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[迫真]動き出す廃炉
(1) 揺れる原発銀座
「美浜原子力発電所1、2号機を廃炉にするなら新しい原発を」「町には地場産業がないので廃炉関連企業がほしい」
1月27日。福井県美浜町で関西電力社長の八木誠(65)ら幹部と町民が原発の将来を話し合う懇談会が開かれた。関電は正式に廃炉を表明していないが、住民は原発停止による経済の疲弊や、原発の新増設を訴えた。
原発の再稼働に反対する声が多い中で美浜町が新増設まで求めるのはなぜか。町は2013年度に原発関連の収入が5割弱を占めるなど、原発への依存度が高いからだ。
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町長の山口治太郎(71)は町長選での5選が決まった22日夜、事務所で「原子力を元気にするために今までの経験を生かしたい」と原発の再稼働や新増設を求めていく考えを示した。事務所には、山口の言葉に何度もうなずく関電副社長の豊松秀己(61)の姿もあった。
政府は11年の東京電力福島第1原発の事故を受け、12年に「原発の運転期間は原則40年」を打ち出した。昨年10月には経済産業省が「40年前後の老朽原発を運転延長するか廃炉にするのか早期に判断してほしい」と電力各社に迫った。
対象は関電の美浜と高浜など福井県の5基、中国電力の島根(島根県)、九州電力の玄海(佐賀県)の計7基。関電は出力の大きい高浜の2基は運転延長を目指す一方、42年以上がたち出力が計84万キロワットと小さい美浜の2基は廃炉を検討している。
廃炉を促す政策は、13基の原発があり関西圏の6割の電気をまかなっていた「原発銀座」の福井を揺らしている。7基に限らず国内の原発は続々と40年を迎える。廃炉への対処は立地自治体がいずれ直面する問題だ。
関電が水面下で動き始めたのは昨年9月。副社長の岩根茂樹(61)が福井県との調整に入る一方でプラントメーカーとの協議を始めた。廃炉には除染や建屋解体、廃棄物処理などが必要になる。「海外の事例は」「安全協定の見直しも要る」。浜岡1、2号機(静岡県)の廃炉を決めた中部電力とも情報交換した。
年が明けた1月6日。福井県庁に知事の西川一誠(70)を訪ねた関電社長の八木は美浜1、2号機について「(運転延長するか廃炉にするか)できるだけ早期に判断したい」と伝えた。西川は「原発は一つの産業構造になっているので真剣に対応してほしい」と求めた。
「産業構造」という言葉の背景には、電源3法交付金や固定資産税など立地自治体への原発関連収入がある。福井県内の自治体は13年までに計4100億円の交付金を得た。廃炉となれば、その分の交付金はなくなる。
福井県選出の自民党政調会長、稲田朋美(56)の国会事務所には最近、県や町の関係者らが足しげく通うようになった。廃炉後の新交付金などを訴え、稲田も熱心に耳を傾ける。ただ政調会長との立場もあり「決まる前からは動きにくい面もある」と周囲に語る。
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美浜町で懇談会があった1月27日には、原発の町、美浜を象徴するできごともあった。
「ぜひ聴いていってください」。懇談会の説明を聞くために集まった記者団に町長の山口が呼びかけた。役場の隣にある建物では、国際コンクールの入賞者が2千万円近いピアノを演奏する催しが始まろうとしていた。建物の総事業費19億円はほぼ交付金でまかなった。人口1万人の町でこんなことができるのは原発があるからこそだ。
多くが廃炉に身構える中で、好機ととらえる住民も少ないながらいる。
「自分で手掛けたから自分で解体しなきゃ」。こう話すのは建設会社、塩浜工業(敦賀市)社長の塩浜都広(66)だ。父親の代から原発建設に携わった塩浜にとって美浜原発は「我が子みたいなもの」。美浜町内にある工場では、原子炉建屋を想定した1メートル角のコンクリート柱を使い、解体技術に磨きをかけてきた。
一方、美浜町の元町議の松下照幸(66)は「一定の雇用を確保しながら緩やかに廃炉を進める」方策を町に働きかける。提案するのは使用済み核燃料の中間貯蔵施設を町内に建設すること。ただ県の方針とは異なり実現への道は定かではない。
地域や電力会社への影響を抑えつつ古い原発を減らしていく。複雑な方程式の解はまだみつかっていない。
(敬称略)
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東日本大震災からまもなく4年。老いて廃炉を迫られる原発に国や自治体、企業はどう向き合うのか。現場を歩いた。
[日経新聞2月24日朝刊P.2]
(2)時間との戦い
