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「脱原発」でCO2は増え電気代は倍増する
矛盾だらけのエネルギー・環境政策
2015.4.21(火) 池田 信夫
今年の11月末から、パリでCOP21(気候変動枠組条約締約国会議)が開かれる。これに向けて、EU(欧州連合)は二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出量を2030年までに1990年比で40%削減するという目標を出し、アメリカも2005年比で26〜28%という削減目標を出した。
しかし日本はいまだに削減目標が出せない。CO2を減らす上で重要な原発の運転の見通しが立たないからだ。経済産業省や環境省はCO2排出量を2013年比で20%前後削減するという目標を打ち出す方向で調整に入ったが、今のままでは実現不可能だ。
CO2を削減すると成長率は下がる
今後15年で20%もCO2排出量を削減するためには、化石燃料の消費をそれ以上に減らさなければならない。今は日本の電力構成のうち化石燃料は88%。2013年の排出量は1990年比で10.6%も増えた。
CO2排出量を減らす方法は3つしかない。エネルギー節約と再生可能エネルギーと原子力である。このうち省エネでは日本は世界一の先進国であり、これ以上CO2排出量を減らすには、工場の操業を制限するとかCO2を除去する設備を義務づけるなどの高コストの方法しかない。
もう1つの方法は、太陽光や風力などの再生可能エネルギーだ。しかし2014年度に申請された再エネがすべて稼働すると、固定価格買取制度(FIT)の賦課金は20年間で30兆円以上になる。「原発ゼロ」を決めたドイツでは、FITが始まってから電気代は2倍になり、さすがに制度の見直しが始まった。
おまけに再エネで火力発電所は増える。夜間や雨の日のバックアップのため、今後ドイツでは17基の石炭火力発電所が新設される計画だ。しかもその多くは、質が悪く大気汚染がひどく、CO2も大量に出す褐炭である。脱原発によってドイツの環境は悪化すると懸念する声が強い。
杉山大志氏(IPCC統括執筆責任者)の計算によると、こうした高コストの方法でCO2を1%減らすには、日本経済全体で約1兆円のコストがかかるという。20%削減するには20兆円かかる。これから人口減少でマイナス成長になると予想される日本で、GDPをさらに4%も下げることに国民の合意は得られるのだろうか。
電力自由化でCO2は増える
日本では2016年4月から、家庭用電力の自由化が始まる。電気事業に競争を導入すること自体は望ましいが、自由化は目的ではない。自由化によって電気料金が下がるとか、利用者の選択の幅が広がるとかいうメリットが出るのかどうかが問題である。
これまで家庭用の電力を自由化したヨーロッパ諸国では、電気代は上がっている。この原因は、規制で抑制されていた家庭用料金が自由化で上げられるようになったことと、新たに参入した電力会社が既存の電力会社に比べて規模が小さく、発電コストが高いことである。
おまけに日本の場合は原発が止まって電力コストは大幅に上がっているが、経産省がコストを「粉飾」して料金を抑制している。たとえば東京電力の料金は、柏崎・刈羽原発が動いているという架空の前提で燃料費を計算しているのだ。
そこに原発のハンディキャップを負わない新電力が参入するのは、まるで手をしばられた電力会社を相手にボクシングするようなものだ。すでに多くの新電力が名乗りを上げているので、短期的には安売り競争が始まり、電力消費が増えるだろう。
新電力が使うのは、単価の安い石炭火力だ。燃料費はキロワット時あたり4.5円ぐらいで、LNG(液化天然ガス)のほぼ半分である。このまま原発を止め続けると、新電力の石炭火力が増え、CO2排出量は確実に増える。
つまり電力自由化で火力発電を増やす一方でCO2排出量を減らそうというのは、1+1で−1にするような論理的に矛盾した政策なのだ。今までは政府が電力会社を規制して料金やCO2排出量をコントロールしてきたが、完全自由化の世界では、そういう直接規制はできなくなる。
原子力政策の見直しが必要だ
このように消去法で考えていくと、マイナス成長にしないでCO2を減らす方法は、原発を動かすことしかない。それも新設する必要はなく、今ある原発を普通に動かすだけで、火力発電の比率は28%以上も減らすことができる。既存の原発の燃料費はキロワット時1円程度と圧倒的に安く、CO2もまったく出さない。
経産省は原発について明確な見通しを出さず、「2030年までに20%程度」という方向で調整しているが、具体的にどうやってそれを実現するのかはっきりしない。民主党政権がすべての原発を止めてから3年たっても、原発は1基も動いていない。今年の夏に川内原発(鹿児島県)が動くとしても、1年に1基がやっとだろう。
この調子で原子力規制委員会が全国すべての原発の安全審査を終えるには20年以上かかり、「40年で廃炉」というルールを適用すると、2030年までには半分近くが廃炉になるので、電源の10%もまかなえない。原発の新設は不可能なので、「原子力20%」は絵に描いた餅なのだ。
福島第一原発事故から4年たってはっきりしたことは、原子力は多くの人が恐れていたほど恐ろしいものではないということだ。もちろん原子力にリスクはあるが、エネルギー源にはリスクがつきものだ。石炭による大気汚染で全世界で約100万人が死亡している、とWHO(世界保健機関)は推定している。
日本のエネルギーミックスを考える場合、直接コストでは石炭が有利だが、環境問題を考えると原子力も有力な選択肢である。国民がどういう選択をするかは、環境コストをどう評価するかに依存する。たとえば1トン5000円の炭素税をかければ、石炭の燃料費は2倍になる。
だから「原発推進か再エネか」といった電源構成から議論するのではなく、まず炭素税のような形で環境リスクを定量化し、それを含めた社会的コストを比較してエネルギーミックスを考えるべきだ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43594
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