1. 2015年8月27日 19:07:57
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アングル:中国失速でドイツの退潮鮮明、対中輸出の強さ裏目に[ベルリン 26日 ロイター] - 中国への輸出は長年、ドイツ経済の力強さの源となってきた。ところが最近では、中国経済の急激な鈍化を受けて、対中輸出への依存度の高さが逆にドイツのリスクとなっている。 投資家の間では、対中輸出以外にドイツ国内に有望な成長源があるのか、懐疑的な見方も広がっている。 有力な自動車メーカーやエンジニアリング会社を抱えるドイツの対中輸出は、欧州連合(EU)加盟国の中で首位を独走してきた。 それが今では、ドイツ企業の積極的な中国進出が裏目に出て、これまで利益の源だったのが、逆にコストにつながりつつあるという。 ジャーマン・マーシャル・ファンドのハンス・クンナニ氏は「ドイツの中国との『特別な関係』が弱まっていることは、ますます明白になっている」と指摘。「ドイツ企業の間では、中国へのエクスポージャーを拡大し過ぎたとの認識が広がりつつある」との見方を示した。 ドイツの中国との経済的な結びつきは、他の欧州諸国よりもはるかに強固なものだ。自動車メーカーを中心に、ドイツ企業はライバル諸国に先駆けて中国に進出し、より積極的な事業拡大を続けてきた。その結果、中国は今や、ドイツの輸出企業にとって主な成長の源になった。 ドイツ連邦統計局のデータによると、ドイツの輸出に占める中国の比率は、2007年には3.1%だったが、それが14年には6.6%に上昇して4位につけた。なお、14年のシェア1位は9.0%のフランスで、2位は8.5%の米国、3位は7.4%の英国となっている。 しかし、ドイツの対中輸出は今年、鈍化傾向が鮮明だ。ドイツ商工会議所のデータによると、ドイツの対中輸出は今年上半期は0.8%増と、債務危機に苦しむギリシャへの輸出と同じ伸びにとどまっている。 <エンジニアリング輸出の失速鮮明> なかでも、ドイツの対中輸出品目で自動車に次ぐ2位のエンジニアリングは、上期の対中輸出が4.9%減と、失速が鮮明になっている。 ティッセンクルップ(TKAG.DE)などのドイツの産業グループにとって、中国市場の重要性は計り知れないほどだ。中国は昨年、ティッセンクルップ・エレベーターの売上高の16%を占めたという。 ドイツの有力ブランドはすでに、中国失速の影響を肌で感じ始めている。自動車メーカーのフォルクスワーゲン(VW)(VOWG_p.DE)は先月、世界の販売台数予想を下方修正。その際、これまで2桁成長が続いていた中国市場での販売について、停滞を予想していると明言した。 ドイツ政府は、中国経済鈍化のドイツへの影響は「限定的」と強調しており、1.8%としている今年の成長率予想をなお堅持している。 <低投資がドイツ経済のアキレス腱> 輸出はなお、ドイツ経済の成長の主なけん引役だ。第2・四半期のドイツの輸出は前期比2.2%増と、2011年第1・四半期以来の高い伸びを記録。国内総生産(GDP)の前期比0.4%増に寄与した。 ただ、中国を筆頭に世界経済が不透明感を増すなかで、ドイツは輸出偏重を改め、国内への投資に目を向けるべきときなのかもしれない。 メルカトル中国研究センターの経済政策専門家、サンドラ・ヒープ氏は「ドイツは輸出への比重を下げ、投資により重きを置くべきだ」と指摘。「中国が減速するなか、これは急務になっている」と話す。 第2・四半期の独GDPの内訳を見ると、投資の弱さが分かる。総設備投資は前期比で減少し、成長率を0.1%ポイント押し下げた。 有力シンクタンク、ドイツ経済研究所(DIW)のマルセル・フラッシャー所長は「低調な投資がドイツ経済のアキレス腱」と述べた。 *見出しを修正しました。 (Paul Carrel記者 翻訳:吉川彩 編集:吉瀬邦彦) ギリシャ支援交渉、期限はない=独財務省報道官 米製造業PMI1年10カ月ぶり低水準、ハト派主張強まるとの声も テニス=全米オープン、錦織は自己最高の第4シード 独政府、ショイブレ財務相の「辞任検討」報道を否定 アングル:中国株買いに走る一部外国勢、調整後の上昇見据える http://jp.reuters.com/article/2015/08/27/china-economy-germany-idJPKCN0QW0J120150827?sp=true 「欧州の覇権国」となったドイツの苦悩 ギリシャ危機で大きく広がったEUの亀裂 2015年8月27日(木)熊谷 徹 ギリシャ政府は8月20日までに、欧州中央銀行(ECB)に対する債務32億ユーロ(約4480億円)を返済した。ドイツをはじめとするユーロ圏加盟国が7月中旬に、総額860億ユーロ(約12兆400億円)をギリシャに融資する第3次救済パッケージを了承したからである。ギリシャ救済について懐疑的なドイツ連邦議会でも、半数を超える議員たちが独首相アンゲラ・メルケルの要請を受け入れ、8月19日の議決で、救援パッケージにドイツが参加することにゴーサインを送った。 ギリシャ危機は終わっていない 今年の夏、ギリシャは救われた。しかしその救済は一時的なものにすぎない。ギリシャ危機は、同じことの繰り返しである。2009年から欧州でギリシャ債務危機を観察してきた私は、深い既視感を抱いている。 ギリシャという患者の病は完治していない。同国は、薬の投与によって一時的に危篤状態を脱したにすぎない。医師団と患者は、今後も数10年にわたり病との闘いを続けなくてはならない。 なぜギリシャ危機は「同じことの繰り返し」なのか。その一例を挙げよう。2010年の第1次、2012年の第2次救援パッケージで、欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)は、ギリシャに2400億ユーロ(約33兆6000億円)の融資を決定した。その一部は同国に対して支払われている。 しかも2012年には、銀行など民間の機関投資家に対し、ギリシャに対する債権の一部、1070億ユーロ(約14兆9800億円)を放棄させた。いわゆるヘアカット(債務減免)によって、借金の一部を棒引きにしてあげたのである。 だがこれらの措置も、今年夏にギリシャが債務不履行とユーロ圏脱退の瀬戸際に追い込まれるのを防ぐことはできなかった。 2011年には、ギリシャの債務比率(国内総生産=GDPに対する累積公的債務残高の比率)は171.3%だった。EUとIMFは、ヘアカットによって債務比率を2013年以降引き下げることをめざしていた。この値は2012年には156.9%に下がったものの、不況によりGDPの減少が深刻化したため、2014年には177.1%へ上昇した。巨額の融資もヘアカットも、期待された効果を生まなかったのだ。 IMFのアナリストの中には、「ギリシャの債務比率は今後2年間で200%に達する」という悲観的な見方を打ち出す者もいる。 EUとIMFの緊縮策を受け入れたにもかかわらず、経済状況は本格的には好転しない。ギリシャの有権者たちはそのことについて不満を爆発させ、今年1月の総選挙でEUとIMFに批判的な勢力を、政権の座に据えた。緊縮策を拒否することを公約としたチプラス政権の誕生によって、EU・IMFとギリシャ政府の間の交渉は、2010〜2014年までの4年間以上に困難になり、両者の関係は物別れ寸前の状態まで悪化した。 EU・IMF医師団の、ユーロ危機に対する特効薬は、緊急融資に緊縮策と経済改革を組み合わせたパッケージだ。この治療薬は、スペイン、アイルランド、ポルトガルに対しては効いた。これらの国々は、財政の建て直しに成功し、自力で国債を発行してマーケットから資金を調達する能力を回復した。 だがEU・IMFの医師たちはギリシャが、スペイン、アイルランド、ポルトガルとは違う体質を持つ患者であることを見落としていた。ギリシャは、効率的な徴税制度や経済統計制度、土地登記簿など欧州では当たり前の経済インフラを欠き、農業と観光以外には産業らしい産業を持たない。