2. 2015年11月06日 05:06:51
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賄賂と宴会を禁じられて転げ落ちる中国経済「反腐敗運動」のさらなる強化で金融危機が勃発か? 2015.11.6(金) 藤 和彦 汚職容疑者が自殺した場合は検察官に罰則、中国 中国の反腐敗運動はいつまで続くのだろうか。北京市内にはためく中国国旗(2015年7月9日撮影)。(c)AFP/GREG BAKER〔AFPBB News〕 10月28日付のブルームバーグが、中国の反腐敗運動が金融界を狙い撃ちしていることを伝えている。 中国の反腐敗運動を主導する共産党中央規律検査委員会は、10月23日に発表した声明で、中国人民銀行や中国工商銀行をはじめとする中国5大銀行、政府系ファンドの中国投資(CIC)、国家開発銀行、上海・深セン両証券取引所、中国銀行業監督管理委員会、中国証券監督管理委員会(証監会)、中国保険監督管理委員会など31機関を、不正行為または汚職の可能性をめぐる検証の対象として挙げたという。 2012年11月の習近平総書記就任直後から、党内の「腐敗分子」をあぶり出す反腐敗運動が開始された。「ハエ(小物)もトラ(大物)も叩く」との宣言どおり、元政治局常務委員の周永康や人民解放軍の最高幹部だった徐才厚らが摘発された。 これまで「石油閥」や「電力閥」などにメスが入れられてきたが、金融業界が公式にターゲットになるのは初めてである。 中央規律検査委員会は、第13次5カ年計画(2016〜20年)について討議する第18期中央委員会第5回総会(5中総会)の開催直前という微妙な時期に、あえて声明を出した。国家行政学院の竹立家教授はそのことについて、「中国経済に対する下振れ圧力が強まる中、腐敗した金融システムは中国の経済的な安全保障を脅かす恐れがある」からだとしている。 反腐敗運動が中国経済の減速をもたらした 中国政府は6月中旬からの株価暴落以降、その犯人捜しに躍起になっていた。8月末には、中国最大の証券会社である中信証券や証監会の幹部が株価暴落を招く不正行為を自供したとして拘束された。また、中央規律検査委員会が声明を発表した10月23日には、大手証券会社である国信証券総裁が自殺し、翌27日には証監会上海先物取引所の元理事長が職務怠慢などを理由に解任された(10月29日付「大紀元」)。 江沢民一派の追い落としのための権力闘争との見方もあるが、金融業界にまで本格的な反腐敗運動を展開することになれば、中国の金融危機勃発のリスクがますます高くなってしまうのではないかと筆者は危惧している。 そもそも中国経済が減速し始めた原因の一端は、反腐敗運動にある。 習近平指導部がスタートして最初に迎えた春節期(1年を通して最も消費が活発になる期間)の飲食業界の売り上げは前年比8.4%増と過去10年で最も低い伸び率となった。高級ブランド品の買い控えはそれ以上であったと言われている。バブル経済を支えている共産党幹部が財布のひもを締めた結果である。その後、不動産投資などにも波及し、広範な経済活動に悪影響を及ぼした。 中国政府は輸出主導型からサービス・消費主導型経済への構造転換を図ろうとしているが、専門家の間では「政府は国内に潤沢にある貯蓄(GDPの約5割を占める貯蓄率)を活用して必要なインフラ投資を進めないと、中国経済は失速しかねない」との懸念が高まっている(10月26日付ブルームバーグ)。公共事業など投資活動が低調だからだ。 反腐敗運動の総元締めは王岐山 政治局常務委員である。王氏の下で、何万もの捜査官が役人や経営者を取り調べ、1日500人以上が処分される状況が続いている。その恐怖が官僚機構や国有企業の経営陣全体に広まり、多くの幹部たちは目立つことを恐れて重要な決定を下すことを避けてしまうようになってしまった。 中国メディアによれば、「役人らは面従腹背で、裏で仕事をさぼっている。賄賂も宴会もダメなら仕事もしない。執務時間中は政治学習と称して小説を読んでいるため、公共事業の許認可の遅れや手続きの停滞を招いている」という。 