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電気が足りているのに、なぜ原発を動かす必要があるのか?
http://diamond.jp/articles/-/75642
2015年8月8日 広瀬 隆 [ノンフィクション作家] ダイヤモンド。オンライン
『原子炉時限爆弾』で、福島第一原発事故を半年前に予言した、ノンフィクション作家の広瀬隆氏。
このたび、壮大な史実とデータで暴かれる戦後70年の不都合な真実を描いた『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』が発売以来大反響となり、第3刷が決定した。
8月末に予定されている大手書店講演会も即満員御礼になったという。
なぜ、この本が、今、話題を呼んでいるのか?
新著で「タイムリミットはあと1年しかない」と、身の毛もよだつ予言をした著者が、原発の歴史と青森県六ヶ所村でひそかに進むおそるべき危険性を緊急警告する!
■「原発」の本来の目的とは何か?
改めて言っておきたい。
原発とは、「原子力発電」の略語である。
つまり日本では、「発電する」ことに、原発本来の目的がある。
電気が足りているのに、なぜ原発を動かす必要があるのか?
廃絶すればいいではないか。
寺島実郎などは、
「原発を持っている以上、原発の技術を維持しなければならない。そのためには、再稼働をしてゆく必要がある」
などと、ド素人の無責任な暴言を吐いている。
冗談ではない。放射能の危険性を知らない人間は、黙っていろ。
原発を廃絶する、つまり廃炉のために必要なのは、寺島実郎が言うような現在の原発を運転する高度な技術ではない。廃炉作業とは、原子力発電所の内部設計を知っていればできる、鉄工技術である。
その解体作業のときに被曝しないように、放射能の危険性を知ることが、廃炉作業の基本の第一である。その第一のことさえ、電力会社の社員がよく知らないことが問題なのだ。
一方で、原子力発電所をかかえる自治体の首長たちは、「原発がなくなれば、地元経済が崩壊するので、再稼働は必要だ」と考える人間が多い。
もっともらしく聞こえるが、これもまったく道理に合わない話だ。そう主張する鹿児島県知事・伊藤祐一郎たち自治体の首長たちは、よく聞くがよい。
原発の地元に、日本政府と電力会社から大金が落ちるようになった、この歴史的な経過は、こうである。
1974年2月に3法案(電源開発促進税法案、発電用施設周辺地域整備法案、電源開発促進対策特別会計法案)──が閣議決定され、6月3日にこの通称“電源三法”が成立し、発電所の建設促進のため、予定地周辺の市町村に発電所から得た税収を配分する財源捻出手段として、この法が10月1日に施行された。
これが、悪名高い「電源三法交付金」制度のスタートとなった。
しかし発電所と言いながら、それは実質すべて、原子力発電所のことであった。
各地で嫌われている危険なプラントだから、地元に金を与えて黙らせよう、という意図で始まった制度だ。
■再稼働に浪費してきた額はなんと2兆4000億円!
時の総理大臣・田中角栄、大蔵大臣・福田赳夫、通産大臣・中曽根康弘がこの電源三法を成立させ、これが原子力発電所のための事実上の消費税導入となり、田中角栄の地元・新潟県の柏崎刈羽《かりわ》原子力発電所の建設向けに、補助金としてばらまかれた。
法ができた時代は1974年である。つまり全世界にオイルショック(石油危機)が起こった翌年の出来事である。
それは、アメリカのゼネラル・エレクトリックとウェスティングハウスが、日本に大量に原発を売りこむチャンスとなった時期であった。
そのアメリカの罠にかかって、ほとんどの原発がこのあとに運転を開始したのが、日本だったのである。
こうして「電源三法交付金」の“麻薬づけ”になった地元では、原発に経済を依存するようになって、泥沼から抜け出せなくなった。そして大量に原子力発電所が建てられてきた。こうして原子力発電所が建設された13の道県は、被害者なのである。
前回まで述べてきたように、原子炉から至近の距離で放射能に命をさらしているのは、そこに住む地元住民である。
一方、電力会社はみな、原子炉からかなり離れた大都会に本店を構えている。その意味では、私のような東京の人間も、罪が重いので、その都会人の立場から言っておくと、フクシマ原発事故による大量被曝を体験した日本では、地元だけでなく、ややはなれた大都会も、共に生き残る手段を考えなければならない。
もはや「大都会に住んでいれば安全だ」などと考えるほどバカな人間はいない。つまり、“金”が動機で原発の再稼働を強行することは、本来が「電気を生み出すため」の目的とは、まったくかけ離れた、道理に合わないことである。
もし原発がなくなると地元の経済に悪影響があるなら、「電源三法交付金」は、原発経済から脱却するための資金として、今後もしばらく交付を続けるべきである。
13の道県の住民に危険性を押しつけて、原発のほとんどの電気を使ってきた大都会人に責任があるのだから、国税を投入して、立地13道県を救済するべきである。ただし年限を10年ぐらいに区切って、原発に代る別の地場産業を生み出すまでの地域再生基金として使わなければならない。
安倍晋三らがおこなってきた東京オリンピックに向けた放漫支出や、再稼働に熱中して浪費してきた大金2兆4000億円に比べれば、その交付金は、見えないほど小さなものだ。それぐらいのことは、簡単にできることである。原発立地市町村の経済など、日本全土に比べれば、実に小さなものだ。地元経済には、なんの問題もない。
むしろ、この13の道県の住民に迫っている深刻で、重大な危険性は、別のところにある。原発を運転したあとに出てくる高レベル放射性廃棄物が、日本全土で行き場を失っていることだ。
この放射性廃棄物とは、フクシマ原発事故で日本人全員が頭からかぶったセシウムやストロンチウムと同じ危険物のことである。
■六ヶ所村のプール容量はすでに満杯!もう行き場がない!
