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日本原電の敦賀原発1号機は廃炉決定、2号機も廃炉の公算が大きいが(撮影:共同)
原発5基廃炉の裏で蠢く「倍返し」の新増設 日本原電は敦賀3、4号増設へ働きかけ強化
http://toyokeizai.net/articles/-/63971
2015年03月23日 中村 稔:東洋経済 編集局記者
老朽化した原子力発電所5基の廃止措置(廃炉)が決まった。3月17日に関西電力が美浜1号機(運転開始1970年11月)と2号機(同1972年7月)、日本原子力発電が日本最古の敦賀1号機(同1970年3月)の廃炉を決定。翌18日には九州電力が玄海1号機(同1975年10月)、中国電力が島根1号機(同1974年3月)の廃炉を決めた。いずれも運転開始から40年前後が経つ老朽原発であり、2013年7月施行の改正原子炉等規正法で定められた「原則40年の運転期間」ルールの初適用となる。
各社としては、「最長20年の運転延長」という特例措置を狙う道もあった。しかし、特例が認められるには、厳格化された新規制基準に基づく原子力規制委員会の審査にパスする必要があり、大規模な追加設備投資や長期にわたる工事でコストがかさむ。対象の5基は出力が34万〜56万キロワットで原発としては小規模であり、運転延長しても経済的に見合わないと判断した。
加えて、各社の廃炉判断を後押ししたのが、経済産業省が3月13日に施行した廃炉会計制度の見直しだった。従来の会計制度では、廃炉を決断した際には資産の残存簿価を一括で費用計上する必要があり、電力会社の財務が一気に悪化する可能性があった。それは円滑な廃炉を妨げるとして、経産省は残存簿価を10年間で均等償却する制度に変更。毎年の費用は従来どおり、電気料金に転嫁できる仕組みとした。電力会社の負担が大幅に軽減され、廃炉の決断を下しやすくなったのだ。
■大型老朽機は20年運転延長狙う
こうした国の特別支援もあって実現する5基の廃炉。これまで日本で廃炉を完了したのは試験用の小型原子炉だけで、商業用原子炉では日本原電の東海発電所と中部電力の浜岡原発1、2号機がそれぞれ1998年、2009年から廃炉作業中にある。また、事故を起こした東京電力・福島第一原発の1〜6号機も廃炉作業に入っている。つまり、これまでの廃炉決定は合計14基。国内に残る原発は43基だ。
では、今後も運転40年を迎える原発から順次廃炉が進むかというと、そうとは限らない。現に関電は17日、高浜1号機(運転開始1974年11月)、2号機(同1975年11月)、美浜3号機(同1976年12月)の20年運転延長を目指し、再稼働へ向けた審査を規制委に申請した。いずれも出力が82.6万キロワットと廃炉決定5基に比べて大きく、3基合計で3100億円の安全対策費用を投じたとしても経済性が十分見込めると判断したという。
また、日本原電は運転開始から36年経った東海第二発電所(運転開始1978年11月、出力110万キロワット)の再稼働に向け、2014年5月に規制委審査を申請している。審査に合格すれば、いずれ運転延長も申請する見込みだ。関電も、運転開始から35年以上経つ大飯1号機(同1979年3月、117.5万キロワット)、2号機(同1979年12月、117.5万キロワット)の審査申請を準備中にあり、やはり20年運転延長も視野に入れている。
日本原電は敦賀3、4号機の推進に社運が懸かる(日本原電本社の入居するビル)
これら1980年以前に運転を開始した原発は、新規制基準が要求する難燃性の電気ケーブルを使っていないなど、審査合格のハードルは低くないと見られる。ただ、1980年以降に運転開始した原発を含め、規制委の審査次第では軒並み運転延長が認められ、運転40年原則が実質的に骨抜きになる可能性もある。
廃炉決定の裏では新増設計画も進む。中国電力の場合、島根1号機(46万キロワット)を廃炉にしても、その3倍規模の3号機(137.3万キロワット)がほぼ完成しており、規制委審査申請の準備中にある。2号機と3号機の合計出力は219.3万キロワットで、1号機と2号機合計の71%増となる。1基廃炉でも、出力や発電量は7割以上も増えるのだ。