世界最大の鉄鋼業界が深刻な危機に 10月29日、中国銀行は「第3四半期決算はリーマン・ショック後初めての減益となった」と発表した。その要因は、中国の景気低迷と過去最大規模となる貸倒引当金の計上である。 中国の銀行から欧米勢の出資引き揚げの動きが相次いでいる。著名な投資家であるマーク・ファーバー氏は「債務で警戒を要する中国の上場企業数が昨年の115から今年は200に急増している」ことに警告を発している(10月27日付ブルームバーグ)。上場企業数の債務総額は前年比で約23%増加しているが、この増加のペースはGDP成長率の3倍である。 業種別に見ると石油・石炭などのコモデイテイ分野(92社)と鉄鋼などの工業分野(43社)がおおかたを占める。中国鋼鉄工業協会は10月28日の定例記者会見で、「業界では値崩れととともに需要が急落し、銀行が貸し渋り姿勢を強め、損失が積み上がっている」と、世界最大の鉄鋼業界が深刻な危機に見舞われていることを明らかにした。 前述の5中総会は、内部意見の対立により例年より遅れて10月26日に北京で開かれたが、難産の末出てきたのが1979年以来続いてきた「一人っ子政策」の廃止である。 2016年3月に開催される全国人民代表大会における法律承認の手続きを経ずして共産党が早急な政策変更を望んだのは、経済成長を支える生産年齢人口(15〜59歳)の減少が危機的な状況にあることを示している。 中国経済に見切りをつけた投資家たちが、当局の規制をかいくぐる形でいわゆる地下銀行を通じて海外へ資本を流出させるという動きも活発化している(10月29日付ウォール・ストリート・ジャーナル)。前述のファーバー氏も、「私も中国国民が記録的なペースで国内から資金を移しつつあるとの見方に賭けたい」としている。人民銀行は11月2日に人民元の大幅引き上げを行ったが、資本流出がますます深刻化しているのではないだろうか。 中国経済が世界2位の座から陥落? 旧ソ連が崩壊した一因として「クレムリンの役人たちが相互に連帯することなくサボタージュが同時多発的に発生した」ことを指摘する専門家がいる。中国が未曾有の金融危機勃発のとば口に来ている最中に、反腐敗運動の矛先を向けられ恐れをなした金融業界の役人や経営者達の間で大規模なサボタージュが起きたらどうなるのだろうか。 ソ連崩壊後に7年間GDPが減少し続けたため、GDPは旧ソ連時代より44%減少したと言われている。現在の中国は資本主義国の体裁を擁しているが、その実態は共産党一党支配の計画経済国または計画型疑似資本主義国である。そのため、中国政府が発表するGDPは実績値ではなく計画値に過ぎない。本当のGDPの数字が分かるのは、中国で大規模な金融危機が発生し、旧ソ連の場合と同様に経済システム全体の見直しを余儀なくされる事態を経てからだろう。 著書『やがて中国の崩壊がはじまる』で知られるゴードン・チャン氏は、「日本が成長しなくても中国が落ちるため、中国はいずれ世界経済第2位の座を日本に明け渡すだろう」としている(10月22日付大紀元)。今の中国は、それが「全くの空想話」として一笑に付せる状況ではなくなってきている。 在庫が積み上がる中国、米国の石油業界 中国の石油業界は、鉄鋼業界と同様に過剰な債務に苦しんでいる。 中国最大手の石油・天然ガス企業であるペトロチャイナ(中国石油)の第3四半期の純利益は、原油安が売り上げに悪影響を及ぼしたため、前年比81%減と予想以上に悪化した。アジア最大の石油精製企業であるシノペック(中国石油化工集団)の1月から9月までの純利益も、前年比48%の大幅減であった。 10月23日に発表された統計によれば、9月末の中国の原油在庫は前月比2.4%増の3358トンとなり、景気減速の影響で国内のガソリン消費が低迷していることが明らかになった。10月30日付ウォール・ストリート・ジャーナルが「原油相場の反発、中国には期待するな」と報じているように、中国の原油輸入量の減少はいよいよ本格化するだろう。 米国でも在庫の積み上がりの状況は深刻である。過去4週間に2260万バレル増加したため、原油在庫は10月としては1930年以来の高水準に達した。 