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(書評)香山リカ(著)「リベラルじゃダメですか?」(祥伝社新書・2014年)
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%AA%E3%83%99%E3%83%A9%E3%83%AB%E3%81%98%E3%82%83%E3%83%80%E3%83%A1%E3%81%A7%E3%81%99%E3%81%8B-%E7%A5%A5%E4%BC%9D%E7%A4%BE%E6%96%B0%E6%9B%B8-375-%E9%A6%99%E5%B1%B1%E3%83%AA%E3%82%AB/dp/4396113757/ref=cm_cr-mr-title
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5つ星のうち 2.0
原発を巡る議論は、「保守」と「リベラル」と言ふ対立の枠組みとは無関係です。,
2015/9/9
先ず、私自身は、「右」でも「左」でもない支持政党無しの無党派市民であることを申し上げておきます。その上で、この本の感想を申し上げると、香山さんのお考えが良く分からなかった、と言ふのが私の読後感でした。
そこで、香山リカさんについてではなく、日本で「リベラル」と呼ばれて居る、或いは「リベラル」を自称して居る方達についての私の気持ちを申し上げる事にします。
私は、日本の(自称)「リベラル」はおかしいと思ひます。
例えば、日本の自称「リベラル」の皆さんは、過去に二度、北朝鮮で権力の世襲が行なはれた時、その事(権力の世襲)を全く批判しませんでした。私は、この事で、日本の自称「リベラル」の皆さんに深く失望しました。だって、そうでしょう。権力の世襲ですよ。日本の世襲議員は選挙を経て居ます。そして、日本では、その事を自由に批判する事が出来ます。ところが、北朝鮮では、最高権力の座が当然の様に世襲されるのです。そしてそれを批判すれば処刑される事は明らかです。ところが、日本の自称「リベラル」の皆さんは、北朝鮮におけるこうした権力の世襲を全く批判しませんでした。
これが、リベラルなのですか?
権力の世襲を批判しない事を「リベラル」と言ふのですか。
リベラルなら、権力の世襲など、容認する筈が有りません。それなのに、北朝鮮における権力の批判を何故批判できないのでしょうか?
ですから、私は、日本で自分を「リベラル」と呼んで居る人々が本来の意味におけるリベラルだとは思って居ません。北朝鮮では、民衆が飢餓に苦しみ、収容所で罪の無い人々が拷問を受け、女性が看守にレイプされ、そこから逃亡すれば、更に激しい暴力にさらされ、或いは処刑されると伝えられて居ます。それなのに、その北朝鮮の状況を批判せず、その国における権力の世襲も批判しない日本の自称「リベラル」は、本来の意味のリベラルでは有り得ません。
次に、原発について述べます。
私は、反原発派です。
1987年以来、自ら「過激派」を名乗るほどの反原発派です。1980年代から、反原発デモにも参加して来ましたし、英字新聞で日本の原発についての投書を何度投稿し、掲載されたかわかりません。その反原発派として申し上げますが、香山さんは、福島第一原発事故以前に原発に反対する記事や本をお書きに成った事が有ったでしょうか?
率直に言ひましょう。香山さんには、活字媒体やテレビ番組で原発について警鐘を鳴らす機会がいくらでも有った筈です。しかし、香山さんは、そうした御自身の立場をなぜ、原発事故が起きる前に活用しなかったのでしょうか?私に言はせて頂ければ、香山さんは、どうでもいい様なサブカルチュアの話などをするばかりで、原子力発電の問題を取り上げようとはして来られなかったと、思ふのですが、違って居るでしょうか?
私は、20年以上前から、メディアで発言する方達の原発に対する姿勢を注意して見て来ましたが、福島第一原発事故以前に、香山さんが原発について書いておられるのを目にした記憶が有りません。この本の中で、香山さんは、脱原発派の立場をとっておられます。1980年代から一貫して反原発派の立場をとってきた者の一人として、私は、香山さんが反原発の側に加わって下さった事を歓迎しますが、矢張り、御自分のこれまでの原発に対する姿勢について総括する必要は有るのではないか?と、思ひます。
又、香山さんは、「リベラル」は脱原発派であり、「保守」は皆原発支持派であるかの様な錯覚を持っておられないでしょうか?
