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合意のための原発論その8 発電コスト
http://takedanet.com/archives/1028136294.html
2015年05月21日 武田邦彦 (中部大学)
原発を廃炉にするお金を出すことを決めれば、あとは発電コストのことだけになります。
もし原発が放射性物質を伴わず「クリーンな原発」ができたら、原発がもっともコストが安い発電方法になります。これは科学的に間違いはありません。
電気を作るには高い温度の熱が必要で、そのためには小さい体積で大きな熱を出すものを使った方が便利です。太陽の光などの穏やかな熱は効率が悪くなり、核分裂のように猛烈な熱を出すものは効率よく発電できます。だから、原理的には原子力がもっとも発電効率が良くなります(太陽の光も太陽が核融合の熱なので、科学的には原子力なのですが、太陽からあまりに遠いので、薄くなっています)。
ゴミ発電がうまくいかないのは、ゴミの発熱量が低いからで、微粉炭のように燃えやすいものに比べるとどうしても効率が悪い(コストが高い)ということになります。
しかし、現実的には原子力は放射性物質を出すし、石炭は燃えかすが多いし、天然ガスは運搬が大変というように使うときの欠点がありますから、(長所―欠点)でコストが決まります。
私が何にもとらわれずに主要な発電のコストを比較しますと、
石炭(ベスト)>天然ガス>原子力>石油>太陽光>風力
となるでしょう。お金で言えば、石炭が10円(キロワットアワーあたり)、原子力が12円以上、石油15円、太陽光30円といったところでしょうか。原子力だけ「以上」をつけたのは事故の危険に対する保険金、核廃棄物の処理と貯蔵にかかるお金が不明で、それも含めるとおそらく20円ぐらいになると思います。
ただ、電力会社は私企業なのに、原子力だけは研究開発費(国)、事故の時の避難態勢(自治体)、事故の時の被害の補填(個人)、核廃棄物の処理と格納(国)を負担してもらっていますので、それらをすべて自前でやる石炭などとは比較が難しいのです。
原子力も「発電所を作り、燃料を買い、運転するだけで、研究開発や環境保全などのリスクはすべて国」という今の方法なら「原発が一番安い」というのもあながち間違いではありませんが、国民から見ると電気代も税金も同じ財布からですから、原子力は高いと言えるでしょう。
ここでも合意するためには、「発電コストとはなにか?」を最初に話しあって、国や個人がお金の一部を補填することで比較するか、あるいは発電にかかるコストをすべて入れて比較するかを決めておかなければなりません。
原子力に国がお金を出していたのは「将来性が飛び抜けて良い。安全性さえ確保できたら」というのが「国策」だったのですから、すでにその政策はあり得なくなりました。表紙に「なぜ国民が工業のコストなど考えなければならないのか?」ということを不思議と思う必要があるのです。
これは太陽光発電も同じで、「近い将来、石油が無くなる」とか「温暖化する」という理由で国が税金を回して「買い取る」という方式です。「買い取り制度」というのは、国が負担して実際のコストより安い値段で売る「逆ざや方式」ですから、国がものすごい補助金を出せば、常に太陽光発電は安いということになります。個人が太陽光発電を家につけて「電力会社に売ってもうけた」と言う人がいるのですが、その人にお金を払っているのは国でも、電力でも無く、本当は「他人の家庭」なのです。
私は親から「苦しくても乞食になるな」と言われて育ったので、太陽光発電が石炭火力より安くないかぎり、補助金をもらって儲けるなどという乞食にはなりたくないと思っています。
その点、発電方法がないのなら別ですが、自分で石炭や天然ガスを買って発電業をできるのですから、原子力でも補助金無し、電源三法なし、研究開発費も自分で出し、廃棄物の処理も普通の会社と同じように自前でやるということにすれば、電力会社はやっと「大人」になるので、事故も減ると思います。
これは合意が簡単でしょう。
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