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有識者委員会(長期エネルギー需給見通し小委員会)で委員長を務める坂根正弘・小松製作所相談役(中央)
経産省案「原発比率20〜22%」は非現実的だ どうする電源構成<3> 九州大学・吉岡教授
http://toyokeizai.net/articles/-/68379
2015年05月02日 中村 稔 :東洋経済 編集局記者 東洋経済
経済産業省は4月28日の有識者委員会で、2030年の電源構成(エネルギーミックス)の案を提示した。総発電電力量(1兆0650億キロワット時)のうち、原子力発電は20〜22%、再生可能エネルギーは22〜24%、火力発電は56%程度とした。再エネの内訳は、水力8.8〜9.2%、太陽光7%、風力1.7%、バイオマス3.7〜4.6%、地熱1.0〜1.1%。火力の内訳は、LNG(液化天然ガス)27%、石炭26%、石油3%とした。委員会のメンバー14人のうち大半がこの案を妥当と評価。だが、これまで政府は原発依存度をできるだけ低減し、再エネを最大限導入するとしてきただけに、一部の委員からは「公約違反だ」「再エネは積み増しの余地がある」などの異議も出た。
経産省は前日の27日には、電源構成を決める前提として、各電源の発電コストの試算結果を公表している。それによれば、原発が1キロワット時当たり10.1円以上なのに対し、石炭火力12.9円、LNG火力13.4円、石油火力28.9〜41.6円で、再エネは陸上風力13.9〜21.9円、洋上風力28.7〜33.1円、地熱19.2円、一般水力11.0円、バイオマス(混焼)13.3円、太陽光(メガソーラー)12.7〜15.5円、太陽光(住宅)12.5〜16.4円などとされた(2030年のモデルプラントを想定)。2011年に行われた前回試算(原発は8.9円以上)と同様、原発が最も安く見えるが、福島原発事故の損害費用(12.2兆円と想定)が今後増える可能性があるため、やはり下限値が提示された。一部委員からは「コストは青天井であり、原子力がいちばん安いと言うのは正確ではない」との意見も出た。
今回の経産省案をどう見るか、経産省の総合資源エネルギー調査会原子力小委員会の委員で、東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会委員も務めた吉岡斉・九州大学大学院教授(専門は科学史、科学社会学)に聞いた。
■再稼働と運転延長を過大想定
――経産省のエネルギーミックスの原案をどう見ますか。
多くの問題点がある。まず、原発比率20〜22%というのはあまりに非現実的な数字だ。「可能な限り原発比率を低減させる」という政府公約にも反する極端な内容で驚いている。
国内の原発は、大震災後に福島第一の6基のほか、最近の5基の廃炉決定で43基が残っている。経産省案ではその43基と建設中の3基(島根3号、大間、東京電力・東通1号)のほぼすべてを稼働させ、運転期間を原則40年から60年に延長しようとしている。
しかし、それら46基のうち、実際には稼働できない原子炉が多いと見られる。具体的には、東電の福島第二や柏崎刈羽、東通1号、日本原電の敦賀2号や東海第二、中部電力の浜岡などだ。運転延長にしても原子力規制委員会の審査次第であり、認められるかはわからない。それなのに、経産省案は動かす原発を線引きしないで、全部動かすような想定にしている。つまり「20〜22%」というのは、単なる計算から出た架空の数字にすぎない。中身は空っぽであり、非現実的だ。
また、全体の電力需要量を決める際の経済成長率の前提(年率1.7%)に高い政府目標を使っており、過大評価だ。経済成長の実績はそれを大幅に下回っている。もし実績をベースにすれば2割前後の差が出るだろう。2030年にかけての労働人口の減少を考えれば、電力需要は自然減で現状より2割ぐらい減ると考えられる。その分、CO2(二酸化炭素)の排出量も減るはずだ。
――政府は「原発の新増設やリプレース(建て替え)は想定していない」という民主党政権時からの方針を維持したまま。今回の有識者委員会でも新増設やリプレースの議論は避けたが、「原発比率20〜22%」という目標を理由に将来、政府方針を変更するのでは。