東京・六本木。深夜まで明かりの消えない「不夜城」の一つが原子力規制委員会の入居するビルだ。事務方の原子力規制庁の職員らは電力会社から提出された何万ページにも及ぶ書類のチェックに追われる。すでに21基もの原発の再稼働に向けた安全審査を抱え、約100人しかいない審査チームの業務量は限界に近い。「これで運転延長の申請まで出てきたらどうなるのか……」。審査官の一人は気をもむ。
関西電力は約40年たった老朽炉のうち美浜原発の1、2号機(福井県)の廃炉、高浜1、2号機(同)や美浜3号機(同)の運転延長をめざす。廃炉には規制委の認可、延長には厳しい審査への合格が必要だ。関電が今春にも申請すると、規制委は再稼働審査と老朽炉の延長審査で両にらみの対応を迫られる。
再稼働審査と違い、延長審査には明確な期限がある。高浜1、2号機は2016年7月、美浜3号機は同11月だ。再稼働審査には1年半以上かかっており、残された時間は少ない。
時間切れは「意図せざる廃炉」に直結し、電力会社の経営を揺るがす。国内48基のうち30年を超えた原発は19基。延長申請は来年以降も相次ぐ。規制委員長の田中俊一(70)も「どういうことになるか、ちょっと想像がつかない」と困惑顔だ。
延長へのハードルは時間の制約だけではない。原発には1基あたり1千キロ〜2千キロメートルの電気ケーブルが張り巡らされ、古い炉は新規制基準が求める燃えにくいケーブルを使っていない。交換には莫大な工事費用がかかり、結局は延長断念を余儀なくされる可能性もある。
延長か廃炉か。そのはざまに立つ電力各社が固唾をのんで見守る審査会合がある。運転開始から36年、審査中の21基のなかでは最も古い日本原子力発電の東海第2原発(茨城県)だ。
「難燃ケーブルへの取り換えも考えたらどうか」。規制庁の青木一哉(56)は原電の担当者に注文を付けた。火災対策の不備を懸念する声は根強く、延長審査の難しさを予感させる。
自民党の原子力規制に関する作業部会は18日、規制委の人員増など「審査の充実」を求める提言をまとめた。「審査の迅速化」を求めようとしたが、表現を弱めたのは「安全軽視との誤解を招きたくない」(党関係者)からだ。同部会の事務局長、井上信治(45)は「安全性を無限に追求していかなければならない」と訴える。巧遅も拙速も許されない規制委の戦いが続く。
(敬称略)
[日経新聞2月25日朝刊P.2]
(3)リスクと隣り合わせ
「まず人員の確認を。テレビ会議準備して」。18日、福井県敦賀市にある日本原子力研究開発機構の新型転換炉「ふげん」。所長の高橋秀孝(60)は防災訓練で、緊張した面持ちで指示を飛ばした。
ふげんは次世代原子炉と期待されたが、コスト面などから商用化のメドが立たず2003年に運転を終えた。訓練ではすべての交流電源が失われ、建屋にある466体の使用済み核燃料の冷却に支障が出る事故を想定。約200人の職員らは収束に向けて慌ただしく対応した。
使用済み核燃料は強い放射線を放つ。事故が起きれば危険は周囲に及ぶ。廃炉に向けた解体作業は発電設備に着手しただけ。原子炉本体は手つかずで廃炉が終わるのは33年度。リスクと隣り合わせで息の抜けない作業が続く。ふげんで蓄積した廃炉ノウハウは電力会社にも提供される。
国内でこれまでに廃炉が決まった商業用原発は事故を起こした東京電力福島第1原発を含めて9基。最も作業が進むのが日本原子力発電の東海原発(茨城県東海村)で、これに続くのが中部電力浜岡原発1、2号機(静岡県御前崎市)だ。
浜岡の両機は09年に運転を終え、建屋の周りでは機器の解体が進む。15年度から原子炉周囲の解体に入る。廃止措置部長の市川義浩(54)は「これまで以上に注意を払い安全第一で進めていく」と気を引き締める。廃炉が終わるのは36年度になる見通しだ。
廃炉期間は少なくとも20〜30年に及ぶ。福井県知事の西川一誠(70)は「原発は運転を停止しても安全の問題は残る」と訴える。原発周辺自治体は長年にわたり重荷を背負い続ける。
原発先進国は一歩先を行く。ドイツのベルリンから200キロ。バルト海を望むグライフスバルト原発を昨年7月に視察した原子力機構バックエンド研究開発部門の林道寛(63)は目を見張った。解体が始まってから約20年。かつて8基分あった原発の巨大な建物から原子炉や発電機が取り払われ、風力発電施設の工場に変わった。造船所やクレーンの製造所も並ぶ。原発跡地には約30社が進出し、千人以上が働く工業団地に変貌した。
廃炉を手掛けた会社は人材育成拠点をつくり、安全対策に徹底的に取り組んだ。廃炉を担う技術者が世界から研修にも訪れる。林道は「廃炉はビジネスだ。跡地利用まで見据え、安全に迅速に進める体制が必要になる」と語る。
(敬称略)
[日経新聞2月26日朝刊P.2]
(4)汚染水、区切り見えず
「これまでの信頼関係が崩れてしまう。漁業者を甘く見ている」。25日、福島県いわき市で開かれた福島県漁業協同組合連合会の会議。相馬双葉漁協の佐藤弘行組合長(59)は東京電力が24日に明らかにした福島第1原発の汚染水流出で、出席した東電の担当者に怒りをぶつけた。
