http://www.asyura2.com/15/genpatu42/msg/331.html
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2011年に書かれた記事ですが、とても濃い内容ですので、こちらに紹介をさせて頂こうと思いました。
非常に長い記事ですので、独断で要点を幾つか以下に挙げておきます。できれば、リンク元をお読みください。
1.MOX燃料の再処理は、世界でも未だ経験がなく、燃焼度を高くすると超ウラン核種の生成量がより多くなるだけではなく、核分裂生成物の白金族元素がはるかに多く蓄積するため、再処理するときに硝酸に溶けにくいなど、未だに未解明な問題が残されている。不溶物が再処理プロセスの配管の内壁に付着すると、いくら定期的に洗浄しても配管の閉塞現象を引き起こす可能性がある。
2.『プルサーマルを実施すれば、危険性の高い発熱量の大きな使用済みMOX燃料が発生する。これをどうするのだ』という疑問に対して、2004年7月13日に、『使用済みMOX燃料は発熱量が高いので、地下に埋められる温度に下がるまでに約500年かかる』と核燃機構(旧・動燃、現・原研機構)が発表した
3.使用済みMOX燃料を直接処分する場合には、中間処分(使用済み燃料プールに入れて間断なく水冷する)期間として数世紀(500年)必要とする。この期間は、使用済みMOX燃料の再処理によって得られるガラス固化体においても問題となる。
4.高レベル廃液をガラス固化させるためには、高レベル廃液とガラス原料を混合し、これを加熱溶融し、下部のノズルを介して導出して固める訳である。日本は、この加熱溶融の方式としてパン焼きのオーブンと同じく、左右の電極から電流を通じ、ニクロム線と同じように電気抵抗を利用して加熱溶融させる方式を選択した。因みにフランスは、電子レンジ方式の高周波加熱である。
放射性廃液には、核分裂で生まれたありとあらゆる物質が含まれているが、そこには白金族の金属も含まれる。再処理は、硝酸などを使って、放射性廃液中の物質を選択的に溶かして分離する処理だが、白金族は貴金属であるから、硝酸にも溶けない。そのため金属状態なので、比重が重くて沈む。さらに白金族は、融点が1500〜3000℃と高く、ニクロム線に比べて2〜90倍の導電性がある。つまり、オーブンのように電気抵抗を使って加熱しようとしても、電気を通してしまうので加熱されにくいし、融点が高いので融けないという性質を持っている。
かくして白金族が、溶融炉の出口の細いノズルに詰まって流れないという、予想した通りの経過をたどって、全く処理不能となっている。
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どうやら、日本はわざわざ実質的に不可能な再処理方法を採用したと言えるでしょう。実質的に不可能な再処理方法を採用して、見せかけとして再処理できるという体制をとり、使用済み核廃棄物処分の問題がどんどんと積み上がる体制を取らされてきたということです。
以下、元記事のコピーです。
http://tsukimakura.jugem.jp/?eid=220
核廃棄物 2 使用済みMOX燃料の500年問題
2011.09.16 Friday
(1)核燃料サイクルのあらまし
これについては色々なところに挨拶代わりに書かれており、改めて説明をすることもないかと思う。けれども話の基なので、一応書かせて頂くことにします。出典は、敢えて「平成21年度版 原子力白書」(原子力委員会)の107頁から。色々と疑問を感じる部分もあるけれども、それらを外すことも公平ではないと判断している。仮に首を傾げる部分があるとしても、その部分こそが考えるべき処ではないかと。少なくとも技術的なことに関する、上流・下流のプロセスはよく纏まっている。そのような訳で、以下、ほぼ儘の抜粋です。今回以降もこの文章を、引用させて頂くかも知れない。
