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※日経新聞連載
中国金融不安の構図
(1)動き出す国有企業改革 過剰債務が重荷
中国で株価が大幅に下落した。経済成長の鈍化が背景で、金融不安が懸念されている。
リーマン危機後、中国は4兆元の景気対策を実施した。インフラや基幹産業に関わる企業への銀行融資を拡大し、設備投資主導で高成長を維持した。しかし2012年には成長が鈍化し、2桁成長を当てにした設備の稼働率は低下。「企業は債務が膨らむ一方、人件費高騰の影響も加わり純利益率が低下した」(HSBCの張之明氏)。
中国企業の債務(借り入れと社債)は08年から6年で2.8倍の80兆元(1500兆円)強と、米国の企業債務を上回る。1990年代後半に日本企業が経験したような過剰債務の状況だ。
中国政府は国有企業改革の方針を示している。民間資本の受け入れ拡大と企業統治改善で収益性を高める狙いだ。米ゴールドマン・サックスは「改革が円滑に進めば企業効率と収益性は改善する」と指摘。そうした期待が金融緩和と相まって、6月初めまでの1年間で株価が2倍以上になった。
ただ本格的な企業改革には資本増強や資産売却、リストラが不可欠だ。低収益・高負債業種は資本調達が難しく、整理淘汰も必要になる。90年代の日本では過剰債務企業が相次ぎ破綻し、株価が下がったいきさつがある。
中国人民銀行(中央銀行)は先週、株価対策もあって利下げを実施。企業の利払い負担は軽くなるが、過剰債務がすぐ解消されるわけではない。時間をかけて企業改革に取り組むしかなく、経済には中期的に下押し圧力がかかる公算が大きい。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞8月31日朝刊P.19]
(2)不良債権が増加 信用膨張のツケ
企業債務拡大と歩調をあわせ、経済への信用供与を表す社会融資総量は2008年末の37兆元から14年末に127兆元と3.4倍になった。
その6割強を占める銀行融資の14年末の公表不良債権比率は1.6%。なお健全な水準だが、前年比0.11ポイント上がっている。不良債権ではないが予備軍といえる要注意債権比率は3.98%と、同0.29ポイント上昇。黄信号がついた状況だ。
中国人民銀行は「28の大手商業銀行は自己資本が厚く、ストレス状況でも健全性を保てる」としている。ただ28行以外の銀行の不良債権比率は2%前後と見られ、健全性への懸念がくすぶる。
社会融資総量には銀行以外が手掛け高リスク融資が多い「影の銀行」の信用供与も含まれる。そのうち企業間信用のエントラステッド融資は規制強化で新規供与が前年の3割以下に減少。借り換えが難しく、破綻が増える恐れがある。情報開示が不十分で不良化の実態が見えないことも、不信感を増幅している。
構造的には規制金利による厚い利ざやが、金融機関に高収益をもたらしてきた。ただ中国政府は金利自由化を進めており、今後利ざやが縮小し、不良債権処理の余力が低下する公算が大きい。
1990年代の日本ではリスク管理の甘いノンバンク破綻から金融システムが揺らいだ。中国でも影の銀行の商品を銀行が販売、保有しており、リスクがシステム全体に波及しかねない。短期間で膨張した信用が、成長鈍化で維持不能になり、中国金融にのしかかろうとしている。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞9月1日朝刊P.28]
(3)地方調達機関にメス 開発にブレーキも
2008年のリーマン危機以降、中国では地方政府が地下鉄や道路などインフラ開発を加速。資金調達のため設けた地方融資平台(プラットフォーム)を活用し、借り入れや債券発行による融資平台の債務残高は20兆元を超えるとみられる。
ただ、融資平台は高金利で資金調達し、相次いで高リスクの開発案件に投融資した。建物ができても利用されないゴーストタウンが続出した。
政府は14年10月、融資平台による新規調達を大幅に制限し、必要な調達の地方債発行への切り替えに着手した。財政省が発行を監視し、地方開発の規律を厳格にした。
