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防衛力の抜本的強化その必要性は/田中泰臣・nhk
2022年12月16日 (金)
田中 泰臣 解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/477601.html
日本の安全保障政策が大きく変わろうとしています。政府は日本を取り巻く安全保障環境が急速に厳しさを増しているとして防衛力の抜本的な強化策を決定しました。その財源として増税する案に注目が集まりましたが、その必要性は。
《安全保障3文書を決定》
政府は外交・防衛の基本方針である国家安全保障戦略。防衛の目標と手段を示す「国家防衛戦略」。5年間の防衛費の総額を示した「防衛力整備計画」を閣議決定しました。この中に防衛力の抜本的強化策が盛り込まれていて、岸田総理大臣は会見で「周辺で核・ミサイル能力の強化・急激な軍備増強がいっそう顕著になっている。現在の自衛隊の能力では十分でない」と必要性を強調しました。
《かつてない増額規模》
これにより何が変わるのか。まず、あげたいのが防衛費の規模です。
来年度から2027年度まで5年間の総額は43兆円。今の5年間の計画は27兆4700億円なので1.6倍となります。政権幹部の1人は「防衛省と財務省の間で調整が続き、最後は岸田総理が防衛力強化を重視し決断した」と話します。1年ごとに見ますと、来年度の当初予算は6兆6000億円程度となる見通しで、その後増額し5年後には8兆9000億円とする方針です。
その年には、安全保障に資する研究開発や公共インフラ整備などと合わせて現在のGDPの2%=11兆円を達成するとしています。これまでの防衛費の伸びと比較しても、格段に増えるのが分かります。
もう1つ、注目したいのが43兆円の内訳です。
この中には、自衛官の人件費や、高額な装備品の導入などで支払いが終わっていない後払い分が相当含まれています。それらを除いたものが防衛力の抜本的強化のために必要な事業額で27兆円です。実はこれとは別に、2028年度以降に後払いする分があり、それを含めると43兆5000億円になります。これが、強化のための実際の額と言えます。今の5年間の計画でそれに相当するものは17兆1700億円。実に今の2.5倍の規模で強化に取り組むことになります。
《財源めぐり自民党は》
この防衛費をめぐり、自民党内で激しい議論となったのが財源についてでした。
《財源めぐり自民党は》
岸田総理は、追加の財源として4兆円が必要で、歳出改革・年度内に使われなかった剰余金などを活用し、それでも足りない1兆円あまりを増税で賄う方針を示し、与党に具体的な検討を指示しました。それが今月の8日。そこから1週間で決定するスケジュールに、党内から「拙速に議論を進めるべきではない」「国債の発行も財源とすべき」などと反対意見が続出しました。
しかし岸田総理は国債による財源確保は認めませんでした。政権幹部は「総理には今の世代の責任でという思い。また際限なく防衛費が膨らまないよう国債に頼らないとの思いが強かった」と話します。結局、法人税・所得税・たばこ税について増税などの措置を取るものの、実施時期は2024年以降として来年も議論を続ける余地を残し、決着しました。
ただ岸田総理に対し党内でこれだけの反発が起きたのは初めてで、今後の政権運営に影響を及ぼす可能性は否定できません。
いずれにしても、増税の実施時期は未定ですし、強化策についても財務省関係者の1人は「実現性が不確かなものや、事業の進ちょく次第でコストを見直せるものもある」と言います。政府には、方針を決定したから終わりというのではなく、強化策の内容や財源のあり方について今後も検証・検討していくことを求めたいと思います。
《大幅増の必要性は?》
国民に新たな負担を求めてまで行おうとしている防衛力の強化。野党からは「数字ありき」などと批判も出ていますが、その必要性はどうなのでしょうか。
強化策のうち、特に規模が大きいのは「持続性・強靱性」というもので5年間で15兆円を投じます。これは主に戦闘機や護衛艦など主要装備品の導入を優先し、後回しにしてきた不足分野を解消するものです。
その一つが弾薬や誘導弾の確保です。特に誘導弾の不足は深刻で、弾道ミサイル用の迎撃ミサイルは必要な量の4割が不足していると言います。
また部品不足のため、同じ装備品どうしで、部品の“やりくり”も常態化していて、そのため、一部の装備品では3割ほど稼働できないものがあるとしています。
こうした実態、実は防衛省はこれまで、相手に手の内を見せることになるとして、つまびらかにしてきませんでした。今回その一端を明らかにしたのは、安全保障環境が厳しくなる中、持てる力を実際に使えるようにしたい。またロシアのウクライナ侵攻でも重要性が認識された、戦いを続けられる「継戦能力」を持つ必要があるためとしています。ただ、この機に一気に不足を解消したいとの側面はないのでしょうか。防衛省は、その必要性を精査し可能な限り公表していくべきだと思いますし、これまでの予算の配分の妥当性も問われるべきだと思います。
一方、新たな能力として注目したいのは、5兆円が投じられるスタンド・オフ・ミサイルの配備です。相手の脅威が及ばない離れた所から攻撃できる長い射程のミサイルです。代表的なものは国産で能力向上の開発を進める12式地対艦誘導弾で、射程を1000キロ以上に伸ばし2026年度から量産するとしています。その射程と同程度の、地上発射型の中距離ミサイル。中国は2000発以上持っているとされますが、日本にはありません。公式に特定の国をあげてはいませんが、防衛省関係者は、仮に台湾有事となれば中国による沖縄県の離島への侵攻の可能性も否定できないとして、それを離れた所からでも阻止するため、スタンド・オフ・ミサイルの配備を急ぎたいとしています。国家防衛戦略には「相手の能力と戦い方に着目した強化」が掲げられていて、まさにその一つと言えます。
《“反撃能力”議論は尽くされたか》
一方、弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮に着目し、スタンド・オフ・ミサイルによって可能にするのが「反撃能力」の保有です。
相手国の領域内にある発射基地などを攻撃できる能力のことを言い、ミサイル技術が進展する中、迎撃だけでは対応が困難になっているとして保有を決定しました。これまでその役割はアメリカが担うとして一貫して保有してこなかったもので安全保障政策の大きな転換となります。
ただ自民・公明両党は短期間の協議で合意。「日本への武力攻撃が発生し、武力行使の3要件に基づき、必要最小限度の自衛の措置として可能にする」としました。公明党の議員の1人は、「今の安全保障環境の厳しさを直視した結果だ」と言います。ただ8年前の集団的自衛権の行使容認の際には連日、激しい意見が交わされたのと比べると議論が深まったようには見えません。
防衛戦略には「先制攻撃は許されない」ということも明記されていますが、何をもって日本への武力攻撃が発生したとするのか、野党からは「抽象的だ」との声も出ています。それらをどう担保するのかなどについて政府・与党には、具体的な説明が求められると思います。
《求められることは》
9年ぶりに改定された国家安全保障戦略は、中国の動向について「国際社会の懸念事項」から「最大の戦略的な挑戦」と記述を変え、北朝鮮は「深刻な課題」から「重大かつ差し迫った脅威」としました。それだけ急速に安全保障環境が厳しさを増しているからこそ必要だとする抜本的な強化。財源の問題がとりわけ注目されますが、新たな能力や導入する装備品は、日本の安全保障政策を大きく変えるものです。これに対する審議は来年の通常国会が中心になります。与野党には適正かどうか徹底した議論を、また政府には真摯な説明を求めたいと思います。
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