「 エネルギー資源の大部分を輸入に依存している我が国では、原子力発電所で発生する使用済み燃料を再処理し、回収されるプルトニウム、ウランなどを再び燃料として有効利用する『核燃料サイクル』の確立が国の基本方針となっている。この基本方針に基づき、立地地域をはじめとする国民の理解と協力を得つつ、安全の確保を大前提に、国や事業者などによる取組が進められている。核燃料サイクルは、ウラン燃料の生産から発電までの上流側プロセスと、使用済み燃料の中間貯蔵や再処理、MOX燃料製造及び放射性廃棄物の適切な処理・処分などからなる下流側プロセスに大別される。
上流側のプロセスは、@天然ウランの確保・採掘・精錬、A六フッ化ウランへの転換、Bウラン235の割合を高めるウラン濃縮、C二酸化ウランへの再転換、Dウラン燃料の成型加工、Eウラン燃料を用いた発電よりなる。
下流側のプロセスは、@使用済み燃料の中間貯蔵、Aウラン及びプルトニウムを分離・回収し、高レベル放射性廃棄物をガラス固化する再処理、Bウランとプルトニウムの混合酸化物のMOX燃料加工、CMOX燃料を軽水炉で利用するプルサーマル、D放射性廃棄物の適切な処理・処分等からなる。なお、再処理を行わない政策を取っている国では、原子炉から取り出した使用済み燃料を直接、高レベル放射性廃棄物として処分(直接処分)することとなっている。
ウラン濃縮や使用済み燃料の再処理施設は核兵器の材料になる高濃縮ウランやプルトニウムの製造に転用される可能性が指摘されている。そのため、これらを国内で実施している我が国は、法の下において、疑念を持たれないよう原子力利用は平和利用に徹するという方針の下、核不拡散文化を醸成するための取組の重要性を認識して実施することを重要視している。 」
(2)MOX燃料とプルサーマル発電
今回の話は、上に述べられている「下流プロセス」の、Bウランとプルトニウムの混合酸化物のMOX燃料加工、CMOX燃料を軽水炉で利用するプルサーマル、D放射性廃棄物の適切な処理・処分等、に関連し、特にDに深く関連する話である。
ご存知の通り、MOX燃料(Mixed Oxide:ウラン・プルトニウム混合酸化物)は核分裂の源をウラン235の代わりにプルトニウムとした原子力発電用の核燃料である。つまり、ウラン酸化物(原則としてウラン238が大部分の天然ウラン)とプルトニウム酸化物の混合燃料となっている。プルトニウムは事実上天然には存在せず、原子炉内で核分裂を起こした後の、ウランを用いた核燃料(使用済み核燃料)を剪断して硝酸に溶かし、化学的再処理にかけて、分離・精製することにより得ることができる。この詳しい工程について今は割愛するが、この再処理が青森県の六ヶ所村で本格的に行われようとしていることは周知の通りである。再処理といっても放射性物質がトータルで減量される筈も無く、使用済み核燃料中の放射性物質が分別され、一部は大気中や海水中に捨てられる。国際条約で放射性廃棄物の海中投棄(ドラム缶など)は禁止されているが、パイプを介しての排出は認められているらしい。大気中へは多量のクリプトンやトリチウムが放出され、設備投資をすればこれはある程度防ぐことができるが、費用対効果の関係でその設備はされていないらしい。これらは少し前のフランスのラ・アーグ再処理工場に関する海外番組で知った話である(日本も同様という話:「むだで危険な再処理」(西尾漠著 緑風出版)・57頁)。そして、分別物中で最も凶悪な液状の高レベル放射性廃棄物質は、ガラス固化体(ガラス結晶の中に放射性廃棄物を取り込んで固めたもの)として厳重に保存されることになっている。
細かくは微妙な違いはあるものの、上に述べたとおりMOX燃料は、原理的に核分裂性のウラン(ウラン235)に代えて、核分裂性のプルトニウム(主にプルトニウム239と241)を用いた核分裂燃料と考えて良い。
プルサーマル発電とは、概して言えば軽水炉(日本にある大部分の原発、軽水(通常の水)を中性子の減速材と冷却剤として用いる原子炉)において、燃料の一部にMOX燃料を用いて燃焼させて発電を行うことを意味している。燃焼といっても核分裂反応であり、通常の石油を燃やすような化学反応の燃焼とは異なる。しかし、通常用語として「燃焼」という言葉が用いられているようである。本ブログでもこの方式に従うことにする。なお、プルサーマルは、プルトニウムと熱中性子(サーマル・ニュートロン)を組み合わせた和製英語である。外国人には通じないという話も聞く。
