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市場の混乱はいずれ収束、怖いのはその後の“大嵐”
http://diamond.jp/articles/-/77108
2015年8月25日 真壁昭夫 [信州大学教授] ダイヤモンド・オンライン
■投資家の不安心理が増幅 一定期間はリスクオフが続く
足元で、金融市場が荒れた展開になっている。世界の主要株式市場が軒並み急落する一方、為替市場では今まで強含みの展開を続けてきたドルが売られ、円やユーロが買い戻された。
今回の金融市場の動きは、大手投資家中心にリスクを軽減する、いわゆるリスクオフの動きが増幅されていると見ると分かりやすい。その背景には、中国経済の減速が、市場関係者の予想をはるかに上回るペースで鮮明化したことがある。
中国経済の急速な減速で、同国向けの輸出依存度の高いアジア諸国や、資源輸出の割合の高いオーストラリア、ブラジルなどの諸国の経済に、大きなマイナスの影響が波及する。また、原油や銅などの価格は軒並み大幅下落した。
そうした状況下では、投資家が「世界経済はどうなるのだろう」と不安を抱くのは当たり前だ。投資家の不安心理が増幅されると、誰でも「価格変動性の高い株式や、為替などのリスク資産を減らしておきたい」という行動に走る。それがリスクオフだ。
投資家は、できるだけ利益を確定させる一方、保有する持ち高=ポジションから、価格変動性の高いリスク資産を減らして、米国債などの安全資産と言われる資産の割合を増やすのである。
今回のように大手投資家のリスクオフが本格化する場合、一定期間、そうした動きが続くことを覚悟した方がよい。彼らのポジションはかなり多額であることを考えると、リスクオフを実行するためには相応の時間がかかる。
また、今回の混乱の主な原因となった中国経済に関しては、早晩、政府の景気対策が下ると予想されるものの、その効果を見極めるためには、少なくとも数ヵ月は必要だ。
■引き金となった中国経済は数ヵ月以内に改善に向かうが…
足元の経済・金融市場の動向を一言で表現すると、「恐れていたチャイナリスクが顕在化した」ということだ。
中国の経済状況は、昨年の年央以降かなり減速していた。リーマンショック後に政府が行った4兆元の景気対策の結果、設備投資が活発化し、鉄鋼やセメントなどの在来産業分野を中心に供給能力が大きく高まった。
ところが、その生産能力に見合う需要が見当たらない。過剰生産能力を抱えることになる。それは、企業間の取引価格を示す卸売物価指数が、40ヵ月以上も連続してマイナスに落ち込んでいることを見ても明らかだ。
中国政府は、今までそうした経済状況をできる限り糊塗してきた。しかし、ここへ来て株価が急落したこともあり、隠し続けられる範囲を超えた。人民元の実質的な切り下げを行ったことも、政府の慌てぶりを露呈する事例と言える。
タイミングが悪く天津の爆発事故が起きたことで、国民の間では政府の安全対策などに不満が高まっている。そうした不満の矛先が共産党政権に向かないためにも、これから習政権はなりふり構わず景気対策を実行するだろう。
恐らく、そうした景気対策の効果もあり、これから数ヵ月以内に中国の経済状況は改善に向かうと見る。同国は共産党の一党独裁体制であり、意思決定のプロセスは手短に済む。また、財政状況は主要先進国の中では相対的に良好であり、思い切った対策の実行が可能だ。
ただ、短期的な景気対策で、経済構造の転換など本源的な問題を解決することはできない。一人っ子政策の影響もあり人口構成が崩れ、労働力人口の減少が始まる中国の経済は、いずれ大きな“壁”に当たることになると見る。
■鍵を握るのは米国の景気 欧州や新興国のリスクも無視できない
向こう数ヵ月から1年の短いスパンで見ると、世界経済の先行きの鍵を握るのは米国だ。米国経済は今のところ堅調な展開を示しており、世界の牽引役を果たしている。
