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城南信用金庫の吉原毅理事長=森田剛史撮影
「忘災」の原発列島 「再稼働は未来へ無責任」。城南信金トップ退く、吉原毅理事長に聞く(毎日)
http://financegreenwatch.org/jp/?p=51632
5月 15th, 2015 Finance GreenWatch
沈着冷静というイメージなのだが、脱原発の話になると熱くなる。そんな金融機関のトップが来月、経営の第一線から退く。城南信用金庫(本店・東京都品川区)の吉原毅理事長(60)。原発推進派のやり口にトコトン異を唱えてきた胸の内は今−−。【江畑佳明】
◇再生エネと両立あり得ない
やはり、この人は怒っていた。「再生可能エネルギーの推進は何のためか。それをすっかり忘れていませんか、と申し上げたかったんです」
「原発即時ゼロ」を掲げる金融界の旗手は本店の応接室で、椅子から身を乗り出すようにして一気に語り始めた。
まず、怒りの矛先を経済産業省が4月28日に公表した2030年の電源構成案に向けた。太陽光や風力などの再生エネは22〜24%。欧州や米国で主流の40〜50%程度と比べると、日本の及び腰が際立つ。その一方で、経産省は原子力比率を20〜22%と設定したのだ。
「脱原発」を訴えるのに自身の机を離れることをいとわない。構成案の発表日もそうだった。衆議院第1議員会館で開かれた「再生エネ30%以上」を目指す市民団体の集会に顔を出し、居並ぶ国会議員にこうくぎを刺した。「再生エネを進める本来の目的は原発ゼロにするためなのです。原発との両立はあり得ません」。相手の肩書などでためらったりはしない。あくまでも直球勝負を貫く。
応接室で向き合った吉原さんがさらに構成案への批判を強める。「原子力比率20〜22%は、実質的には原発を推進することです」
経産省の電源構成案には、原発依存を続けたいという政府の本音が透けて見える。どういうことなのか。
東日本大震災後、政府は原発の稼働期間の上限を40年とする原則を定めた。順守すれば30年までに原子力比率は15%程度に低下する。つまり、20%台に乗せるには「老朽原発の稼働期間の延長か、建て替え・新増設」で補う−−。
「結局、『原子力比率20〜22%を達成するため』という大義名分で新設などに手をつけるのでは。国家の滅亡につながりかねない福島原発事故が起きたのに、今後も原発を存続させるのは極めて異常事態ですよ」
怒りが収まらない理由はまだある。鹿児島地裁が4月22日、九州電力川内原発1、2号機の再稼働差し止め仮処分の申し立てを却下したことだ。同地裁は「(原発の立地や運転の要件を定めた国の新規制基準は)最新の科学的知見に照らし不合理な点は認められない」と指摘した。
吉原さんは「国策に追従し原発リスクを極めて低く見た『初めに結論ありき』の決定です」と切り捨てる。というのも、鹿児島地裁決定の8日前、福井地裁が関西電力高浜原発3、4号機について「想定を超える地震が来ないというのは根拠が乏しい楽観的見通しに過ぎない」「新規制基準は緩やかで合理性を欠き、安全性が確保されていない」などとして、再稼働を認めない仮処分を決定したからだ。「鹿児島地裁の決定は、福井地裁の提示した論点に正面から答えていません。論理を提示するという裁判所の役割を放棄したに等しいですよ」
◇拝金主義、日本は病んでいる
震災以降、リーダーシップを取り、さまざまな脱原発策や被災地支援に取り組んできた。内定取り消しとなった被災地の大学生を採用。義援金として3億円を被災地に拠出した。本店や店舗の電力供給元を東京電力から、ガスで発電している新規の電力小売会社へ切り替え、保有していた東京電力の株式も売却した。顧客向けには省エネの設備投資をすると金利を優遇する商品を販売した。経済界の大半は原発再稼働なのに、これほど「原発即時ゼロ」にこだわるのはなぜだろうか。
「信用金庫の原点に返るべきだ」。10年11月、理事長に就任して以来、「あるべき姿」を徹底してきたから、という。
「目先の利潤追求が信金の目的ではありません。経済的に強い者がさらに強くなり、弱い人たちが苦しいままという『お金のもたらす弊害』を是正して、困っている人たちを助ける『社会貢献企業』こそあるべき姿です。この原点を忠実に実行しようとするならば、脱原発を進め、原発事故で困っている人々を支援するという選択肢しかない」。原発は「信用金庫の原点」の対極に存在する、というのだ。
戦後日本は、良識や道徳といった共通の価値観が薄れ、経済的な損得が主流の論理になってしまった、と嘆く。
「もうかることの何が悪いんだ、と。原発も同じ。原発を推進すればその経済的利益が大きいからいいじゃないか、コストも安いと計算されているからいいじゃないか……すべて目先のお金が重視されている。これは今の日本が抱える病気です」
拝金主義がはびこった結果、もうひとつ日本人が見失ったものがあると考えている。「未来への責任感」だ。
1年ほど前のこと。原発推進派のある官僚と話した。「使用済み核燃料は何万年も保管せねばならず、将来へのツケが大きすぎる」と問いただしたところ、次の言葉が返ってきた。「いつまで生きるつもりですか? あなたも10年、20年もしたら死ぬでしょう。何万年というそんな先のことを心配してどうするんです?」。国の行政を担う官僚の無責任さに仰天した。
「脱原発」の熱意が結びつけたのか。同じく脱原発を訴える小泉純一郎元首相を昨年7月、同信金のシンクタンク「城南総合研究所」の名誉所長に迎え入れた。小泉氏は「勉強会や講演会を通じ、脱原発の国民運動を地道に続けたい」と話しているという。
吉原さんも思いは同じだ。拝金主義、未来への無責任……そんな現状を少しずつでも変えていきたい。脱原発に向けて幾つもの壁が立ちはだかるが、一つの光明を見いだした。それは前出の福井地裁の再稼働差し止め決定だ。「原発の危険性について事実を論理的に積み重ねた極めて論理的で常識的な判断だった。拝金主義に対抗できる論理だ」
理事長就任後、取締役の60歳定年制を導入した。特定の経営者による信金の私物化を避けるのが狙いだ。自らは相談役に退く。ただ、脱原発の旗振り役としての存在感が大きいだけに「院政を敷くのではないか」との批判がつきまとう。吉原さんは「そう(院政に)なりかねないから気をつけないといけない」と自戒するように語った。
取材を終え、本店のロビーを通ると、点灯した蛍光灯は半分程度だと気がついた。原発事故から4年2カ月がたった今も徹底した節電を実施している。消えた蛍光灯にも「決して原発事故を忘れてはならない」という吉原さんのメッセージが込められている。
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■人物略歴
◇よしわら・つよし
1955年東京都生まれ。77年、慶応大経済学部卒業後、入職。常務理事、副理事長などを経て現職。著書に「信用金庫の力」「原発ゼロで日本経済は再生する」など。城南信用金庫は都内と神奈川県の一部に85店舗を持つ業界2位の大手。
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