プルサーマルは、1960年代に欧米の原子力研究機関で技術的問題が研究されていたが、最終的には技術の問題というよりも経済性が良くないために実施が見送られてきたという(「プルサーマルの科学」(桜井淳著 朝日選書)・48頁)。「原子炉時限爆弾」(広瀬隆著 ダイヤモンド社)・255頁には、「 ところが、高速増殖炉(高速中性子を用いてプルトニウムを増殖させることを目的とする原子炉、『もんじゅ』が該当する。)が将来実質的にプルトニウムを増殖することはあり得ないことが全世界で明らかになり、1995年末の『もんじゅ』事故で、高速増殖炉という言葉が電力業界でも死語になった。そこに、事故からほぼ1年後の1997年1月からプルサーマル計画がいきなり表舞台に登場してきた。実は、高速増殖炉が事実上破綻したため『六ヶ所村再処理工場で取り出すプルトニウムの目的がなくなった』事実を隠すための、苦肉の策であった。 」という解説がなされている。
これと並んで「平成21年度版 原子力白書」116頁には、「平成9年(1997)2月に「現時点で最も確実なプルトニウムの利用方法であるプルサーマルを早急に開始することが必要である」とする閣議了解が行われ、原子力政策大綱及びエネルギー基本計画(平成19年(2007)3月閣議決定)においても、「確実に推進することとされています。」とある。
プルサーマル発電の稼働に関しては、MOX燃料の通常の二酸化ウラン燃料と比較した場合の物理的・化学的性質の差違や核的性質の差違、さらにはMOX燃料の不均一性などから様々な危険性が指摘されている(例えば、「MOX総合評価」(七つ森書館)の高木仁三郎,上澤千尋による「軽水炉でのMOX使用の安全性問題」に詳しい)。これを簡単に申し上げると、「 プルトニウムとウランの混合燃料であるMOX燃料は、ウラン燃料と比べて様々な特性の違いがあり、原子炉の停止余裕など安全の幅をより小さくするものです。電力会社や国は、その安全性余裕の低下はごくわずかで、炉心の三分の一までなら従来のウラン燃料と同等に使用し得るとしていますが、そのためには、燃料の種類や配置を複雑なものとする必要が生じます。コンピュータ計算をいくら積み重ねて安全性を確保することになりますが、その信頼性はきわめて薄弱であり、安全性を証拠立てるデータは示されていません。事故を起こしやすいのは、燃料の被覆管が破損しやすいから。事故を止めにくいのは、制御棒の効きが悪いから。事故が拡大しやすいのは、反応の進み方が大きいから。被害が大きくなるのは、プルトニウム、超ウラン核種が多いから。 」(「どうする放射能ごみ」(西尾漠著 緑風出版)・126頁)、ということになる。
と、ここまでが今回の話の第一の前置きです。上に書いたBCについてなぞってみました。
(3)使用済み核燃料
またまた前置きに近くなってしまうけれども、使用済みMOX燃料の話の前提となる、通常の使用済み核燃料について考えてみる。
福島第一原発の事故があって、使用済み核燃料の恐ろしさについて再認識した。貯蔵用プールの冷却機能が失われ、水が無くなっただけで近づくこともできない怪物(死の灰の塊)である。核燃料プールに貯蔵された使用済み核燃料に爆発事故などが起これば、とんでもなく大量の放射性物質が飛散する。福島第一原発の四号炉が崩壊すれば東日本全体が終わるとも云われている。
この死の灰はどのようにしてできるのか。そして、どのようなものなのか。ずっと前に原子力について勉強した際に掲載したものを、少し内容を変更して再掲する。
