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原子力規制委員会がついに「もんじゅ」にレッドカード! どうして安倍政権は廃炉を決断できないのか 総事業費1兆円、年間維持費200億円
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46511
2015年11月24日(火) 町田 徹「ニュースの深層」 現代ビジネス
■廃炉か、再稼働か
もんじゅ、敦賀原発、美浜原発……。
いずれも、原子力規制委員会(田中俊一委員長)がレッドカードやイエローカードを突き付けており、廃炉という選択肢が現実味を帯びている原子力発電所だ。
そろって福井県に立地しているほか、それぞれの再稼働に向けて残された猶予期間が刻々と少なくなっている点でも共通している。
ところが、安倍政権は政権を奪還して以来、原発については「安全が確認された原発は再稼働する」というワンパターンのコメントを繰り返すだけで、安全が確認できない原発に関する施策には頑なに沈黙を守っている。
とはいえ、昨年4月に閣議決定した「エネルギー基本計画」では、原発依存度を「可能な限り低減させる」と公約しているだけに、そうした玉虫色の先送りもそろそろ限界だ。
そこで、この3原発に再稼働の大義があるか、最新状況を検証してみよう。
まず、もんじゅである。この原発は、使った分より燃料を増やせる「夢の原子炉」という触れ込みの高速増殖炉だ。田中俊一原子力規制委員会委員長が今月13日、馳浩文部科学大臣に、運営主体の交代か、廃炉を含む抜本的見直しを迫る勧告を手渡した。
勧告に至った理由は、核燃料サイクルの中核技術として50年以上前から実用化を目指して開発を始め、完成から約24年の歳月が過ぎたにもかかわらず、トラブルが続出してほとんど運転していないことと、福島第一原発事故の発生を機に原発依存度の引き下げが課題になり、「2050年以降の商用化を目指す」高速増殖炉の必要性が薄れたことだ。
もんじゅは、旧原子力委員会が2012年末にまとめた見解<今後の原子力研究開発の在り方について>でも「年限を区切った研究計画を策定・実行し、成果を確認の上、研究を終了すべきである」と近い将来、お役御免にすることを求められていた。
今回、規制委員会は、日本原子力研究開発機構以外への運営主体の変更か、廃炉を含む抜本的な見直しを求めた。が、機構は日本で唯一の原子力に関する総合的研究開発機関だ。加えて、規制委員会が文科省に与えた猶予は「概ね半年程度」と短い。
このため、機構に代わる運営主体探しは不可能に近いとみられる。実際、田中規制委員会委員長が勧告の際に、「そう簡単にできるものではないと思います」と指摘しているほどだ。
■田中委員長もダメ出し
これに対して、安倍首相は11月11日の国会の閉会中審査で、「(もんじゅを)国際的な研究拠点と位置付けている。速やかに課題解決に対応すべきだ」と述べ、もんじゅの存続に強い意欲をみせた。
国策を容易には覆せないというメンツと、廃炉にした場合に立地自治体に対して新たな産業・雇用対策を講じる必要があることが、存続にこだわる背景とみられる。
しかし、規制委員会は、政府が原発の安全性確立のために新設した“番人”である。その委員会が「もんじゅという発電用原子炉施設の在り方を抜本的に見直すこと」との表現で、選択肢の一つとして廃炉を示唆した事実は、非常に重い。
しかも、田中委員長は、機構の前身にあたる日本原子力研究所・副理事長を経て、日本原子力研究開発機構の特別顧問を務めた人物だ。いわばかつての身内がダメだしするほど、機構ともんじゅには問題が多いのである。
50年前はバラ色の夢だと思われた原発が、悪夢の原発と化した今、「エネルギー基本計画」で打ち出した「(原発依存度を)可能な限り低減させる」という公約を遵守するためにも、もんじゅの廃炉は避けるべきではないだろう。
一方で、もんじゅの総事業費はすでに1兆円に達し、維持費だけで年間200億円を費消している。短期間のうちに2度も消費増税を予定するなど、財政状況が逼迫している時期だけに、大変なカネ食い虫であるもんじゅに、これ以上の無駄遣いをさせるのは大きな問題だ。
次が、日本原子力発電の保有する敦賀原発2号機だ。この原発の問題点は、規制委員会の有識者会合が今年3月に、重要設備の直下に「活断層」があるとの評価をまとめていることだ。
規制委員会は2013年7月に施行した「実用発電用原子炉に係る新規制基準(いわゆる新規制基準)」で、原発の重要設備を活断層の上に設置することを禁じている。有識者会合の評価に強制力がないとはいえ、規制委員会の新規制基準の適合性審査で重要な知見として扱われる。
