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安倍内閣、原発依存度「実質引き上げ」の真意
「増設」「リプレイス」はなし崩しに進むのか
2015年6月5日(金) 磯山 友幸
原発増設はなし崩しに進むのか(写真=学研/アフロ)
経済産業省は6月1日、2030年の日本のあるべき電源構成(エネルギーミックス)を決定した。一般からの意見を募集する「パブリックコメント」を7月1日まで実施し、7月半ばに正式決定する。
焦点だった原子力発電の割合は、総発電電力量1兆650億キロワット時を前提に20〜22%とした。経産省の原案を有識者会議が認めた格好だ。LNG(液化天然ガス)火力27%、石炭火力26%、石油火力3%とした。再生可能エネルギーは22〜24%だが、これには水力の8.8%〜9.2%が含まれる。太陽光は7%、バイオマスは3.7〜4.6%、風力1.7%、地熱1.0〜1.1%となっている。
安倍晋三内閣は昨年4月、第4次エネルギー基本計画を閣議決定し、原発を「重要なベースロード電源」と位置付けた。民主党政権が「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」とした方針を転換したわけだが、一方で、「省エネルギー・再生可能エネルギーの導入や火力発電所の効率化などにより、可能な限り低減させる」としていた。その具体的な姿を示したのが、今回のエネルギーミックスである。
実質的には依存度引き上げ
今回決定した「長期エネルギー需給見通し」の文書の中に、「東日本大震災前に約3割を占めていた原発依存度は、20%〜22%程度へと大きく低減する」と書かれているのは、基本計画の「可能な限り低減させる」という一文に従ったからだ。だが、現実は、2014年は原発の稼働はすべて停止されており、原発依存度はゼロ。実質的に、これを大きく引き上げることを決めたわけである。
エネルギーミックスを議論する過程で、原発をどう位置付けるのか、ほとんど国民的な議論は行われなかった。安倍内閣は、世界最高水準の安全基準に適合したものから再稼働する、という方針は打ち出しているものの、原子力規制委員会での審査の遅れなどもあり、実現していない。
4月には福井地裁が高浜原発3、4号機の再稼働を差し止める仮処分を決定する一方で、鹿児島地裁は川内原発の再稼働差し止め申請を却下、司法の判断も分かれている。原発を巡る国民のコンセンサスが得られているとは言えない状況の中で、20〜22%という数字が打ち出された。
実は20〜22%という数字には大きな問題が隠されている。
現在ある原子炉のうちすでに廃炉が決まっているものを除いた43基は、運転開始から40年がたった段階で廃止されることになっている。このルールに従えば既存の原発はどんどん廃炉になっていくのだ。2030年には現在の半分、2040年には2割となり、2049年に稼働原発はゼロになる。
2010年の原子力比率は28.6%だった。2030年の発電量はほぼ同じだから、原子力が半分になると原発依存度は14〜15%になってしまう。これを20〜22%にするには、手を打つ必要が出てくる。
目的は新増設とリプレイス
ひとつが特例として認められている稼働期限を20年延長することだ。今ある原子炉をすべて60年間まで稼働延長すれば、計算は成り立つ。それでも2060年ごろには2割になる。
しかも、原子力規制委員会が、今あるすべての原発を安全と認める保証はない。さらに20年の稼働延長にも安全性審査が別途必要になる。今回の決定文書にも「原子力発電比率は、2030年度時点における電源構成上の見通しを示したものであり、個別の原子力発電所の安全性に関する原子力規制委員会の審査に影響を与えるものではない」とわざわざ書かれている。逆に言えば、原子力規制委員会の判断によっては、稼働延長だけでは20〜22%という比率を維持できなくなる可能性も小さくないのだ。
そうなると、原発を新たに建設する「新設」に踏み切るか、今ある発電所内に原子炉を「増設」するか、古い原子炉をつぶして建て直す「リプレイス」を行うしかなくなる。こうした原発の新増設やリプレイスはまったくと言って良いほど議論されていない。それでも言外にそうした可能性を示唆しているのだ。
つまり、今回の決定は、最低でも、稼働から40年以上たった老朽原発の運転延長が明確に織り込まれているうえ、新増設やリプレイスの可能性も含まれていると読むことができるのである。
「いやあ、あれは、リプレイスをやるということですよ」
資源エネルギー庁の幹部を務めた原発推進派の経産省OBは言う。原発をどうするかという議論抜きに、なし崩し的にリプレイスが始まるというのだ。「このままでは電力が足りなくなる」「電気料金がどんどん上がる」という"脅し"によって原発再稼働を行おうとしてきた手法と同じである。
今回は、経産省の中にも、真正面から原発をどうするか議論したうえで、エネルギーミックスの原発依存度を決めるべきだ、という声があったが、最終的には議論を避ける「なし崩し」派が多数を占めた。
首相官邸でも「説明のつく15%でいくしかない」という声があったが、「それでは原発をやめると言っているのに等しい」という原発推進派に反対された。安倍首相の回りにいる経産省出身の官僚は原子力政策に携わってきた推進派が多い。
恐らく、リプレイスの動きは「地元」から出てくる。老朽原発を稼働し続けるよりも、より安全性の高い最新鋭の原発に建て直して欲しいという要望が出されるのだろう。もちろん、その背後に経産省や電力会社の原発推進派がいるのは明らかだ。
またしても時の流れにゆだねるのか
老朽原発よりも最新鋭の原発の方が安全性が高いのは自明だが、それを政府が主導していくとなると、そもそも原発をどうするのか、という根本問題に触れざるを得なくなる。
また、老朽原発が危ないのなら40年で廃炉すべきだという声が挙がることになりかねない。それだけに「なし崩し」でリプレイスにもっていくのが世論の反発を浴びずに済むという経産省の腹づもりのようだ。
「そもそも私たちに原発依存度を言わせるという事が問題。政治家がきちんと議論をして決めるのが筋だろう」と有識者会議のメンバーの1人は吐き捨てる。だが、原発推進にせよ、反原発にせよ、火の粉をかぶる覚悟で政策を取りまとめていこうという議員は自民党内にほとんどいない。選挙民を刺激するテーマは触りたくないという意識がミエミエなのだ。
問題を見据えてきちんと議論することなく、時の流れにゆだねるというのが日本人の旧弊だろう。東日本大震災で引き起こされた、福島第一原発事故の教訓が生きていない。
このコラムについて
磯山友幸の「政策ウラ読み」
重要な政策を担う政治家や政策人に登場いただき、政策の焦点やポイントに切り込みます。政局にばかり目が行きがちな政治ニュース、日々の動きに振り回されがちな経済ニュースの真ん中で抜け落ちている「政治経済」の本質に迫ります。(隔週掲載)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150604/283891/?ST=top
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