その結果、融資平台の調達は激減した。新たな地方債には発行枠があるため、「地方で進む開発案件で国内総生産の12%にも相当する大幅な資金不足が起きている」(英調査会社オックスフォード・エコノミクスのアレサンドロ・セース氏)。
これまでの融資平台の調達資金は返済が必要になり、地方政府が肩代わりする。地方債が発行できない市の融資平台の債務は省などに付け替えることになるが、その過程で債務不履行(デフォルト)が起きる恐れもある。
地方政府からみるとオフバランスの調達がオンバランスに移されることになり、財政が悪化する。国際通貨基金(IMF)のユアニャン・ソフィア・ザン氏は「中国の財政赤字は表面的な数字よりかなり多い」と分析している。
中国の地方政府支出は全政府支出の8割を超える。その開発支出にブレーキがかかる公算が大きく、中国の経済成長は一段の鈍化が懸念される。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞9月2日朝刊P.28]
(4)住宅バブル崩壊の懸念 市場調整長期化も
中国では2008年のリーマン危機以降、住宅価格がほぼ2倍になった。都市化の進展と所得の向上を背景に、住宅需要が高まったためだ。
バブルを警戒した中国政府は10年から住宅購入規制を導入。金融引き締めもあり需要が減速し、供給過剰に陥った。14年の販売面積は前年比で減少。売れ残った分譲住宅の床面積合計は650平方キロメートルと、東京23区に匹敵する規模となり、住宅価格は全土で下落した。
住宅建設を手掛けてきた開発業者には借金返済がのしかかり、一部は在庫を投げ売りしている。今年4月には大手不動産の佳兆業集団がドル建て債で債務不履行(デフォルト)を起こした。
地方政府は土地使用権を高く売り、地方の住宅価格を押し上げてきた面もある。しかし調達機関を通じた資金調達が難しくなるとともに、汚職取り締まり強化で、安易な使用権売却ができなくなっている。
構造的には中国は都市化を進める計画だが、そのペースはこれまでより鈍化する。また一人っ子政策の影響で高齢化が進み、住宅需要の伸びも縮小する公算が大きい。
国際通貨基金(IMF)は8月、「中国の住宅の過剰供給は基本シナリオでは20年に解消する」と指摘。住宅市場の調整が長期化するリスクを示唆した。
英HSBCのエコノミスト、朱日平氏は「中国は1990年代初めの(バブル崩壊後の)日本のようなリスクを抱えている。遅くて、小規模な政策対応で失敗した日本の教訓を生かして、十分な対応をとるべきだ」と指摘している。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞9月3日朝刊P.29]
(5)巨額の資金が流出 資本自由化遅れも
中国は成長期待で世界中から資金を引き寄せてきたが、昨年半ばから資金流出超過になった。先進国銀行による中国向け信用供与残高(融資と債券保有)は、今年3月末までの半年間で1070億ドル(約13兆円)減った。
資金流出の要因で大きいのは企業の動きだ。昨年半ばまで外貨借り入れを増やしてきた企業が、成長鈍化に伴う人民元安観測から外貨債務を圧縮。欧州金融大手UBSのタオ・ワン氏は「資金流出は企業の資産負債管理の結果で、警戒サインではない」と分析する。
とはいえ資金流出が続けば元に下落圧力がかかりかねない。今年に入り中国は元レート維持のためドル売りを実施。その結果、外貨準備は減少に転じている。外貨準備減少は国内では金融引き締めに作用するため、成長が鈍化する中で大幅減少は回避する必要がある。8月には元の基準値を引き下げ、元の維持ではなく下落に軸足を移した。
ただ元の下げ幅が大きくなれば、国外での資産価値の保全を狙った悪い資本流出が加速する恐れがある。中国人民銀行(中央銀行)が1日に銀行に通達した為替予約のコストの引き上げは、資本流出や投機的な元売りに歯止めをかける目的があるとみられている。
中国は市場の仕組みを利用して高い成長を続けてきた。成長が鈍化すれば市場の見方は厳しくなり、一段の成長を阻害しかねない。ハードランディングを避け安定成長に移行できるか、資本移動自由化のペース見直しなど難しいかじ取りを迫られている。
(経済解説部 太田康夫)
=この項おわり
[日経新聞9月4日朝刊P.27]
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