つまり、この評価は、原電に敦賀2号機の廃炉を迫る最後通告のようなものだった。
■原電の「危ない経営」
ところが、原電はこの評価に手続きも含めて猛反発、抗議書を提出した。そのうえで、今月5日、再稼働を目指して、新規制基準の適合性審査を申請したのだ。
ここで見逃せないのは、敦賀2号機の廃炉が、企業としての原電の存続に関わりかねないことだ。原電は福島第一原発事故の前から、敦賀2号機の他に、敦賀1号機と東海第2(茨城県)の2原発を所有していた。
このうち、敦賀1号機は営業運転の開始から45年を経ている。この原発に安全対策コストを講じると採算が取れないと判断、すでに今年4月に廃炉にした。
一方の東海第2は新規制基準の適合性審査に入っているものの、仮に審査にパスしても、東日本大震災で福島第一同様に全電源喪失に至った経緯がある。立地自治体の反発も強く、運転再開が一筋縄ではいかない原発だ。つまり、原電は保有原発の3基すべてが廃炉リスクを抱えているわけだ。
そうした中で、福島第一原発事故後、まったく発電できず経営危機に直面した。大株主である電力9社や原発メーカーの財政的支援で、なんとかここまで命脈を繋いできた。
政府は、単年度で一括計上することになっていた廃炉の会計処理を10年かけて分割計上できる仕組みを作ったり、東京電力から福島第一原発の廃炉作業の一部を請け負わせるなどの支援策を講じてきた。
しかし、まだ原電の経営安定化には不十分で、同社は敦賀第2や東海第2の再稼働にこだわらざるを得ないという。
敦賀第2のような原発の廃炉を円滑に進めるには、例えば、大事故を起こした東電による運転再開に根強い反発がある柏崎刈羽原発(新潟県)を原電に譲渡、あるいは運転委託するなどして、原電の経営の安定を図る必要があるとの見方は根強い。こうした面でリーダーシップが発揮できるかどうか、政府の指導力が問われている。
■社内にも不満がくすぶっている
最後が、関西電力の美浜原発3号機だ。焦点は、原則40年に制限されている運転期間を60年に延長するための認可を規制委員会に申請しているものの、その審査が進んでおらず、来年(2016年)11月末に迫ったタイムリミットまでに認可を得られなければ、自動的に廃炉になることだ。
関電はもともと、美浜1〜3号機、大飯1〜4号機、高浜1〜4号機の合計11原発を保持していたが、今年3月、特に老朽化が進み安全対策コストがかさむ美浜1、2号機の廃炉を決めた。
高浜3、4号機と大飯3、4号機で通常の新規制基準の適合性審査の申請を進める一方で、高浜1、2号機と美浜3号機で60年に運転期間延長する認可取得手続きを進めているのだ。
規制委員会は10月27日、この中で遅れが目立つ美浜3号機を巡って、臨時会合を開催。関電から八木誠社長ら7人を呼び、その対応を質した。議事録や双方が提出した資料によると、田中委員長が「進捗にやや懸念を持っている」と述べ、審査に必要な資料の多くを関電が提出できていないことを指摘した。
これに対し、八木社長は今年6月から原子力以外の部門からも人員を回したほか、審査が進んだ高浜3、4号機担当の人員を美浜3号機にシフトする措置を取り、対応のスピードアップを目指すと釈明した。
だが、同社が古くて発電容量の小さい美浜3号機や高浜1、2号機の運転期間延長を目指すために、より新しくて発電能力の高い大飯1、2号機の適合性審査の申請を後回しにしていることは、社内外から厳しい視線を浴びている。
社内には大飯1、2号機を優先したほうが投資効率がよく、より大きな収益の確保が期待できるとの声がくすぶっているほか、同業他社からは高浜1、2号機や美浜3号機の審査に規制委員会が忙殺されてしまい、他の原発の審査が滞るとの苛立ちが募っているのだ。
地元の美浜町は、使用済み核燃料の中間貯蔵施設受け入れに前向きで、関電には残された3号機の運転延長を断念して、発電所をなくすことへの抵抗が強いという。
しかし、国策として原発依存度を可能な限り引き下げることを掲げていることへの配慮や、投資の早期回収に軸足を置いた経営戦略を同社は求められているのではないだろうか。
福島第一原発事故前に、東海第一(原電)、浜岡1、2号機が廃炉に踏み切ったほか、事故後に敦賀1号機、美浜1、2号機、島根1号機(中国電力)、玄海1号機(九州電力)の廃炉が決まり、国内に現存する原発は43機に減った。
しかし、太陽光発電設備の急増で今年夏の電力需要に大きな余裕が生じたことを勘案すれば、安倍政権は「可能な限り引き下げる」と公約した原発依存度の引き下げに、十分な努力をしているとは言い難い。
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