1. 2015年10月23日 06:28:31
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中国のサンマ“爆漁”は日本にとって脅威か杞憂か? 【第191回】 2015年10月23日 姫田小夏 [ジャーナリスト] 今年、岩手県宮古市の漁港ではサンマ漁が不振だった。例年は8月末から9月がサンマ漁のピークであるにもかかわらず、今年9月の宮古港では合計11日間にわたり、サンマの水揚げがなかった。「シーズンにもかかわらず1〜2回しか水揚げがなかった週もある」と、地元水産業者は狼狽する。 今年のサンマは不漁で小ぶりな魚が目立つ Photo:Aflo サンマの小型化も目立った。この時期、宮古市は全国の個人客に向けた「さんまふるさと便」などサンマの通信販売に力を入れるが、今年は150グラム超という規定の大きさのサンマがなかなか揃わず、9月初旬に早々と企画を打ち切った。
水産業者からすれば、商売上がったりだ。地元市民も「小ぶりのサンマは刺身にしても焼いても美味しくない」とがっかりするように、宮古では誰もがこのサンマ不漁に不安の目を向けている。そして異口同音に「公海で中国などの大型船が奪い尽くしている」と不満を露わにするのだった。 “爆食”、“爆買い”に続いて、今度は“爆漁”だ。公海上で貪るようにしてサンマを奪い尽くしている様子は想像に難くない。日本のメディアも、今年はサンマ漁が始まる夏を前後して、大型化する台湾や中国の漁船の脅威について警鐘を鳴らしていた。 中国人がサンマを 食べ始めたのはごく最近 そもそも中国にサンマを食べる文化があるのだろうか。サンマを“爆漁”するほど、中国には市場があるのだろうか。 北京、上海など沿海部のいくつかの都市では過去十数年にわたり、サンマ市場が徐々に形成されてきた。和食を扱う飲食店でサンマを塩焼きにしたものを出すようになったのは、2000年を前後してのことだ。その後、現地の日本人居住者を相手にした日本食材スーパーが定番商品としてサンマを扱い、限定的であるにせよ“中国の食卓”にサンマが上るようになった。 2000年中盤になると、サンマは上海の高級百貨店の地下食品売り場に陳列されるようになる。当初、サンマは現地在住の日本人に向けた特殊な水産物食材だったが、いわゆる“デパ地下”での販売を経由して、中国人富裕層にもその存在が知られるようになった。 中国市場で出回るサンマは、台湾産のものが多い。台湾漁船は、冷凍室を装備した大型漁船を仕立て上げ、ロシア付近の公海に出向き、数ヵ月にわたり漁を繰り返す。多いときで年間20万トンを水揚げするが、その半分を中国市場に流すのだ。 ところが最近、サンマ輸入国である中国が、公海での大掛かりなサンマ漁に参入を始めた。中国船が大挙して公海上に進出し、実験段階を経て、本格的な漁に乗り出すようになったのは、昨2014年からのことである。 外国大型漁船による影響は 限定的という指摘も 今年のサンマ水揚量の異常な減少だが、全国サンマ棒受網漁業協同組合(全サンマ)によれば、ロシアを起点に銚子沖まで降りてきたサンマが、近年は南下しなくなったという。「好みの水温のところを目指して南下し、それがサンマの通り道を形成したが、近年はそれが沖合化する傾向にある」(同)というのだ。 その沖合で争奪を繰り返しているのが、台湾や中国の大型漁船だ。日本列島に沿ってサンマが降りてこないのは、サンマの群れが多くいるロシア付近の公海において根こそぎ乱獲されているためではないか、という疑念は膨らむばかりだ。 中国を含む外国の大型漁船による影響は、一体どの程度なのだろうか。 サンマなど水産資源の分布調査を手掛ける研究所に国立研究開発法人 水産総合研究センターがある。同センターの東北区水産研究所八戸庁舎は、外国の大型漁船の影響を「限定的だ」と見ている。その理由を次のように指摘する。 「外国の大型漁船は、日本の漁船に比べ5倍の規模がありますが、それが5倍の漁獲量を持つとは限りません。船上で行う冷凍作業に多くの人手を要するので、作業員を乗せるために大規模化しているに過ぎないのです」(同) 八戸庁舎によれば、今年のサンマ不漁は、中国を含む外国船が乱獲したから日本の漁船が獲れなかったわけではなく、「近海まで降りて来なかった年」だったためだという。そしてその一方で、「むしろ日本の方が獲っている」と現状を指摘する。 「日本の船は多いときで一日当たり100トン以上獲ることもあるのに比べ、外国船は40〜50トンを捕るのがせいぜい。中国船などが根こそぎとっているとは言い難いでしょう」(同) 他方、海洋進出という大きな国策のもとに遠洋漁業の発展を目論む中国は、マグロ漁船やサンマ漁船などを含む遠洋大型漁船600隻以上を2013年に完成させ、翌2014年から公海でのサンマ漁に本格的に乗り出した。 