新増設の計画は、上関原発の新設や敦賀3・4号機、川内3号機の増設などすでに10基近くあるが、経産省はこれらの計画を実現させるチャンスをうかがっていると思う。原子力小委でも福井県知事がリプレースの必要性を強調しているように、立地自治体当局が計画推進をプッシュしていて、原子炉メーカーも矢面に出ないだけで造りたがっている。今回の経産省案には新増設、リプレースは書かれていないが、今回の電源構成決定に合わせて、6月から再開される原子力小委でリプレース案がひょっこり出てくる可能性がある。だが、実際にそれができるかは別の話だ。
■信頼性低い発電コストの試算
――経産省が発電コスト検証ワーキンググループで出した発電コストの試算についてはどう思いますか。
よしおか・ひとし●1953年生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。同大学院理学研究科科学史修士課程修了、村上陽一郎、中山茂に学ぶ。1983年同博士課程中退、和歌山大学経済学部講師、同助教授を経て九州大学教養学部助教授、同比較社会文化研究院教授。専門は科学史、科学社会学。90年代からは特に原子力に関する社会史的研究に力点を置いている。著書に『新版 原子力の社会史 その日本的展開』など
こういう試算は無意味であって、歴史的にも政府は1980年代から常に原発がいちばん安いという数字を出し続けてきた。電力会社が原発や火力発電所のコストを比べられるようなデータを出していない。いろんなコストがどんぶり勘定になっていて、実証的データがない。こういう試算を政策の根拠にはすべきではない。民主党政権になって(事故リスク対応費用や立地交付金など)いろんな費目を入れるようになったのは多少の改善だが、依然としてデータ自体の信頼性が低い。バックエンド費用(廃炉や廃棄物処理の費用)があんなに安く済むとは考えられない。大幅に高く振れる可能性は高い。
そもそも政府は「原発はコストが安い、経済性に優れている」と言いつつ、原発の優遇制度はやめないできた。それどころか、固定価格買い取り制度と同様のCfD(差額決済契約)制度の導入や核燃料再処理への拠出金など、さらなる追加優遇策を検討している。極めて矛盾した話であり、今回の試算に信用性のないことを自ら証明しているようなものだ。
――今回の原発コストの試算では、追加的安全対策費用が増えた一方、安全対策の強化で過酷事故発生の確率は前回試算(1基当たり2000年に1回、50基では40年に1回)から半分(1基当たり4000年に1回)に低下すると想定し、事故リスク対応費用が減少する形になりました。
発生確率が2分の1になるという根拠も疑わしいが、たとえ半分になったとしても数十基が稼働し続けるならば発生確率は低くない。原発はそれだけの事故リスクがあるということを改めて認識すべきだ。
――ご自身は原発比率についてどう考えていますか。
私個人的には、原子力規制委員会の安全性審査をより厳しくする前提で既設原発の再稼働は中期的に認めたうえで、2027年ごろまでに原発ゼロを目指すべきだと考えている。即ゼロにすると、(設備の一括償却に対する)補償金で国民負担が多大になりかねない。そこで、1997年以前に建設された原発については運転30年で建設費を回収したうえで廃棄する。1998年以降に建設された原発は5基だから、その程度であれば補償金も少なくて済む。
――再エネ比率の経産省案は22〜24%ですが。
世界での伸びの動向を考えると、3割という数字は無理がないのではないか。(日本は)太陽には恵まれている。風力はいま一つだが、水力を含めて3割は十分可能だと思う。
私はそもそも、エネルギーミックスという目標の立て方自体に疑問を感じている。エネルギー消費の動向というのは、経済などの情勢変化によって大きく変わるものだ。リーマンショックだけでエネルギー消費量は1割近く減っている。原油価格が上がれば、石油火力は誰もやらなくなる。環境にいいものは優遇策を採り、環境に悪いものは罰則などをつけて、あとは民間の選択に任せるというのが本来は望ましい。そのうえで、政府は将来のエネルギー動向について一定の幅を持って推定するというのが正しいやり方だろう。それなのに、一昔前の概念である「ベースロード電源」で6割近くを確保するといって、実質的に原子力と石炭火力を保護するようなエネルギーミックスをつくるのは、時代遅れの発想であり、結論ありきの、為にする議論といえる。
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