問題は、同国の景気回復基調がどこまで続くかだ。2009年夏場から回復が始まった米国景気は、既に6年以上も上昇傾向を辿ってきた。そのアップトレンドがいつまで持続できるか。
足元ではドル高・原油安の影響などもあり、米国の企業業績にやや影が差し始めている。企業業績が伸び悩むようだと、雇用にもマイナスの効果が出ることが考えられる。雇用改善のペースが落ちると、個人消費の拡大も期待が難しくなるかもしれない。
しかも、今年中にFRBは利上げを実施するという。金利引き上げは、景気にブレーキをかけることになりかねない。そうしたマイナスの要因がある中で、米国経済の回復の足取りがしっかりしたままでいられるか不安な点もある。
中国や米国の他に、ギリシャ問題を抱えるユーロ圏経済や景気減速に苦しむ新興国などに関しても無視できないリスクは多い。
ギリシャ問題は、一時の切迫感はないものの、これで問題のすべてが片付いたわけではない。同国では、チプラス首相の辞任によって総選挙が実施される予定だ。その選挙で政権基盤がしっかりすればよいのだが、政治情勢が揺らぐようだと、ギリシャ問題の再燃の懸念もある。
また、財政統一などの根本的な課題を抱えるユーロ圏には、これからも様々な問題が出てくるだろう。問題解決に時間がかかったりすると、ユーロ圏の経済の落ち込みが世界経済の足を引っ張ることも考えられる。
景気減速に爆発事件などが重なっている一部の新興国経済は、立ち直りには時間がかかる。それらの中には中国の影響が大きい国が多く、中国経済の立ち直りが必要条件になる。
■リスクオフは長期間は続かない ただしその後にさらに大きな嵐が来る
当面、大手投資家のリスクオフの動きは続くだろうが、長期間継続することは考え難い。彼らは資金運用を行うことによって、最終投資家から手数料を受ける仕組みになっている。いつまでも何もしないわけにはいかない。
メルクマールとなる中国経済問題が一段落つけば、再び、リスク資産を積み上げる=リスクオンの行動を取る。中国政府が景気対策を打つことを前提に、早ければ1、2週間、遅くとも1、2ヵ月の間に彼らのオペレーションが本格的に始まると見る。そのため、金融市場の混乱は、それ程の時間がかからずに正常化することが想定される。
ただし、それは長い目では“嵐の前の静けさ”と見るべきだ。その理由は中国経済だ。景気対策の効果で一時的に経済が浮揚するかもしれないが、中国が抱える根本的な問題の解決ができるわけではない。
中国経済が抱える、人口構成の歪みによる労働人口の減少への対処や国内の消費基盤の拡大、そして社会保障制度の拡充など、大きな課題はどう考えてもすぐには目途がつかない。さらには、共産党一党独裁のシステム、民主化の遅れなど対応すべき問題は山積している。
それらの問題を、現在の共産党政権が本当に解決できるだろうか。それはかなり難しい。最近の株式市場動向や天津の爆発事故の事例を見ると、共産党政権のコントロールの及ぶ範囲が限定されていることが分かる。
恐らく、それは共産党政権も十分に認識しているはずだ。習政権とすれば、それらの問題に対し、時間をかけて少しずつ解決の道を探りたいというのが本音だろう。しかし、問題の緊急性は政権のタイムスパンと相いれない可能性が高い。
そうすると、中国では、いずれどこかの段階で国民の不満が暴発することも考えられる。あるいは、シャードーバンキングの矛盾などを考えると、経済がさらに困難な状況に追い込まれる懸念がある。
そうした中国の困難と、米国の景気下落のタイミングが重なると、世界経済には大きな下向きの力学が働くことになるかもしれない。その場合には、実体経済はさらに落ち込み、世界の金融市場も今回以上の混乱の渦に巻き込まれるだろう。
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