash Buttonであることに気づきます。
■こんなサービスがあったら?
アマゾンの動きからは、色々なビジネスのアイデアが考えらます。
たとえば、ドミノ・ピザのように高架下などに巨大な冷凍冷蔵庫を備えた倉庫を構えた配達専門の会員制スーパー。スマホのアプリ経由や電話でオーダーされた生鮮食品や日用品を、契約した家々にバイクで30分以内に届けるサービス。立地や店舗、ディスプレイや販売員に余計な資金を投下せずに済むので、価格を抑えながら24時間営業が可能です。宅配便のように簡易的な冷凍冷蔵庫を玄関前などに設置できれば、留守の間に配達してもらい、帰宅したときに受け取ることもできます。現時点で集配を行っているビジネスならば、いまのリソースとノウハウを生かすかたちでサービスをスタートさせることが可能です。
あるいは、宅配便のトラックの一部に日用品などの商品を置かせてもらい、地域内からオーダーがあれば荷物を届ける道筋で配達していくサービス。この場合、トラックは移動する巡回型の倉庫になります。企業が自分たちのブランド専用のボタンを作って配布し、製品の自動&定期購入につなげることもできます。
ただ、私が知らないだけで、もうすでに世界のどこかで上記のようなサービスは始まっているかもしれません。
■新しいビジネスがショッピングの未来をつくる
ショッピング、すなわちモノを買う行為は、日用必需品のように必要に迫られ買わなければならないから買う「マスト(must)型ショッピング」と、趣味の品や嗜好品を買うときの欲しいから買う「ウォンツ(want)型ショッピング」の2つに分けられます。もちろん、これらの2つの型は明確、厳密に分かれるわけでもなく、マスト型にも趣味、嗜好的なものは含まれるし、ウォンツ型にも迫られて買う側面はあるでしょう。
今回、取り上げたのはマスト型ですが、ウォンツ型も大きく姿を変えるでしょう。このウォンツ型は本連載前回記事『誰でも簡単に家や自動車がつくれる?無償でも喜んで働く人々が生む技術革新』で触れた「生産消費者」という、欲しいものを自らつくるタイプの購買行動が増えてくると考えています。
日本でも、カスタムオーダーのアパレルショッピングサイト「LaFabric」や、月額6800円でスタイリングした洋服が毎月届くサービス「airCloset」など、新しいかたちのショッピング(レンタル)が始まっています。今はまだマイナーな存在ですが、必ずブレイクするサービスが現れるでしょう。
時間と距離は限りなく短く、手間は限りなく掛からない。ショッピングのすべてはそんな方向に進化しています。次に何が現れるのか、個人的に本当に楽しみです。
(文=江上隆夫/ブランド戦略ディレクター)
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