30. 2015年9月22日 11:05:54
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2015.9.21 05:01 【正論】 成立「安保法制」 安保の歪み正した首相の指導力 杏林大学名誉教授・田久保忠衛 http://www.sankei.com/column/news/150921/clm1509210001-n1.html ニクソン米大統領訪中の前に準備の話し合いで、キッシンジャー大統領補佐官が北京を訪れたときに周恩来首相と会談した内容が記録されている。その中でキッシンジャー氏が「私が中国と日本を社会として対比するとしたら、中国には伝統に由来する普遍的な視点があります。しかし日本の視点は偏狭です」と持ちかける場面がある。周恩来氏は「彼らは島国の集団ですね」と応じている。 長時間にわたって多大なエネルギーや費用を使って審議した安全保障関連法案をめぐる国会内外の騒ぎをみていると、残念ながら2人の日本観察はほぼ当たっていると考えないわけにはいかない。 ≪奇妙な意見がまかり通る日本≫ 安全保障関連法成立までにどれだけの空理空論が全国的に繰り返されたか、出るのはため息だけだ。反対デモに参加した学生たちの前で著名な元国立大学教授は「安倍(晋三首相)に言いたい! お前は人間じゃない! たたき斬ってやる」と述べたそうだ(産経新聞9月11日付、中宮崇氏のコラムiRONNA)。知識人としての枠をはみ出している。 この人物に限らず、国会審議における野党の質問、「暴力」、一部の新聞、テレビには、世界とりわけアジアで軍事力を背景に現状を変更して憚(はばか)らない中国と、それを阻止できる実力を蓄えている唯一の国、米国の指導力低下という地殻変動が生じており、その間にある日本がいかに生き延びていくか、という戦後最大の局面に逢着しているとの意識はない。 国際情勢に関する知識が皆無なのが分かってしまうにもかかわらず、「憲法違反は許さぬ」など謙虚さに欠ける発言を公にした憲法学者、最高裁元長官・判事、内閣法制局元長官、防衛省元高官らの発言は思い出すだにおぞましい。最近まで中国大使を務めてきた人物が「違憲とする学者の言う通りだとすると、審議している国会そのものが憲法違反になってしまう」と記者会見で述べていたが、日本は珍妙な意見がまかり通る時代に逆戻りしているのだろうか。 ≪国際的な意味理解しない反対者≫ 安全保障観で日本と対照的な国を例に挙げる。イスラエルは、サダム・フセイン大統領が独裁者として勢威をふるっていた1981年にイラクの原子炉を、2007年にバッシャール・アサド大統領が君臨するシリアの核施設をいずれも急襲して完全に破壊してしまった。イラクもシリアもイスラエルの存在そのものを認めておらず、その両国が核兵器を持つ以前に「先制的自衛」をしたのだとイスラエルの指導者は公言した。 イスラエルがイラクとシリアの主権を侵害したのは間違いない。が、憲法や国際法よりも生存がイスラエルにとっては大事なのだ。歴史も周辺の環境も異なる日本がこの国のまねをすべきだとは言わないが、安全保障の極限が分からないとイスラエルを誤解する。 安倍首相に悪罵(あくば)を公然と投げた先生は、日本の積極的平和主義と安保法制に50カ国以上が賛成を表明した事実を知っているのだろうか。中国と関係が深いカンボジア、ラオスを含めてアジアの主要国はすべて含まれている。安保法案が衆議院を通った段階ですぐに祝意を伝えてきたのはフィリピン、ベトナム、オーストラリアなどだが、法案反対者はこれらの国の指導者を「人間的でなく、たたき斬る」相手だとでも思っているのだろうか。平壌や北京で最高指導者を同じ表現で批判したら、どのような事態が起こるかも悟ってほしい。 ≪行き着くところは憲法改正だ≫ それにしても、事実に基づかない「戦争法案」「違憲法案」「徴兵制反対」のプラカードが示すように、俗耳に入りやすい用語を宣伝に利用する方法に野党はたけていた。共産党議員は公共放送NHKでデモ参加を呼びかけた。 これに対する政府・与党の対応は野党側が狙い撃ちしている各論の細かい論争に引きずり込まれ、反論をPRするタイミングも遅すぎる。衆院審議では北朝鮮の脅威だけを強調したかと思うと、参院審議に入って中国への言及が増えるなど不自然な対応も目立った。 おしなべて条文の解釈を説明するだけで人の心を打つ情熱は感じられなかった。ただ、自衛隊OBの西元徹也元統合幕僚会議議長の話だけは、普通の国の軍隊と自衛隊の相違がどこにあるかを体験を通じて解説し、法案を貫く精神を知る上で説得力があった。 安倍首相に対する信頼は戦後の歪(ゆが)んだ日本の安保体制を正そうとする真摯(しんし)な努力にある。国家安全保障会議設置、新防衛大綱の策定、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の報告書、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」の閣議決定、今回の安保関連法案の成立−に至る一貫した流れは首相の指導力によるものだ。行き着くところは憲法改正であろう。些末(さまつ)な議論にかかわっている時間はないはずだ。(たくぼ ただえ)
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