品質が高く、輸出競争力が高い工業製品もない。同国政府は、2010年まで自国の公務員の数すら知らなかった。 EU・IMF医師団は、そのことに配慮することなく、スペイン、アイルランド、ポルトガルと同じ強い薬をギリシャに打ち続けた。その結果、強い副作用によって患者の容態は悪化し、患者は医師団への協力を拒むようになった。ギリシャに対して機械的に緊縮策を押し付けた結果、「チプラス政権」という、債権団にとってのモンスターを生んだことは、EU・IMF医師団の大きな失敗である。 私は仕事でギリシャを10回以上訪れており、ギリシャ人の知り合いもいる。彼らは通常きわめて親切であり、外国から来た訪問者を手厚くもてなす。自分の感情を殺しても、客人の都合を優先しようとする。彼らはドイツ人と異なり、法律や規則よりも人間関係や感情を重視する。 だが彼らは忍耐の限度を超えると、一気に感情的になり大爆発する。ギリシャ人がチプラス政権を選んだのは、4年間にわたって抑圧されていた感情が噴出したことを示している。2010年以来のギリシャ政府の態度には、このメンタリティーが反映していることを強く感じる。今年2月以来ギリシャ危機がエスカレートした原因の1つは、EU・IMF医師団がこの国民性を無視したことにある。EUの事実上のリーダーであるドイツにも、責任の一端がある。 第2のヘアカットをめぐるドイツとIMFの対立 現在、債権者側の足並みも乱れている。特にドイツ政府とIMFの間には緊迫した空気が漂っている。ギリシャに多額の融資を行った結果、今年6月末にギリシャが債務の延滞に陥ったことについて、IMF内部で批判が強まっているのだ。今年8月の時点でIMFが最も多額の金を貸している国は、ギリシャだ。そして、一時的とはいえ欧州の国家がIMFに対する債務を期日までに返済しなかった。これは歴史上初めての事態だ。これまで債務の支払いを延滞するのはソマリアなどアフリカの国ばかりだった。 IMFは、債務返済能力がない国に対し金を貸すことを内部規則によって禁じられている。IMFのアナリストの中には、第1次・第2次救援パッケージがギリシャ経済を本格的に回復させなかったことから、「ギリシャには債務返済能力がないのではないか」と指摘する者が増えているのだ。 このためIMF専務理事のクリスティーヌ・ラガルドは、EUに対して、対ギリシャ債権の一部を放棄する「第2次ヘアカット」を行うよう求めている。だがドイツ政府はこの要求を頑としてはねのけている。その理由は、第2次ヘアカットの性質が、2012年のヘアカットと全く異なるからだ。 2012年のヘアカットは、銀行や保険会社など民間の債権者に借金の棒引きをさせるものだった。しかしIMFが今回求めている債務減免を実施した場合、ユーロ圏加盟国の納税者に損失が生じる。ドイツ政府は、公的債権のヘアカットが、EUの憲法に相当するリスボン条約に違反すると考えている。リスボン条約の中の「No Bail out(非救済)」条項が、欧州通貨同盟に属する国が、他国の債務の肩代わりをすることを禁じているからだ。 これまでメルケル政権は、「ギリシャに対する巨額の支援は、融資なので債務の肩代わりにはならない」と国内の保守派や経済学者に対して説明してきた。だがIMFが要求する公的債権のヘアカットは、ギリシャの債務をドイツなど他国の納税者が肩代わりすることを意味する。つまり、ドイツなどユーロ圏諸国は、リスボン条約に初めて違反することになる。このため、ドイツ政府はIMFの要求を受け入れることができないのだ。 IMFは、将来ギリシャへの救援パッケージに参加するかどうかについて、現在態度を保留している。もしもドイツなどユーロ圏加盟国がヘアカットを拒否した場合、IMFが将来ギリシャへの支援に加わらない可能性もある。これは、ユーロ圏加盟国の負担が増加することを意味する。 メルケル政権は、IMFがギリシャ支援に参加し続けることを強く求めてきた。その理由は、ギリシャ支援の負担の一部をIMFという強力な機関に背負ってもらうためだけではない。