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[創論]岐路に立つ核燃料サイクル
日米協定延長手続きを
日本国際問題研究所特別研究員 遠藤哲也氏
使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して使う核燃料サイクルが岐路にある。プルトニウムを普通の原子力発電所で燃やす「プルサーマル」が進展せず高速増殖炉「もんじゅ」の稼働も危ぶまれる。サイクル路線を認めた日米協定の期限は迫る。問題に詳しい遠藤哲也・日本国際問題研究所特別研究員とジェームズ・アクトン米カーネギー国際平和財団上席研究員に聞いた。
――日米原子力協定が2018年7月に期限を迎えます。その意義と、日本の対応をどう考えますか。
「日米協定の本質は、米国が日本に供給した核燃料などに対し規制権をもつことにある。商業規模の再処理工場の実用化を目指す日本としては個別案件についていちいち米国の了解が必要な旧協定(1968年締結)を改定し、日本の活動に包括的な事前同意を認めさせる必要があった。現行協定でも米国の規制権は残るが、日本は事実上、自由な活動が認められている」
「満期への対応には理論的に4通りがある。第1は協定の規定に従い自動延長する。2番目はこれまでと同じ内容で相当期間延長する手続きをとる。3番目は、例えば米国が日本の原子力利用に関し個別同意をする新協定に衣替えする。4番目は無協定だ」
「第1の選択肢は最も平易な道だ。しかし延長後は6カ月前に日米どちらかが通告すれば一方的に協定を終わらせることができるようになる。(一触即発の危機を示す)ダモクレスの剣が頭上にぶら下がるようなもので、安閑としていられない。3番目の個別同意方式は現行協定の締結以前に戻ることを意味し、日本にとって望ましくない。最後にあげた選択肢である無協定は現実的にはありえない」
――2番目の選択肢が望ましいですか。
「最も安定的な形にはなるが、果たして実現できるか。協定が米議会の上下両院で不承認とされないようにすることが条件となる。現行協定でも米議会の理解を得るのにたいへん苦労した。米国では17年には新大統領が誕生する。それまで政府の立場もはっきりしないにちがいない。2番目の選択肢の実現は不透明だと言わざるを得ない」
――懸念材料は日本のプルトニウムの在庫量ですね。
「日本は利用目的がないプルトニウムを持たないと約束してきたが、保有量が多くなりすぎている。再処理工場が動けばさらに増える」
「米政府は日本がプルトニウムを核兵器に転用するとは思っていない。だから平和利用目的で使用済み核燃料からのプルトニウム分離を特別に認めてきた。日本は国際原子力機関(IAEA)による査察を誠実に受けており国際社会の信頼も高い」
「とはいえプルトニウムの保有量が必要以上に増えると米国として他国に示しがつかないと考えるだろう。韓国をはじめプルトニウムを利用したい国はほかにもある。日本がよくない先例になるのは困る。さらに言えば、核セキュリティーへの懸念がある。保有量が増えれば、テロリストから狙われるリスクが増す。そうした問題を指摘する声が米国のシンクタンクなどから上がり始めている」
――批判を避けるには保有量を減らす必要があります。
「ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を使うプルサーマル発電と、高速増殖炉がプルトニウムの用途だが、プルサーマル発電は計画通りに進んでいない。福島事故前は15年度までに16〜18基で実施するはずだった。現状でプルサーマル対象炉のうち、原子力規制委員会の審査を通ったのは伊方原発(愛媛県)などの3基だけだ。プルサーマル専用の大間原発(青森県)の建設も遅れている」
「そこへ高速増殖炉原型炉の『もんじゅ』の問題が起きた。もんじゅのプルトニウム使用量はそれほど多くはなく、仮に廃炉になってもプルトニウムの需給バランスに大きく影響するわけではない。しかし、もんじゅは核燃料サイクル政策の象徴的な存在だ。影響は大きい」
――どうすればいいのでしょうか。
「日本政府が核燃料サイクル路線を再確認し、具体性のある政策オプションを示すことが大事だ。原子力利用を進めるからには核燃料サイクルは必要だ。ウランを燃やして使い捨てるだけなら、化石燃料と本質的に違いはない。原子力の原子力たるゆえんは燃料をリサイクル利用できる点にある。資源がない日本は原子力利用を始めた早い段階から核燃料サイクル路線を追求してきた。これを変更してはいけない」
「再処理工場の稼働率を下げるとか、使用済み核燃料の中間貯蔵を増やすのもよいが、びほう策にとどまる。高速炉の実用化をきちんと進めるのが抜本策だ。今の日本には原子力政策全体を見渡す司令塔がないのが深刻な問題だ」
えんどう・てつや 東京大学法学部卒。外務省審議官、在ウィーン国際機関政府代表部大使、原子力委員会委員長代理を歴任。80歳。
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余剰プルトニウム 問題 米カーネギー国際平和財団上席研究員 ジェームズ・アクトン氏
――日本のプルトニウム保有量が多いことが問題だと指摘していますね。