「原発の新増設やリプレース(建て替え)は想定していない」というのが、東日本大震災後の政府の基本方針。ただ、大震災前に政府から原子炉設置許可と工事計画認可を得て着工済みだった島根3号機と電源開発(Jパワー)の大間原発、東電の東通1号機についてはその対象外との考えを示している。
■日本原電「増設実現の具体化図る」
大間原発は工事進捗率4割程度だが、2014年12月に新規制基準の適合性審査を申請。出力は138.3万キロワットと最大規模だ。今回廃炉が決まった老朽5基の合計出力(221.6万キロワット)は、島根3号機と大間の2基合計(275.6万キロワット)にも満たない。
また、東通1号機は工事進捗率が約10%の時点で福島事故が発生し、それから本格工事が中断されている。「今後の方針は未定」(東電広報部)といい、工事再開、規制委審査申請の可能性を残したままだ。
電力業界は、これら以外の新増設計画についても実現を狙っている。
敦賀1号機の廃炉決定発表と同じ日に日本原電が公表した2015年度の「経営の基本計画」。年度計画としては5年ぶりとなるものだが、この中で同社は廃炉事業や海外事業の推進とともに、「敦賀3、4号機増設計画の推進」を打ち出した。「敦賀3、4号機は原子力の維持発展のために必須であり、人と技術の確保にも重要であることから、増設実現のための方策を関係者の皆さまと検討し、具体化を図る」としている。3、4号機はどちらも出力153.8万キロワットと超大型機である。
日本原電は保有原発3基のうち、敦賀1号機は廃炉決定。2号機は規制委が原子炉直下の活断層を認定し、やはり廃炉に追い込まれる公算が大きい。もう一つの 東海第二も老朽機で審査難航が必至。地元の再稼働反対論も根強い。それだけに敦賀3、4号機計画の推進には社運が懸かっており、必死になって取り組むのは 当然かもしれない。
だが、いったいどんな方策を、誰と検討するのか――。日本原電に問うと、「現在、経産省で電源構成のベストミックスが議論されており、原子力の新増設の方針にも関係するため、経産省や地元の方々、ステークホルダーと相談して、増設計画を前に進めていきたい」(広報担当)という。ステークホルダーというのは、日本原電の株主であり電力の卸供給先である大手電力会社。要するに、政府が原発の新増設やリプレースを再び認めるよう、電力各社と一丸になって政策当局者や地元関係者への働きかけを強めるということだ。
実際、電源構成を議論する経産省の有識者会合では、2030年時点の原発依存度が大きな焦点となっている。大震災前2009年度の約30%をベースに「可能な限り低減する」のが、2014年4月の第4次エネルギー基本計画で示した政府方針。だが、電力の安定供給や温暖化対策などのために「確保する規模を見極める」とも書いており、一定の比率は確保する方針だ。
有識者会合では現状、15〜25%の原発依存度が意識されている模様だが、15%と25%とでは新増設方針への影響度が大きく異なってくる。電力業界としては、原発依存度をできるだけ高めに維持し、できるだけ早期に新増設計画が復活するよう、政治家を含めた関係者への協力要請を強めていくものと見られる。
■敦賀3、4号のほか川内3号や上関も
大震災前に原子炉設置許可申請が出されていた新増設計画としては、日本原電の敦賀3、4号機の増設のほか、九電の川内3号機の増設、中国電力の上関原発の新設がある。廃炉に伴う原発依存度の低下を一定限度でとどめるため、これらの計画の封印が解かれる可能性がある。
しかも電力業界は、電力全面自由化後も原発がコスト競争力を維持できるように、すでに決まった廃炉会計だけではなく、バックエンド(核燃料の処分や再処理、廃炉)事業や原子力損害賠償制度の見直しによる国の支援策を強く要求している。
「原発選別、廃炉時代の到来」とも言われているが、その一方で電力業界は経産省の支援を背に「原発新増設時代の復活」を虎視眈々と狙っているのだ。
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