米国に本拠を持つIMFがギリシャとの交渉に加わることで、フランスやイタリアがギリシャとの間で「政治的な妥協」を行うことを防ぐことができるからだ。 フランスやイタリアは、ドイツよりもギリシャに対して好意的だった。このため、フランスやイタリアが、ギリシャと独自に交渉し、ドイツの有権者には受け入れられないような、緩い条件で融資を与えようとする可能性がゼロではない。メルケルは、IMFという第三者的な機関が交渉に加わることで、一部の欧州諸国がギリシャに甘い態度をとることを防げると考えているのだ。実際、ギリシャ首相(当時)のチプラスは、EU内でフランスなどと「債務危機の政治決着」を図るために、IMFが債権団から抜けることを求めていた。 IMFが要求する「第2のヘアカット」は、メルケルにとって大きな悩みの種であり、今年の秋以降、大西洋をはさんで激しい論争を巻き起こすだろう。 破壊された欧州の連帯と信頼感 ギリシャ危機の最大の犠牲者は、欧州の連帯である。今年2月から続いた債権団とギリシャ政府の激しい対立は、これまで両者の間にかすかに残っていた信頼感の最後のかけらを粉砕した。特にチプラスが6月27日、他の欧州諸国の首脳に事前に通告することなしに、国民投票の実施を宣言したことは、メルケルをはじめとする他国の首脳たちを唖然とさせた。ギリシャに対して好意的だった欧州委員会委員長のユンケルでさえ、この行為には「だまされたような気がする」と漏らしている。チプラスはブリュッセルで各国首脳と話している時には、「緊縮策についてギリシャの有権者に投票させる」という重大な決定について一言も語らなかったからだ。 IMFのラガルドは、ギリシャ政府の態度について「きちんとした対話が成立していない。もう少し大人らしい人々と交渉したい」とすら述べている。主権国家の首脳に対する侮辱として、これ以上の言葉はない。 つまり、ギリシャと他の欧州諸国の政府は、今年の夏の時点でもはや正常な意志の疎通ができていなかったのだ。これは、欧州統合の基盤である信頼感が崩壊していたことを意味する。 実際、欧州で観察していると、今年の夏のギリシャ救済について、深刻なパーセプション・ギャップ(認識の違い)が広がっていることを強く感じる。これは、欧州通貨同盟、そしてEUの将来にとって危険な兆候だ。 まずドイツの政治家だけでなく国民の大半は、「ギリシャが約束通りに緊縮策を実行するかどうか、全く信用できない」と考えている。その理由は、チプラス政権以前の、比較的EUに対して協力的だった政権でさえ、緊縮策を実行できなかったのに、EUに敵対的なチプラス政権が緊縮策を実行するとは到底考えられないからだ。 ドイツ人が抱く強い不信感 特にチプラス政権が国民投票を行ってから、ドイツ人の不信感はさらに高まった。ドイツ経済研究所(DIW)が1700人のドイツ市民を対象に行なった世論調査によると、ギリシャ危機に関心が高い回答者の間で、「ギリシャはユーロ圏から脱退するべきだ」と回答した人の比率は、国民投票前には50%だったが、投票後は60%に増えた。 ギリシャでは、緊縮策や経済改革に関する法案が議会で可決されても、労働組合や職能団体の抵抗に遭って実現しないことが多い。 そもそも、チプラス政権は「EUが押しつけた緊縮策と経済改革を拒否する」ことを公約して生まれた。7月6日の国民投票で、61%が緊縮策に反対したことが示すように、ギリシャ国民のEUに対する不信感は根強い。 国民投票の直後、ドイツ連邦財務省が、ギリシャ政府に対し5年間にわたってユーロ圏から脱退することを勧める計画を検討していることがメディアにリークされた。チプラス政権への圧力を高めるためである。メルケルは、この計画についてコメントを避けたが、ドイツがGREXIT(ギリシャのユーロ圏脱退)に関するプランを持っていることが明らかにされたのは、初めてのことだ。 この時点でチプラスは、債権団がGREXITを具体的なオプションの1つとして検討していることを認識。彼はギリシャの銀行が倒産の危機に陥り、国家破綻の危険が高まったために、土壇場でEUの緊縮策を受け入れ、第3次救援パッケージを成立させた。 