「 燃焼に代表される化学反応は、原子核の周りを回っている電子に依存した現象であるのに対して、核分裂や核融合は、原子核の中の核子(陽子や中性子)に直接関連する反応である。物質が燃焼したり、色が変わったりするのは、全て原子核の周りを回っている電子の作用によるものである。原子同士が互いに近づいた場合に、双方の原子に対してどのような化学的反応をするのかは、それぞれの原子の電子の数や状態に依存する。原子同士が接近するとそれぞれの電子が電気的に反応し、原子同士が結びつき、通常は安定になろうとする。その際にエネルギーが放出されるが、これが『化学エネルギー(発熱反応)』として知られているものである(エネルギーを吸収する場合は『吸熱反応』)。しかし、どんなに複雑な化学反応が起こっても、反応に係わった原子の原子核自体は何の影響も受けずに元のままでいる。1840年にロシアの化学者のヘスによって導かれたヘスの法則『反応熱は反応の経路に関係なく、系の最初と最後の状態で決まる』から連想されるのは、通常は化学反応ではないだろうか。
『一核子当たりの結合エネルギーが増大するから吸熱反応』という感覚はまさしく化学反応のものである。原子核反応では、『E=mc2』が意識される。原子核内の状態によって、原子核の質量は異なり、これが原子核力の源泉になっているとも云える。
それでは、原子核が原子核として保たれているのはなぜだろうか。中性子は電荷を持たず、陽子は陽電荷を持つ。これだけの要素であれば、陽電子同士の反発力によって、原子核は形成されることはない筈だ。原子核が保たれているのは、核子同士の『強い相互作用』ゆえである。強い相互作用は、電荷の力(クーロン力)に比べると極めて強い力であるが、核子の近接範囲のみで働く力でもある。これに対してクーロン力は、理論上は無限遠まで及ぶ力である。原子核内では、陽子同士の電荷による反発力は、核子同士の強い相互作用で封じ込められている。この状態から、原子核が割れて原子核片に分裂する現象が「核分裂」である。特に、原子番号が大きい物質(ウラニウムなど)は陽子の数が多く、クーロン力による反発力が潜在的に大きい。原子核についての代表的なモデルとして『液滴モデル』があるが、この考え方で核分裂を考えると、仮に、何らかの原因(典型は中性子の取り込み)で原子核が振動して、原子核の真ん中が女性のウエストのようにくびれた場合には、ウエスト部分から2つのこぶが形成される。当然、これらのこぶ同士は互いに陽電荷を有しており陽のクーロン力により互いに反発している。これに対して、核子の近距離においてのみ有効な強い相互作用は、こぶ同士が余りに離れてしまうと急速に弱まってしまい、クーロン力による反発力の方が優位になる場面も想定される。このクーロン力の優位により、原子核が(2つの)分裂片として解放される現象が『核分裂』である。核分裂前の大きな原子核(ウラニウムなど)よりも、小さな原子核の分裂片の方が核子当たりの相互の結合エネルギーは強く、より安定な状態である。つまり、核子当たりの結合エネルギーが強く、結合が深い方が『質量は小さく』、ウラニウムのように、核子当たりの結合エネルギーが弱くて結合が浅い方が『質量は大きい』。これは、核分裂前後において、『原子核における質量欠損』が起こることを意味する。この失われる原子核の質量は、分裂片の運動エネルギーとして解放される。これこそが、原子核力の源泉である。つまり、この分裂片の運動エネルギーに由来する熱エネルギーが、原子爆弾や原発の力の根元的な力となる。
原子核Xに中性子nが反応して、原子核Yと粒子bが放出される場合、
X+n → Y+b、または、X(n,b)Y、と記載される。反応前後の系の静止エネルギーの差を反応のQ値と呼び、
Q=[(Mx+Mn)−(MY+Mb)]×cの2乗、である。
Q>0の場合は発熱反応であり、Q<0の場合は吸熱反応である。すなわち、原子核力の場合、発熱反応であるか、または吸熱反応であるかは、原子核反応前後の原子核反応系の質量差いかんにかかっている。今まで書いたことからすると、ウラニウムから低質量数物質(分裂片)への核分裂は、明らかな『発熱反応』ということになる。 」(再掲終了)