汚染水が漏れたのは2号機の建屋屋上から。屋上にあった放射性物質を含む水が雨で流れ、排水路を介して外洋に出た。東電は1年近く放置していた。漁業者にとって新たな風評被害が生まれる不安が拭えない。
世界を震撼(しんかん)させた未曽有の事故から間もなく4年。事故直後に現場に散乱したがれきはほとんど取り除かれたものの、敷地内にたまる汚染水は20万トンを上回る。約800基のタンクが所狭しと並び、汚染水との苦闘を物語る。
「今年は1〜5年先を見据えた廃炉作業にギアチェンジする」。1月5日、東電福島第1廃炉推進カンパニー最高責任者の増田尚宏(56)は社員に向けてこう宣言したばかり。毎日7千人近くの作業員が働く現場では4月に大型休憩所も完成する。所長の小野明(55)も「環境が大きく改善する」と力を込めていた。
東電が描く廃炉戦略では、汚染水を浄化して地下水の流入を防ぐ凍土壁も設け、2015年度中に汚染水問題に一つの区切りをつける方針だった。新たなトラブルの発覚で計画は見直しを迫られそうだ。
そんな汚染水問題も、今後30〜40年続く廃炉作業の入り口にすぎない。炉心溶融(メルトダウン)を起こした1〜3号機の原子炉に、溶けた核燃料が手つかずのまま残るからだ。20年度にも核燃料の撤去を始める計画だが、内部を直接のぞくのは難しく、本当の姿はまだ見えない。
最大の障害は放射線だ。きわめて強く、人は近づけない。2月から素粒子を利用して原子炉内部を透視する試みが始まった1号機周辺では、放射線量が毎時300マイクロ(マイクロは100万分の1)シーベルトに達する。被曝(ひばく)を考慮すると長い時間、現場にはいられない。
運転を終えた原発の廃炉とは違う過酷な現場。同じように事故を起こした旧ソ連のチェルノブイリ原発は今世紀中の廃炉を断念した。福島第1原発の廃炉の道筋はまだ見えない。本当の戦いが始まるのはこれからだ。
(敬称略)
[日経新聞2月27日朝刊P.2]
(5)経験40年の「黒子」
日立製作所と米ゼネラル・エレクトリック(GE)の原子力合弁会社、日立GEニュークリア・エナジーの主任技師、高橋良知(47)はあの日、東京電力福島第1原子力発電所にいた。4号機の定期検査だった。
東日本大震災から4年。仕事は原発の建設・運転から廃炉へと変わった。格納容器の中で溶け落ちた核燃料はどうなっているのか。廃炉作業に欠かせない調査のため、高橋を中心に設計した遠隔操作のヘビ型ロボットが4月にも1号機の中に入る。
「福島に戻って少しでも現地の環境をよくしたい」。内部の撮影や放射線量測定などを効果的にやろうと高橋は今、茨城県にある技術開発拠点でロボット操作要員を鍛えるのに懸命だ。
日立と廃炉の関わりは実は40年前にさかのぼる。多摩丘陵の一角にある同社の「王禅寺センタ」(川崎市)には上部をコンクリートの蓋で固めた小型原子炉がある。教育訓練用として1961年に稼働、多くの研修生を受け入れ、75年に停止した。
使用済み核燃料は受け入れ先探しが難航し、搬出に30年を要した。作業着など低レベル放射性廃棄物は約1700本のドラム缶に入れ、今も保管が続く。何が困難なのかは身にしみている。副センタ長の中山忠和(63)は「規模は違うが今後の廃炉にも生かせるはずだ」と話す。
実動部隊となる企業の存在感は再稼働でも実証済みだ。原子力規制委員会の「合格証」を得た九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)と関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の炉は三菱重工業製。同社が川内のために作った書類はファイル250冊分にもなる。関電幹部は「炉の耐震設計など細かい計算は重工にしかできない。いかに優先してもらうかだ」と明かす。
三菱重工は関電など5社に20基以上納めてきた。「納入先と連絡会を週1回開いて情報を共有し、再稼働に向けた作業を迅速化する」(安全高度化対策推進室長の加藤顕彦=55)工夫を始めた。原発を建設してきた竹中工務店の原子力火力本部長、田中幸一郎(57)は建屋の補強案作りなどのために「シミュレーションを重ねている」という。
今年、稼働後40年以上の原発は7基、30年以上なら23基になる。運転延長や再稼働の先にも廃炉が待っている。廃炉時代をどう迎えるか。国、電力会社、それを支える「黒子企業」。三位一体が問われる。
(敬称略)
池辺豊、中丸亮夫、古谷茂久、多部田俊輔、西岡貴司、緒方竹虎、本田幸久、川手伊織、鈴木大祐、生川暁、西原幹喜が担当しました。
[日経新聞2月28日朝刊P.2]
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