現在のところ、チプラスはEUに約束した緊縮策と経済改革を実行する素振りを見せている。彼が首相を辞職し、9月20日に総選挙を行う理由は、急進左派連合の中で緊縮策に反対する左派勢力を、議員団から排除するためである。このため、急進左派連合の中で緊縮策に反対する勢力が同党を離れて、新しい政党を作ることは確実だ。一方、チプラスは「EUに最後まで抵抗し、しかもギリシャを破綻とユーロ圏脱退の危機から救った功労者」として、約60%の支持率を保っている。彼が9月20日の総選挙で勝つ可能性は高い。 だがチプラスの今年2月以降の発言と、その土壇場での豹変ぶりに、大半のドイツ人が不信感を抱くのは無理もない。つまり多くのドイツ人は、「チプラスは、緊縮策を本気で実行する気がないのに、第3次救援パッケージの融資が欲しいために、表面的に口約束をしたのではないか」という疑いを抱いているのだ。 したがってドイツでは、「債権国側は大幅に譲歩して、第3次救援パッケージに同意した」という意見が強い。 8月19日、第3次救援パッケージを承認するかどうかについてドイツ連邦議会で行われた議決でも、メルケルが率いるキリスト教民主同盟・社会同盟の議員団の5分の1にあたる63人が、ギリシャ救援に反対した。賛成した議員の中にも、院内総務が「ギリシャ救援に反対票を投じた議員は、予算委員会や外務委員会などに出席させない」という制裁措置をちらつかせたために、いやいや賛成した者が多いといわれる。 ドイツ側には、今回の第3次救援パッケージについて、「ギリシャをユーロ圏から脱退させない」という政治的な目的が、経済的な合理性をおしのけて、再びギリシャを救済したという、後味の悪さが残っている。ドイツ人は、「2010年以来の経験を考えると、ギリシャが約束通りに緊縮策と経済改革を実行する可能性は低い」という事実に、目をつぶったのだ。 今年6月には、ドイツの経済学者らは「ギリシャが破綻してユーロ圏を離脱しても、イタリアやスペインなどに飛び火する危険は、比較的少ない」と予測していた。 だがEUの事実上のリーダーであるメルケルは、ギリシャがユーロ圏を脱退することで、欧州統合プロジェクトに重大な疑問符が投げかけられる事態を、恐れた。さらに、「ギリシャがユーロ圏から脱退した場合、同国に対するドイツの債権約900億ユーロ(約12兆6000億円)が水の泡となり、納税者に損失が生まれる」という経済学者らの指摘も、メルケルの脳裏にあったに違いない。 ギリシャの財務大臣だったヤニス・ヴァルファキスは、今年2月にチプラス政権に入閣した直後、「ギリシャが何をやっても、ドイツは最後には金を払う」と断言していたが、現実は彼の予言通りになった。私は、EUとギリシャのチキンゲームで、相手の目から最初に視線をそらしたのは、結局融資にゴーサインを出したドイツ側、そして債権団だと考えている。 「ドイツによる独裁」への反感 だがギリシャ、そしてフランスやスペインなどの国々では、第3次救援パッケージについて「ドイツなど債権団は、ギリシャが実現できないような過酷な条件を押しつけた」という厳しい批判が高まっている。たとえば第3次救援パッケージに関する合意の直後にTWITTERの世界では、 #thisisacoup (これはクーデターだ)というハッシュタグの下に、20万人の市民が参集し、「ドイツなど債権国側は、ギリシャを新たな緊縮策によってさらに抑圧している」と抗議した。 参加者には、ノーベル経済学賞を受賞した米国の経済学者ポール・クルーグマンも含まれている。クルーグマンは強い口調で、ドイツなど債権国側の態度を批判している。「第3次救援パッケージは、ギリシャに対する債権国側の復讐心の表われ。国家主権を完全に破壊しようとする試みだ。救援パッケージは、ギリシャが受け入れることができない内容を含んでおり、欧州統合プロジェクトの理想への裏切りである。この数週間の出来事から、欧州通貨同盟の一員になると、債権国の言うことを聞かない国は、経済を破壊されるということがわかった」。 