「この原子核反応の結果生ずる『低質量物質(分裂片)』が死の灰である。さらに、この死の灰には分裂片のみならず、中性子を捕獲して複雑な崩壊反応等を介してできるプルトニウムや他のアクチナイド(超ウラン元素)も含まれる。また、原子炉の燃料効率を考慮し、燃料はウラン235が当初の約3割程度残っている段階で取り替えられる。それゆえ、使用済み核燃料は、多くのウランとプルトニウム、そしてその他の核分裂生成物を含み、高熱を発し続けるだけでなく、極めて危険であり、隔離された状態で冷却し続けなければならない」(「福島の原発事故をめぐって」(山本義隆著、みすず書房)・30頁)。具体的に、死の灰に含まれる主な放射性物質が紹介されている(「プルサーマルの科学」・84頁、ただし「核燃料サイクル施設批判」(高木仁三郎著、七つ森書館)から)。聞いたことの無いようなものも多い。長々しくなるけれども、トリチウム、炭素14、クリプトン85、ストロンチウム89,90、ジルコニウム95、ニオブ95、テクネチウム99、ルテニウム103,106、銀110m、カドミウム113m、テルル125m、ヨウ素129,131、セシウム134,137、セリウム144、プロメシウム147、ユーロピウム154,155、ネプツニウム237、プルトニウム238,239,240,241,242、アメリシウム241、キュリウム242,244、と記されている。よく聞く元素名に下線を引いておいた。事実上はこれにウラン235,238も加わる。これらを見ると、白金族の元素が含まれていないけれども、そうすると死の灰中で生成される白金族(後で述べる)は放射性ではないと解釈してよいのだろうか。
(4)使用済みMOX燃料
ようやく本題に入ることができる。ウラン燃料を用いて上に書いたような過程を経て生ずる、世にも恐ろしい使用済み核燃料であるが、それではプルサーマル発電で用いられるMOX燃料を燃やしてできる使用済みMOX燃料の場合はどのようになるのであろうか。これが、今回の重いテーマである。結論から言うと、使用済みMOX燃料は、通常の使用済み核燃料よりもさらに恐ろしいものであることは確実だ。通常の使用済み核燃料が「怪獣」であれば、使用済みMOX燃料は「超獣」であるという例えも当たっているかも知れない。
私は、はじめのうち使用済みMOX燃料に関してはそれほど気にしていなかった。ただ、大学時代の先輩の「プルサーマルはやばいよ」という言葉が耳に残っていたので、そのプルサーマル発電について知りたくて、「プルサーマルの科学」をかなり前に購読した(現在絶版)。そこには次のように記されている。
「 MOX燃料の再処理は、世界でも未だ経験がなく、燃焼度を高くすると超ウラン核種の生成量がより多くなるだけではなく、核分裂生成物の白金族元素がはるかに多く蓄積するため、再処理するときに硝酸に溶けにくいなど、未だに未解明な問題が残されている。不溶物が再処理プロセスの配管の内壁に付着すると、いくら定期的に洗浄しても配管の閉塞現象を引き起こす可能性がある。 」(「プルサーマルの科学」・52頁)
この文章を読んで、私は、使用済みMOX燃料は実質上処理することが不可能という印象を持った。プルサーマルは、本来ウラン燃料を燃やす軽水炉中でより発熱量の大きなプルトニウムを燃やす訳だから、当然危険極まりないものであるという理解の上に、この使用済みMOX燃料の処理の難しさを上積みして考えた。
ところが2011年の始めに「原子炉時限爆弾」を購読し、使用済みMOX燃料の危険性についての記載を見て驚いた。腰を抜かしたといっても良い。最も驚いたのは、以下の文章である。なお、広瀬氏の文章には官能刺激を感じるところもあるので他の引用を含めて少し丸めさせて頂きました。恐縮です。ただ、実質はそのままのつもりです。
「 そうなると、プルサーマル運転で生まれる超危険な使用済みMOX燃料が最後はどうなるかが、重大な問題となる。これまで全国で拒否されてきた高レベル放射性廃棄物より、桁違いに危険な物質だからだ。2009年12月からプルトニウム営業運転に入って、プルサーマル計画の人体実験場とよばれてきた佐賀県玄海原発では、これが大問題となり、九州の住民と九州電力とのあいだで次のような順序でやりとりが行われた。