供給過剰に加え、この時期にしては比較的温暖な気候が原油・ガス需要を抑えている。米国の天然ガス価格は2012年4月以来の100万BTU当たり2ドル割れを記録し、原油価格にも下押し圧力となっている。 アラブ首長国連邦(UAE)経済相は10月25日、「原油価格は1バレル=45ドルで底打ちした後、来年は60ドルまで上昇する公算が大きい」と予想した。だが、「大手石油会社にとって、原油価格1バレル=60ドルは魔法の数字になりつつある(10月28日付ブルームバーグ)。「原油価格は1バレル=36ドルに向かいつつある」とするのが市場関係者のコンセンサスだからだ。 8月以来の原油価格1バレル=40ドル割れは、シェール企業のみならず大手石油会社にとっても打撃は大きい。このため米国の大手石油会社は、コストとリスクの高い超大型プロジェクトから撤退し、不安を抱える投資家らを納得させるためにより安全なシェール層掘削事業に軸足を移している。 格付けの悪化を懸念するエクソン・モービルとシェブロンはシェールオイル事業により米国の原油生産を大幅に増やす計画を発表した(10月30日付ブルームバーグ)。 石油稼動リグ数が578基にまで減少し、大手石油会社のシェール企業買収が本格化する兆しが見えてきているが、これによる金融市場に与える負のインパクト(ジャンク債市場の崩壊等)が心配である。 ますます苦境に陥るサウジアラビア 前回のレポート(「原油価格下落で袋小路のサウジアラビア」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45069)でサウジアラビアの苦境を説明したが、イランメデイアによれば、10月26日、サウジアラビアの軍艦がイエメン南西部沿岸でイエメン側からのミサイル攻撃を受けて沈没するなど苦戦を強いられているため、サウジアラビア政府は米国の民間軍事会社であるブラックウオーターの支援を要請したという(イエメンで化学兵器を既に使用したとの噂もある)。 また10月26日、サウジアラビアの王子がレバノン空港で過激派組織イスラム国との関係が疑われる薬物の密輸容疑で拘束されるというスキャンダルが発生した。さらに翌27日にはサウジアラビア主導の連合軍がイエメン北部にある「国境なき医師団」の病院を空爆し、国連の事務総長がこれを非難する声明を発表している。 欧州議会は10月29日、優れた人権活動をたたえるサハロフ賞を、保守的なイスラム教国のサウジアラビアで言論の自由を訴える人権活動家であるバタウィー氏(現在服役中)に授与すると発表した(2011年には「アラブの春」に寄与した活動家達が受賞した)。 こうした状況のなか、国際社会におけるサウジアラビアの立場が急速に悪化し始めている。 中東原油の最大需要国である中国への原油輸出が減少するなど、サウジアラビア政府を支える原油収入の見通しも明るくない(米格付け会社S&Pは10月30日、原油安による財政悪化を理由にサウジアラビアの格付けを引き下げた)。 9月に、中国のロシアからの原油輸入量は前年比42%増の404万トンだったのに対し、サウジアラビアからの輸入量は前年比17%減の395万トンだった。ルーブル安による生産コスト低下により、ロシアの10月の原油生産は日量1078万バレルと過去最高水準を再び更新した。ロシアの原油が中国市場におけるサウジアラビア原油のシェアをさらに奪う可能性が高い。 最後に南シナ海だが、「米国と中国の『熱い平和(ホットピース)』時代に入った」と分析する専門家が出てきている。「ホットピース」とは「冷戦(コールドウオー)」の相対概念だ。地域的には直接衝突するが、その衝突は世界的には広がらない、とするものである。 だが、南シナ海は年間約4万隻の船が通過する世界第2位の貿易航路である(貿易額は年間約5兆ドル)。この地域における米中の軍事衝突は、たとえ小規模であっても日本経済にとって致命的な打撃となる。サウジアラビアとともに今後の推移に要注意である。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45144 |