例えば、日本共産党は、かつては原発その物は否定しないと言ふ政策を取って居ました。又、大江健三郎氏なども、昔は原発を肯定して居たと読んで居ます。一方、「保守」と見なされる言論人の中にも、藤井厳喜氏や馬野周二氏の様に、1980年代から反原発の立場をとる論者が居ました。福島第一原発事故後は、竹田恒泰氏や小林よしのり氏、それに西尾幹二氏などが脱原発の立場から発言をしており、この方達の原発についての発言は、失礼ですが、香山さんのこの本における原発論よりも遥かに深い物です。例えば、これをお読みください。
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西尾「日本の保守はちょっとおかしいね。」
竹田「国土が汚染されても構わないという発想で発言し始めたら、それはもはや保守ではないです。」
西尾「七万人もの人達が故郷を奪われて嘆き悲しんでいるのに、一言も同情も涙もなくして強硬なことを言う櫻井よしこさんや渡部昇一さんのような考え方も私には理解できない。」
竹田「おそらく、そういった保守の原発推進派の人達の根底にあるのは、放射能は体にいいっていう知識だと思うんですよ。」
西尾「それを信じてね。」
(西尾幹二 (著), 竹田恒泰 (著)『女系天皇問題と脱原発』(飛鳥新社・2012年)288ページ )
http://www.amazon.co.jp/%E5%A5%B3%E7%B3%BB%E5%A4%A9%E7%9A%87%E5%95%8F%E9%A1%8C%E3%81%A8%E8%84%B1%E5%8E%9F%E7%99%BA-%E8%A5%BF%E5%B0%BE%E5%B9%B9%E4%BA%8C/dp/4864102198
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また、私が信頼している人から直接聞いた話であるが、東京のがんセンターにある子供の病棟に茨城出身者が多く、東海村事故のせいとの観測が関係者の間で囁かれている。ドイツでは政府が公表し、日本では隠匿されている。今後、こうした問題は公開の場で討議されるべきである。
(西尾幹二「平和主義ではない『脱原発』」(文芸春秋・2011年) 110ページ)
http://www.amazon.co.jp/%E5%B9%B3%E5%92%8C%E4%B8%BB%E7%BE%A9%E3%81%A7%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%81%84%E3%80%8C%E8%84%B1%E5%8E%9F%E7%99%BA%E3%80%8D%E2%80%95%E7%8F%BE%E4%BB%A3%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%AF%E6%96%87%E6%98%8E%E8%AB%96-%E8%A5%BF%E5%B0%BE-%E5%B9%B9%E4%BA%8C/dp/4163748903/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1445921806&sr=1-1&keywords=%E5%B9%B3%E5%92%8C%E4%B8%BB%E7%BE%A9%E3%81%A7%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%81%84%E3%80%8C%E8%84%B1%E5%8E%9F%E7%99%BA%E3%80%8D
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これでも、保守は皆、原発支持派でしょうか?
又、月刊WiLLは保守派の雑誌ですが、福島第一原発事故について次の様な記事を掲載して居ます。
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ここで食い止めなければ事故の規模はどのくらいになったのか、と私が最初に質問すると、吉田さんは「チェルノブイリの10倍です」と、答えた。
「福島第一には、六基の原子炉があります。ひとつの原子炉が暴走を始めたら、もうこれを制御する人間が近づくことはできません。そのために次々と原子炉が暴発して、当然、(10キロ南にある)福島第二原発にもいられなくなります。ここにも四基の原子炉がありますから、これもやられて十基の原子炉がすべて暴走を始めたでしょう。(想定される事態は)チェルノブイリ事故の10倍と見てもらえばいいと思います」
もちろんチェルノブイリは黒鉛炉で、福島は軽水炉だから原子炉の型が違う。しかし、十基の原子炉がすべて暴走する事態を想像したら、誰もが背筋が寒くなるだろう。(中略)
当然、東京にも住めなくなるわけで、事故の拡大を防げなかったら、日本の首都は「大阪」になっていたことになる。吉田さんのその言葉で、吉田さんを含め現場の人間がどういう被害規模を想定して闘ったのかが、私にはわかった。
のちに原子力安全委員会の斑目(まだらめ)春樹委員長(当時)は、筆者にこう答えている。
「あの時、もし事故の拡大を止められなかったら、福島第一と第二だけでなく、茨城にある東海第二発電所もやられますから、(被害規模は)吉田さんの言う“チェルノブイリの十倍”よりももっと大きくなったと思います。私は、日本は無事な北海道と西日本、そして汚染によって住めなくなった“東日本”の三つに“分割”されていた、と思います」
それは、日本が“三分割”されるか否かの闘いだったのである。
(門田隆将「日本を救った男『吉田昌郎』の遺言」(月刊Will(ウィル) 2013年 9月号30~39ページ )同誌同号33~34ページ)
http://www.amazon.co.jp/WiLL-%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%AB-2013%E5%B9%B4-09%E6%9C%88%E5%8F%B7-%E9%9B%91%E8%AA%8C/dp/B00DVMU83I/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1375242561&sr=8-1&keywords=Will++2013
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こう言ふ本や記事に香山さんは目を通しておられるのでしょうか?
反原発派の一人として申し上げます。原発を巡る議論は、「保守」と「リベラル」と言ふ対立の枠組みとは無関係の物です。それを「保守」対「リベラル」、或いは「左右」の対立事項にして来たのは、産経新聞をはじめとする原発支持派のメディアです。
彼らは、本来は「左右」の問題ではない原発問題を「左右」の問題にすり替え、「左翼」が嫌ひな日本の保守層を原発支持派につなぎ留めて来ました。
それが、福島第一原発事故を契機に変化し、保守層の中に、原発問題は「左右」の対立事項ではないのではないか?と言ふ気持ちが芽生えたのが、同事故後の日本の世論の変化でした。永年の反原発派である私はそれを感じ、原発問題を「左右」の枠から解き放つ事に微力ながら努力して来ました。
ところが、香山さんは、その原発問題を、再び「左右」対立の問題に戻そうとして居るのです。
率直に言はせて頂きます。この本における香山さんのこうした言説は、反原発運動にとって迷惑千万です。香山さんは、原発問題を「保守とリベラル」と言ふ、原発問題とは本来全く無関係な枠組みにこの問題を戻そうとして居ますが、これほど、原発推進派を喜ばす物は有りません。それが分からないのだとしたら、香山さんは、原発問題について、余りにも不勉強な方なのだと思はざるを得ません。
こうした事を理解した上で、香山さんが、原発について発言されることを期待致します。
(厳しい事を書いてすみませんでした)
(西岡昌紀・内科医)
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