『プルサーマルを実施すれば、危険性の高い発熱量の大きな使用済みMOX燃料が発生する。これをどうするのだ』という疑問に対して、2004年7月13日に、『使用済みMOX燃料は発熱量が高いので、地下に埋められる温度に下がるまでに約500年かかる』と核燃機構(旧・動燃、現・原研機構)が発表したのである。500年前といえば、室町時代に応仁の乱が起こって京の都が丸焼けになった後、足利幕府が滅亡に向かった時代である。織田信長が生まれる20年以上前のことだ。そんな長期間、地元で保管しろというのか、と佐賀県民がみなビックリした。
<中略>
福井県の高浜原発でもプルサーマル計画が持ち上がったので、同じように住民が問い質すと、『使用済みMOX燃料は第二再処理工場で処理する』と関西電力が発言した。そもそも第二再処理工場の建設については、現状では何の具体的な計画も存在しない。現在の六カ所再処理工場でさえ、全く運転不能だというのに、それよりはるかに危険な使用済みMOX燃料の再処理など、日本でできるはずはない。 」(「原子炉時限爆弾」・257〜259頁)
「500年・・」
まさに気の遠くなるような時間である。高レベル核廃棄物の最終処分に要求される期間は10万年単位だから、それと比べれば短いけれども、ヒトの継続的な管理が必要という意味では、こんな長い時間は聞いたことがない。宗教施設にでもするしか手はないだろう。さすがに私も、この500年問題については疑いを持ち、これを裏付けるものを探してみた。
その裏付けになると考えられるものは、高木仁三郎氏が関わる著作(複数)の中に見つかった。その中から、「プルトニウム燃料産業」(クリスチアン・キュッパーズ、ミヒャエル・ザイラー共著、原子力思料情報室編、鮎川ゆりか訳、高木仁三郎解説、七つ森書館)を紹介する。その148頁の「第2節 MOX燃料利用が廃棄物管理に及ぼす影響」を、以下一部を補い、また省略しつつ参照する。
「 使用済み燃料管理上重要な観点は、高い放射能による発熱性である。ウラン燃料ではウラン238から、プルトニウムを経由して(アメリシウムなどの)超ウラン元素が形成され(プルトニウムは、使用済み燃料の中に含まれる最も毒性が強い長寿命放射性核種ではないという点も強調しておかなければならない。長期的な観点からいってプルトニウムよりももっと移動性を持ち、最終処分場が将来発生させる被曝という点で大きな役割を果たす他のアクチナイド系列の核種がある。特に半減期214万年のネプツニウム237が重要である:「MOX総合評価」・248頁)、これが発熱のレベルを決定する。使用済みMOX燃料は、こうした超ウラン元素をより大量に含んでいる。なぜならより重いプルトニウム同位体など、最初から集合体の中にプルトニウムが含まれているため、より直接的に各種の超ウラン元素同位体が生成するからである。挿入図(省略)は、異なる燃焼度の使用済みウラン燃料とMOX燃料の発熱量の違いを経時的に見たものである。上図は基本的な燃焼度のものであり、下図は高燃焼度のものである。それぞれ縦軸は「発熱量」(kW/T(HM))であり、横軸は中間貯蔵期間(年)である。「燃焼度」は、文字通り燃焼の進み具合であるが、その単位として通常は「MWd/t」あるいは「GWd/t」(dは日)が使用される(挿入図は前者)。これらの燃焼度は、未燃焼時の核燃料の単位重量(1トン)当たりから核分裂により発生した熱エネルギーの総量を意味している。燃焼度は燃焼時間に応じて高くなるけれども、その他色々な条件があるらしい(燃焼度について、「原子力ハンドブック」(オーム社)・124頁)。図からわかるように、基本的な燃焼度33000MWd/tでは、MOX燃料の発熱量の方が、ウラン燃料よりも10年後には2倍、100年後には3倍高くなる。MOX燃料の発熱量は、ウラン燃料を10年間冷却した後の発熱量と100年経過してやっと等しくなる。燃焼度を53000MWd/tに高めると、MOX燃料の熱的性質はさらに悪化する。10年冷却後の発熱量を比較すると、高燃焼度のウラン燃料の発熱量は、通常燃焼度の使用済み燃料に対して75%高いだけだが、MOX燃料の場合は250%も高くなることが認められる。
同じことは再処理されて分離される高レベル放射性廃棄物に関してもいえる。つまりMOX燃料の再処理による高レベル放射性廃棄物は、ウラン燃料の再処理による高レベル放射性廃棄物に比べて、同じ割合で高い発熱性を持つ。 」