これまで電力会社と国が、青森県の人間をだまして六ヶ所再処理工場を建設し、そこに13の道県の原発から出る使用済み核燃料と呼ばれる放射性廃棄物のかたまりを持ち込んできた。
だが、この再処理工場の巨大な3000トンの貯蔵プールは、左のグラフのように満杯でパンクしている。したがって、これから再稼働する原発から出る危険物は、もう六ヶ所村に持ってゆけないのである。
このグラフを説明しておくと、六ヶ所村のプールは、ウラン換算で3000トンの容量を持っていたが、そこに昨年2014年3月までに、全国の原発から合計3376トンの使用済み核燃料を持ち込んできた。
2006〜2008年のあいだ、そのうちわずか425トンだけを、アクティブ試験の“Step1〜Step5”と称して強引に試験的に再処理したので、3000トン−(3376トン−425トン)=49トンの残り容量しかない。つまり、ほぼ満杯なのだ。
どうしてこうなったのだろうか?
再処理とは、使用済み核燃料からウランとプルトニウムを取り出し、これとは別にセシウムやストロンチウムなどの危険な放射性廃棄物を取り出し、化学的に分離する作業である。
その分離された放射性廃棄物は、溶液に溶けた「沸騰しやすい液体」として発生する。そこで、すぐにこれをガラス固化体という固形物にしないと、青森県が超危険な状態になる。
ところが、この再処理工場を運転する日本原燃は、技術的に無能力なまま、強引に再処理に踏み切ったため、このガラス固化に失敗して、先の見通しがまったく立たない。つまり再処理不能なのである。
それどころか、すでに六ヶ所再処理工場でかかえている高レベル放射性「廃液」の放射能の量は、気が遠くなる数字だが、520,000,000,000,000,000ベクレルである。
これは福島第一原発事故で放出されたセシウム137の、原子力安全・保安院が推定した量の35倍に相当するのだ。停電でも起これば水素を発生して、フクシマ原発と同じように爆発する不安定な液体が、フクシマ原発事故35回分である。
日本全土の原発から使用済み核燃料を受け入れるどころか、厳重な管理を必要とする液体なので、いつ大事故が起こってもおかしくない状態にある。
茨城県の東海再処理工場も、かつて再処理をしたので、同様の、超危険な高レベル放射性「廃液」が貯蔵されている。こちらのほうが六ヶ所村より多く、福島第一原発事故で放出されたセシウム137を、原子力安全・保安院が推定した量の80倍かかえているのだ。
不安定な液体が、フクシマ原発事故80回分──上野から常磐線の特急スーパーひたちに乗って、ほんの1時間ちょっとで到着する距離、東海村にあるのだ。
東日本大震災後の今日まで4年間、ずっと、茨城県を震源とする地震が数えきれないほど起こってきた。首都圏の人間であれば、たびたびの激震を覚えているはずだ。私が二年前に東海村で講演した当日も、大きな揺れの地震があって、地元の人は、震え上がっていた。
東京オリンピックなどを開催している時なのか?
■なぜ、『東京が壊滅する日』を緊急出版したのか
このたび、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』を緊急出版した。
現在、福島県内の子どもの甲状腺ガン発生率は平常時の70倍超。2011年3〜6月の放射性セシウムの月間降下物総量は「新宿が盛岡の6倍」、甲状腺癌を起こす放射性ヨウ素の月間降下物総量は「新宿が盛岡の100倍超」(文科省2011年11月25日公表値)という驚くべき数値になっている。
東京を含む東日本地域住民の内部被曝は極めて深刻だ。
映画俳優ジョン・ウェインの死を招いたアメリカのネバダ核実験(1951〜57年で計97回)や、チェルノブイリ事故でも「事故後5年」から癌患者が急増。フクシマ原発事故から4年余りが経過した今、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』で描いたおそるべき史実とデータに向き合っておかねばならない。
1951〜57年に計97回行われた米ネバダの大気中核実験では、核実験場から220キロ離れたセント・ジョージで大規模な癌発生事件が続出した。220キロといえば、福島第一原発〜東京駅、福島第一原発〜釜石と同じ距離だ。
核実験と原発事故は違うのでは? と思われがちだが、中身は同じ200種以上の放射性物質。福島第一原発の場合、3号機から猛毒物プルトニウムを含む放射性ガスが放出されている。これがセシウム以上にタチが悪い。
3.11で地上に降った放射能総量は、ネバダ核実験場で大気中に放出されたそれより「2割」多いからだ。
不気味な火山活動&地震発生の今、「残された時間」が本当にない。
子どもたちを見殺しにしたまま、大人たちはこの事態を静観していいはずがない。
最大の汚染となった阿武隈川の河口は宮城県にあり、大量の汚染物が流れこんできた河川の終点の1つが、東京オリンピックで「トライアスロン」を予定する東京湾。世界人口の2割を占める中国も、東京を含む10都県の全食品を輸入停止し、数々の身体異常と白血病を含む癌の大量発生が日本人の体内で進んでいる今、オリンピックは本当に開けるのか?
同時に、日本の原発から出るプルトニウムで核兵器がつくられている現実をイラン、イラク、トルコ、イスラエル、パキスタン、印中台韓、北朝鮮の最新事情にはじめて触れた。
51の【系図・図表と写真のリスト】をはじめとする壮大な史実とデータをぜひご覧いただきたい。
「世界中の地下人脈」「驚くべき史実と科学的データ」がおしみないタッチで迫ってくる戦後70年の不都合な真実!
よろしければご一読いただけると幸いです。
<著者プロフィール>
広瀬 隆(Takashi Hirose)
1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『日本のゆくえ アジアのゆくえ』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数。
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