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核燃料の装着が始まった川内原発の正門前で、再稼働反対を訴える人たち=鹿児島県薩摩川内市で7月7日、山下恭二撮影
http://mainichi.jp/shimen/news/20150717ddm005070013000c.html
2015年07月17日 東京朝刊
◇福島の教訓、どこへ 杣谷(そまたに)健太
九州電力が川内(せんだい)原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)の原子炉に核燃料を装着し終え、目標とする8月中旬の再稼働に向け準備は最終段階に入った。しかし、原子力規制委員会の審査に合格した昨年9月以降、安全の第一義的な責任者である九電は地元住民らが求める住民説明会を開かず、県や地元自治体も避難計画に基づく避難訓練を実施していない。福島の原発事故から4年4カ月。このままでは「教訓なき再稼働」だと強く言いたい。
◇説明会への出席、九電は1度だけ
「事故が起きれば、介助が必要な高齢者や障害者が逃げ遅れるのは目に見えている」。核燃料の装着が始まった7日、川内原発の正門前で江藤卓朗さん(58)が声を張り上げた。薩摩川内市に隣接するいちき串木野市で高齢者デイサービスを運営する江藤さんは、九電や県に住民説明会の開催や避難訓練の実施を繰り返し求めてきた一人だ。
昨年10月、県と原発周辺5市町は共催で原子力規制庁による住民説明会を5回実施した。だが九電が加わったのは、説明会でのアンケート結果を踏まえて1度だけ開かれた補足説明会のみだ。住民の間には依然として▽九電が設定した基準地震動(想定しうる最大の地震の揺れ)は過小ではないのか▽巨大噴火が起きても大丈夫なのか−−などの懸念がある。
九電は「訪問活動などで不安や疑問に応えている」とするが、訪問活動は自治会や婦人会といった各種団体などが対象だ。国際環境NGO「FoE Japan」(東京)の満田夏花理事は「誰もが参加できる場であれば、九電の説明に疑問を持つ火山の専門家が反論することも可能。それが透明性であり、公の場で説明してこそ説明責任を果たすことになる」と指摘する。
東日本大震災を経験した東海第2原発(茨城県東海村)を抱える日本原子力発電は、新規制基準に基づく安全審査を申請した昨年5月以降、同原発の30キロ圏内外15市町村ごとに住民説明会を計76回開き、3851人が参加した。地震や津波対策などの説明と質疑応答があり、終了後も質問を受け付け、後日、一人一人に回答した。日本原電茨城総合事務所は「たくさんの人の意見を聞き、不安材料を払拭(ふっしょく)したい」と話す。これは、新規制基準に基づく再稼働第1号を目指す九電にこそ求められる姿勢ではないか。
◇自治体避難訓練、いまだ実施せず
一方、鹿児島県や原発周辺自治体がいまだ避難訓練を実施していないことも理解に苦しむ。県と30キロ圏の9市町が策定した避難計画では、事故の程度に応じて(1)5キロ圏の要援護者(2)5キロ圏のその他の住民(3)5〜30キロ圏の住民−−の順に段階的に避難または屋内退避する。「いざ事故が起きればパニックになって一斉に逃げ出すだろう」と専門家も指摘する中、計画に実効性を持たせるには事前の訓練が必要なのは言うまでもない。原発前で江藤さんが訴えたように、自力で避難できない高齢者や障害者ら要援護者を抱える施設や家族がなおさら不安を抱くのも当然だ。
鹿児島県では5月、屋久島町の口永良部島(くちのえらぶじま)で噴火があった。噴火から約6時間で住民137人全員の島外避難が完了し、一人の犠牲者も出なかったのは、日ごろから島民が避難訓練を重ねていたことが大きい。私も取材に関わり、災害への備えの重要性を改めて認識させられた。原子力災害はなおのこと訓練が必要なはずだが、県は「じっくりと体制を整え、しかるべき時期に実施したい」(原子力安全対策課)と再稼働前の訓練に消極姿勢を崩していない。
最後にもう一つ強調しておきたい。「再稼働反対を叫ぶのは県外の人ばかりだ」との声も聞く。確かに県内にも無関心な人は多く、反対集会に県外の参加者が目立つのは事実だ。経済や雇用などで再稼働に期待を寄せる住民もいる。といって、地元イコール再稼働賛成というのは短絡的で、地元紙の南日本新聞が4月に実施した県民世論調査では、再稼働に「反対」「どちらかといえば反対」がほぼ6割に達した。
6月に薩摩川内市であった反対集会に初めて参加した市内の主婦(63)は、今まで参加しなかった理由について「九電と関わりがある人も多いので、後ろ指をさされるかもしれないから」と語った。私はむしろこうした人たちも集会に顔を出すようになったことに注目している。もし事故が起きれば、古里に住めなくなり得ることを私たちは福島の事故で思い知らされた。それでも再稼働するというのなら、そこに暮らす人たちや再稼働に反対する人たちに真正面から向き合う姿勢こそが、九電と再稼働に同意した県に求められているのではないか。
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