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合意のための原発論その5 合意できるのは1ミリか5ミリか?
http://takedanet.com/archives/1027395893.html
2015年05月14日 武田邦彦 (中部大学)
これまで4回にわたって「被曝と健康」について、なぜ意見が分かれるのかを整理してきました。それを踏まえて「原発再開にあたって合意できるところ」を探って見ました。私が原発再開に疑問を持っているので、できるだけ原発再開の意見を取り入れて整理をしてみたいと思います。
今、1年1ミリという大原則をもとに被曝と健康をコントロールしているのですが、それを福島の児童の基準となった「1年20ミリ」にできるかということから始めたいと思います。
日本は国際的に1年1ミリを守るということを宣言しています。たとえば、日本から輸出される食料(1年1ミリと言うことは食品で言えば1キロ100ベクレルを上限となる)、日本のホテルや観光地(人工放射線が1時間で0.11マイクロシーベルト程度の空間線量で、食料も1キロ100ベクレル以下、水道は1リットル10ベクレル以下)になっています。
それをもし1年20ミリに変えると、多くの国には食料品や工業製品を輸出できなくなるか、輸出品ごとに検査をして、国内向けと異なる1年1ミリ以下の被曝になるベクレルなどであることを証明する必要が出てきます。
第二に、外国から日本に来られる観光客、ビジネスマンにはあらかじめ旅行者などを通じて「日本は国際社会より20倍緩い規制であるが、それでOKか」という問い合わせをします。これは「被曝が多い場所への転勤命令は拒否できる」と言うことになっているからです。おそらくヨーロッパの人が日本で勤務するのに多くの忌避がでるでしょう。
日本は原子爆弾を投下され、これまでも被曝については国際的に訴えてきたので、その日本が国際的な基準より甘くすることは国際信義から言って、無理なように思いますが、「1年20ミリまで大丈夫」と言っている多くの人は外国人を説得できるでしょうか?
次に、国内の原発や原子力施設は大幅に設計が楽になり、コンクリートの厚さ、空間の取り方などの設計基準が変わります。また現在、1年1ミリに自主規制している原発作業員の被曝限度が上がるので、原発作業員が大幅削減になります。
これは大幅なコスト安に結びつきますから、電力会社は歓迎するでしょう。また現在、1年2.2ミリとされている医療被曝の平均値もだいぶ緩んでくるので、レントゲンやCTも採りやすくなり、児童の集団レントゲンなども復活すると思います。
また、労災関係では、現在1年5ミリ以上被曝して白血病になった場合、労災が適用されますが、これも止めることになるでしょう。
1年20ミリということは、1年で日本全体で「致命的発がんと重篤な遺伝性疾患(ほぼ死亡に近い被害)」が16万人になりますので、多くの災害のうち、原発が最大ということを社会が容認しなければなりません。一年で自然に死ぬ人は80万人ほどですから、その5分の1ぐらいが原発で死ぬことになり、交通戦争時の交通事故死の10倍以上となります。
現在、日本人が1年1ミリで守られているのか、それとも1年20ミリなのか、不明です。今度、川内原発が再開されるときに、周辺住民は1年1ミリで守られるのか、1年20ミリなのかも私はよく分かりません。つまり、建前は1年1ミリかも知れないのですが、東電福島の例を見ますと、「被曝のないときには1年1ミリで、被曝が生じると1年20ミリ」と考えられるので、それは結局、1年20ミリということと同じになります。
1年20ミリで合意できるでしょうか? なにか私には無理なように思われますが、「原発を再開しても大丈夫」とか、「東電福島では死者がいない」と発言している人で、もし1年20ミリの具体的な基準で合理的に国際的にも国内的にも、また国内と外国をダブルスタンダードにならない方法を論じてもらいたいように思います。
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