この最新の大型漁船について、中国の地元紙は次のように伝えている。 「2014年末に寧波の港を出港した船は、前年に進水した大型漁船で、高速スピードに加えて、レーダーや自動操舵、衛星通信など装備のハイテク化が進んでいる。1回の漁で数十トンを捕獲。それを80人の船員が加工し、8つの冷凍庫で保管する。数ヵ月の海上生活に耐えられるよう、数十トンの米・野菜・肉を搭載し、個別の部屋も与えている」 注目すべきは「個別の部屋」だ。完成したこの大型漁船には2人部屋が確保されているという。この記事が伝えるのは、“ハイテク装備”以上に、船員のためのスペース確保の重要性であり、「大型漁船の稼働効率は想像以上に低い」という八戸庁舎の見解と一致する。 経済鈍化で造船需要が減り 中国はサンマ漁から撤退? 宮古市民が陥る“サンマパニック”。市民のひとりは「来年さらに中国の大型漁船が増えれば、漁港の街・宮古も衰退しかねない」と訴える。 ところが「中国は早晩、サンマ漁から撤退するのではないか」とも思わせる動きがある。中国の国家政策に見直しが入った可能性があるのだ。国家海洋局が出版する『中国海洋報』はすでに今年初め、次のような報道を行っている。 「漁船の建造市場は2015年、大幅に縮小するだろう。これまで大型漁船の建造は国策に支えられてきたが、国は遠洋漁業船の建造を減速させる動きに転じた」 同紙は「すでに中国では、遠洋漁業船の新規建造の申請を受理しなくなった」と報じる。そのため、この業界から商業資本が続々と撤退しているというのだ。確かに今、中国の造船業は不振だ。需要を見込んで建造したはいいが、昨今に見る中国経済の鈍化により、大型船を中心にだぶつきが生じている。 漁船建造が一転して縮小するこの動きについて、日本の漁業専門家は「大型漁船を仕立ててペイするほど、中国のサンマ需要はなかったのではないか」と推測する。 実際、中国きっての大都市である上海でも、サンマは一般家庭にほとんど普及していない。メニューが多様化する中華料理のテーブルにすら上ることはない。魚介類の主役といえば依然マグロ、サーモン、ロブスターだ。 調理法もなじまない。そもそも「焼き魚」という文化は上海にはない。上海でサンマが買えるようになったとき、日本人主婦らは一尾10元前後の低価格のサンマを歓迎した。筆者もそのひとりだったが、家事を手伝ってくれる阿姨(アイ)さんが、大量に出る煙に難儀していたのを思い出す。中国では「煮る・蒸す」が魚料理の主な調理法なのだ。 遠洋漁業拡大の目算は 早くも狂い始めた そもそも中国でサンマ需要は高いのか? もともと中国では縁のない魚であるにもかかわらず、中国は早い段階からサンマに目をつけていた。
汚染や乱獲により近海の漁場をつぶしてしまった中国が、その先に見通すのが遠洋漁業である。「国民のタンパク質の確保に青い畑を耕す」という方向性を打ち出し、遠洋におけるマグロ、スルメイカ、サンマなどを「豊富な資源」だと評価したためだ。 遠洋漁業に乗り出そうとする中国だったが、順風満帆とは行かなかった。マグロ漁に至ってはNGO団体の強力な抗議を受ける羽目となり、中国政府はビンチョウマグロ船の建造許可を取り消さざるを得なくなった。 折しも今年7月、「北太平洋における公海の漁業資源の保存及び管理に関する条約」(北太平洋漁業資源保存条約)が発効した。9月3日、その第1回会合が東京で開かれ、持続可能なサンマ漁についての議論が行われた。当初、中国はマグロに比べサンマ漁は“獲り放題”と目算したようだが、このサンマ資源についても「国際的な監視の目」に出鼻をくじかれた形だ。 そもそも、中国が大型漁船を仕立ててまでサンマ漁に乗り出したその理由は「意外と単純かもしれない」と専門家は見る。 台湾、ロシア、日本、韓国がサンマという資源に群がっている中で、中国も指をくわえてみているわけにはいかない――さしずめこんなところではないだろうか。 豊富な資源と狙ったものの、中国のサンマ市場は限定的であり、サンマ輸出大国を目論んだところで、消費国も限定的。加えて公海上でのサンマ漁も国際ルールが敷かれようとする今、中国の目算は完全に狂う可能性がある。 遠洋漁業への出遅れと漁船装備の性能にコンプレックスを抱き、この克服のために数々の政策を打ちだした中国だが、拙速な漁船の大型化は巨大なロスにもなりかねない。漁港の街・宮古の不安も杞憂になればいいのだが。 http://diamond.jp/articles/-/80384
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