「日本政府は使用目的がないプルトニウムを持たないと約束してきた。核兵器に転用できるプルトニウム保有を最小化するというゴールは日米間で共有されている。ところが、このまま使用済み核燃料の再処理工場(青森県六ケ所村)が稼働すると、年間8トンずつプルトニウムが増える。一方で消費は進まない」
「日本は余剰プルトニウムを持たない約束の履行を制度化すべきだ。例えば2018年に期限を迎える日米原子力協定に、拘束力をもつサイドレター(付随的な約束)をつけることがひとつの手段だろう。日米協定の延長に関する日本政府の考えは公式には明確でないが、協定を今のまま続けたいなら、米国政府の同意が不可欠だ」
――18年までに米国で新政権が誕生しています。
「この問題は党派による違いはない。民主、共和どちらの政党の大統領であっても日本のプルトニウム保有量に対し懸念を持たないことはないだろう。米政府は他の国に対し、使用済み核燃料を再処理しプルトニウムを分離しないよう求めている。外交の一貫性から(日本の状況を容認するのは)難しい問題だ。1988年に現行協定ができた時、これほど保有量が大きくなるとは想定していなかった。オバマ政権の高官は日本が余剰のプルトニウムを持たない約束を守る責任を果たすことを望むと、すでに示唆している。両国の将来にかかわる重要な問題になるだろう」
――サイドレターで何を取り上げますか。
「余剰のプルトニウムを持たない約束には時間軸の概念がない。今すぐには使えなくても30年以内にちゃんと使うなら『余剰』とは呼べないかもしれない。いつになったら保有量を減らせるのかタイムリミットを約束するのはどうか」
「日本政府は再処理事業に直接的に介入しない方針を掲げてきた。日本原燃が実施する民間事業だとの立場だ。国の原子力委員会は事業者に対しプルトニウム保有量などの報告を求めてきたが、需給の改善を命じる権限はない。プルトニウムの需給バランスは核不拡散に関わる国家的な課題であり、政府が当事者となって対処すべきだ。そうでないと、問題解決の糸口は見つけられないだろう」
「当面の対処としては、再処理工場が稼働しても稼働率を低く抑える。あるいは再処理で取り出したプルトニウムをウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料に加工する工場が完成するまでは、再処理工場を稼働させないという手段もある」
――電力自由化を控えて、再処理事業を安定して進めるための組織改革が議論されています。具体的には法律に基づく認可法人を新設し、新法人が事業主体となって再処理事業の実務を日本原燃に委託する形が浮上しています。
「組織改革の目的は事業の投資リスクを回避するのが目的だとされる。議論がどういう形で決着するのかわからないが、余剰プルトニウムを持たないとする政府の約束の順守につながる仕組みになればよいと期待している」
――プルトニウムを減らす手段として英国に引き取ってもらうという道は。
「英仏への再処理の委託に伴い、日本は欧州にプルトニウムを保管している。英政府は公式に引き取りを提案している。日本がお金を払って廃棄物として引き取ってもらう道だが、考慮に値する選択肢だ。欧州から護衛船付きで日本に運ぶコストを考えれば、こちらの方が安くすむ可能性もある。どちらにしてもコストを日本国民が負担することは変わらない」
――プルトニウムを発電に使う「資産」とみてきた従来の考え方の転換ですね。
「日本は長年の核燃料サイクル政策を合理的に見直すことができず『わな』にかかっている。再処理工場は経済的、社会的なサンクコスト(埋没費用)が大きく、やめようにもやめられない現実がある。現実には高速増殖炉を中心とした核燃料サイクルを商業的に成功させた国はひとつもない。ただ今すぐ撤退するのも現実的な提案ではないだろう。将来の政策決定のための選択肢をつくっておくことが大事だ。日本政府が昨年決めたエネルギー基本計画は『戦略的柔軟性』が必要だとし、政策の軌道修正を示唆しているようにもみえる」
James Acton 英ケンブリッジ大学で物理学博士号。核不拡散や原子力政策が専門。福島第1原発事故にも詳しい。36歳。
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〈聞き手から〉透明度の高い意思決定を
日本のプルトニウム保有量に関し専門家にはかねて懸念があったが、原子力規制委員会が13日に「もんじゅ」の運営体制の抜本的な見直しを勧告し、一気に顕在化した。
日本はプルトニウム約47.8トン(うち海外に約37トン)を保有し、再処理工場のフル稼働で年間8トンずつ増える。一方、原発16〜18基のプルサーマルで年5トン前後、大間原発で年約1.1トンを使う。もんじゅは稼働時に約1.5トンのプルトニウムが要る。計画通りなら何とか需給の辻つまがあうはずだった。
日本原燃は再処理工場の完成を来年3月から18年度上期に遅らせた。プルサーマルの本格化までの時間を稼ぐとともに、プルトニウム管理への政府の関与を強める。一時しのぎの策だが、現実的な選択の幅は狭い。プルサーマルも高速増殖炉もうまくいかないとわかったら、路線の大転換を迫られる日が来るだろう。
電力料金などの負担が増す恐れがある。国民に選択肢を示し透明度の高いプロセスで意思決定に臨む必要がある。
(編集委員 滝順一)
[日経新聞11月22日朝刊P.9]
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