1. 2015年10月28日 11:45:23
: OO6Zlan35k
内部被曝通信 福島・浜通りから【2】 No.001:2回目のベラルーシにて ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ベラルーシのゴメリ地区とその周辺にて、Prepareというヨーロッパの放射線災害対策の 関係者の会合に参加してきました。首都のミンスクから300kmほど離れたチェルノブイ リ周辺20kmから100kmぐらいの地域です。ベラルーシやノルウェー、フランスの放射 線防護や対策を考える専門家が主体となり開かれた会合に声をかけていただき、自身の浜 通りでの経験をお話しする機会をいただきました。 最も強く感じたことは、放射線災害への対策について、これまでは被ばく量を下げること には重点を置いてきたものの、今の福島で起こっているような社会的な変化、それに伴う 健康影響や、今後の対応についてはまだまだ情報やノウハウが少ないということです。放 射線防護の中で良く言われる、ALARA(合理的に達成可能な範囲で被ばく量を低く=As low as reasonably achievable)のRの部分をどう考えて、実際に前に進んでいくのか。 まだまだこれからのように感じます。 チェルノブイリ事故後、ヨーロッパ諸国は大なり小なり汚染されたため、イギリス、ノル ウェー、チェコ、スロバキア、フランスなど、多くの国の規制当局は食品の出荷制限や放 射線管理を行った経験があります。どの食品が汚染される可能性が高いか、風向きによっ てどのぐらいの範囲が汚染される可能性があるかシミュレーションする。といった話がな されていました。失礼かもしれないですが、毒物をいかに避けるか、化学物質の濃度管理 をどのように徹底するか、といった話が大部分を占めすぎていて、原発事故が引き起こし た何かもっと大きなものをあまり意識していないという印象を受けました。日本で福島か ら離れて放射線の話をしにいくと、何か被ばくの話だけ、がんの数とかxxミリシーベルト とか、数字の話だけ質問される。あの感覚です。 もちろん、それはそれで非常に重要です。何はともあれ、汚染管理をしないことには始ま りません。ただ、相双地区であれば、震災関連死の問題や、高齢化、地域の分断、そこか らいかに立ち上がるか。災害自体が様々な影響を及ぼすこと。特に地域や文化との折り合 いや、差別への対応や自尊心、究極的には故郷をどう守っていくかなどについて、「線量 が科学的に低ければそれで十分」で話は終わらないこと。震災後、若年者が減ったことに 起因する高齢化が加速的に進み、健康や医療に影響を与えている。という既に福島では一 般に知られている問題の話を聞いて、びっくり!といった具合です。まだまだ認識にはか なりのギャップがあるように感じました。 もちろん、チェルノブイリの事故後、トナカイの常食により高い内部被ばくをしていたサ ーミ人の対応をしたノルウェーの方や、ベラルーシの住民(当局除く)、ベラルーシに常 駐している数名の専門家など、共通の経験をされた方も多くいらっしゃいます。しかしな がら、この点については日本の我々が試行錯誤や結果を発信し伝えていかないと、大多数 には伝わっていない、教訓として残らないことを感じました。 チェルノブイリ原発20km地域にあるベラルーシの町では、普通に生活が営まれていまし た。学校に通ってそこから帰る子ども、何か音楽を聴きながら散歩している大人、普通の 田舎でした。その地区で、放射線教育を頑張っている地元出身の高校の先生にお会いしま した。ミンスクや他地区での放射線教育の充実が(現地のために)重要なのに、草の根で は広がらない。と嘆いてはおられましたが、こつこつと続けておられ、生徒によるキノコ の計測結果と場所よる汚染の違いについての発表を聞くことが出来ました。 前に向かって頑張る地元の方々が多くおられました。その方をしっかりサポートする体制 を維持しながら、再度地域を大切に育てていく。ということ以外に、何か一足飛びに答え にたどり着き復興がなされるわけではないことを再認識しました。こつこつ小さな成功体 験を踏んでいくしかないのだと思います。 みんなウォッカをやたらと飲んで、踊るのには酒の弱い僕はついていけなかったのです が、多くの方々のおかげで貴重な経験をさせていただきました。ありがとうございます。 持ち帰った情報が何か今後に役に立てることができればと思っています。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 坪倉正治(医師・血液内科) 東京大学医学部卒。福島第1原発から北に23kmに位置する南相馬市立総合病院にて非 常勤内科医を務める。通常診療による被災地支援、さらにホールボディカウンターによる 内部被曝検査を行い、被曝について現地が抱える課題に取り組む。住民、子どもたちを対 象とした放射線説明会も積極的に行っている。 著書:「福島県南相馬発・坪倉正治先生のよくわかる放射線教室」 (発行・ベテランママの会 監修・早野龍五東大教授) 【お問い合わせ】ベテランママの会 beteranmama0808@gmail.com ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ JMM [Japan Mail Media] No.869 Extra-Edition ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【発行】村上龍事務所 【編集】村上龍 【発行部数】92,621部 【お問い合わせ】村上龍電子本製作所 http://ryumurakami.com/jmm/ |