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安倍元首相の国葬「法の下の平等に反する」 木村草太教授 客観評価で説明を
2022年8月19日 06時00分
政府が閣議決定した安倍晋三元首相の国葬に対する反対の声がやまず、識者や市民団体が声明や抗議行動を通じて撤回を求めている。なぜ、これほど国民は違和感を覚え、反発するのか。憲法学者の東京都立大・木村草太教授(42)の話を基に国葬の問題点を考察した。(坂田奈央)
安倍元首相の国葬について話す東京都立大の木村草太教授=東京都千代田区で
安倍元首相の国葬について話す東京都立大の木村草太教授=東京都千代田区で
◆「憲法の平等原則に違反」
「安倍元首相だけ特別扱いする理由があるのか。安倍氏にのみ当てはまる『国葬を行うべき理由』を説明できないなら、憲法の平等原則に違反する」。木村氏は問題の根幹を指摘する。
憲法の平等原則は14条で、すべての国民は「法の下に平等」と宣言していることを指す。
岸田文雄首相は安倍氏の国葬実施の理由に関し、憲政史上最長の8年8カ月間の首相在任、経済再生や外交での大きな実績、選挙中の蛮行による死去で国内外から哀悼の意が寄せられていることなどを挙げる。
木村氏は「『大きな実績』というのは、岸田内閣の主観的な評価にすぎない。国が行う儀式の対象とする以上、首相の功績の大きさは客観的評価が必要だ」と疑問を投げかける。
憲法14条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
A華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
B栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
◆実績評価は第三者機関が政治から独立して行うべき
国葬は半世紀以上前の吉田茂元首相以来で、現憲法下で2例目。当時も異論があり、以降の首相経験者の葬儀は「国民葬」「内閣・自民党合同葬」などの形をとってきた。
安倍氏と比べ、吉田氏以降の歴代首相の実績はどうだったのか。
例えば池田勇人氏は「所得倍増計画」を掲げ、日本を経済大国に押し上げた。佐藤栄作氏は沖縄返還を実現し、ノーベル平和賞を受賞。中曽根康弘氏は国鉄改革などを行い、外交ではレーガン米大統領と親密な関係で日米関係を基軸とした外交を展開した。
それぞれの実績には光と影がある。同様に安倍氏の大胆な金融緩和策をはじめとする「アベノミクス」や、集団的自衛権の行使容認などは評価が分かれる。森友・加計学園や桜を見る会などの問題も噴出した。在任期間は最長だが、安倍氏も「何日間在職したかではなく、何を成し遂げたかが問われる」と語っていた。
木村氏は「実績の評価は第三者機関が政治から独立して行うべきだが、政治学者でも国葬にする客観的理由を示すのは難しいだろう」との考えを示す。
◆共感の要求は「思想信条の自由の侵害」にも相当
「公金使用を正当化する公共目的があるか」との点も木村氏は問題視する。
2020年の中曽根氏の葬儀は内閣・自民党合同葬で約1億9000万円を国と自民党が折半。今回の国葬は全額国費で、国の支出は大幅に上回る可能性がある。
木村氏は「現状、岸田首相や閣僚の安倍氏の功績をたたえたいという感情に共感を求めることが国葬の目的と見ざるを得ない」と批判。「主観的な感情を広めるのは公共目的とは言い難く(内閣府設置法に基づく)内閣府の所掌事務の範囲外で違法ではないか。思想信条の自由の侵害にもなり得る」と警鐘を鳴らす。
今後の首相経験者の葬儀も、国葬か否かは内閣の一存で決まることにもなる。木村氏は「公金支出には基準が必要だが、国葬の基準を決めるのは現実的には容易ではない」と指摘した。
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