ここから <中略> で、さらに使用済みMOX燃料の発熱量増大に対する方策として、3つの方策が挙げられているが、3つのうち2つは最終処分の配置密度に関するものである。そして、3つめの方策として、「使用済みMOX燃料(あるいは再処理によってつくられるガラス固化体)の中間貯蔵期間をもっと長くする。」と記されている。ただし、この追加貯蔵期間は数十年単位ではなく、数世紀にわたる、と記されている。そして、最後に「発熱量を考えると、再処理を経由する場合も、直接処分する場合も、使用済みMOX燃料の処分は、ウラン燃料よりもはるかに難しくなる。」と結ばれている。
やはり使用済みMOX燃料についての500年という時間は、大袈裟なものではないことが分かった。
(5)最後に
実はこの文章を起こす前は、これを書いている自分自身が使用済みMOX燃料にまつわる多くのリスクで混乱していたが、段々それなりに頭の中が纏まってきた。纏まってきたといっても、とても楽観的になれるものではないけれども。
上に記してきたことをまとめると、使用済みMOX燃料は、通常の使用済みウラン燃料と比べると次の非常に大きなリスクが伴うことになる。繰り返し書くが、使用済みウラン燃料が安全だとは錯覚しないで欲しい。
A:使用済みMOX燃料を再処理しようとしても、再処理廃液中の白金族の含有量が多く非常な技術上の困難を伴う。さらに、アクチノイドの含有量が非常に多く発熱性が著しいので、取扱いが危険である。
B:使用済みMOX燃料を直接処分する場合には、中間処分(使用済み燃料プールに入れて間断なく水冷する)期間として数世紀(500年)必要とする。この期間は、使用済みMOX燃料の再処理によって得られるガラス固化体においても問題となる。
C:核燃料の燃焼度が高くなると、使用済み核燃料の悪性度が増大する。特に、使用済みMOX燃料の場合は、悪性度の増大が著しい。
取り敢えず、Cの問題は付随的であるので置いて、AとBの問題について考えてみる。まず、Aの問題に関しては、そもそも我が国で使用済みMOX燃料の再処理が可能であるかどうかが問題になる。どうも予定としては再処理をすることになっているようである。
おそらく、使用済みMOX燃料の再処理は我が国では実現し難いのではないかと想像している。これは、広瀬氏も上の500年問題の引用文の最後で述べている。通常の使用済みウラン燃料の再処理すら頓挫している状態で、それよりもあらゆる面で著しく危険な使用済みMOX燃料の再処理などできる筈は無いと考えるのが素直である。再び「原子炉時限爆弾」を略引用する。
「 日本は、核兵器を保有しないことを条件に特別に再処理を認められた国であるためか、ガラス固化についてもよく分かっていないまま、フランスから再処理技術を導入して、技術的に未熟なまま再処理に踏み切ってしまった。その結果、再処理して発生する高レベル放射性廃液にガラス粉末を混ぜて、爆発しない固化体にするプロセスが、不能になってしまった。
高レベル廃液をガラス固化させるためには、高レベル廃液とガラス原料を混合し、これを加熱溶融し、下部のノズルを介して導出して固める訳である。日本は、この加熱溶融の方式としてパン焼きのオーブンと同じく、左右の電極から電流を通じ、ニクロム線と同じように電気抵抗を利用して加熱溶融させる方式を選択した。因みにフランスは、電子レンジ方式の高周波加熱である。
放射性廃液には、核分裂で生まれたありとあらゆる物質が含まれているが、そこには白金族の金属も含まれる。再処理は、硝酸などを使って、放射性廃液中の物質を選択的に溶かして分離する処理だが、白金族は貴金属であるから、硝酸にも溶けない。そのため金属状態なので、比重が重くて沈む。さらに白金族は、融点が1500〜3000℃と高く、ニクロム線に比べて2〜90倍の導電性がある。つまり、オーブンのように電気抵抗を使って加熱しようとしても、電気を通してしまうので加熱されにくいし、融点が高いので融けないという性質を持っている。
