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[この一冊]ネオ・チャイナ エヴァン・オズノス著 複雑な社会を多角的に伝える
私は今、中国を旅する途中でこの書評を書いている。旅で出会った人から聞いたさまざまな話を、本書の登場人物が発する言葉に重ねながら。
私が広東省で出会った失業中の出稼ぎ労働者は、消費者保護法を逆手にとったビジネスを展開しようとしていた。欠陥商品を意図的に購入し、店に賠償を請求するのだ。彼の姿から、本書に登場する「古紙回収の女王」を連想した。米国で集めた古紙を中国で売って富豪にのし上がり、のちに労働者を搾取していると告発された彼女は、「罰金制度がなければ、従業員の注意は散漫になるし、けがをしたらしたで会社は補償を求められる」と主張した。
なぜ彼らは、もっとまっとうな方法で夢を見られないのか。
労働者の権利擁護に奔走する広東省の活動家は私に、「中国が変わらないのは、民が権力を崇拝するからだ」と話した。本書に出てくる判事に賄賂を贈り続け、逮捕された後に小説家になった人物が、中国社会を巨大な池=便所に例えたことを思い起こした。中国人は、汚れてもお構いなしに池を使ってきたが、「このままの状態が続けばみんな生き延びることはできないと言って立ち上がってくれる人を求めている」。
中国の人々が制度や法にではなく、人に頼るのはなぜか。汚れた便所を率先してきれいにしようという人はいないのか。掃除をしても、後の人が汚せば、また元に戻ってしまうからか。
腐敗は発展の源だという見方もある。だが、民衆と指導者の契約にはほころびが目立ち始めており、政治的な脅威とも映る。
「善意の救護者」が加害者に仕立てられる社会で、人々は「真実」を全面的に拒否してしまう。共産党は検閲、秘密主義、威嚇の助けを借りて安定を維持しようとするが、「大半の中国人」が何を信じているかを知ることなど不可能であり、党の奏でる「主旋律」は耳障りな音を発している。
中国の人々は騙(だま)し、騙されながらも、自分を信じて、未来を切り開こうとしている。自由と人間らしさを求め、心のよりどころを探してさまよっている。
本書がテーマとする「情熱」と「独裁主義」の衝突は、今後中国をどう導くのか。本書が紡ぐ分厚い描写は、浅薄な中国理解を拒絶し、中国をいかに多角的に見なければならないかを教えてくれる。複雑な社会を「中国」という単数の主語で単純化せず、中国の抱える複合的な問題の本質を考えさせてくれる。
原題=AGE OF AMBITION
(笠井亮平訳、白水社・2600円)
▼著者は76年英国生まれ。ハーバード大卒。「シカゴ・トリビューン」紙記者を経て現在は「ニューヨーカー」誌に寄稿。本書で全米図書賞。
《評》東京大学准教授 阿古 智子
[日経新聞9月27日朝刊P.21]
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