現在フランスやイタリアでは、ユーロ圏で独り勝ち状態であるドイツに対する批判の声が高まっている。フランスの月刊新聞「ルモンド・ディプロマティーク」のセルジュ・アリミ編集長は、8月号に「こんな欧州に我々は住みたくない」という題名の論文を掲載し「ドイツに率いられた債権国は、体力が弱まったギリシャに対し、独裁的な政策を強要した。その内容はギリシャの問題を悪化させるばかりだ」と述べ、クルーグマンの主張に全面的に同調した。同紙は、元財務大臣ヴァルファキスの「債権国側は、救援パッケージに関する交渉の中で、我々ギリシャ人を侮辱すること以外考えていなかった」という内容のエッセーも掲載している。 日本では、「『ドイツ帝国』が世界を破滅させる・日本人への警告」(文春新書)という本がベストセラーになっている。これはフランスの人口学者エマニュエル・トッドのインタビューを集めた本だ。彼のドイツ批判には、ここ数年間欧州のリベラル勢力・左派勢力の間で強まっている、ドイツに対する反感が反映している。トッドは、人口動態の分析からソビエト連邦の崩壊を予言したことで、世界的な注目を集めた学者である。 本を読んでみると、トッドが「ドイツが帝国主義に回帰して、世界を破滅させる」と直接には言っていないことに気がつく。本の題名は、いささか過激だと言わざるを得ない。トッドが展開しているようなドイツ批判は、欧州ではさほど珍しいものではない。トッドが「ドイツに対抗できる唯一の勢力」として、ロシアに好意的ともとれる意見を述べていることには、首を傾げざるを得ない。ロシアは、国際法に違反してクリミア半島を併合しているからだ。なぜドイツが欧州で影響力を拡大することが、日本人にとって教訓になるのかも、よく理解できない。 フランスなどがドイツを批判する背景には、2010年以来、ユーロ危機にもかかわらず、ドイツ経済が絶好調であり、同国が事実上の独り勝ち状態であることへの反感がひそんでいる。現在ドイツの失業率は、EU加盟国の中で最低であり、同国の貿易黒字は、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で最大である。フランスはドイツに対して「税金や社会保障費用を下げて可処分所得を増やし、もっとフランスの製品を輸入してほしい」と要求したが、ドイツは内需拡大のための思い切った措置を取ってはいない。 ドイツは資源を輸入し、高付加価値製品を輸出する物づくり大国だ。同国は確かに、ユーロ導入によって、欧州内での為替リスクから解放された。現在、米ドルに対するユーロの交換レートが低いことから、ドル建ての輸出では有利な立場にある。 トッドやフランスの左派勢力は、「ドイツは経済的な利益を拡大するために、ユーロを導入した」と主張する。だが、この指摘は、必ずしも正しくない。 ユーロ導入の背景には、フランスの強い意向もあった。1990年にドイツが統一された時、当時フランスの大統領だったミッテランは、ドイツ経済が欧州を牛耳ることに強い懸念を抱いていた。特に当時の西ドイツ・マルクは欧州で最も安定性と国際的な信用性が高い通貨だった。このためミッテランは、旧戦勝国の1国として、ドイツ統一を承認する条件の1つとして、ドイツがマルクを放棄して、フランスなど他の欧州諸国と共通の通貨を持つことを要求した。 つまり、ユーロの誕生はドイツだけの提案に基づくものではない。フランスも、ドイツ経済の拡大を封じ込めるために、ユーロを強く望んだ。また1990年代の初め、ドイツの経済界にはユーロに対する不信感がとても強かった。もしも当時ドイツで国民投票が行われていたら、過半数のドイツ国民がユーロの導入に反対していたはずだ(ドイツには国民投票制度はない)。特に、通貨同盟に加盟すると、ギリシャやイタリアの債務の肩代わりをさせられるのではないか、という危惧が当時からすでに強かった。ドイツ連邦銀行は、「政治同盟を伴わない通貨同盟は、失敗する」と警鐘を鳴らしていた。 