かくして白金族が、溶融炉の出口の細いノズルに詰まって流れないという、予想した通りの経過をたどって、全く処理不能となっている。運転をするとストップを繰り返し、2008年10月24日に白金族が堆積して末期状態に陥り、その時、この事業者である日本原燃は、何と棒を突っ込んでノズルの穴を突く作業をした。その結果、突っ込んだ攪拌棒が抜けなくなった。危険なので近寄ることもできない。テレビカメラで観察したところ、棒がひん曲がっていることが判明した。さらに炉の耐熱材として使われている6キログラムのレンガが落下して、ノズルに落ち込んでいることも分かった。
<中略>
おそらく固化することもできないまま、240立方メートルの高レベル放射性廃液がたまっていることになる。高レベル放射性廃液は強い放射線を出して水を分解し、爆発性の気体である水素を発生している。絶えず冷却して完璧な管理を行わないと爆発する超危険な液体である。この廃液1立方メートルが漏れただけで、東北地方北部と北海道南部の住民が避難しなければならないことになるだろう。 」(「原子炉時限爆弾」231〜234頁)
このことからすると使用済みMOX燃料の実質的な再処理は極めて難しいと想像できる。一応の形式上の予定が存在するだけではなかろうか。そうすると、MOX燃料を用いる高速増殖炉の使用済みの炉心はどのように扱うのだろうか、と疑問になるが、そこは良く分からない。ただ、現状を考えると日本で使用済みMOX燃料の再処理は著しく困難と考えるしかない。このように考えるとAの問題は念頭から除かれ、残るはBの「500年問題」である。
これは、ただひたすら使用済み燃料プールで使用済みMOX燃料を冷やし続けるしかないだろう。おそらく、使用済み燃料プールの日常は、使用済みMOX燃料が入っていても実質的に変わるものではないと思う。ただ、万が一の事故が起こったときの被害がより甚大になるだろうことと、特定の使用済み燃料棒が延々とプールの中に世代を超えて存在するだろうことが想像できる。多分国は、少なくとも形式上は使用済みMOX燃料の再処理を諦めないと思う。裏の話は兎も角として、福島第一原発の周辺の街を「死の街」と発言しただけで担当大臣が辞任に追い込まれる国柄である。「あくまでも中間貯蔵」という建前は存在し、先延ばしされ、プルサーマル発電を受け入れた地元は、事実上「永久管理人化」するのではなかろうか。その確率が高いような気がする。青森辺りを、建前上使用済みMOX燃料の再処理燃料の「中間」貯蔵施設、とする可能性も考えられる。その先のことは想像することすらできない。
私は、原則として使用済み核燃料の再処理は行われるべきではなく、諸外国のように「直接処分」に向けて動くことが好ましいと考えている。六ヶ所村の再処理工場の稼働による著しい周辺に対する核汚染を考えると、これが始まったら東日本は長期的にどうしようも無くなると想像している。また、核燃料サイクルを概念上支える高速増殖炉と、上に述べたプルサーマル発電は、福島第一で事故を起こした通常の軽水炉による発電方式よりも危険である(福島第一三号炉はプルサーマル)。経済的とも言えない。事実上、現在高速増殖炉の開発が頓挫している状態においては、いわば苦し紛れにプルサーマル発電を行う姿勢になってきていると感じられるけれども、これを行うと、運転上の危険と、使用済みMOX燃料の大きなリスクを一遍に背負うことになり、この国の未来予想図はさらに悲観的なものになるのではないだろうか。
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書ききれない色々な周辺事情があるのは理解できるけれども、核燃料サイクルにこれ以上手を染めることは何としてでも避けるべきと、私個人は考えています。これを推し進めて行くと、一体どうなるか。ここで書くことは控えましょう。一寸想像してみて下さい。
余りこのようなことばかり書いていると気が滅入るし、面白い話題でも無いので、他の事柄も色々混ぜて、それほど急がずに原子核力についても扱って行きたいと思います。
(使用済みMOX燃料の500年問題 完)
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