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G7史上初なのに完全非公開 原爆資料館での首脳たちを見せない「中途半端さ」の裏側/東京新聞
2023年5月20日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/251120?rct=politics
先進7カ国(G7)首脳が19日、史上初めてそろって被爆地・広島を訪問し、原爆資料館を視察した。ただ、視察の様子は完全非公開で、日本政府はメディアの館内取材を認めず、首脳らが見た展示品の詳細を明らかにしない姿勢に徹した。核兵器保有国の米英仏に対する配慮が際立った。 (川田篤志、曽田晋太郎)
◆オバマ氏は10分間だった
「G7首脳に被爆の実相を見てもらう」。岸田文雄首相は昨年に広島でのサミット開催を決定して以降、何度も繰り返してきた。
脳裏には7年前の経験がある。当時のオバマ米大統領が現職大統領として広島を初訪問した際、外相として案内役を務めたのが首相。原爆を投下した側の大統領が被爆地で演説し「核兵器なき世界」の追求を訴え、被爆者と抱擁した歴史的な出来事だった。だが、原爆資料館の滞在は入り口のある東館の玄関ロビーでの10分間にとどまり、館側が用意した折り鶴など数点の収蔵品を見ただけだった。
広島サミットでは、視察のテーマにずばり「被爆の実相」を掲げ、犠牲者の写真や遺品などが並び、それを最も感じられる本館での展示品を見てもらうことが必要だと考えていた。
◆「センシティブな問題」慎重だった米仏
だが、各国との調整は難航。外務省関係者によると、米国とフランスが特に慎重だったという。
フランスは1月、核兵器を「防衛の要」と位置付けた中期国防計画の骨格を発表。マクロン大統領は「抑止力がこれほど必要と思われたことは、かつてない」と核抑止への傾倒を強めている。広島で核兵器がもたらす「負」の側面に焦点が当たりすぎると、抑止力を強める立場と矛盾するとの論理が働いていると日本政府関係者はみる。
米国の場合、「戦争終結のために原爆投下は必要だった」との国内世論が根強いことが影響しているという。バイデン大統領が資料館をじっくり視察すれば、国内で反省していると受け取られて批判を浴びる可能性があり、日本の外務省幹部は「米側は見学の様子は見せたくない。センシティブな問題だ」と漏らす。
ぎりぎりの調整で、日本政府としてG7首脳が館内をどう回り、本館に足を運んだのかも明らかにしない対応に行き着いた。滞在はオバマ氏より長い40分間だったが、首相は19日夜も記者団に詳しい内容を説明せず「準備の過程で非公開にすることになった」と話した。館内でのG7首脳と被爆者の面会も非公開で、被爆の実相に触れてもらったとしても発信は抑制的になった。
上智大学の前嶋和弘教授(米国政治外交)は取材に「G7首脳が訪問したのはすごいことだと思うが、本館に行ったかどうかを含めて公開していいはず。核なき世界を訴える機会としては残念だった」と指摘。「核廃絶がG7の優先順位のトップに行かない難しさが、今回の中途半端さにつながった」と分析している。
◆世界中で高まる核の脅威
岸田文雄首相はG7広島サミットをきっかけに、「核兵器のない世界」への機運醸成を狙うが、核軍縮や核廃絶の動きは減速どころか逆行しているのが現実だ。
ストックホルム国際平和研究所によると、世界の核保有9カ国が持つ核弾頭数は2022年1月時点で、計1万2705発に上る。トップのロシアが5977発、米国が5428発と続き、両国で世界の9割弱を占める。
冷戦後の米ロ核軍縮交渉で12年に2万発を切ったが、近年は減り幅が鈍化している。米ロは核戦力を強化する近代化を進め、爆発力を抑えた「使える核」の開発を続ける。
ロシアは14年のクリミア半島併合を機に「G8」から排除され、ウクライナに侵攻した今、核使用の脅しを繰り返す。東アジアでは中国が核戦力を増強させ、35年までに1500発まで増やすと指摘され、核軍縮のテーブルに着く気配すらない。北朝鮮も核・ミサイル開発を推進。中東ではイランが核開発を進めている。核の脅威は高まっている。
◆被爆者「核軍縮と全く真逆の方向に」
首相は核保有国が核軍縮を約束した核拡散防止条約(NPT)の信頼性を再構築すると訴える。しかし、一方的に脱退を表明した北朝鮮を含め、核を保有する9カ国のうち4カ国はNPTに入っておらず、同条約の枠組みだけでは問題は解決しない。
さらに、核軍縮の停滞に非保有国から批判が高まり、核兵器の全面違法化と廃絶を目指す核兵器禁止条約が発効したが、保有国は反発。米国の「核の傘」に頼る日本も参加していない。
7年前に現職米大統領として広島を初訪問したオバマ氏と抱擁した広島市の被爆者森重昭さん(86)は、「核軍縮が進むと期待したが、全く真逆の方向にどんどん進んでしまっている」と失望。「米国もロシアに対抗し『こちらも核で脅すぞ』との雰囲気まである。今何とかしなければ」と危機感を募らせている。
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