だが当時のコール政権は、「通貨同盟に関する条約には、他国の債務を肩代わりすることを禁止する条項を盛り込む。為替リスクの消滅は、ドイツ経済に利益をもたらす」と主張して、経済界を説得した。このため、ドイツの経済界はしぶしぶ首を縦に振った。 ドイツは、高い品質ゆえに外国で人気がある工業製品を多く持っている。このため結果として、ユーロ導入そして現在のユーロ安・ドル高がドイツに大きな利益をもたらしたことは間違いない。 国債利回りの低下がドイツに大きな利益をもたらした ドイツ国債の利回りが極端に低くなったことも、連邦政府にとって大きなプラスとなった。ユーロ危機のために、多くの投資家がドイツ国債を「資金の安全な避難場所」と見なし、同国債の人気が高まった。このためドイツ政府は、非常に低い調達コストで、国債マーケットから資金を集めることができるようになった。 2014年にドイツ連邦政府の歳入は、歳出を上回り、同国は財政黒字を達成した。G7(主要経済国)の中で財政黒字を達成した国は、ドイツだけである。財政黒字達成の裏には、好景気による税収の増加や、高額脱税者の摘発強化とともに、国債利回りの低下による資金調達コストの減少がある。 ハレ経済研究所(IWH)所長のライント・グロップは、8月上旬に発表した論文の中で、「ドイツはユーロ危機によって、利益を受けた」と主張して、国内外の注目を集めた。グロップは、「ドイツ連邦政府は、ギリシャ危機などによるドイツ国債利回りの低下によって、国債発行コストを少なくとも1000億ユーロ(約14兆円)節約することができた。もしもドイツが通貨同盟に属していなかったら、ドイツ国債の利回りは今の水準よりも少なくとも3ポイント高いはずだ。そして、もしギリシャが破綻してユーロ圏から脱退しても、ドイツが失う債権は900億ユーロだから、利益のほうが損失を上回る」と述べている。 グロップの論文は、「ドイツの経済学者すら、同国がユーロ危機によって利益を受けていることを認めた」として、ギリシャやフランスで大きく注目されている。 これに対し経済学者のラルス・フェルトは、「連邦政府が低い国債利回りから恩恵を享受したことは事実だが、ドイツ市民は銀行預金や生命保険の利率が低下したために、大きな不利益を受けている。したがって、連邦政府の資金調達コストの低下だけに注目するのは、一面的な見方と言わざるを得ない」と反論している。つまり政府が節約できたコストと市民の財産の減少を天秤にかけなくてはならないという主張だ。 「欧州の米国」になったドイツ 私は、ドイツに向けられる批判に、かつて米国が多くの国々から向けられた批判と似た物を感じる。国力と影響力が強い国ほど、周囲の批判にさらされる。ドイツは、ユーロ危機を通じて、自ら望んだものではないにせよ、欧州で強い影響力を握る「中心国」の立場についた。 歴史学者でフンボルト大学教授を務めるヘアフリート・ミュンクラーは、今年8月にフランクフルター・アルゲマイネ紙(FAZ)に発表した論文の中で、「ドイツは経済だけではなく、イランとの核交渉、ウクライナ危機など安全保障の分野でも影響力を行使できる覇権国(ドイツ語でHegemon=ヘゲモン)になった」と断言している。ミュンクラーは、ドイツが「経済では巨人、政治では小人」というかつての原則から脱却したと主張する。彼は、フランスの国力と影響力が大幅に低下した今、ドイツに代わるリーダー役は欧州に存在しないと指摘する。 ドイツの影響力の高まりによって、同国とそれ以外の国々の間の亀裂は、大きく拡大した。ギリシャ危機をめぐるパーセプション・ギャップは、欧州統合が重大な危機に直面していることを示唆している。ドイツは、どのようにしてこの亀裂を修復しようとするのだろうか。 (文中敬称略) このコラムについて 熊谷徹のヨーロッパ通信 http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/219486/082500003/
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